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月白の魔法使いを黎明で殺す  作者: 二羽鳥ごまの
第3章 光輝のひずみ
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第23話 自由をこの手に

 案の定、司祭たちは魔法を使ってきた。

 おそらく拘束するための魔法だろう。しかし、メイランには通じない。

 どんな魔法であろうとも、メイランの体は魔法を寄せ付けなかった。シルリネアの癒しを除いて。


 おそらく司祭たちは、様々な魔法を試しているのだろう。実に多彩な詠唱の声が飛び交っている。それでも、メイランには一切通用しない。

(ことわり)の外にいる……!」

 ひとりの司祭が驚愕の声を出した。なるほど、そういう考え方もできるのか。メイランは思わず感心してしまった。

 確かに自分は、魔法が効かないというよりも、魔法の理の中に存在していないと表現した方が、正しいのかもしれない。


 ——とするとシルリネアの魔法は、魔法の理のさらに外にある魔法なのか?


 ふとそんなことを思いついたが、メイランには考えてもよくわからない問題だったので、すぐ思考の外に追い出した。

 それよりも、この場をどう切り抜けるかだ。


 この建物から出るのは簡単だ。大神殿の敷地から出ることも可能だろう。

 問題はその先。王都から外に出られるかどうか。

 さらに言えば、リュミエールの外に出られるかどうか。

 聖堂騎士団をはじめとした、機動力のある一団が追っ手になる可能性が高い。それをどうやって切り抜けるか。


 まぁ、先のことはわからねぇか。

 メイランはそう割り切ることにした。わからないことを考えても仕方がない。

 背中のシルリネアを片手で支えつつ、手近にいた司祭を殴り飛ばした。

 殴られた司祭は打ちどころが悪かったのか、倒れて動かなくなった。

「あんたたちは魔法を使った。きっと、俺に悪さをする魔法だ。だから俺は抵抗する。……これって、正当防衛だよな?」

 ニッと笑ってみせた。純粋な暴力を見せつけられ、司祭たちがひるむ。

「ぼ、暴虐の徒……異端者め……!」

 怒りに任せて司祭が叫んだ。

 異端。ついに来たな。メイランはその言葉尻を捉える。

「異端って、あんたの一存で決められるんだっけ?」

 異端の認定には手順がある。メイランはそれを知っていた。

 数名の司祭ごときで決められる問題ではない。

 光の神の敵であると「神託なし」で認定することが、そこまで軽々しいはずがない。

 予想通り、感情に任せて異端と口走った司祭は、何も言い返せないようだった。

 暴力に怯み、言い返すことさえできない。

 どうしてこんな奴をよこしたのか。質が低すぎて笑いがこみあげてくる。

 だが好機だ。この機会を逃がす手はない。

「じゃあそういうことで。もう用ないよな?」

 メイランは意識して暴力的な表情を作り、室内にいる司祭たちをひとりずつ睨みつける。

 全員を威圧してからシルリネアの腕を取り、一気に駆け出した。


 ******


「兄様、かっこいいなぁ」

 うっとりした声で、カルブが言った。

 メイランたちの立ち去った部屋の中、ベッドの下で。

 のそりとベッドの下から這い出して、倒れている司祭のもとへ歩み寄る。


 他の司祭たちはもういない。

 恐怖に駆られて逃げたのか、怒りでメイランたちを追っているのか、それとも倒れた司祭を助けるために、応援を呼びに行ったのか……。

 カルブには、どうでもよかった。


「ねえ、お前も主様の目になりなよ。楽しいよ」


 カルブが司祭の胸に前足をかけた。すると、司祭が虚ろな目を開く。

「そうそう……すごくいい。次は起きて。主様の役に立ちなよ。ボクが繋いであげる」

 司祭はよろけながら立ち上がる。まるで泥酔者のような有り様だ。

 カルブは、司祭の意識をザフィルに繋いだ。

 途端に、司祭から苦悶の声が漏れた。ザフィルから流れ込む莫大な力が、あっという間に司祭の意識を喰い潰していく。

 やがて、苦悶の声が途絶える。司祭の意識は、一片も残らず消え去っていた。

 そこにあるのは、ただの「モノ」と化した存在だった。


 カルブがクスクスと笑う。

「主様、好きなだけ使って。こいつを……そして、ボクも……」


 ******


 ザフィルは、カルブが独断で目を増やしたことを認識したが、さほど気に留めることもなかった。

 念のため、脳に残された記憶を読み取ってみたが、実にくだらないことしか残っていない。

 とはいえ、リュミエールの情報を定期的に送ってくる目と思えば、使える時もあるかもしれない。

 このまま残して放っておくことにした。

 こいつを目として維持するための魔力が必要になるが、その程度の魔力が差し引かれても、何の支障もなかった。

 大海から水を1滴抜いたところで、気にすることがあるだろうか。


 そもそも彼は、魔力が足りないという経験をしたことがなかった。

 魔法を使えば魔力を消費し、いずれ魔力切れで魔法を使えなくなると言う。

 魔力を回復するには、十分な休息が必要だと言う。

 いずれも常識らしいが、ザフィルがそれを意識したことはない。

 魔力は常にあり、なくなることはない。虚無の力のように、勝手にあふれ出すことがあったとしても。


 そしてあふれ出した魔力が、世界中にあまねく存在する魔素(マナ)を歪めるとしても。


「……そろそろ歪む……」

 魔素の軋みを感じる。普段は歪みを避けるため、ひとつのところに留まらない。

 だが、今はあえて留まっている。魔素を歪ませるために。


 メイランを捕らえるなど、厚顔不遜極まりないじゃないか。

 彼は常に、自由であるべきだ。


 ******


 メイランは、大神殿の外に出た。

 もちろんシルリネアも一緒だ。


 ここまではできて当然の範疇。問題はこの先だ。

 本当は、どこかに数日潜伏してから脱出したい。追っ手が出払った後に出た方が安全だし、シルリネアの左手の回復を待つこともできる。

 だが今は、潜伏のあてがなかった。

 港は当然押さえられているだろう。リヴァンティアや十王国に戻るなら、海路がもっとも手堅い。誰でも考えることだ。

 陸路は山脈越えが厳しい。今のシルリネアでは無理だ。追っ手が徒歩であっても追いつかれる。

 となると。

「……砂漠かぁ……」

 思うところはあるが、仕方がない。今は追っ手を振り切ることが最優先だ。

「メイラン?」

 シルリネアが怪訝そうに尋ねてきた。

「ああいや、なんでもない。ちょっと嫌なことを思い出しただけ。一旦南に抜けて、そのあと東の砂漠に行こう」

 シルリネアが頷くのを確認して、先を急ぐ。

 それにしても。

 メイランは少し気になっていることを考えた。

 日中の聖堂騎士団の手並みを考えると、そろそろ追ってきても良さそうなのに。

 まったくその気配がない。


 ——ひょっとして、大神殿で何か起きたか?


 月白色の影を見た気がしたが、そんなはずはない。

 違う何か、たとえばシルリネアの尋問の不手際がバレて騒動になったとか、内部のいざこざがあったと考える方が自然だ。

 いずれにせよ、今は考える必要のないことだった。

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