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月白の魔法使いを黎明で殺す  作者: 二羽鳥ごまの
第2章 邂逅が導く
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第18話 光の呼ぶ先に

「ちょっと軽めで、木剣と同じぐらいの長さが目安。間合いを木剣で覚えてるはずだから。刃の状態は無視、どうせ後で研ぐんだ。研げそうにないやつは、最初から弾いてる」

 市場の武器屋。

 シルリネアは、メイランに選り分けてもらった何本かの剣を前にして、選び方を教えてもらっていた。

 軽め、木剣と同じぐらいの長さ、刃の状態は無視。

 頭の中で何度も繰り返しながら剣を手に取っていくと、条件に合うものが3本残った。

「よし、気に入ったやつを俺の方に向けて軽く振ってみな。振りやすいと思ったやつが、シルリネアに合う剣」

 当てる気がないにしても、実際の刃をメイランに向けるのは抵抗がある。しかし、そんなことを言っていて、剣を使えるようになるはずがない。だからシルリネアは、深呼吸して自分を落ち着かせてから、慎重に刃を向けた。

「そうそう」

 メイランは笑顔だ。この人は、どれだけ剣を相手に向け、あるいは向けられてきたのだろう。刃が眼前に迫っても、彼はまったく動揺しない。


 ——このまま突いたら、メイランを殺してしまいそうなのに。


 もちろんそんな心配はない。メイランの実力に、シルリネアでは到底及ばない。

 頭では理解している。なのに不安は拭えない。それでも、万が一、何かあったら……。


「ぼーっとすんな」

 メイランから叱咤され、はっとする。

「刃があるんだ、危ねぇぞ」

「……ごめんなさい」

 メイランの言うことはもっともだ。余計な考えに没頭しないよう、思考の向きを意識的に変える。


 何も考える必要はない。メイランは怪我なんてしない。

 だって彼は、私よりもずっと強いから。

 もし怪我をさせてしまっても、私が癒せばいい。

 それなら大丈夫、私に返ってくるだけ、私が痛いだけ。


 癒しという慣れた方法と感覚にすがりながら、シルリネアは剣に集中した。


 ******


 シルリネアは、最終的に1本の剣を選んだ。

 細身で短めの剣だ。さすがに軽すぎるような気もする。メイランにそのことを言うと、彼は笑った。

「腕が上がらないぐらい疲れてても、振れそうなやつがいいんだよ。でかいのやら重いのやら持ったところで、土壇場で使えなかったら意味がない」

 だから、この剣に決めた。

 その後、弓も買うことができた。練習する必要があるので、矢も安いものを多めに買った。

「船代が浮いたからなぁ。大執政様々だ」

 代金を支払い、残っている硬貨を数えながら、メイランが言う。

「鎧もいけるな。革の胸当てぐらいは、あった方がいいかも」

「リュミエールってそんなに物騒なの?」

 急に武装を整えはじめたメイランを、シルリネアは怪訝そうに見る。今までは、鎧なんて話題にも出なかったのに。

「うーん……物騒ってより、あっちは宗教的な縛りが強くてなぁ……」

 説明の言葉を探しながら、メイランが話を続ける。

「あっちでは、光の神の意志に沿っていると『みなされた』ものしか買えねぇんだよ。だから、使いそうなものを買うなら今のうち。少し買いすぎぐらいでもいい」

「『みなされた』って……?」

「神殿の力が強くてさ、神殿が許可しないと何もできねぇの。王様だって、神託で選ばれるお国柄」

「そうなんだ……」

 話を聞くだけだと、なにやら窮屈な国に思える。しかし、そこで暮らす人々にとっては、その窮屈さが良いのかもしれない。

 知らないことばかりだ。いつになったら、メイランみたいに軽々と世界を歩けるようになるのだろう。


 ******


 結局メイランは、シルリネアに革の胸当てを買った。

 本当は手甲やすね当てなども買いたかったが、いきなり全部身につけて歩けというのも、酷なように思える。慣れない胸当てに戸惑うシルリネアを見ながら、メイランは我が身を振り返る。

 ——俺も鎧、出した方がいいよなぁ。

 実はメイラン自身、鎧が苦手だった。

 動きが阻害されることが、どうしても好きになれない。

 それでも必要な時はあるので、やむなく持ち歩いているのが現状だ。メイランは、荷物袋の奥底で分解されて眠っている鎧と、それを作った職人に思いを馳せた。

 旅立ちの別れ際、押し付けるように渡された鎧。

 使わないと言ったのに……。

 みんな、お人好しなんだよなぁ。

 懐かしく温かい思い出が、メイランを優しく包みこんだ。

 この温もりがあれば、どこにだって行ける。


 ******


 執政府が手配してくれた船は、リュミエールへの巡礼者を乗せる旅客船だった。

 貨物船の積荷が、人間になっただけみたいだ。船内を見て、シルリネアはそう思った。一人に与えられる居住空間は、寝床を含めても非常に狭い。荷物を置いたら、寝る場所の確保で精一杯だ。

 とはいえ、シルリネアとメイランは待遇が良かった。雑魚寝ではなく、狭いながらも二人部屋を割り当てられた。さすがは執政府の手配ということだろう。

「……なんだか、悪いみたい」

 割り当てられた部屋に行くには、雑魚寝の大部屋を通るしかない。それも少し憂鬱で、気後れしてしまう原因だった。

 通るたび、大部屋の人たちの視線を感じる。なんでお前たちだけが優遇されているのかと、たくさんの目が訴えてくる。

 シルリネアがその気持ちをメイランに打ち明けると、メイランは微笑み、シルリネアの背中を軽く叩いた。縮こまった彼女の背筋を、伸ばすかのように。

「気にすんな、堂々とした方がいい」

 メイランの言い分は理解できる。それでも、大部屋で苦労している老人や子供を見ると……。

 いけない。シルリネアは思考を振り払った。同情のしすぎは悪い癖だ。こんなことでは、いざという時に判断が鈍ってしまう。

 たとえば、ザフィルに同情するようなことがあったら……百害あって一利なしだ。


 ******


 リヴァンティアの港から、リュミエールへの巡礼船が出港した。

 岸壁を離れつつある船の姿を、港の物陰から月白色の子犬が見ている。

 月白色の髪を持つ少年もまた、子犬の目を使ってその光景を見ていた。


「リュミ、エール……」

 少年——ザフィルが呟いた。

「光の神、結界、束縛、癒し、奇跡……異端……」

 目を閉じて、わずかの間、思案する。

「カルブ、メイランを追え」

 子犬に一方的な指示を出し、何の反応も待たずに接続を切った。

「あなたたちには、相性が悪い……」


 ザフィルの呟きは、虚空に溶けて消えた。

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