表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月白の魔法使いを黎明で殺す  作者: 二羽鳥ごまの
第1章 切望は絡み、もつれあう
1/18

第1話 復讐が産声をあげる

 許せない——。

 絶対に、お前を、殺してやる——!


 私は目の前にいる奴を、ぎりりと睨みつけた。


 いなくなってしまった。


 いつも手を握って導いてくれた、老薬草師のバーバ・ロゥ。

 あなたに教えてほしかった薬草の配合が、まだいくつかあるのに。

 もう家に全部用意してある。だから教えて。

 美味しいお茶もお菓子もある。全部あなたの好きなもの。


 すぐに怪我をして、治してくれって泣きつくくせに、私をお嫁さんにするんだって言っていた。

 小さくてかわいいトンミ。

 私、まだあなたのお嫁さんになってない。

 あなたの成長、すごく楽しみにしていた。また「ねーね」って呼んで。

 お願いだから、あなたの声を聞かせて。


 どうしてこんなに静かなの。

 戦っている人たちはどこにいるの。

 剣か槍をちょうだい。弓でもいい。

 少しぐらい、私だって戦える。だって、習っていたもの。

 狩りの様子だって見ていた。弓の射ち方ぐらい、知っている。

 どこを狙えば殺せるのかも。


 私たちに護身術を教えてくれた、エルッキ隊長。

 私はあまり良い生徒じゃなかった。でもあなたは熱心に教えてくれた。

 終わった後、みんなで歌を歌うのが、すごく楽しみで。だから習っていた。

 ねぇ、イルマがあなたのことを好きだったの、気付いてた? あの子、訓練の日にはいつも、綺麗な花を摘んで髪に飾っていた。

 護身術なんてやったら、すぐクシャクシャになっちゃうのにね。


 あなたは私に、素晴らしい彫刻を施した小刀をくれた。

 すぐに照れたり笑ったりする、感情豊かでちょっと喧嘩っ早い猟師のヘイノ。

 私のことが好きだったんじゃないの? ねえ、姿を見せてよ。

 私の涙は嫌いだって言っていたのに。いいの? 私、泣きそうになっている。


 みんな、みんな、いなくなってしまった。

 建物は一瞬で粉になり、人は消え失せ、服の欠片さえ見当たらない。

 抵抗する暇さえなく、何もかも塵になり、風に吹き飛ばされて——。


 消えた原因は、お前だ——!

 私は目の前の少年を睨み続けている。

 睨むだけで、こいつを殺せればいいのに。


 15、6歳ぐらいだろうか。

 綺麗に整えられた月白色の髪。

 整った目鼻立ち。

 美しい刺繍の施された、いかにも手の込んでいそうな服。

 それらの美点をすべて台無しにする、焦点が合わず生気のない褪紅色の瞳。

 血色に乏しい肌と、不健康にやせた身体。

 足元には、こいつの髪と同じ色をした子犬が伏せている。

 子犬につけられた真紅の首輪は小さすぎて、首に食い込んでいた。まるで血を流しているみたいだ。


 こいつが歩くだけで、村のみんながいなくなった。

 こいつの近くにあった建物が、音も立てずに崩れ落ち、消えた。

 こいつの近くにいた人たちが、みんな煙のように消えてしまった。

 悲鳴ひとつ、あげずに。


 私は朝、森に薬草を取りに行った。

 いつもの穏やかな日々を、今日も繰り返すはずだった。

 森からの帰り道、木々の合間から、こいつの姿を見た。

 見知った人たちが、見知った建物が、消え失せるのを見た。


 どうしてこんなことをするの。

 どうしてこんなことができるの。

 私はどうして、今もまだ生きているの。

 なにもわからない。


 でも知っている。

 こいつは、みんなの仇だ。殺さなくちゃいけない。


 生気のない目が、私を捉える。

 何の温度も感じない目。温かさはもちろんのこと、冷たささえ感じない。

 ゾッとする。

 この感情は恐怖じゃない。絶望だ。

 歯を食いしばって、そいつを睨み返した。

「絶対に、殺してやる……!」

 全身の力を振り絞って唸った。

 こいつだけは、何があっても許さない。


 子犬がピクリと顔をあげて、小首を傾げた。耳の飾り毛がゆらりと動く。

「ねぇ、本当にできるの?」

 子犬が喋った。子供の声で、歌うように、楽しそうに、ゆったりと私に尋ねる。

「できるなら——やってみてよ。ね、ボク、待ってるから」

 その瞬間、私の視界が歪んだ。

 いけない、意識が途絶える。きっとなにか、魔法をかけられたんだ。

 ここで意識を失うわけにはいかない。殺すまでは、絶対に——!

 あいつに向けて、必死に手を伸ばす。


 私の気持ちとは無関係に、意識は閉ざされた。


 閉ざされる直前、あいつの表情が少し動いたように見えた。

 褪紅色の瞳にかすかな光が宿り、わずかに驚いたような表情が、見えた気が、した——。

村焼きポエムスタートです。よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ