第二十四話
一カ月前
警備員達を殺害した後,採掘場の洞窟の中でマルはアルフレートにマルと融合するに至った経緯について尋ねた。
─そうだな。結論から言うと,はっきりしたことは分からない。
ガクしっ
(分からねぇのかよ。)
出鼻をくじかれるマル。
アルフレートは飄々と話を続ける。
─ああ,今私たちが置かれている状況は,私にとってもイレギュラーな事態だからね。とりあえず,現時点で分かってることだけ説明するよ。
(おう。)
それからマルは,アルフレートが赤い鉱石の正体であったということと,マルが赤い鉱石に触れたことで融合が始まったのだということを説明された。
説明を聞いた時,マルの心に生じたのは驚きよりも安堵だった。
─・・・意外と驚かないんだね。
(驚いてはいるさ。ただ,生き返ったりとか魔法が使えたりとか,ただでさえ驚くことがおきすぎてたからな。今の俺には,アルフレートさんが赤い鉱石だったっていう衝撃よりも,赤い鉱石は俺の幻覚じゃなかったんだっていう安堵の方が強いのさ。それで,どうしてアンタは赤い鉱石の姿だったんだ?)
アルフレートは,「これを話すと長いんだけど」と前置きをしつつ,マルの問いに答える。
─今から何百年,下手したら何千年も前の話だ。私は当時魔法の修行をしていてね。あるときふと,自分の魔法でどこまでできるのか,自分の魔法の限界が知りたくなったんだ。手始めに鉱石化,さっき教えた鉱石化とは違って自身の身体を鉱石に変える魔法なんだけど,それを使って,限界まで固く,小さくなることにした。その結果,極限まで固く小さくなったはいいものの,魔法を解除することができなくなってしまった。おそらく,身体が鉱石とほぼ同じ状態になったことで,魔力を操作すること自体ができなくなってしまったんだろう。鉱石の姿になったことで,細胞の機能も停止していたのか,老衰も餓死もせずに済んだのは不幸中の幸いだった。それから誰にも気づかれず,何百年,何千年という時が流れて,マル君に採掘されたという訳さ。
(・・・なるほど。)
この話を聞いた時,この人はマヌケなんだなとマルは思った。
(俺が赤い鉱石のアンタと触れただけで融合したのはなんでなんだ?)
─それがわからない。私にとっても,こんな形で誰かと融合するのは初めてなんだ。だがおそらくは,浸透圧の低い方から高い方に水が流れていくように,魔力の無い生物である君の方に魔力が自然現象的に流れていった結果,融合したのだと思う。
(・・・しんとうあつ?)
聞きなれない単語にクエスチョンマークが出るマル。
─まぁ要するに,魔力の無い空っぽの器である君の身体が,魔力でいっぱいの赤い鉱石に触れたことで,自然と君の身体の方に魔力が流れていった。そうして結果的に私と君は融合するに至ったのではないかという訳さ。
(・・・なるほど。)
それが,アルフレートの仮説だった。
マルは現在,ルビーになったリーダー格の男を片手で真上に投げてキャッチしながら,黙々と緩やかな山の傾斜を下っている。
─しっかし本当に面白いよなぁ,マル君。
アルフレートはふいに話しかけてくる。
(ん,何がだ?)
─剣化のことさ。鉱石化を教えた時,宝石の大きさや形は魔力の込め方によって変わるって教えたら,その技術を応用して剣化の刃先をなくすんだもんね。敵と戦うための魔法をわざわざ魔力を意図的に操作して殺傷力を弱めるだなんて,私にはとてもじゃないが思いつけない。
(・・・馬鹿にしてんのか?)
─まさかっ!すごく感心してるんだよ!ほんとに優しい人なんだなぁーって。
マルは,アルフレートの言葉が本心なのかどうかしばらく訝しんだ後,「はぁっ」と小さくため息をつく。
(そんなんじゃねぇって。俺はただ,返り血浴びたり,地面に血ぃつくと後処理が面倒だから刃先をなくしてるだけさ。)
─フフッ,まぁ確かにそういうメリットもあるけどねぇ。本当にそれだけなのかなぁー?
(うざってぇー・・・。)
ビューーーーーーーーーッ・・・
マルがアルフレートの言動にうんざりしていたそのとき,山を一陣の風が吹き抜けた。
周りの木々がざわざわと揺れる。
「・・・見えてきたな。」
─ああ,そうだね。
マルの視線の先。
ずっと向こうの山のふもとに,西洋風の屋敷が姿を現した。




