第十五話
マルは,雑魚寝している子供たちの間を縫うようにして歩きながら,バツの元へと近寄っていく。
(いやぁー,いよいよバツに隠し通路のことを教えて,一緒に採掘場から脱出するのか。・・・ふぅー,何か緊張してきたぁー・・・!)
バツは,休息所の右端あたりで,5歳の子ども達二人(うち一人はゴカク)と一緒に川の字になって寝むっている。バツは眠るとき,大体いつも小さい子に子守唄を要求されるため,そのまま小さい子と一緒に眠ることが多いのだ。
マルは,バツの枕元までいそいそと近づくと,一旦深く深呼吸する。
(・・・よし。)
意を決したマル。その場にしゃがんでバツを軽く揺すりつつ,
「バ─」
「なに?」
ビクッ!!
声を掛けた瞬間に,バツは目をぱっちり開けて返事をした。
「・・・起きてたのかよおまえ。」
「そりゃあ『夜に声かけるから』なんて言われたら,眠りたくても眠れないよ。」
バツは軽くそう言うと,「よっ」と上体を起こす。
「それで,どうしたのマル?もしかして,この前言ってた『アレ』の正体について教えてくれるの?」
マルは,バツのその言葉に一瞬間を置いた後,「フッ」と笑った。
「ああ,その通りだ・・・!!」
カチャッ
トイレのカギを閉めるマル。トイレには今,マルとバツの二人が一緒に入っている。
「それで,マルの言う『アレ』ってどこにあるの?まさかとは思うけど,便器の中にあるとか言わないよね。」
「ハハッ,そんなわけないだろ。まぁ見てろって。」
マルはトイレのドアの左側でしゃがむと,岩壁の下の方のでっぱりをつまんで引っ張り始める。
バツは,マルのその行動の意図を測りかね,怪訝な顔をしていたが,ズズッという音と共に岩壁の一部が動いたのを見て,目を丸くする。
「おいぃしょっ,と。」
ズズズッ・・・
岩壁の一部を引っ張り出す様子を,固唾を飲んで見守るバツ。
ついに,岩壁の一部が引っ張り出され,隠されていた通路が露になった。
「それって・・・」
「隠し通路だ。外までつながってる。この通路を通って俺たちは─
マルは,バツの顔を真っすぐと見上げる。
─この採掘場から,脱出する。」
「!!」
バツはしばらくの間,言葉を失う。
そんなバツにかまわず,マルは話を続ける。
「今すぐ脱出するぜ。外の出口は塞げてないから,明日にでもバレる可能性がある。いいか?バツ。」
「・・・ちろんだよ,もちろんだよっ!マルっ!ほんとにすごいよッ!!いつの間にこんなものを─」
「落ち着けって,寝てる奴らが起きちまうだろ?」
興奮するバツをなだめながら,マルは立ち上がる。
「ああそっか,ごめん。確かにちょっとうるさくし過ぎた。・・・それにしてもすごいよ。どうやって外まで続く通路を掘ったの?この大きさじゃ,肘を曲げて掘り進めるしかないはずだろうに・・・。」
「もともとこの場所に空洞があったのさ。それを掘り進めてたら開通することが出来た。丸一年かかったけどな。」
「そうだったんだ。いやぁそれでもすごいよ。相当努力したんだね。・・・やばい,言葉が出てこない。開通したってことは,マルはもうこの採掘場の外に出たの?」
「ああ,昨日な。麓に森が広がってて,空は本当に青くて広くて,とにかく美しい世界だった・・・。」
「そっか。うわぁ本当にすごい。・・・すごいよ,マル。」
「ハハッ,すごいすごい言い過ぎだって。」
喜ぶバツの姿を見て,マルは心が温かくなる。
「・・・よし,それじゃ,さっさと脱出しようぜ。」
「うん,そうだね。急いでみんなを起こしてくるよ!皆も絶対喜ぶだろうなぁ。」
そう言って,トイレのカギを開けようとするバツ。
「えっ,いや,ちょっと待ってくれ。」
マルは焦りながら,バツの手をトイレのカギから離させた。
「ん,なに?どうしたの?」
「いや,そのぉ・・・俺たちだけで脱出しないか?」
「・・・へ?」




