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烈海の艨艟  作者: 鳴木疎水
星墜の凱歌
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燃える紐育

 枢軸同盟艦隊が米国東岸北部への攻撃のため洋上戦力をカリブ海の拠点に集結させていた昭和19年の6月初め、米国艦隊主力艦艇の大半はバージニア州ノーフォーク港とその周辺の港湾に錨を降ろし、殆んど外洋に出ることは無かった。


 昭和19年3月の枢軸同盟軍のカリブ海侵攻の際、枢軸軍のキューバ上陸を阻止するため出撃した英米加連合国艦隊は、フロリダ半島を南下し全力を以て枢軸軍上陸部隊の撃滅を図ろうとした。

 しかし枢軸軍はキューバ上陸を回避し同盟側に就いたメキシコ領に上陸、上陸船団の援護任務が無くなりフリーハンドを得た枢軸主力艦隊との正面対決は、艦隊規模で劣るうえ既にカリブ海方面の航空戦力が壊滅しその援護を望めない連合国艦隊にとってただ勇者の矜持を以て倒れるだけの戦いとなってしまう。

 艦隊戦力の温存を図るべくフロリダ南下を止め反転退却した連合軍艦隊は、この海域に集結していた枢軸潜水艦部隊との戦闘により主力艦艇を含む少なからぬ艦艇が損害を受けている。

 昭和19年4月、枢軸軍の北部バハマ諸島侵攻阻止のためノーフォークで出撃準備にあった連合軍艦隊は、チェサピーク湾での英国艦隊自沈により出撃を中止、それ以降米国艦隊主力は枢軸軍との戦闘を避け北米東海岸北部の各所で逼塞状態となっていた。


 大西洋とカリブ海、メキシコ湾の制海権を奪われ外洋での行動の自由を失った米国海軍は、建造計画を大幅に変更する。

 主力艦である空母、戦艦、巡洋艦の工事は護衛空母を含めすべて中断され、建艦の主体は隠密性に優れた潜水艦に絞られる。

 またイギリス海峡やロサンゼルス沖において水雷戦力が大きな戦果を挙げたことを受けて、当時大量に建造されていたフレッチャー級駆逐艦の多くが53センチ5連装魚雷発射管5基を搭載する重雷装艦に改造されている。

 それ以外で重点的に建造されたのは、対潜艦艇以外では魚雷艇や沿岸防御用に急遽開発された小型潜水艇が殆どだった。


 米国艦隊が停泊するノーフォーク港一帯には大量の高射砲部隊が高密度に配置されており、レーダーによる射撃管制と新兵器であるVT信管によって命中精度が高まった対空砲火は、容易に枢軸軍の航空攻撃を寄せ付けないものと予測されていた。

 弱体化した米国海軍はノーフォークに集めた主力艦隊に、枢軸海軍の洋上航空兵力を撃破するための誘蛾灯の役割を求めていた。


 昭和19年6月5日、ニューヨーク市が枢軸同盟艦隊による炎の洗礼を浴びる1時間ほど前、イリノイ州シカゴの北西120キロ、高度8,000メートルの空域を32梯団500機を超える日本軍の4発重爆撃機連山が夜空の星々を覆い隠すように飛行していた。

 その前方では二式大艇を改造した2機の電探装備の空中警戒機に支援された60機余りの夜戦型震電が、爆撃部隊を米軍の迎撃部隊から守るため散開して電子の目を光らせている。

 連山の巨大な爆弾倉の扉は取り外され、その胴体には爆弾倉に機体上部をなかば埋め込むように奮竜三型(空中発射型飛行爆弾V1号Ⅱ型)1基が懸吊されていた。

 シカゴ時間午前4時半、編隊先頭の梯団各機から東方300キロに位置するミシガン州デトロイトに向けて合計16基の奮竜が発射される。

 各梯団はほぼ2分間隔で次々と発射を続け、1時間後の午前5時半には全機が発射を終え出撃地であるモンタナ州ビリングスへの帰路に就いた。

 発射された奮竜が米国最大の自動車製造拠点であるデトロイト市一帯に着弾を始めたのは、ニューヨーク時間午前6時過ぎだった。

 高速で飛来する500基を超える飛行爆弾は、米軍の戦闘機と対空砲火による迎撃を受け一部が撃墜されたものの、デトロイト市街各所に広範囲に着弾し市民や建築物などに少なからぬ被害を与えている。


 奮竜によるデトロイト空襲とほぼ同時刻、米国海軍最大の軍港であるノーフォーク一帯もバハマを出撃したドイツ空軍爆撃隊から発射された400基近いV1号Ⅱ型による攻撃を受けていた。

 大半のV1号は戦闘機の迎撃と濃密な対空砲火によって撃破されたが、150基近いV1号がノーフォーク港一帯に広範囲に着弾し、艦艇の損害こそほとんどでなかったものの港湾施設や市街地の各所に被害を与えた。

 この時迎撃にあたった戦闘機のうちV1号に接近して銃撃を加えた多くの機体が、V1号搭載爆弾の誘爆により損傷墜落する損害を受けている。


 デトロイト、ノーフォークに続いてマサチューセッツ州ボストンも、バミューダ諸島から出撃したドイツ空軍爆撃機が放った200基を超えるV1号の攻撃を受け被害を出した。

 この日の枢軸艦隊のニューヨークへの強襲攻撃に連動しての3都市への飛行爆弾による攻撃の外、各地に展開する枢軸軍航空部隊も最大規模の航空攻勢を行った。

 早朝から始まった枢軸軍の同時多発航空攻撃は米軍の航空管制に深刻な混乱をもたらし、結果的に航空攻撃の主目標となっていたニューヨークへの戦力の集中が行えず、その迎撃態勢に大きな隙を作ってしまった。

 もともと米軍の統合参謀本部は枢軸軍の攻撃の主目標をノーフォークの米国艦隊主力と想定しており、迎撃のための戦力配分はノーフォークに重きを置いたものとしていた。

 そのためニューヨーク市の対空砲火は充分なものではなく、迎撃にあたる戦闘機部隊も質量ともに不足していた。

 

 枢軸同盟軍はノーフォークに参集する米国艦隊主力の脅威度を張り子の虎として低く見ており、万一米国艦隊が出撃しても現有戦力で充分対処可能として敢えて放置した。

 米国の繁栄の象徴ともいえるニューヨークを徹底的に破壊することで米国の継戦意欲を叩き潰し降伏に導くことが、枢軸同盟にとって今回の作戦の主目的となっていた。


 現地時間午前6時半に始まったニューヨーク空襲は終日止むことは無かった。

 1トンの弾頭を持つ2,500基の飛行爆弾と延べ4,000機を超える艦載機から投下された爆弾によっておこった大火災は、一晩中止むことなく立ち並ぶ摩天楼を次々と炎の大柱へと変えていった。

 翌朝沖合に現れた枢軸同盟の20隻の戦艦と数多くの随伴艦艇の砲門が、燃え盛る炎と黒煙に包まれたニューヨークに向かって開かれる。

 枢軸艦隊による2時間を超えて続いた市街への砲撃により摩天楼の多くは崩れ落ち、栄華を誇った大都市ニューヨークは燻ぶり続ける瓦礫に埋もれた廃虚へとその姿を変えていった。

 





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