32.勝負
「わあ! 出来たね! 美味しそう!」
出来上がった料理を食卓に並べて、真理は嬉しそうに手を叩いた。
「・・・飯作るのに、こんなに疲れたのは初めてだ・・・」
浮かれる真理とは裏腹に、高田はゲッソリとした顔でテーブルに着いた。
一回教えた程度で包丁がすんなり使えるようになるわけがない。
モタモタと危なっかしい手元に見かねて、結局、高田が担当を変わった。
とは言え、真理は味付けもロクにできない。
「中井さん、塩取って。・・・って、これ砂糖だから」
「小麦粉って言ったよね? これ片栗粉なんだけど!」
「ちょっと待って、中井さん! どんだけ味噌入れんだよ!?」
お約束通りのミスを連発され、大騒ぎしながら、ほぼ高田が一人で作り上げた夕食を、迷惑かけた張本人は満足そうに眺めている。
「食べよ、食べよ! いっただきまーす!」
「はぁ・・・、いただきます・・・」
対照的な表情の二人は、目の前の食事に向かって手を合わせた。
「ふふふ~、私が作ったハンバーグだ! 美味しい!」
「中井さんは捏ねただけだろ・・・」
「サラダも~♪」
「レタスちぎっただけだけどね・・・」
「ご飯も私が炊いた~♪」
「・・・うん、スイッチ入れたね、炊飯器の。中井さんが・・・」
高田は、もはや突っ込む気もなくし、軽く溜息を付いた。
だが、ご機嫌な真理に呆れつつも、美味しそうに食べるその顔に、どこか満足している自分がいた。
★
もちろん、食べ終わってからの後片付けは、真理がするつもりだった。
食事の支度に自分がほとんど役に立っていないのは重々分かっていたし、せめて後片付けくらいは・・・と思っていたのだが、
「じゃ、あとよろしく」
当然のように、食卓を後にしようとする高田にカチンときた。
自分の食器を流し台に持って行くことすらしない。
「ちょっと待ってよ! 洗い物があるじゃない!」
高田の態度が傲慢に思えて、つい呼び止めてしまった。
「・・・それくらい中井さんがやってくれる・・・? あれだけ面倒目させておいて・・・」
「う・・・」
「俺、勉強を教えることはあっても、包丁の持ち方を教えるなんて初めてだったんだけど」
「そ、それは・・・」
「片付けくらい出来るだろ? 料理は出来なくても」
「くっ・・・」
高田の言い方に真理の反抗心はどんどん大きくなる。
「それはそれよ! 洗い物は別!」
真理は立ち上がって、高田を睨みつけた。
「嫌なら勝負しようよ! 負けた方が洗うの!」
「は?」
「ジャンケンじゃつまらないから、それ以外! トランプとか」
真理はリビングの方の走って行くと、隅にある小さな可愛らしい棚からトランプを取り出した。
高田の母親はトランプが好きなようで、真理は良く付き合わされていたので、しまっている場所も知っていた。
高田は呆れたように真理を見たが、何か思い付いたように、ニッと口角を上げた。
真理に近寄ると、トランプを取り上げて箱から出した。
「じゃあ、神経衰弱ね」
「はあ?」
「何? 文句ある?」
高田はソファに座ると、シャカシャカとトランプをシャッフルし始めた。
「大ありよ! 学年トップの人と神経衰弱して勝てるわけないじゃん! 記憶力の差が天と地ほどあるのに!」
真理はドカッと向かいのソファに腰を降ろした。
だが、かと言って他に何があるだろうか?
ポーカーやセブンブリッジのような頭を使うゲームも敵いっこないはずだ。
「ババ抜き!」
真理はバンっと前にあるローテーブルを叩いた。
「頭を使うゲームはダメ! 負けが見えてるから」
「ったく、図々しいな・・・」
「だって~~」
真理は口を尖らせた。
しかし、確かに図々しいか? それに二人でババ抜きしても面白くもないか・・・。
いやいや、面白くなくてもいい。だって勝負なのだから。
「あ!」
真理は手を叩いた。
トランプよりもっといいものがあった。
「高田君! トランプ止めよう!」
「は?」
「こっち、こっち! これにしよう!」
真理はまた隅にある棚に駆けて行くと、そこから何かを取り出した。
そして戻ってくると、高田の前にドンと置いた。
「ジェンガ!」




