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第98話『呼応』

「レオン、水蓮、ラウム────助けてくれ!」


 召喚の響きを込めた声は、魔力に乗って拡散されて行く。

救援という選択肢を取った私に、アルフィーは柄にもなく大きく目を見開いた。雷の槍を手に持つテディーも、『どうして……?』と困惑する。

予想外の決断に戸惑う彼らを他所に─────レオン達は直ぐさま召喚に応じた。

エトワール島の上空に姿を現した彼らは、いつでも応戦できるよう、身構える。でも、アルフィーとテディーの存在に気づくなり、『ん?』と首を傾げた。


「えっと……これは一体どういう状況だ?」


 この場を代表して、疑問を呈するレオンは困惑したように頬を搔く。

他の二人も戸惑いを露わにし、私に状況説明を求めた。

彼らの視線を一身に受け止める私は『どこから、説明したものか』と頭を悩ませながら、口を開く。


「まずは私の呼び掛けに応じてくれたこと、感謝する。まさか、三人とも駆け付けてくれるとは思わなかった……その、ありがとう」


 ポリポリと頬を搔く私は羞恥心に苛まれながらも、召喚に応じてくれた彼らに礼を言った。

今まで素直に感謝を伝えたことなどなかったからか、レオン達は驚いたように目を見開く。

唖然とする彼らを前に、私は僅かに頬を紅潮させながら、コホンッと一回咳払いをした。


「さっさと本題に入るぞ。緊急事態につき、詳細は省くが、現状を一言で言い表すなら────戦争だ。アルフィーとテディーを相手取った争いになる。奴らの目的はまだハッキリとしていないが、一先ず私……戦乙女 戦姫の死を望んでいることは確かだ。私の正体は既にバレている……というか、明かしている。それから、奴らはブラックムーンと繋がっている可能性が高い」


 『テロ事件の黒幕である線は濃厚だ』と遠回しに言い切り、私は三人の顔色を窺った。

怒涛の勢いで舞い込んでくる情報に、目を白黒させる彼らは珍しく、狼狽えている。突然の急展開に、思考が追いついていないようだった。


 もう1000年も前の出来事とはいえ、苦楽を共にした仲間と敵対するのは勇気がいるだろうな。私はほぼ強制的に対立してしまったが、こいつらには戦いを避ける選択肢もある。決めるのはこいつらだから、無理強いはしないが……出来れば、協力して欲しい。私一人の力では、限界がある。


「突然のことで混乱しているのは分かる。でも、力を貸してほしい。せめて、リアム達の救助や保護だけでも……」


 『戦闘には参加しなくてもいい』と言い募り、私はグッと拳を握り締めた。

言葉を発す度に小さくなっていく私の声は、情けないほど弱々しい。

生まれて初めて無力感に苛まれる私は、ようやく弱者の気持ちを理解した。


 自分一人の力では、どうにもできない現実がこれほど腹立たしいものだとは思わなかった……。今ほど、『全盛期に戻りたい』と思ったことはないだろう。理不尽を捩じ伏せるほどの力がないことに、心底腹が立つ。正直、とても悔しい。


 旧友に頼み込むことしかできない現実に、私は苛立ちを募らせる。

非力な自分を呪う中────ここに(つど)った仲間達は私の肩や頭に手を置いた。


「僕は戦姫に手を貸すよー!前にも言ったけど、君には大きな借りがあるからねー!救援要請を断る理由なんて、ないよー!たとえ、ここで死んだとしても戦姫を憎んだりしないから、安心して!だって、これは僕の選んだ道だからね!」


 召喚術の授業で一度再会したラウムは『死んでも悔いはない』と断言する。

神殺戦争の際に何度も命を救ったからか、私に恩義を感じているようだった。


 味方だから仕方なく助けただけなのに、ラウムは借りを返そうとしているのか……神殺戦争と同じくらい、厳しい戦いになると分かっていながら。私は転生してから、フラーヴィスクールに入学するまで、お前の存在など一度も思い出したことがなかったのに……。本当に義理堅い奴だな。


 申し訳ないと思う反面、とても有り難く思う私は『ありがとう』と礼を言う。

前世の繋がりに深く感謝する中、真後ろに立つ水蓮はよしよしと私の頭を撫でた。


「俺も戦姫に手を貸そう。本当にあいつらがテロ事件の黒幕なら、きちんと話を聞く必要がある。情報を盗まれた被害者としてな」


 『俺も無関係とは言い難い』と語り、水蓮はこちらの頼みを聞き入れる。

同情でも昔のよしみでもなく、自分の都合(考え)で協力してくれた。

対等な立場の人間として扱ってくれることに、私は少しだけ……本当に少しだけ嬉しくなる。

僅かに頬を緩める私は『ああ、分かった』と頷き、スッと目を細めた。


 残るはレオンだけか……。あいつは人一倍仲間思いだし、旧友と戦うのは少し……いや、かなり辛いかもしれない。もし、協力要請を断るようなら、リアム達の保護だけ頼もう。フラーヴィスクールの理事長なんだから、それくらいはやってくれるよな?テロ事件のときは『何で呼ばなかったんだ!?』って、激怒していたくらいだし……。


 憤慨するレオンの姿を思い浮かべながら、私はチラリと横に目を向けた。

思い詰めたような表情を浮かべる大男は、苦しげに眉を顰める。

でも、もう答えは決まっているようで、悩んでいる様子はなかった。恐らく、今のレオンに足りないのは────揺るぎない覚悟だろう。


「俺は……」


 独り言にも満たない声量でボソッと呟いたレオンは、グッと奥歯を噛み締める。

起こり得る最悪の事態を想定し、四苦八苦しているようだ。


 ここは友として、『もういい』と……『逃げても構わない』と言うべきだろうか?それとも……。


「────いい加減にしろ!この甘ったれが!」


 どうすべきか思い悩む私を置いて、水蓮はレオンの右頬を殴った。それも、かなりの勢いで……。

瞬く間に腫れ上がったレオンの顔を前に、水蓮は目尻を吊り上げる。苛立つ彼は止める暇もなく、レオンの胸ぐらを掴み上げた。


「お前が優しいのも、仲間思いなのも知っている!出来れば、仲間と争いたくないことも……!でも、やっとの思いで絞り出した戦姫の声を……『助けて』の一言をお前は無駄にするのか!?────戦姫を見殺しにするくらいなら、さっさと帰ってくれ!邪魔だ!」


「っ……!!」


 『見殺し』という言葉が相当効いたのか、レオンはクシャリと顔を歪めた。

かと思えば、一瞬にして真剣な顔付きに変わり、水蓮を真っ直ぐに見つめ返す。

────赤いマゼンダの瞳には、もう迷いや躊躇いはなかった。そこにあるのは揺るぎない覚悟だけ。


「俺は────戦姫を見捨てない!見殺しなんて、以ての外だ!絶対に助ける!たとえ、アルフィーやテディーと敵対することになったとしても!俺にとって、戦姫は何ものにも代えがたい親友(・・)だから!」

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