第97話『一人じゃない』
「それで────私を探しに来た目的は一体、何だ?正直に話してみろ。場合によっては、お前達の要求を呑んでやる」
傲慢な物言いで質問を投げ掛ける私は、偉そうに腕を組んだ。
前世と変わらない傍若無人な態度に、アルフィーは愉快げに目を細める。
『そう来なくては』と言わんばかりに、口元を緩めた。
「単刀直入に言おうか。僕達の目的は─────君を殺すことだ。素直に応じてくれるかい?」
優しげな声とは裏腹に、物騒なことを口走るアルフィーは『大人しく死んでくれ』と強請った。
明らかに許容範囲を超えた願いに、私は眉を顰める。
話し合いでは到底解決出来なさそうな状況に、溜め息を零した。
前世ならともかく、今世では死ねない────私はもう新しい人生を歩み出しているから。前世のように強者との戦いを望むだけの人生ではない。何より、リアムと約束したからな。必ず生きて帰る、と……。
『こんなところで死ぬ訳にはいかない』と、私は使命感にも似た感情を抱く。
ギュッと拳を握り締める私は、楽しげに笑うアルフィーを真っ直ぐに見据えた。
「悪いが、お前達の願いを叶えることは出来ない。私だって、死にたくはないからな」
交渉決裂だと言い切り、私はアルフィーとテディーの反応を窺う。
『予想通りの返事だ』と微笑むアルフィーに対して、テディーは浮かない顔をしていた。
でも、『はい、そうですか』と引き下がるほど、アルフィーもテディーも優しくない。二人の性格からして、次に取る行動は────。
「そうか。それは残念だね……素直に応じてくれれば、楽に死なせてあげたのに。こうなったら─────無理やり殺るしかないじゃないか」
────強硬手段に出ると宣言したアルフィーは、全く残念そうじゃない顔で微笑んだ。
演技がかった動作で、やれやれと首を振り、『やむを得ない』とアピールする。
黒雲の上に座るテディーはゆっくりと立ち上がり、僅かな殺気を放った。
やはり、そう来るか……。こいつらに限って、『諦める』という選択肢はないもんな。
頑固者と呼ぶべき二人の性格を思い返し、私は『はぁ……』と溜め息を零す。
でも、私達の意見が対立している限り、どう頑張っても争いは避けられなかった。
でも、アルフィーとテディーを一度に相手するのは少し厳しいかもしれない……。前世ならともかく、今世の私はまだ戦士として未成熟だ。幼体でどこまで戦えるか、分からない……。
体の負担を考えると、本来の力を引き出すのはかなり危険だった。
だからと言って、出し惜しみできるほど脆弱な相手ではない……。
『これは厳しい戦いになるな』と考える中、アルフィーとテディーは早くも攻撃態勢に入った。
「まずは小手調べと行こうか」
ニヤリと笑うアルフィーはパチンッと指を鳴らして、半透明の弓矢を作り出す。
風魔法の一種と思しきソレに、テディーは慣れた様子で雷を纏わせた。
初っ端から、凄いものを見せてくれるな……。他人との融合魔法はそれなりに難易度が高いんだが……。あそこまで完璧に中和させられる魔導師なんて、そうそう居ないぞ。
『正真正銘の化け物だな』と苦笑する私は、体内魔力を一気に跳ね上がる。
臨戦態勢に入る私を前に、アルフィーは雷付きの弓矢を躊躇いもなく発射した。
『旧友であろうと、お構い無しか』と頬を引き攣らせる私は、目と鼻の先まで迫った弓矢を打ち砕く。
物理法則すら無視した魔法は私の意思に従い、弓矢を完全に消滅させた。
普通に障壁を作っても、テディーの雷で突破されるからな。存在ごと消してしまう方がいい。
魔力消費は激しいが、後顧の憂いを絶つに越したことはないだろう。
「────気配の消し方が甘いぞ、アルフィー」
顔だけ後ろに向けた私は、素早く背後に回ったアルフィーと目を合わせる。
土魔法で作った棍棒を振り上げる彼は『やっぱり、気づかれていたか』と苦笑した。
でも、攻撃をやめることはなく、そのまま棍棒を振り下ろす。
迫り来る脅威を前に、私は大して驚くことなく、右手に結界を纏わせる。そして、誰かの手を跳ね除けるように、棍棒を手で弾いた。
反動で吹き飛んでいくアルフィーを見送り、今度はテディーの手刀を片手で受け止める。
不意打ちを狙っていた“雷帝”は、悔しそうに顔を歪めた。かと思えば、あっさり身を引き、軽い身のこなしで後ろに下がる。
「やっぱり、戦姫は一筋縄じゃいかないね。僕達を相手にして、無傷とか化け物だよ」
「確かに戦姫の戦闘能力は人並外れているね。でも────反撃に転じるほどの余裕はなさそうだ」
鋭い観察能力を持つアルフィーは満面の笑みで、痛いところを突いてきた。
防戦一方を強いられている事実に、私は反論も弁解も出来ない。図星であることは明白だった。
アルフィーの言う通り、正直あまり余裕はない。未成熟な体で神殺戦争の英雄を相手にしなきゃいけないだけでも辛いのに、こっちはリアム達の保護もある。地上に展開した結界のおかげで、安全は守られているが、正直いつまで持つか分からない……アレは魔力消費の激しいものだから。今だって、ゴリゴリ魔力を削られている……。
このまま行けば、確実に負けるだろうな……あまりにもハンデが多すぎる。長期戦に持っていかれれば、一発アウトだ。何としてでも、早めに決着をつけなければ……。
焦燥感に駆られる私は圧倒的不利な状況に、グッと奥歯を噛み締める。
『せめて、一人ずつなら……』と考えながら、前後から放たれた攻撃を華麗に躱した。
防戦一方になりながらも、必死に打開策を探す中────ふと、“あいつら”の顔が脳裏をよぎる。
私のことを“友”と呼ぶ彼らは、いつも────
『何かあったら、呼んでくれ。直ぐに駆けつける』
────と口癖のように言っていた。
神殺戦争のときも、テロ事件のときも、ずっと……まるで私の無意識に刷り込むかのように。
思えば、どんな時もあいつらに助けを求めたことはなかったな。あいつらはいつだって、私の呼び掛けに応じてくれただろうに……。
一人で戦うことに慣れきって、救援を呼ぶ考えすら思い浮かばなかった。今世でも前世でも、私は────一人じゃなかったのに。
呼べば直ぐに来てくれる仲間の存在にも気づけず、私は一体何をやっていたのか……と、自嘲する。
孤独ではない事実を噛み締めながら、私はアルフィーの炎魔法を蹴散らした。『すぅー』と大きく息を吸い込みながら、テディーの落雷魔法をさらりと躱す。
そして、一縷の望みをかけて、口を開いた。
「レオン、水蓮、ラウム────助けてくれ!」




