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第96話『約束』

 ブーメランのように舞い戻っていく雷は、テディーの横を通り過ぎていった。

まさかの事態にハッと息を呑むリアム達は、『助かった……のか?』と呟く。

動揺する彼らを他所に、私は転移魔法でリアム達の腕から抜け出し、宙を舞った。

そして、今にも死にそうなライアンとアンナに解毒魔法と治癒魔法を施す。


「な、何で傷口が塞がっているんだ……?」


「あ、あれ!?背中に刺さったナイフがない!えっ!?何が起きたの!?」


 怪我が突然完治したことに心底驚くライアンとアンナは、パチパチと瞬きを繰り返す。

そして、残留魔力から術者を特定すると……大きく目を見開いた。

見事な間抜け面を晒す彼らに、私は微笑みかける。


「もう大丈夫だから、安心しろ。お前達のことは必ず守る」


「「「!!?」」」


 普段の可愛らしい口調とは似ても似つかない大人っぽい口調に、この場にいる全員が言葉を失った。

目付きも雰囲気も態度も全然違う私に、彼らは硬直する。

そして、『可愛らしくて、愛想のいいエリン・マルティネス』はもう居ないのだと悟った。


 今までずっと騙して、悪かったな。でも────謝罪は後でさせてくれ。今はアルフィー達の思惑を潰す方が先だ。


 困惑する彼らを一瞥し、私は上空に居るアルフィーとテディーを見上げる。

『ようやく、主役のお出ましか』と笑う二人は、実に楽しそうだった。


 相変わらず、悪趣味な奴らだな……でも、お前達のおかげで、大切なことに気づくことができた。それだけは礼を言おう。


 『それ以外は最悪だけどな』と肩を竦める私は、体内魔力を練り上げる。そして、思い切り息を吸い込んだ。


「よく聞け!とち狂った英雄共!私こそが────戦乙女 戦姫だ!」


 一切言い淀むことなく、堂々と正体を明かした私は黒ローブの集団を────一掃した。

突然、口から血を吐いて倒れる彼らは胸元を押さえて苦しみ出す。砂浜の上を転がりながら、野太い声を上げた。


 水魔法の応用で、血を逆流させただけだが……思ったより、酷い絵面だな。生徒達のことを考えて、目に優しい殺人現場にしようと思ったんだが……まあ、肉と骨になるまで切り刻むよりかはマシだろ。


 と、自己完結する私は恐怖に震える生徒達を一瞥した。

『こんな風に怯えられるのは久しぶりだな』と苦笑しつつ、ここら一帯に結界魔法を展開する。

半円状に広がるソレは、フラーヴィスクールとモーネ軍の関係者をすっぽり包み込んだ。


 最高位の結界魔法だし、そう簡単に壊されることはないだろう。魔力消費は激しいが、リアム達を守るためなら、惜しくない。


「一先ず、あいつらに会って用件を聞いてくるか。もしかしたら、話し合いで解決するかもしれないし……」


 ────まあ、その可能性は限りなく0に近いだろうが……。


 とは言わずに、私は小さく息を吐いた。

今すぐ帰りたい衝動に駆られながらも、『行くしかない』と諦める。逃げたところで、しつこく追い回されるのは分かっているため、こちらが妥協するしかなかった。


「お前達はここで大人しくしていろ。詳しいことは後で話す。くれぐれも勝手な真似はするな」


 動揺のあまり固まる彼らを指さし、私は『何もするな』と念を押す。

未だに私の正体を受け入れられない彼らは、うんともすんとも言わずに黙り込んだ。あんぐりと口を開けたまま、こちらを見つめている。

『返事もなしか』と溜め息を零しつつ、私は彼らに背中を向けた。

そして、今まさに上空へ飛び上がろうとした瞬間────。


「────待て、エリン!」


 と、背後から呼び止められる。

聞き覚えのある声は珍しく焦っており、切羽詰まっているようだった。


 全く……普段の無機質な声はどこへ行ったんだ?────リアム。


 同じ声でも感情の有無でこんなに変わるものなのかと苦笑しつつ、私は視線だけ後ろに向けた。

困惑顔のリアムを見下ろし、『ポーカーフェイスも崩れたのか』と目を細める。


「こんな時に何の用だ?」


 エリン・マルティネスの皮を剥ぎ取った私は残念なことに、冷たく突き放すような言い方しか出来なかった。

もっと優しい言い方はないのかと考えるものの、他人を気遣ったことなどない私には分からない。

リアム達との接し方も、距離感も、会話も……どうすればいいのか、皆目見当もつかなかった。

不器用な自分に嫌気がさす中、リアムは緊張した面持ちでこちらを見上げる。


「正直、まだ混乱していて、全く状況を呑み込めていない。お前に聞きたいこと、話したいこと、議論したいこと……たくさんある。でも、今は何も聞かない。家に帰ってから、全部聞く。だから、一つだけ約束してくれ────必ず、生きて帰って来ると」


 『よくも騙したな!』と怒鳴る訳でも、『一体どういうことだ!』と喚き散らす訳でもなく、リアムはただ私の身を案じてくれた。

変わらない彼の愛情に、私は少しだけホッとしてしまう。親子の絆はまだ消えていないと悟り、不覚にも泣きそうになった。

湧き上がる様々な感情をグッと堪えながら、私はエメラルドの瞳を真っ直ぐに見つめ返す。


「分かった。約束する」


 約束という名の束縛に嫌悪感を抱くより先に、私は頷いていた。

『絶対に死なない』と誓い、リアムを安心させるように不敵に笑う。

絶対的自信と存在感を放つ私に、“氷の貴公子”は僅かに表情を和らげた。

『それなら、いい』と胸を撫で下ろす彼に、私は今度こそ背中を向ける。


 さて────もうそろそろ、あいつらの元へ行くとするか。あまり遅くなると、また攻撃が始まるかもしれないし。


 『ゆっくりしている時間はない』と吐き捨て、私は夜空を見上げた。

ここに留まりたい気持ちを押し殺しながら、一気に飛び上がる。

ハラハラと揺れる銀髪を押さえる私は、アルフィー達と同じ高さ(舞台)まで上がった。

笑顔のアルフィーと不満顔のテディーを交互に見つめ、私は気を引き締める。


「久しぶりだな。感動の再会にしては、随分と過激じゃないか。お前達は本当に加減を知らないな」


 呆れ気味に文句を言う私は、やれやれとでも言うように肩を竦める。

でも、安っぽい挑発に乗る気はないのか、二人とも無言だった。


 そう簡単に本音を引き出すことは出来ないか……やはり、ここは直球で聞くしかないだろう。巧みな話術で相手の本性を暴くなど、私には到底不可能だ。


 第一プランを早々に諦めた私は二人の顔色を窺いながら、口を開いた。


「それで────私を探しに来た目的は一体、何だ?正直に話してみろ。場合によっては、お前達の要求を呑んでやる」

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