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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
94/811

94. スズキノヤマ帝国 ガリカ(7)

「おはようございます」


ローズはガレーの声で目が覚めた。朝餉の前に起きられて、良かった。しかし、エフェルガン達はもうすでに朝運動に出かけている。ガレーはローズの熱と脈を確認して、細かいチェックをしている。リンカは人の姿になっている。


「熱が下がりました。おめでとうございます」

「わーい!ありがとう!」

「でも病み上がりなので、まだ無理をしてはいけませんよ」

「はい!」

「激しい運動もしばらくダメです。軽い運動や散歩ぐらいなら大丈夫です」

「はい!」

「殿下と組み手訓練もダメですよ」

「えっ・・、ダメなことが多い」


ローズが口を尖らせて言うと、ガレーは笑った。


「病み上がりですからね」

「うむ」


ガレーが微笑みながら言った。


「しばらくまだ回復薬が必要です。食事の後に必ず飲むようにしましょう」

「はい」

「温泉はもう大丈夫ですよ。でも長い時間で風呂に入ることをやめた方が良いでしょう。体力がなくなってしまいます」

「うむ」

「私の方から、これらの注意事項も殿下や護衛官の者に伝えます」

「うう、ガレー先生は厳しい」

「ははは、ローズ様がちゃんと完全に治りますようにしているだけですよ。今の状態だとパララまでの旅で体が持ちません」

「うむ」

「それにパララで体調を崩してしまったら損しますよ」

「え?なんで?」

「パララは海辺にあるから、当然海で泳げます。また狩り場も近くにあります。近くの島に古代遺跡もあります。それにパララ名物料理である魚の揚げものが大変美味ですよ」

「おおおおおおおお!」


ローズが目を大きくして、うなずいた。


「では、パララへ出発する日まで私の言うことを素直に従いますか?」

「はい!従います!」


単純だ、とガレーはそう思いながら笑った。


「よろしい。ではもうすぐ朝餉の準備ができますので、リンカさんと軽く朝風呂でもお入りになってください。殿下も、もうすぐ帰ってくると思います」

「はい。ありがとう、ガレー!」


ガレーは微笑んで頭を下げて退室した。ローズとリンカは宿の内風呂に向かって部屋を出たけれど、ハインズとエファインも後ろについている。エフェルガンの命令で例え宿内でも必ず護衛するように、と。過保護だと思うけれど、いつ狙われているか分からない以上、用心することが大事だとエフェルガンに何度も言われた。


やはり誰もいない宿って結構不気味に感じる。しかしエフェルガンとローズの身分がばれてしまったから、仕方がない。宿に赤字にならなければ良いのだけれど、ローズは貸切の料金があまり良く分からない。


ハインズとエファインはローズが起きる前に、もうすでにお風呂に入ったそうだ。だから彼らはお風呂場の安全確認をしてから入口の近くで待機している。


久しぶりのお風呂で、ローズはとてもリラックスできて、気持ちが良い、と思った。内風呂は露天風呂と違って、とても暖かい。長い髪も洗ったし、お風呂も温かいし、気分がすっきりしたところで、エフェルガン達が風呂場に入ってきた。そう、この国の公衆風呂場は混浴なので、男女ともに入ることになっている。ヒスイ城の湯殿は男女別々で、宮殿の湯殿でも男女別々だそうだ。


「お帰りなさい」

「ただいま」


エフェルガンは迷いなく風呂に入りローズの隣に座る。リンカは少し離れていく。ケルゼック達は離れたところに入った。


「もう風呂に入れるんだ」

「うん。ガレーは短時間なら、大丈夫だと許可してくれた」

「そうか。無理はしないようにな」

「うん」


ローズがうなずいた。


「ローズ、そろそろあがらないといけないわ」


リンカに注意されて、ローズはうなずいた。


「うん、分かった」

「先にあがるね。乾いたタオルを準備するから、早く上がって」

「うん」


リンカはお風呂からあがった。濡れた布に包まれている体のラインはとても美しい。女性のローズでさえそう思ったぐらいだから、間違いなし。お風呂の向こう側に入っているオレファ達もリンカの美しい姿に目を離さなかったようだ。リンカ自身は彼らの視線を無視している。


ローズも上がるとエフェルガンに言って、リンカのあとをついて、着替えの部屋に入る。着替え部屋は当然男女別々だ。髪の毛を乾いたタオルで乾かして、着替えて、再びエファイン達と共に泊まる部屋に戻る。


その後、エフェルガン達と朝餉を食べてから、ガレーと一緒に少し勉強してからエフェルガンが書いたお悔やみの手紙にエフェルガンの名前の隣に彼女の名前を書いた。文字のきれいさが一目瞭然、エフェルガンの文字の方がとてもきれいだ。やはりもっと練習することが必要だ、とローズは思った。


町長夫人のための御礼の手紙も書いた。感謝の言葉を書いて、そしてあのかわいいぬいぐるみがとても気に入ったことも書いた。


昼餉は外で取ることにするとエフェルガンの提案にとても嬉しく思う。もちろんハティとガレーも一緒に行く。久々に外を歩いて、気分が良い。ハティに食事所を選んでもらって、九人で食事した。エトゥレは仕事で朝餉の後、色々な調査に出たため、本日は別行動となっている。


しかし食事しても人々が集まってきた。ローズが元気になって良かったと言われたり、感謝をされたり、大変だった。ちなみに食事も無料になってしまった。その代わりサインが求められて家宝にすると言われた。


花屋に行ってお悔やみ用の花束を注文したら、ここも無料になってしまった。手紙とともに配達もしてくれると店主に言われてエフェルガンが戸惑っていた。いくら何でもすべて無料にしては、お店にとって赤字になると言ったら、命の恩人に対してお金を取るなどとそのような失礼なことができないのと、そのぐらいなら問題ないと逆に言われてしまった。小さな町なので、ローズたちが町にいることがあっという間に知られてしまって、一目(ひとめ)見ようと人々が集まって来た。安全を考えてこれが良くないとケルゼック達が判断して、本日の散歩は終了となった。おとなしく宿に戻ることにした。


宿に戻って、エフェルガンに歌を教えてもらっている間に、リンカは部屋にある大量の果物を宿の厨房へオレファに運んでもらって、あの絶品の果物が香る蒸し菓子を作った。リンカは宿の料理人にその蒸し菓子の作り方を教えて、できあった蒸し菓子を一緒に食べると、宿の主人と料理人を部屋に招いた。彼らはエフェルガン達と同様、この蒸し菓子を食べて、とても静かになった。最後の一欠片まで指で取って、舐めた。初めての味でとても美味しかった、と彼らが言った。ローズは町長夫人のために別の箱に入れた蒸し菓子がエフェルガンに食べられないようにしっかりと封印をかけた。ちなみにエトゥレの分もとっておいた。エフェルガンはあの蒸し菓子を一人で5個も食べた。今度、ローズがしっかりとその蒸し菓子の作り方をリンカに習わないといけない。


おやつを食べてからエフェルガンは町長の執務室に出かけた。町長夫人への御礼の手紙と蒸し菓子をハティに運んでもらった。ローズは夫人の反応に気になるけれど、エフェルガンは明日の裁判のために、これから大事な会議もあると言った。またこれから町の発展のための話し合いもあるそうだ。多分今夜も遅くなるでしょう。


どこにも出かけられないローズは、おとなしく勉強の続きをした。薬学の課題を一気に数枚も終わらせた。残りの小論文は夕餉の後に書こう、とローズが思って、夕餉の支度をした。


夕餉のあと、小論文を書き終わって寝る仕度をしていたら、エフェルガン達が帰ってきた。エフェルガンは疲れた顔をしたけれど、笑顔を見せてくれた。町長夫人がリンカが作った蒸し菓子を食べて目が輝いた、とローズに教えた。元々蒸し料理が多いこの地方だから、これも名物料理に加わりたいと言った。そのためにアルハトロスの姫であるローズに許可を取りたいと言われた。だから明日の朝エフェルガンと一緒に町長の執務室に行くことになる。アルハトロスとスズキノヤマの友好関係のためにもなる、とローズが嬉しく思った。





翌朝。


ローズたちは町長の執務室に出かけた。執務室は町長屋敷の一角にあり、古い建物でいながらきれいに整備されている。エフェルガンはこれから裁判があるため、町長と一緒に会議室に入った。ローズは重要参考人としてあとで呼ばれるため、裁判の参考人部屋で待機することになった。当然、リンカとエファイン達も一緒にいる。スズキノヤマの裁判は初めてで緊張したが、リンカになでられて、大丈夫だと言われた。


裁判の時刻になり、犯人達は檻の中で待機していた。情報の聞き取り調査で相当エトゥレ達にしぼられたようで、目に光りがなかった。彼らの両手と足に鎖で繋がっていて空へ飛ぶことができないように翼も封じられている。服が囚人服らしく、目立つしましま模様だ。彼らの他にも十数人の人たちも同じような姿だ。彼らは頭を垂れておとなしく裁きを待つ。


被害者も大勢集まってきた。何しろ、町全体が被害者だからだ。家族を失ってしまった人たちもいて、彼らは檻の中にいる犯人達を恨みを満ちた視線でみている。ただ、誰一人も罵声を上げた人がいなかった。なぜならローズが参考人の席で座っているからだ。ローズが視線を浴びてしまって、とても緊張している様子だった。


裁判官であるエフェルガンが入った。彼はとてもえらそうな格好した。いや、元々彼がとてもえらい人だ、とローズは思った。皇太子殿下という肩書きを持つ人で、皇帝の命令でローズとともに国中の至る所まで視察の旅の最中だ。険しい顔をしているエフェルガンが裁判官の椅子に座るまで衛兵以外、全員頭を下げなければいけない。そして役人が前に出て、偽薔薇姫の一連の事件や悪事そして被害の数々述べられていた。被害者の中で泣き出した人もいたため、エフェルガンはその被害者を別の部屋に行くように、と命じた。


エフェルガンは参考人として、ローズの名前も呼んで、被害者達にどちらか薔薇姫と名乗り彼らを苦しめていたか問いかけた。町の人々全員が檻の中のプリナを指さした。そして爆発する首飾りをはめた人についての質問に対して、被害者達は自称大神官と名乗ったゴロエを指さした。ちなみに本物の薔薇姫であるローズのことを救出当時まで誰も知らなかった、という。エフェルガンはローズの身分を明かし、町の人々がざわめいた。


エフェルガンは数人の被害者の声や嘆きを聞いて犯人に問いかけたりしている。このやり取りはかなり重要だ。メギケルの情報もかなり出ていたため、役人は事細かく記録している。


判決の時が来た。予想通り、やはりエフェルガンは彼らに死刑判決を申し渡した。斬首し、その首は数日間さらし首にされる。何らかの利益を得た信者達も死刑となった。雇われていた傭兵達も民を苦しめたため、死刑されることになった。施設は更地にされ、重要な資料は首都に送られる。犯人が残した品々や金品は町の方で整理し、使い方も任せた、とエフェルガンが町長に言った。また領主からの警備隊はしばらく滞在する。首都からの暗部隊についてエフェルガンは何も言わなかった。これで裁判が終わった。エフェルガンは部屋を出るときに全員頭を下げている。ローズも席を立ち退室しようとすると、人々が彼女の名前を呼んで手を伸ばしている。ここは必殺の笑みで、とローズは思った。そしてアルハトロス式の挨拶をしてから、退室した。


裁判でローズの役目はここまでだった。エフェルガンはまだ他のところで犯人達の処刑を立ち会わなければいけない。これが一番きつい仕事だ、と彼が以前ローズに明かした。


裁判が行われた場所から出ると、町長夫人が見えてローズを本屋敷に案内した。とても気さくな女性で、親しみを感じる、とローズが思った。本屋敷に入り、寛いでいながら美味しいお茶をいただいた。ローズが夫人にかわいいぬいぐるみのことで御礼を言うと、逆に御礼を言われることになった。


あの蒸し菓子のことも詳しく知りたいと言われるため、料理担当のリンカに直接説明してもらうことになった。料理って口で説明しても、分からないところが多いため、急遽リンカの料理教室が開かれることになった。宿の料理人達やお菓子職人も呼ばれて、町長屋敷の厨房がアルハトロス料理のレッスン希望者で埋め尽くされている。


処刑の立ち会いから戻ってきたエフェルガンと町長は、びっくりするほど事態となった、と驚いた。たくさんの人々の前で、リンカは丁寧に蒸し菓子の作り方を教えている。すると、料理人達はそれを真似て調理する。簡単そうに見える作業が、実はとても難しく繊細のため、料理人達がもっと練習が必要でしょうと夫人が言った。彼女も苦戦しながらやっていて、やっと蒸し菓子を作ることができた。自分たちで作った料理とリンカが作った料理を食べ比べ、改善するところを記録したりしている。これから、この山の上にある小さな町ガリカの名物料理になるようにと、修業を重ね訪れてくる旅人に受け入れられるように頑張りたい、と料理人達が揃って言った。


また蒸し菓子の他にもリンカは簡単にできるアルハトロスのお菓子をいくつか作った。これも好評だった。地元にある食材を生かして、これから新しい料理をして町を盛り上げようという試みがとても良い、とエフェルガンが言った。ちなみにお菓子が大好きな彼は蒸し菓子を3個も一人で食べた。


昼餉も町長の屋敷で行われる。リンカと料理人達がいくつかのアルハトロス料理を作った。町長たちも頬がゆるんでしまうほど、美味しいと褒めてくれた。初めての味で興奮してしまった料理人もいた。人口数百人しかないこの小さな町はアルハトロス料理で革命を起こそうとしているのだ。賑やかな温泉地になると良い、とローズが心から願っている。


そして、ローズがこの町で星を観察する天文台とその関係の学校を建てることを提案すると、エフェルガンと町長は興味深く聞いていた。学問としてあるけれど、特別な施設はなかったということで、とても興味深いと言った。学生の町となれば、観光だけではなく、色々な面で町が賑やかになる。働きに来る人も、勉強をしに来る人も、遊びに来る人も増えてくるでしょう。寂れた町が一気に変わっていくと予想される。また婦人にかわいいぬいぐるみの販売を提案したら、賛同の意見も出た。これから観光だけではなく、産業の仕事も増えるでしょう。あの品質なら販売しても、買う人がたくさんいるのでしょう。手作りなのに、とても抱き心地がよくて、見た目もかわいい。エフェルガンは女性の「かわいい」という感覚が分からないと言ったけれど、町が活発になれば嬉しいと言った。


有意義な時間が進み、話し合いや情報交換が行われている。ちなみに蒸し菓子の名前は「アルハトロス風蒸し菓子」という名前になった。元の名前は「果物が香る蒸し菓子」だったけれど、エフェルガンはアルハトロスの国名を付けたいから、この名前になったわけだ。天文台の話は学問の専門家と教育大臣と相談してから話を進めたいとエフェルガンが言った。


町長たちと別れ、宿にもどるとたくさんの人々が宿の前に集まっていた。一目でローズたちを見ようとした者がいれば、贈り物や花束をさし上げたいという人たちもいる。さすがに明日別の地域へ出発することになるから、これ以上もう物を受け取ることができないとエフェルガンが言った。手紙はヒスイ城に送るようにと説明して人々を納得させた。


エフェルガンはローズの手をとって、翼を広げた。彼は翼を羽ばたき、ローズは念じて空を飛び、二人で宿の前にいた人たちがよく見えるように、ちょうど良い高さまで飛んでいる。二人で皇子と姫スマイルで、手を振り仲良しアピールしている。ローズよりも自然な笑顔で振る舞えるエフェルガンである。彼が色々な表情を場面に合わせて上手にできていて、これが教育の成果なのか、彼の本性なのか、ローズは分からない。身長がエフェルガンの半分ちょっとしかないローズに気遣いながら民の声援を応えて、十数分間も笑顔しながら手を振り続けていた。


当然護衛官達の目がとても真剣だ。この時に暗殺者がたまに紛れ込んでしまうからだ。その中でリンカのファンも出てきたようで、リンカの名前を叫んで手紙を渡そうとした。一目惚れだそうだ・・。当然、リンカは彼を無視している。彼女は今護衛官としての仕事をしているからだ。


宿に戻ると、これもまた大変だ。部屋が手紙やぬいぐるみで埋め尽くされてしまった。ローズがぬいぐるみが好きだ、という噂が広がって、たくさんの人形やぬいぐるみが送られてきた。どうしようと思うほどの数だ。リンカへの恋文や護衛官達宛の恋文まであった。ちなみにエフェルガン宛ての恋文もあって、その内容は側室にして下さい、だった。人気者になると大変だ。


しかし、ローズが自分宛の恋文を読む前に、エフェルガンの判断ですべて暖炉に入れられた・・。ケルゼックも苦笑いしながら、このような手紙を持って帰ってしまったら、奥さんと喧嘩になるからと言って、それらの恋文を全部燃やした。エフェルガンも自分宛の恋文を暖炉に入れながら、側室を取る予定がないとローズに言った。


彼は誰よりも知っているのだ。父親が数多くの側室を持ったことで、兄弟の権力争いが今でも続いている。エフェルガンを殺そうとしている暗殺者がいつ現れていてもおかしくないのだ。


旅に必要がない荷物を全部箱に入れて、明日の朝にヒスイ城へ送るとエフェルガンが命じた。宿の支払いをしようとしたら、もう町長が払ったため、断られてしまった。


その夜はガリカの温泉を楽しんで、美味しい料理を食べてから、ゆっくりと休むことにした。明日はパララへ、出発する。


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