91. スズキノヤマ帝国 ガリカ(4)
「なんだとう?!」
エフェルガンが驚いた様子で聞いた。
とうとう現れたか!、とローズは苦笑いした。
遅かれ早かれ彼女の偽者がきっと出ると思ったけれど、まさか今目の前の基地のボスがローズの偽物とは・・。
「おのれぇ・・ローズはあんな不埒な女ではない!」
文句を言ったのは怪我人のエフェルガンだった。
「うむ、じっとして。傷口が開くよ」
「はい」
「素直でよろしい」
エフェルガンは口を尖らせて、おとなしく治療を受けている。それを見たハティとエトゥレは思わず微笑んだ。
「殿下はローズ様にも敵わないのですね」
「ハティ、うるさい」
ハティはくくくを笑って、自分のハンカチをローズに差し出した。ローズはそれを受け取って、そのハンカチでエフェルガンの傷を巻いた。
「よし、これで良し。あとでガレーに診てもらうわ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「これからどうする?ローズ。偽者を何とかしないといけないが、僕達はその基地に入れない」
「入れるようにするわ」
ローズはエフェルガン達を基地の入口まで連れて行っって、バリアー・シールドを出した。これでローズたちの後ろに見えない壁ができた。その後、もう必要のない見えない壁を触れると、消えた。
混乱した人々がローズたちの登場で動きを止めた。何しろ光っている小娘が目の前にいるとしたら誰もが恐ろしく感じるでしょう。
「聞け! この人こそ、龍神の娘の薔薇姫だ」
エフェルガンは大きな声で混乱した人々の前で、彼女の名前を叫んだ。
「そんな嘘はもう信じない!」
「そうだ! そうだ!」
「家に帰して!」
人々が声を荒げて抗議をした。
「まぁ、そうでしょうね。この魔法を解いても良いけど、その首飾りが爆発するけど、どうします?」
シーンと一瞬、静かになった。そしてざわめきが聞こえてくる。
「私はこれからその偽者を退治しに行くわ。さすがに自分の偽者が存在していると、気に入らない」
「お願いします、龍神の姫様!」
一人の女性は涙ながら目の前に跪いて手を胸に重ねて、お願いをしている。
「うん、分かった。皆、ここでエフェルガン皇子とその配下の者に従っておとなしく待っていて下さいね」
エフェルガンの名前が出た瞬間、またざわざわと人々が顔を見合わせをしながら、エフェルガンをじろじろと見ている。
「ローズ、一人で行くのか?」
「ううん、中にリンカ達がいるから、大丈夫よ」
「僕も行くよ」
「ダメ、万が一、敵の伏兵がいたら、この人々を守れるのがエフェルガンだけだ」
「分かった。でも気をつけて」
「うん。皆の首にある術を消しに行ってきます」
ローズは飛ぶことを念じて、人々の頭の上に飛んで、リンカが戦っているところに向かっている。中に入ると、ガレー達が灰色の布の肩掛けをしている人々を倒して、押さえている。ローズが見えると、ガレーは驚いて、すぐさま駆けつけて来た。
「ローズ様、どうしてここに?」
「私の偽者をこらしめに来たのよ」
「では、ご一緒します」
「うん。彼らは何か首飾りについて言ったか?」
「大神官と呼ばれる人が知っているらしいが、こんな状態でどの人が大神官なのか分かりません」
「なるほど。じゃ、探すのが面倒なので、一番えらい人に聞いた方が早そうだね」
「さよう」
二人が中に入ると、リンカが見えてきた。かなり激しい斬り合いとなっているけど、状況は先ほどと変わらない。リンカにしては珍しいと思う。
「ローズ、何をしにきたの?」
「あの人に首飾りの解除方法を聞きにきたの」
あの女性はローズの登場に不機嫌な顔をしている。
うむ、偽者にしてはまったく似ていない。なんだか腹が立つ、とローズは思った。
「じゃ、どうする?ローズがやる?私が生きたまま捕らえるのが苦手でね」
「やっぱりそうか。あれで苦戦しているんだね」
「そうね。どうやって殺さずにするのが、難しいよ」
「分かった。じゃ、リンカは下がって」
ローズが言うと、リンカがうなずいて、後ろに下がった。
「何をごちゃごちゃと!」
偽薔薇姫が武器を振りながらリンカを襲ったけれど、リンカの蹴り一つで壁にたたきつけられた。
「金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
ローズがフル支援魔法を付けると、彼女が眉を顰めた。
「誰だあんた?」
偽薔薇姫がにらみながら言った。
「本物の薔薇よ」
「うそだ」
「なら、その体でお教えします。本物の薔薇の戦い方を!」
ローズは鞭を片手に取り出した。トゲがびっしりとついている。けれど、今回は相手が死なないようにわざと鋭さを調整した。
パン! と乾いた音がした。
「オオオオオ!」
偽薔薇姫が武器を振り回したけれど、すべて回避された。ローズは体を低くしてしてから、鞭を振り上げると、相手の腹と顔に当たった。その反動で窓を突き破って、外に飛ばされてしまった。ローズは素早く彼女を追い、次の攻撃をした。激しい鞭攻撃の後、彼女の武器が鞭の攻撃によって手から離れて地面に落ちた。そしてこれがチャンスだと思い、ローズが足で地面を強く蹴って、一気に彼女の顔に左手で殴った。その一瞬で鞭を離して、右手の平で彼女の胸に当てて、吹っ飛ばした。無様に偽薔薇姫をエフェルガン達の前に落ちた。
「バインド・ローズ!」
ずるずるずると地面から茨の枝が出てきた。そして彼女の体をぐるりっと巻き付いて強く食い込みながら縛っている。あまりの痛さに彼女の口から大きな悲鳴が聞こえている。
「あああああああああああああああ!」
「まだやる?」
「お許しを・・!どうか、お許しを・・」
涙ながら命乞いしている。無様だ、とローズが思った。
「じゃ、まず、首飾りの解除方法を教えなさい」
「私は知りません!本当です!」
枝を強く縛り付けると念じた。
「あああああああああああああ!痛い!痛い!」
「うそはダメですよ。外であなたの部下は、あなたが知っていると自白したんだよ」
茨の枝を少しゆるめた。トゲによって彼女の体から赤い血がにじんでいる。
「本当です。知っているのは大神官のゴロエです。うそじゃない、本当です」
「ゴロエは今どこに?」
「知りません、本当に知りません」
彼女が痛みを耐えて、首を振った。
「ゴロエならあそこにいる!」
エファインに取り押さえられた灰色の肩掛けを身につけている人は叫びながら別の男を指さした。その男は混乱した人々の中に紛れ込んでいる。それを気づいた人々は悲鳴をあげながらその場を離れて走り逃げている。けれど、ゴロエは近くの子どもを引っ張り出して、人質にした。
「近づくな! この子を殺すぞ!」
ゴロエという人はひげがある男性だ。服装は一般の人々とほぼ変わらないが、金色の首飾りをしている。左手に子どもの体をつかんでいて、右手に尖った棒を持っている。その尖った棒で子どもの首に当てられている。
「私の子どもよ!助けて・・誰か」
ケルゼックが早速泣き叫ぶ子どもの母親を後ろに引っ張った。パニックになると何をするか分からないからだ。エフェルガンは怒り心頭の顔で動こうとしたけれど、相手は神官である以上、どんな術を使うか分からないから止めた。
ローズは宙に浮きながら、そのゴロエという神官の前に近づいた。
「その子に怪我でもさせたら、あなたを苦しみに満ちる死を与えるよ」
「近寄るな!」
ゴロエを震えながら尖った棒をますます子どもにあてた。血がにじんでいる。これはまずい。
「バインド・ローズ!」
ズズズ、と地面から茨の枝が出てきて、ゴロエの手や足を強制的に縛りこんだ。近くにいたオレファは素早く動いて、手をつかんで、武器を叩き落とした。そして素早く子どもを奪った。泣き出した子どもに母親の元へ素早く向かった。母親が我が子を強く抱いて泣き出した。無事で良かった。
ローズは残りの茨の枝が彼の体を巻き付いている。トゲが容赦なく彼の体に食い込んでいる。
「さぁー首飾りの解除をしてもらおう」
「分かりません」
ぐいっと枝が強く縛って食い込んでいる。
「ぎゃああああああ!」
「うそつくな!」
「うそではない、うそではない!ぎゃあああああ!」
うむ、これが困った。しかし、彼が知らなかったなら、誰が知っているんだ、と彼女が困った顔をした。
「ローズ」
エフェルガンが呼ぶと、ローズが彼を見ている。
「ん?」
「僕の術破壊魔法でできるかどうか試したい」
「危険すぎるよ」
「でもこのままではこの人たちはここからじゃ出られない」
「でも・・」
ローズが戸惑って、エフェルガンの提案をうんと賛同できなかった。すると、エファインが前に出た。
「殿下、私の首飾りでお試し下さい」
「ダメ!エファインにもし何かあったら・・」
ローズがエファインを止めようとしたが、エファインが首を振った。
「大丈夫ですよ、姫。私の命は民のために役に立つのなら・・」
「ダメ」
「ローズ姫」
困った。爆発すると分かった以上、慎重にやらなければいけないんだ。では、なぜ大神官ですらこの解除方法が分からないのか、疑問に思った。
「あははは!ざまみろ。何が本物よ。そのぐらいの術をやぶることができないんじゃないか?」
後ろから偽薔薇姫が気持ちよく笑っている。むかつく、とローズが思った。
「ブラッディー・ローズ!」
「きゃあああああああああああああああああああ!」
死なない程度だけれど、鋭いトゲがぐさっと刺さった。地面に血の噴水が落ちている。それをみた神官ゴロエが震えながら、何かを言おうとした。
「ゴロエ、次はあなたの番よ。約束したでしょう?苦しみに満ちる死を与えると」
「お許しを下さい・・教えます!教えます!」
「うそついたら、あなたが死ぬ寸前に回復魔法をかけてまた痛み付けるからね」
「ひぃー!」
「さ、知っていることをすべて吐くのだ」
「首飾りの後ろにある小さな鎖を外せば・・爆発しない」
「その言葉は偽りがないか?」
「そう・・教えられていたのです」
「誰に?」
「首飾りをくれた人に」
「その人は誰だ?」
「メギケルという武器商人・・」
「今そのメギケルはどこにいる?」
「もうどこかに行ってしまった」
エフェルガンはものすごく怖い顔している。これはただならぬ事態となった。メギケルの目的はなんだ?、とエフェルガンは怒りを満ちた顔でいた。
けれど、メギケルのことよりも、今やるべきことは大量の町の人々を救う道を考えなければいけないことだ。
考えろ・・ローズ・・考えるんだ!ローズは自分に言い聞かせて、考え込んでいる。
まずエファインの首飾りを見ていると、首の後ろにやはり小さな鎖があるが、これは本当に触って良いかどうか分からない。メギケルがゴロエに本当のことを言わなかったこともあるでしょう、と考えた方が良い。
「使ってない首飾りはないか?」
「探してきます」
ガレーとエトゥレが建物の中に入り、調べに行った。そしてしばらくしていたら戻ってきた。首を振って見つからなかったようだ。その代わり一袋の魔石を持ってきた。考えたくないが、それは町の人々が入っている魔石かもしれない。
「どういうことだ? ゴロエ」
「ひぃー!」
ゴロエが首を振った。
「この魔石の中に町の人々を閉じこめたのか?」
「お許しを・・」
エフェルガンはもう我慢できないようだ。とても怖い顔でゴロエの前に立ってにらみつける。
「説明してもらおうか?」
「術を発動するために・・大量の魔力が必要だった」
「ガリカの町の住民全員に術をかけたのか」
「水源に術をかけて、呼びかけに来るようにと・・」
ゴロエが痛みと恐怖で震えながら言った。
「なるほど、水源か」
「水に術を流し、一夜でその水をかかる人たちが一気に術にかかり、呼びかけに応じたわけか」
ローズがそう言ったらエフェルガンがうなずいた。
「どうやって呼びかけるんだ?」
「幻術よ」
エフェルガンの疑問にリンカが答えた。彼女が建物の中からローズの後ろに来た。
「幻術?」
「そう。あの女は幻術師だ」
「どうして分かる?」
「戦っている最中に私に何度も術をかけようとした。まぁ、効果がなかったけどね」
リンカはエファインの首飾りに指を触れた。
「解除」




