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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編
83/811

83. スズキノヤマ帝国 ダイナ町(1)

パララはキヌア島からだと、とても遠い。キヌア島からパララに止まらずに行く場合、大体一日ぐらいがかかる。


しかし、ローズとリンカがいるため、途中で数回の休憩をするということになる。エフェルガンはどこかの町か村で1ー2泊泊まってからパララに行くと予定を立てていた。とにかくのんびりとした旅がしたいというローズの要望に応えて、エフェルガンはわざと景色がきれいな所を選んでいる。所々その場所の話や説明もして、ローズをとても楽しませている。エフェルガンは本当に自国のことを良く知っている、とローズが思った。


その土地の伝説や有名な場所があるところは必ず詳しく話していた。出発してから数時間、彼の話を飽きずに耳を傾けた。けれど、突然ローズのおなかから、お昼の時間を知らせてくれた音が出てきた。恥ずかしい、彼女は思った。


ぐ~~~~~~~~~~~


おなかがまたしつこく鳴いた。


「見事な時間のお知らせだな」

「うむ」

「じゃ、食事ができるところを探そうか」


エフェルガンはケルゼックに合図を出した。ケルゼックは降下して、フクロウを止める場所を探した。ちょうど町はずれにフクロウを止めるところがあって、ローズたちはそこにフクロウを止めることにした。この国では大体町はずれにフクロウを止めるところがある。その場所でフクロウを止めれば、お金を払って水や餌をくれる。大体一日の料金は金貨1枚。場所によって数時間を止めてくれるところもあったり、料金が安いところがあれば、高い所もある。また食事どころを利用すればフクロウの料金を無料にしたところもある。特に観光地や工業地の近くだとこのような場所が多いとケルゼックが説明した。


ローズたちが現在ダイナという小さな町にいる。近くに大きな町ダモティエルがあるけれど、ケルゼックが少しはずれた所の方が落ち着いて食事ができると提案すると、エフェルガンはケルゼックの提案に賛同した。このダイナの町の名物料理にも紹介したい、とケルゼックが言うと、ローズの目は輝いている。


なんとケルゼックはこのダイナ町の出身だ。両親が二人とも亡くなったけれど、妹がいる、とケルゼックは照れながら話した。ローズがケルゼックに妹に会いに行くと良い、と言ったらエフェルガンも賛成した。けれども、とりあえず昼餉が先だ、とハインズは言った。なんにせよ、ローズのおなかが先から泣き止まないからだ。


ケルゼックとハティが選んだ料理屋はとても古そうなお店だ。中に入ると、お店がかなり賑わっている。しばらく待つと、十人分の席が空く。案内されたところは奥の方の席で窓から良い景色が見える。青海に黄色い花がいっぱい咲いている。この場所は海が見えるの崖の近くにあるから、景色がとてもきれいだ。


料理のメニューを読んでも分からないから、エフェルガンとケルゼックに任せることにした。待ち時間数分間で、数々の料理が運ばれてきた。どれも・・辛そうだ。匂いからするととてもスパイシーな煮込み料理のようだ、とローズは思った。そして魚の串焼きや葉っぱに包まれている料理もある。ハティの安全宣言が出てから皆で食べる。スパイシーな料理なのに、意外と辛くなかった。辛さは自分で調整できるようになったのだ。やはり辛そうな赤いスパイスがある。ローズがちょっとだけ舐めると、汗がたくさん出てしまった。彼女が辛さに弱いかもしれない。しかし、エフェルガン達は平気な顔で食べている。やはり慣れているのかもしれない、とローズは思った。


リンカは味の分析しながらオレファとこれらの料理について色々と聞いている。時にオレファはケルゼックに確認のために質問をしたりする。


肉の煮込み料理を食べてみると、肉がとてやわらかいことが分かった。お店の人に聞いたら、なんと丸一日煮込んでいたという。とても手間がかかる料理だったのだ。でも味がとても美味しくて、ローズが思わずそれを全部食べてしまった。エフェルガンが笑って、またお店の人にもう二皿追加注文した。先に食べ終わったエフェルガンは、ローズの髪の毛と遊びながらケルゼック達と会話している。エフェルガンは町の話や名物など細かい情報を聞き出した。結局最後にエファインとローズによって、すべて注文された料理が完食された。


ご馳走様でした!、とローズは手を合わせて、食事に感謝した。


おなかがいっぱいになって、少し休んでから、ダイナの町を散策することになった。ケルゼックが町を案内してくれて、海から吹いた良い風が涼しく、とても気持ちが良い。途中でおみやげの店に行って、色々な特産品を見て回っている。とてもきれいな髪留め紐があったから、リンカに見せた。すると、リンカはそれを自分の髪の毛に合わせたりしていた。ローズも自分の髪の毛に合う色や模様を迷いながら、一本の髪紐を選んだ。エフェルガンはローズの分とリンカの分をまとめて買った。


ケルゼックによると、髪紐はこの町の特産品であって、とても質が良い。ほとんど手作りのため、一本を作るだけで一週間がかかるという。また模様が細かい物だと一ヶ月間かかる物もあるらしい。


しばらく歩いて、ケルゼックは花売り場で数本の花を買ってきた。これからちょっと墓参りに行くと、少し時間を欲しいと彼が言ったら、エフェルガンは皆で行くと言い出した。ケルゼックは戸惑っているけれど、結局全員で墓参りに行くとことになった。


ケルゼックの両親の墓はこの近くにあるという。きれいな丘の上で、たくさんのお墓がある場所だ。ケルゼックは二つのお墓の前に足を止めて伸びた草を簡単にきれいにしてから花をおいた。エフェルガン達は敬を表してから、ケルゼックの両親の墓に挨拶した。


「ケルゼックはとても良い護衛官で、私のために励んでいる。彼を天国から見守って下さい」


エフェルガンの言葉を聞いたローズはとても飾りのないまっすぐな言葉だ、と思った。ケルゼックは目を擦りながら微笑んで、感謝の言葉を口にした。エフェルガンはうなずいて、ケルゼックを一人にして、皆と一緒に近くにある休憩所に入って、一休みした。


オレファから聞いた話だと、ケルゼックの両親はケルゼックが小さい時に家に入り込んだ強盗に殺されてしまった。ケルゼックは妹をかばって怪我したけれど、駆けつけた警備隊に救われた。妹は無傷だったそうだ。あれからケルゼックたちは家の近くに住む叔母に育てられたという。ケルゼックは国軍に入るために町を出た以来、ずっと里帰りしなかった、とオレファが言った。


しばらくしてから、ケルゼックが戻ってきた。これから妹を会いに行くそうだ。家がここから少し離れたところなので、エフェルガンが馬車を使うことに決めた。空を飛べる彼らにとって馬車は娯楽だ。逆に空を飛べない他の種族にとって馬車は必要とされる交通手段である。だからこの国では馬車や船がとても重要な交通手段である。


馬車に揺られて数分、やっとケルゼックの妹が住んでいる地域に着いた。とても閑静な住宅街で、かわいらしい家々のデザインが多い。ケルゼックが一つの家の前に足を止めた。そして少しためらいながら、彼が扉をノックした。


「はい!」


中から返事が聞こえた。そして扉が開いた。


「お、にい、さん?」


一人の女性が目を大きくして驚いた。ケルゼックはしばらく彼女を見つめている。


「ただいま、アレイヤ」

「お兄さん!お兄さんなんですね?!夢じゃないのね?」


ケルゼックの妹、アレイヤがケルゼックを抱いて泣き出してしまった。ケルゼックは戸惑いながら、彼女を抱きしめた。


ローズは違和感を感じる。兄弟なのに、こんなにぎくしゃくするものかと疑問に思ったけれど、口にしなかった。


しばらくして彼女がローズたちの存在に気づいて、涙を拭きながら家に入るように快く迎えてくれた。家の中はとてもシンプルでかわいらしい雑貨で飾られている。ケルゼックの妹はこの家で育ててくれた叔母を最後まで看病したけれど、昨年その叔母が亡くなって、今一人暮らしをしている、と彼女が言った。


ケルゼックの妹が机に白湯と焼き菓子を差し出した。なんとそのお菓子はアルハトロス製の焼き菓子だったのだ。この製品について、以前大使から聞いたことがあるのだ。箱がシンプルのもので、首都で売られている化粧箱入り菓子と比べると価格が安いけれど、焼き菓子自体の品質は変わらない。箱が違うだけで、価格がこんなに違ってくるのだ。庶民にとって箱よりも中身だから手に届く価格になると、ありがたいものだ。


ケルゼックはアレイヤにローズたちのことを軍人仲間だと紹介してくれた。良く見ると、アレイヤはとてもかわいらしい女性で、ケルゼックと歳が離れている兄弟だそうだ。生活のために衣服の仕立て仕事をしている。また毎月ケルゼックからお金を送ってもらっているらしい。しかしケルゼックは十年以上家に帰らなかった。仕事が忙しいという理由にしても、不自然だ、とローズが思う。


この二人の間に何があったか気になるけれど、さすがに他人のことだから、聞きづらい。


和やかな雰囲気がしばらく続いて、ケルゼックが優しい目でアレイヤを見つめながら会話している。いつもクールなケルゼックは、まるで別人のようだ。愛しそうな目で・・兄である柳が妹のローズを見つめていた目のような目だ、とローズが思った。女の勘だけれど、口に出せない。ただの気のせいだったら良いけれど、愛し合ってしまったら、この世界では禁断の愛となる。禁断の愛だと分かっていながら、愛しあってしまったローズと柳が結局別れてしまった。そのために、ケルゼックが十年間も家に帰らなかったと考えると、自然だ。それでも、妹を見つめている目がとても愛しそうに見える。


「そう言えば、アレイヤは好きな人がいるのか?」


突然ケルゼックはアレイヤに問いかけた。アレイヤはゆっくりと首を振った。


「いません」

「いないのか」

「私には・・」


何かを言いかけようとしたが、アレイヤはローズたちの存在に気にしていて、黙りこんだ。事情が知らないけれど、ローズはエフェルガンの手を引いて外で散歩すると言い出した。勘が良いエフェルガンはすぐにその意味を理解してハインズ達を誘って、周囲の散策を理由に、ケルゼックと妹を残して家の外に出た。


「そんな顔をしているケルゼックが、見たことがないな」


エフェルガンが言った。


「エフェルガンも気づいたんだ」


ローズが言うと、エフェルガンがうなずいた。


「毎日顔を合わせているから、すぐに分かったよ」

「意外とエフェルガンって、結構敏感だね」

「意外は余計だ」


エフェルガンが言うと、ローズが笑った。


「ケルゼックから妹の話を聞いたことがないな」


エフェルガンが考え込みながら言った。


「オレファは何も聞いてないの?」

「身内のために、毎月お金を送っているだけですね」


オレファが答えた。


「ケルゼックって結婚しているの?」

「彼は独身だ。オレファも独身だね。ハティは結婚している。エファインは婚約者がいると聞いたが、ハインズは知らない。暗部組も知らない」


エフェルガンがローズの質問を答えた。


「私はまだ恋人募集中ですよ。でもなかなか良い縁談がありません。護衛官の仕事を明かしてしまうと、大体の女性は近づかないで離れて行ってしまいます」

「え?そうなの?結構格好良いと思うけど」

「アルハトロスでは護衛官の男性はもてるのか?」

「もてるかどうか分からないけど、でもそういう仕事をしている人って強くて、格好良い。侍女達の話から聞くと一般兵士よりも衛兵や護衛官の方が話題にされることが多かった」

「やはりアルハトロスの女性は見る目が高い」


ローズがハインズの疑問を答えると、ハインズはため息をつきながら言った。


「ハインズ、アルハトロスで嫁探しでもすると良いよ」


オレファが言うと、エフェルガンがうなずいた。


「ローズの知り合いがいれば、紹介してもらうと良い」

「うむ。私は侍女たちしか知らない。リンカの方が女子友達が多そうだけど」


エフェルガンの提案にローズが戸惑いながら答えた。彼女がリンカを見て、確認した。


「いるはいるけど、ハインズ殿と合うかどうか分からない」

「そりゃ人の出会いなんだから、会って話さないと合うかどうか分からないね」

「その通りね」


リンカがうなずいた。


「でもアルハトロスでは、強い男性が魅力的な存在よ」

「やはり武人の国だからか」

「里ではやはり結婚できる男性はレベル5以上なんで、やはりそのレベルになった人って大体強いか、優れている職人かどちらかになる」


リンカが答えた。


「そのレベルはどうやって鑑定するんだ?」

「分からない。受けたことがないからさっぱり分からない」


ローズが首を振った。実際に、彼女がレベル0だからだ。


「リンカはレベル鑑定について、何か知っているの?」

「満月の時にそいう調べるための術式が発動するんだ。でも私も詳しいことが分からない」


リンカが答えた。実際に、彼女がそれを受けた時に、ただ立っているだけだった、と彼女が言った。


「いつかアルハトロスに行けたら鑑定してみたいな」

「エフェルガンはきっと上位になると思うよ」

「ローズも鑑定してもらおう」

「許可してくれるかどうか微妙なんだけどね」

「許可がいるのか?」

「うん。父上に申し込まないといけないんだ。各レベルの担当の先生もいるんだけど、その先生に申し込むことも可能だそうだ」

「面白そうだね」


エフェルガンが言いながら、うなずいた。ずっと黙っているエファインが突然ため息ついた。


「エファイン、どうしたの?」

「私もアルハトロスで嫁探しでもしようか、と思う」


エファインが答えた。


「あれ?婚約者がいるんじゃなかった?」

「解消された」

「え?聞いてないぞ」

「先月でした」

「どうして?他の女性に手を出したのか?」

「まさか。しませんよ、そんな真似を、はぁ・・」


エファインがまたため息ついた。


「良く分からないけど、大変だったね」

「痛み入ります」

「でも相手の方から解消されたって、よっぽどのことがない限り、・・うーん」

「私はよく食べるから・・結婚したら毎日大量に料理しなければいけないと大変だって・・」

「あらら」


エファインがその理由をあげると、全員が顔を見合わせてしまった。


「料理が好きな人と結婚できると良いわ」


リンカが言うと、全員うなずいた。


「その通りだ。リンカはどのような感じの男性が好むか?」

「考えたことが一度もないわ」

「どうして?」

「面倒だから」

「そこは猫らしいよね」

「ふん!」

「あ、ケルゼックが出てきた」


家の外にケルゼックが見えてきた。


「大丈夫か?」

「もう少し時間が欲しいのですが・・」


彼が難しそうな顔して、丁寧に言った。


「では、今夜、この町で泊まるとするか。その方が良い。町の中に宿を探すよ」

「申し訳ありません、殿下」

「気にするな。妹さんとゆっくりと、兄弟水入らず」

「恐れ入ります。では宿を探しに参ります」

「オレファに任せるよ。ケルゼックはここにいて妹さんと過ごせば良い。宿が決まったら、ローズに連絡してもらう」


エフェルガンがうなずきながら言った。


「うん、後で連絡するよ、ケルゼック。ゆっくりしていてね」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて失礼致します」


ケルゼックは一礼して再び家の方に入った。


「まぁ、10年も帰らなかったから、積もる話も多いだろう」

「そうだね」


ハインズが言うと、エフェルガンがうなずいた。


「じゃ、宿を探そうか」

「そうしよう。あれ、オレファとリンカは?」

「もう宿探しに出かけたよ」

「そうか。早いな」


近くの公園でリンカとオレファを待ちながら公園で咲いている花々を楽しんでいる。隣でエフェルガンはずっとローズの行動を観察している。段々とうっとしく感じる、とローズは思った。


「どうした?」

「うむ。さっきからずっと私を見てる気がするけど、なんか変なところあるの?」

「いや。ローズの頭の花はこうみると公園の一部に見える」

「私自身も元々庭園の一部だったから、仕方がないんだ」

「そうか」


ローズが庭園を見渡しながら言った。


「やはり変だよね。頭に薔薇の花が生える人なんて・・」

「いつもそれを気にしているんだね」

「うん」

「ひょっとして、嫌いか?」

「嫌いではないが・・」

「好きでもない?」

「うーん、どうなんでしょう。ない方が良いと何度も思ったりしている」

「そうなんだ」

「でも切っても切ってもまた生えてくるんだよ。つぼみが咲いて散ってまたつぼみが出る。その繰り返しなんだけどね。自分としては、普通じゃない」

「僕はそれでも良いと思ったけどね。ローズが薔薇の花の香りがするから近くにいると、とても良い気持ちになるんだ」

「うむ。ありがとう」

「絵を描く道具を持っていれば、今のローズの姿を絵にしたい」

「あはは。無かったから残念だね」

「今度フォレットに送ってもらおうかな。旅の間にローズの絵をいっぱい描きたい」


エフェルガンが微笑みながら言った。


「私はエフェルガンの絵を持っていないな。それに、絵が下手だから、うまく描く自信がない」

「今度僕が鏡をみて自分を自分で描いてみようか」

「絵師に書かせるという方法もあるんじゃないの?」

「そうだね。それもあるんだな。二人の絵も描かせよう」

「あはは、変な絵になりそうだ」


ローズが笑って、エフェルガンを見ている。


「いや、大丈夫だ。絵を描かせて、ヒスイ城の居間に飾ろうかな」

「うむ。魔除けみたいな効果がありそうだな」

「見せつけるためだ。ローズは僕の愛する人だ」

「うむ」


ローズが戸惑った。本当にそうなったら、大変だ、と彼女が思った。


「ただいま戻りました」

「ただいま、ローズ」


オレファとリンカの声でローズたちの会話を中断された。良く見ると、リンカが猫になって、オレファがフクロウになった。


オレファはフクロウになっている。初めてみたミミズクフクロウの変化姿だ、とローズ思った。移動用フクロウよりもずっと小さい。ジャタユ王子の国の護衛官レイのような大きな鳥ではない。リンカを一人を乗せてぎりぎりの大きさだ。エフェルガンも多分そのぐらいの大きさになるかもしれない。その頭にある羽根耳がやはりかわいい。


「おかえり。宿はどうだった?」

「二カ所あるのですが、どれにするか迷ったので、意見を聞こうと思って戻りました」

「どんな宿だった?」

「一つ目は丘の上にある宿で、庭園に囲まれて一つの部屋に寝台2つがあって、各部屋は独立した建物となっています」


オレファが答えた。


「僕とローズが一つの部屋にぴったりだ」

「ダメ」


ローズが即答した。


「残念だ。もう一つの宿は?」

「海の近くです。部屋からきれいな景色がみえる。一つの部屋に寝台2つがあり、庭園の宿と比べたら小さめだが、快適。普通の宿だから廊下で繋がっている。また一番豪華な部屋は一つの空間に大きな寝室が3つと居間があります」


オレファが答えた。魅力的な宿か、とローズが考え込んだ。


「ローズはどちらにする?」

「丘の上の宿が魅力的だけど、あの海の宿も捨てがたいね」

「僕は海の方が良いかな。一番豪華な部屋にして、皆でそこに泊まれば良いかな。暗部の者が一緒に泊まっても良いし、隣の部屋を取るのも良いし、そこはエトゥレとガレーの判断に任せる」

「そうか、10人分を借りるからね」

「まず部屋を見ないと分からないから、海の近くの宿を見に行こう」


ローズと会話したエフェルガンがそう言って、オレファに言った。


「ローズはどうする?僕の背中に乗る?リンカみたいに」

「エフェルガンが疲れてしまうよ」

「ローズ一人ぐらいなら平気だ。それに前に約束しただろう?いつか乗せてあげると」

「じゃ、言葉に甘えて・・」


エフェルガンは笑って、それからポン!とフクロウになった。とてもかわいい、とローズが見ている。大きなオレンジ色の目がくりくりと、やはりかわいい。羽根耳も・・。きゃー、どうしよう・・、と彼女が興味津々で彼を見つめている。


「どうした?」

「いや・・あの・・」

「ん?初めてみた僕のフクロウ姿に驚いた?」

「なんていうか・・」

「ん?」

「・・かわいい」


ローズが正直に答えると、ハインズが笑った。


「ぶっ!」


エトゥレとガレーもくすくすと、笑いを堪えている。エファインが一所懸命別の方向を見ているけれど、体が震えている。オレファまで笑って背中に乗っているリンカが揺れている。


「オレファ、笑いすぎ」

「あ、すまん」


リンカがそう言ってため息ついた。


「うむ、ごめんなさい。なんか変なことを言ってしまった」


ローズが何かを言ってまずいことに気づいた。


「殿下、顔が赤い」

「ハインズ、うるさい」


エフェルガンが言うと、ハインズたちがなんとかして、笑いを堪えた。


「エフェルガン、ごめんなさい」

「いや、フクロウ姿がかわいいと言われたことがなかったから、反応に困っている」


エフェルガンが照れながら言った。


「やはり姫にとって殿下はかわいい存在なんですね」

「うむ、気に障ることだったら、本当にごめんなさい」


ハインズの言葉を聞くと、ローズがまた謝った。


「いや、大丈夫だ」

「でも、本当のことをいうと、好きです。今度ミミズクフクロウのぬいぐるみが欲しいかな」

「今度ローズのために、僕のぬいぐるみを作らせてあげようか」

「え・・?」


エフェルガンが言うと、ローズが戸惑った。


「ぶっ! はははははは」


ハインズがもう我慢できずに笑い出してしまった。オレファも笑いすぎて背中にいるリンカが揺れて、落ちてしまった。無口のエファインも笑っている、いつも感情を抑えているエトゥレとガレーも笑っている。


「うるさい」

「殿下、はっきりと言えば良いんじゃないですか?」

「何を」

「抱いて欲しいのが、ぬいぐるみではなく、殿下自信だと」


ハインズが言うと、エフェルガンの顔が真っ赤になった。ローズも恥ずかしいのあまり、赤くなってしまった。


「むむむ。そのつもりだったの?」

「いや、違う・・ただ・・その・・」


エフェルガンが恥ずかしくて、赤い顔で答えた。


「はははははは」

「ハインズうるさい」


エフェルガンがまたハインズを叱った。


「オレファ、笑いすぎ」

「ああああ、リンカ、すまん、すまん。今日の殿下は面白すぎて、我慢できなかったんだ」


オレファが足下で心配したリンカに言った。


「ははは、あ~~あごが痛い。さて、ここで笑いすぎて倒れる前に、早速宿へ行きましょう」

「笑いすぎたのがあなたでしょう、オレファ」

「その通りだ。では、行きましょうか」


オレファがいうと、リンカがまた彼の背中に乗った。


「じゃ、ローズ、背中に乗って」

「う、うん。失礼します」


エフェルガンの背中に乗ると、ドイパ国のレイさんの背中と違う感覚だった、やはり種族が違うのだ、とローズが実感した。エフェルガンはミミズクフクロウ種族だと、ジャタユ王子は何種族でしょうか。鳥人族だという大きな分類の中で、様々な種族がいると分かっていても、ここまで実感することはなかった。


「重い?」

「大丈夫だ。ローズがとても軽いよ」

「人を背負って飛んだことがある?」

「ない。ローズが初めてだ」

「疲れたら言って」

「問題ない」


エフェルガンがそう言って、前に進んで、飛んでいる。


とても気持ちの良い風に顔をなでられながら、下の景色を楽しんでいる。落ちないように、ローズがしっかりとフクロウ姿のエフェルガンの背中につかまって、彼の羽根の動きを見ている。繊細な動きで風に乗り、滑り込んだような感じがした。とても気持ちが良い。時に羽ばたいたりして、空を飛ぶ楽しさを教えてくれるような気がする、と彼女が思った。彼の羽根耳も風に揺られて、とてもかわいい、と。


楽しい空旅があっというまに終わってしまった。小さな町だから、距離にも近いのだ。宿の敷地内に着いたら、そこは崖の上にある宿だ。海に行く道があり、その崖の下に白い砂ビーチが見える。あまり広くないビーチだけれど、とてもきれいだ。多分この宿の所有地と思う。水着があれば泳ぎたい。


「ここは気に入ったか?」

「うん。水着があれば、あの海で泳ぎたい」

「後で買いに行こう」

「え?良いですか?」

「もちろん」


エフェルガンが言った。


「では、この宿にするか。オレファ、宿の手続きを頼む。2泊で良いかと、明日ローズがいっぱい遊べるようにしたい」

「かしこまりました。エトゥレ、荷物も確認しに来てください」


オレファとエトゥレが宿に入った。明日いっぱい遊べると想像するだけでなんだか嬉しい。


部屋の手続きを終わらせたオレファ達はその後荷物を取りに行った。その間にローズたちは部屋で一休みをする。


一番豪華な部屋は実は二つあり、宿の一番上にある部屋が4つの寝室がある。大家族用だそうだ。これで十人も余裕に入るから、エトゥレの判断でオレファがその部屋を選んで2日間を借りることにした。ケルゼックを連絡して、今夜この宿に泊まることを知らせた。


オレファ達が戻って来てから、皆で水着を買いに出かけた。エフェルガンはローズの水着だけではなく、リンカの分も買った。それだけではなく、リンカが大好きな大きなボールも買った。リンカはビーチでボール遊びが大好きだ、と聞いたオレファ達が張り切っている。明日一日中思いっきり遊べると想像するだけでほっぺが痛くなったほど笑顔出しっぱなしのローズである。


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