84. スズキノヤマ帝国 ダイナ町(2)
宿周辺の料理屋で簡単な夕餉のあと、少し町を散策した。
この町は治安が良く、いろいろなところできちんと整備されている。小さな町のため、物価も安い。近くの大都市ダモティエルよりも三割以上も物価が安い、と暗部のエトゥレが言った。やはり暗部として、彼がいろいろと仕事をしているようだ。さくっと見たところで問題がなさそうだ、とエフェルガンが言った。
夜の町散策を終えて宿に戻って、ローズがリンカと一緒に宿の湯殿でお風呂に入った。風呂を終えて、部屋に戻るとエフェルガン達がいない。お風呂かもしれないと思って、時間を有効にして残った課題をやることにした。とても難しい。参考書を何度も読み直しても、分からない。これはガレーに聞くしかなさそうだけれど、ガレーもいない。課題をやってから結構時間が流れていたが、彼らはまだ戻ってこない。
ベランダに出たら、海の方から気配を感じているからリンカと一緒に海岸の方に歩いて見ることにした。もちろんスズキノヤマへ来てからの常識で、必ず短剣を身に着けることだと心得ている。ビーチに行く夜の小道に明かりが少なく、暗い。でもリンカと一緒なら怖くない。ちなみにリンカは今猫の姿でいる。黒猫で夜の道によく見えるけれど、わざと小さな魔法の炎を頭の上に浮かしている、とても器用だ。今度教えてもらおう、とローズがリンカを見て、歩いている。
夜の海岸に着くと離れたところで戦っている人が見えた。けれども、殺気がまったくないので、ローズはその人々はエフェルガンたちだと分かった。エフェルガンはオレファとエトゥレと一緒に武術の練習をしている。ローズが見えていると、ハインズとエファインは自分たちが座っていたシートに座るようにとローズたちを譲った。彼らがローズたちが砂の上に直接座らないようにと気遣っている。
かなりハードな練習で、オレファがまったく手加減しなかった。何度もエフェルガンのおなかや顔に拳を入れたり、蹴ったりした。それを加えてエトゥレもまったく手加減をしないで、思いっきりエフェルガンを襲っている。バリアー魔法を使っているため怪我はしないけれど、痛みが残る。
ローズとリンカという見物人が来たためか、エフェルガンは動きを止めた。そしてオレファとエトゥレに今日の練習はここまでにすると言った。あの二人は一礼をして、ローズたちがいるところに向かって歩いている。
練習の邪魔したかとオレファに尋ねたら、オレファが笑っただけだった。ガレーはエフェルガンに回復魔法を与え痛みを和らげている。ガレーが治療が終わると、エフェルガンは肩を動かしながらローズの元へ来た。エフェルガンはローズの隣に座って、彼女の髪の毛を取って、口づけした。
「お疲れ様。練習の邪魔してしまった?」
「いや、今日は疲れたから、終わりにしただけだ。ケルゼックは帰って来た?」
「ううん。今日は帰ってくる予定があるの?」
「分からない。でも大体、帰って来るけどね」
「以前このようなことがあるの?」
「たまに首都へ行くぐらいかな。軍人仲間と数人で結婚祝いやお見合いパーティーに参加するときもあったけど、遅くても、帰ってきた」
「そうなんだ。でも今とは事情が違うと思う」
「そうだね」
エフェルガンがうなずいた。
「どうする?部屋に戻る?」
「しばらくここでローズと一緒にいたい。リンカ、ローズを襲わないから、二人だけで少し時間をくれるか?」
エフェルガンが言うと、リンカがうなずいた。
「良いわ。その言葉を信じる」
「ありがとう」
エフェルガンがうなずいた。
「じゃ、先に行くわ。ローズ夜更けをしないで。明日泳ぐでしょう?」
「うん。分かった。お休み、リンカ」
「おやすみ」
ローズがリンカに言って、うなずいた。
「では私たちも先に場を離れます。くれぐれもご用心をくださいませ」
「ああ。ご苦労だった」
オレファたちは頭を下げて宿の方に向かった。
「オレファに殴られたところ、まだ痛む?」
「もう痛くない。ガレーが治してくれた」
「良かった」
ローズが安堵した様子でうなずいた。
「まだオレファの攻撃を防ぎきれなかった。あの人は結構武術が得意だからな。一度も勝ったことがない」
「そうなんだ」
「エトゥレも強いから二人で襲われてかなり大変だった」
「うん。そう見えた」
「格好良い姿を見せたかったが、無様だったな」
「ううん。練習だから格好良かったかどうか、まったく関係ないよ。実戦で生き抜いたら、それこそ素晴らしいことだ」
「やはりアルハトロスの女性は現実的なんだね」
「全員必ず私と同じ考えかどうか分からないよ。でも武人の社会が色濃くしている環境にいたから自然にそう考えてしまうかな」
「なるほど」
エフェルガンがうなずいた。
「エフェルガン、今日は人の前で、かわいいと言ってしまって、ごめんね。恥ずかしかったでしょう?」
「ちょっとな。でも問題ないよ。ただ、驚いただけだった。今まで誰もそのようなことをいう人がいなかったから」
「私は、エフェルガンの目が好きなの。とてもオレンジで、きれいな目の色をしている」
「ありがとう」
ローズが褒めると、エフェルガンが微笑んでうなずいた。
「私の目は、欅兄さんが作ってくれたものだよ」
「柳の弟君だよね?」
「うん。金属の道具の職人をやっているんだ。この目は欅兄さんが宝石を溶かしてガラスと混ぜて作ったらしい。とてもきれいな青い色ができたんだって」
「すごいな」
「うん。それが私の目になったんだ。考えたら怖い話だと思うけどね」
ローズがそう言いながら、夜のビーチを見つめている。
「ローズは自分自身のことが怖いのか?」
「うん」
「否定しないのか?」
「実際に怖いから、不安がいっぱいよ」
「得体のしれない生き物だから?」
「うん」
「常識と違うから?」
「うん」
ローズがうなずいた。
「でもそれは、龍神様が決めたものだから考えても仕方がないと思う」
「分かっていても不安だよ」
「その不安を取り除く方法があればな」
エフェルガンが言った。
「それができれば、こんなに悩まないんだ」
「聞いても良いなら、どんな不安を抱えているか、聞かせてくれるか?」
「うむ」
「僕はすべてを理解しているわけではないから、分かる範囲で考えてみる。分からなければ答えが分かる人を尋ねるか、本を読んで調べてみるか、あるいは落ち着いた時にもう一度考えるか。とにかく、地道に努力するんだけどね」
エフェルガンがローズを見て、尋ねた。
「体の成長過程、体内の機能、そして本当に人なのか・・」
「難しいね」
「うん」
「体の成長過程はたぶんロッコ殿の言った通りだと思う。もう一度大きな戦闘をすれば確信になるが、試すのは怖い」
「うん」
確かに、とローズが思った。再び戦闘が起きたら、彼女の体にとって、どれほどのダメージになるのかを考えるだけでも怖い。
「今度はローズがどのぐらい寝てしまうか考えるだけでも怖いんだ。一生起きないという可能性もあるからな」
「それは怖い」
「だからロッコ殿が正しかった、と僕が思ったんだ。ローズを大変な戦闘に参加させてはいけないんだ」
「うむ」
「たまに狩りぐらいは良いと思うけどね。不満がたまって暴れてしまったら大変だからね」
「うむ」
「不満がたまる前に僕と話し合おう」
「うん」
エフェルガンが微笑みながら、彼女を見ている。
「さて、次は体の機能か・・これがさっぱり分からないが・・」
「うむ。私がいくら食べていても太らないんだ。大きくならないし・・」
「たぶん食べたものを早速魔力に変換されると思う」
「そうか・・だからか・・」
エフェルガンが聞くと、ローズが困った顔した。
「心あたりがあるのか?」
エフェルガンがローズの顔の変化に気づいて、聞いた。
「飢え・・」
「飢え?」
「うん」
「いくら食べていても満たされないんだ・・」
「飢えを感じているのか?」
「うん。でも心とアゴで制御しているんだ。満足している、今満腹だと自分に言い聞かせている。またアゴが疲れると、もう十分だと思って、食事を止めた。そうなると落ち着いてくる」
「ローズ・・」
「やはり不気味でしょう?」
エフェルガンは何も言わずに、ローズをやさしく抱きしめた。ローズは目を閉じて、彼の温もりを感じている。
「その飢えが満たされるまで、僕の前で我慢しなくても良い」
「そうはいかないよ。食料って大事なものだから、私が一人で食べつくしてしまったら皆の分がなくなってしまう」
「でもローズが苦しんでしまう」
「毎日一定の量を食べていれば、魔力の回復が安定する」
「食べるものによって回復量が違ってくることはない?」
「それは考えたことがなかった。エフェルガン、あなたって天才かもしれないわ」
ローズがエフェルガンを見て、微笑んだ。
「お、ローズの目の輝きが変わってきたね」
あのオレンジ色の瞳がまっすぐに彼女を見ている。闇に支配されていた心が、なぜか光を感じた。
「測定方法が分からないけど、何かを食べて、どのぐらい満たされているか、魔力が回復しているかどうか・・まだわからないけど、検証してみるよ」
「そうだね。それが分かれば、ローズにとって最適な食材が分かるかもしれない」
「うん」
「笑顔が戻った」
「エフェルガンのおかげだ。ありがとう」
「問題ない。僕もうれしい」
「うん」
ローズがうなずいて、微笑んだ。
「そして最後の悩みか・・人であるかどうか」
「うむ」
「僕は人であるかどうか、どの基準で見るかによって、そのことが変わっていくと思う」
「良く分からない」
ローズが首を振った。
「人の形をしているケダモノも存在している。あれは人であるかどうか、分からないよ」
「確かに」
ローズがうなずいた。
「逆にローズのような天女は、人として精一杯生きていて、まさしく人そのものだと思う」
「天女だなんて。言い過ぎよ」
「いや、僕にとって、ローズは天女だ。神が与えてくれた天女だ。愛しくて仕方がない」
「その気持ちを応えたくても、応えられないこのどうしようもない天女は、果たして人として生きていけるかどうか、分からない」
「応えられるように努力し続けるしかない。でも人は群れを作る生きものだから、一人で頑張らなくても良い。僕も一緒に頑張るから、頼ってくれ。二人で頑張ろう」
「エフェルガン・・」
「ローズ。僕が、本当に、あなたを愛しているよ」
エフェルガンはローズの目から流れている涙をズボンのポケットから出したハンカチで拭いた。
「うむ、ごめんなさい。私ってすごく泣き虫なの」
「女人だから泣いても仕方がないと昔ズルグンに言われたことがある」
「元気にしているかな、ズルグンさん」
「きっと元気にやっていると思う」
「うん」
ローズがズルグンを思い出して、うなずいた。
「ローズ、ちょっと踊ろうか?」
「踊る?」
「音楽がないから僕が適当に歌うから、少し踊ってみよう」
「私は踊れない・・というか、この国の踊り方が分からない」
「キヌア島で踊ったじゃないか。そんな感じで良い」
「下手でも?」
「構わない」
エフェルガンは立ち上がって、そして民族の歌を歌いながらローズの手をひっぱって、ぐるぐると彼女を回しながら踊り始めた。砂の上で難しかったけれど、彼の誠意を感じた。暗い海岸で波の音という自然の奏でに彼の歌がとてもすてきに聞こえていた、夜遅くまで笑いながら二人で踊っていた。リンカ達が不機嫌な顔で現れるまで。
ローズがリンカにがみがみと言われながら部屋に戻ると、ケルゼックがいた。彼は帰ってきたんだ、とローズは思った。お風呂も入っていてガレーとお酒を呑んで会話している。ローズたちが帰ってきたら、ケルゼックがエフェルガンに挨拶して事情を説明した。エフェルガンは理解を示して、オレファと共に再び部屋の外にある湯殿へ向かった。
ローズはリンカに叱られて今日は早く寝ることになった。リンカって猫なのに、母親のような感じがする。かなり母性的だ、とローズは思った。
翌朝。
寝不足のせいか、ローズが寝坊してしまって、エフェルガン達はもういない。多分今頃、海岸で朝運動をしている。リンカはローズの隣でグルーミング中だ。本当に猫らしい。
「うーん、おはよう、リンカ」
「おはよう。まだ眠いなら二度寝しても良いよ。今日はゆっくりと過ごすようにと言われたの」
「うーん、大丈夫。ちょっとおなかが空いて朝餉を食べなくちゃ・・ふあ~」
ローズが眠そうな顔でリンカに手を伸ばして、なでた。
「そう?準備できていたら、食堂に行きましょう」
「エフェルガン達は?」
「いつ戻ってくるか分からない。多分海岸にいるよ」
「そうか。じゃ、食べ終わったら、海に行こう、リンカ」
「そうね。じゃ、朝支度をしよう」
ローズがリンカと一緒に朝支度して、朝ご飯を食べに行った。基本的に食べ放題なので思いっきり食べた、美味しかった。
ご馳走様でした!、とローズが手を合わせて、食事に感謝した。
そして待ちに待った海だ!、と二人がボールとタオルを持って海岸に出かけた。リンカはやはりあの大きなボールを持って、海に向かって走っている。嬉しそうなリンカは久しぶりに見た。水着姿のリンカはやはり目立つ。宿の人もそうだけれど、他の宿泊客からも視線を浴びてしまうほどの美女だ。でも本人は周りの視線を無視している。彼女の目には、ボールと海しかない。
海に着くと、エフェルガン達が見えた。けれど、リンカはわざと離れたところを選んでローズと二人でボールの遊びをする。
楽しい!、とローズが笑いながらそのボールに挑んだ。大きなボールだから、ローズが何度もボールに当たって転んだ。それでも楽しくて、笑いが止まらない。
そんな楽しそうなローズたちに、4人組の男性が来た。このビーチは宿のプライベートビーチなので、彼らも宿の客人でしょう。彼らはリンカと近づこうとした。遊びが邪魔されて、リンカが不機嫌になり、タオルとボールを持って、他の所に移動した。しかし、あの男どもがしつこく着いてきてしまう。怒ったリンカが殺気を出してしまう。そうなってしまったら、それらの男どもの命が危ない・・・。リンカは短気なので、心配なんだ、とローズはあ思った。
男どもがエスカレートになってしまった。リンカが持っているボールを奪おうとしたから、ローズはその男の足を蹴った。すると、その男がローズを怒鳴り込んだ。結構汚い言葉を浴びせられてしまっただけれど、ローズは彼が言った言葉の意味がよく分からない。外国語か方言か、さっぱりだ。
ついに、リンカが怒ってしまって、ボールを投げた。そして彼女が拳を強くして、その男を殴ろうとした時に、駆けつけてきたオレファがリンカの手を押さえた。そして、次の瞬間、オレファの強力の拳がその男の画面に直撃した。結果は当然、ノックアウトだ。エフェルガンでさえ勝ったことがないのに、チンピラ並のチャラチャラとした男どもはオレファに勝てるはずがない。
エフェルガン達も来て、ローズの前に立っている。ハティはローズの隣に来た。喧嘩になると、人数もそうだけれど、強さからみると、その3人は勝つ見込みがない。オレファ、ハインズ、エファイン、エトゥレ、ガレー・・、そして不機嫌な顔をしているエフェルガンがいる。三人は威嚇されて、怖くなってしまったか、気を失った仲間をひっぱりながら退散した。
オレファは風に飛ばされたボールを取り、リンカに渡した。リンカの顔に笑顔が戻った。いや~、オレファが来なかったら、恐らく警備隊が出てくることになるでしょう。死人が出るところだった。助かった、とローズは思った。
「二人とも大丈夫か?」
エフェルガンが聞くと、ローズたちがうなずいた。
「うん。ありがとう」
「大丈夫」
リンカの顔を見ると、ローズもうなずいた。
「ひどいことを言われても、よく我慢したんだね」
「いや、単純に、意味が分からなかっただけなんだけど・・」
「そうなんだ・・まぁ、地方の方言だからか」
「彼らは何を言ったの?」
「いや、知らなくても良い。そうか、ボール遊びか、楽しそうだな。僕らも仲間に入れて」
「エフェルガン達はまだ朝餉を食べてないから先に食べに行って下さい。それに水着に着替えた方が良いかも」
「そうだな。着替えて食べてからここに戻るよ。エファインとハインズがここで見張っていてくれ。また彼らのような者が現れたら困る。朝餉は僕が戻ってからにせよ」
「はい」
エフェルガン達は宿に戻った。しかし、ケルゼックがいない。エファインに聞いたらケルゼックは朝早くから宿を出て再び妹の所に行ったそうだ。仲が良い兄弟だ。
せっかくなので、エファインとハインズを仲間に入れてボール遊び再開した。案外、彼らはとても楽しそうに遊んでくれた。あんなに笑ったエファインを見るのが初めてだ。なぜなら、彼がとても無口だらだ。ハインズもとても嬉しそうにボールを手でパスしたりしている。楽しい!
エフェルガン達が急いで戻って、ローズ達と合流した。エフェルガンはボール遊びが初めてだそうだ。ハインズとエファインは急いで朝餉を食べに、宿へ戻った。水着に着替えたエフェルガンは、普段とほぼ変わらない。ズボンの色が少し変わっただけだ。やはり彼らは日頃上半身裸だからか、水着を着てもまったく違和感がない、とローズは思った。
ボール遊び再開された。今度はエフェルガンとオレファとガレーが参加する。エトゥレはちょっと用事があると言って、どこかに出かけたそうだ。恐らく仕事でしょう、とローズが思った。暗部であるエトゥレは色々と忙しいらしい。なぜなら、彼は皇帝から別の任務をもらったのでしょう。
初めてのボール遊びにもかかわらず、エフェルガンはとても上手にボールを取り、次の人にパスする。彼がとても楽しそうにやっている。彼の運動神経がとても良い。そしてしばらくするとハインズとエファインがまた戻ってきた。大人数になったボール遊びもますます楽しくなってきた。ルールを変えたりして、笑いが止まらない。リンカもとても楽しそうに遊んでいる。
遊び疲れて、少し休憩をした。宿の者がきて焼き網と焜炉の準備をしてきた。リンカの注文で、今日のお昼はこの海岸で魚を焼いて、昼餉を食べる。準備に時間がかかるため、午前中の内に網と机などを運んでもらった。
ローズは海に入ってみた。きゃー!冷たい、と彼女が叫びながら笑った。ドイパ国と比較すると、波が強い方だ。やはりスズキノヤマの海に波が強い。けれど、このダイナ町の波はヒスイ城周辺と比べたらずっと穏やかだ。久しぶりに海に泳ぎ、とても気持ちが良い。エフェルガンも一緒に泳いでいる。鳥なのに、意外と上手に泳げることに、ローズがびっくりした。翼が邪魔にならないようにしっかりと背中にぎゅっと付けている。器用だ、とローズが褒めた。
近くにハインズとエファインも海で泳いでいる。彼らもとても上手だ。やはり軍人は泳ぐの練習があるかもしれない、とローズは思った。ズルグンさんも潜るのもとても上手だった。
いよいよ、昼餉タイムだ。リンカとオレファとハティが魚を焼いている。とても香ばしい匂いがして、海までその匂いが届いた。その匂いに釣られて、ローズとエフェルガンがリンカ達の所に行った。
エファイン達も海から上がって来た。なんとエファインが手に数々の貝を持ってきた。どこで取ってきたのか、と尋ねたら、海の底だと彼が答えた。ガレーが確認してから、それらの貝を焼き網の上に乗せて焼く。
美味しい昼餉を食べて、また遊んで、疲れてしまった。海を見ながら砂浜に座り、風を感じている、エフェルガンも隣に来て座りながら、翼を広げている、乾かしている。
やはり種族が違うからか、とても興味深いだ、とローズが彼を見ている。
リンカは浜辺でごろんと横になり、暖かい日差しを味わいながら、昼寝している。人の姿のリンカの中身はやはり猫そのものだと思う。隣にオレファが座って、ハインズと会話している。ハインズも翼を乾かしている。エファインとハティはまだ焼き網の近くにいる。あの二人はまだ食べている。ガレーは別のところでうとうとしている。彼がとても眠そうだ。
「楽しんでいる?」
エフェルガンは声をかけてくれた。
「うん。とても。こんなに笑ったのが久々だ」
「良かった。僕もとても楽しかった。ボール遊びって、あんなに面白かったとは知らなかった」
「あはは。シンプルな遊びだから、楽しいんだ」
「だな。パララに行ったら、また遊ぼう。パララも海の近くだ。海はここよりもずっと穏やかで広い」
「それは楽しみだ」
「近くに狩り用の島があるんだ。猪や鹿もいる」
「おおお、ますます期待感が上がるわ」
「ははは、ローズに料理を作らないといけないからな。ロッコ殿が言ったあの丸焼きという料理をリンカに教えてもらわないといけない」
エフェルガンがそう言いながら、うなずいた。
「覚えているんだ」
「無論。約束だから守らないといけないからな」
「うむ」
「もうすぐ誕生日だな」
「うん」
「二人でどこで過ごそうかな」
「いや、二人きりじゃなくても良いんだよ。とにかく仕事抜きにしたかっただけだから。エフェルガンは疲れていたから、一日だけでも仕事から解放したかった。キヌア島では大変だったからね。あのたくさんの死罪の執行の立ち会いをしたのでしょう?」
「そうだな。きつかったよ。でも、それも仕事だ」
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
「ローズがいなければ、多分今日のような笑うことができなかったんだろう。いつも感謝する」
エフェルガンがローズを見て、微笑んだ。ローズが首を振った。
「ううん。私は何もしてあげられなかった」
「そばにいるだけで、とても大きな支えになった」
「そう思ってくれるなら、嬉しく思う」
「いつか僕がローズの心の支えになる日が来ると良いな」
「もう支えになったんだ」
「まだまだだな。僕はもっと頑張らないといけない」
「無理をしないで下さい」
「無理をしていないから、大丈夫だ」
エフェルガンが彼女を見て、微笑んだ。愛しい、やはり愛しい人だ、と彼が思った。
「うん」
「少し飛んで見る?海を上から見るのもきれいだよ」
「疲れていないなら・・」
「大丈夫だ。ローズを抱いて空を飛びたい。今はそんな気分だ」
「水着が濡れているけど」
「構わない」
「う、うん」
「口づけもしたい・・」
「エフェルガン・・」
「今日のローズがとてもきれいだから・・」
エフェルガンが微笑んで、ローズを見つめている。
「殿下!」
突然エトゥレの声が聞こえてきた。彼は急いで来た。何かあったんだ?
「どうした?」
エフェルガンは立ち上がって、エトゥレを尋ねた。
「殿下・・ケルゼック殿が・・」
「ケルゼックはどうした?」
「ケルゼック殿が、妹の殺害未遂の容疑で・・先ほど逮捕されました」




