78. スズキノヤマ帝国 キヌア島(9)
翌朝。
国軍基地に着いたローズたちが早速エトゥレの元へ向かった。エトゥレがいる部屋には、数本の赤い色の魔石が置かれている。自然の魔石なら色がバラバラで、天然石がほとんどだ。けれど、モルグ人によって人工的に作られていた魔石は色が魔力によって変わるのだ。赤い色は一般的な魔力を持つ人たちが中に閉じこめられているときに現れた色で、魔力が高い人となると色が黄色くなる。エフェルガンは中で閉じこめられていた時に、黄色い魔石だった。今回の石は赤いなので、一般の人が入っている、とローズは思った。
魔石を確認していたら、ローズが見ると、ほぼ全員が生きている。恐らく、あの大量な巨大雷鳥を召喚した時に使われていたのでしょう。自分の力を越えた能力を使われてしまうと、命そのものが代価となり、死んでしまうんだ。
ローズがエフェルガンに呪文を教えた。やはり頭が良い人だ、一回唱えただけですぐに覚えた。ローズは一つの石に向かって、やり方を教えた。すると石が割れて、中から光りとともに中で閉じこめられた人が現れて、呪縛から解放される。解放された時に、医療師が来て、直ちに医療室に運んで行った。エフェルガンも呪文を唱えて次々と石を壊していく。残りの一つ・・彼の動きが止まった。
「この中にいる人がもう死んだのか」
「多分ね。でも、まだ砕き散ってないから、ひょっとして、生きている可能性があるかも知れない」
ローズがうなずいた。
「希望を・・小さくても捨ててはならない」
「じゃ、壊すよ」
「はい」
ローズは呪文を唱えた。そして光が現れて、中に一人の女性が現れた。触ると体がとても冷たく、脈もない。息もしていない。ガレーが直ちに心臓マッサージを行い、再生を試みている。ローズも回復魔法を送って、彼女の心臓や血流に強制的に魔力を送ってみた。数人の医療師もローズの隣に座って、回復魔法を送っている。ローズは一人の命が助かるなら、魔力全部あげていても良いと思って、必死に魔力を注いでいる。
「お!」
医療師の一人が言った。
「指が動いたぞ!」
他の医療師の言葉を聞いて、彼女の手を見たら、指が動いている。わずかけれど、生命が戻ってきたようだ。ガレーは諦めず、彼女に呼吸とマッサージを繰り返している。
「心臓が動いている!」
ガレーの言葉に全員笑顔になった。まだ油断ができない状態に変わらないけれど、彼女が生きていることに喜びを感じる。
医療師たちに囲まれて、これから集中治療室で手当をもらうことになるとガレーが説明した。素晴らしい!、とローズがほっとした様子で医療師らを見ている。
「ローズ、ありがとう」
「ん?」
「魔石の壊し方が分かった。これから、この方法で、たくさんの被害者を救うことができる。国軍の魔法師にも、この方法を教えても良いか?」
「うん、良いよ。一人も多く助けることができるなら、構わない」
「ありがとう」
エフェルガンがうなずいた。
「エフェルガンこそ、お疲れ様でした」
「ローズも、お疲れ様。これから町に戻って調査するんだね。大丈夫か?かなり魔力を使ったのだろう?」
「うん。ちょっときついけど、でも何かを食べれば、大丈夫だ。ちょっと、小腹が空いただけ」
ローズが言うと、エフェルガンが笑った。
「ははは、ローズらしい。でも、食べて魔力が回復するなら、国軍基地の食堂で食べても良いよ。ガレーはまだ少し用事があるから、エファインと一緒に食堂に行ってくれ」
「うん。エフェルガンはこれからまた仕事?」
「そうだね。取り調べの話と、人さらいの件と、ジェンの行方など、まだたくさんやらないといけないんだ。ここの仕事が終わると再び領主の執務室に行って、汚職の件もやらないといけない」
「大変だ。大丈夫?」
ローズが心配そうな様子で聞くと、エフェルガンがうなずいた。
「大丈夫だ」
「疲れたら、一休みしてね」
「無論、そうする」
「うん。じゃ、午後にまた領主の執務室に行くから、また後でね」
「はい。じゃ、またね」
エフェルガンはローズの手を口づけした。この18歳の彼は、大きな責任を背負っている、とローズは思った。
国軍基地の食堂に向かうと、慌ただしい様子が見えた。順番に島の封鎖などで、兵士達がとても忙しくなった。食べる時間を惜しんで、ほとんどの兵士らが早くご飯を食べて、再び任務に戻る。
エファインに案内されて、ローズは上官の部屋に入った。一般兵と一緒に食べると、エフェルガンに怒られるから、とエファインが説明しながら、ローズを隊長が座る椅子に案内した。ちょっと居心地が悪いけど、ローズは言われたままに従った。しばらく待つと、厨房から次々と料理が運ばれてきた。なんというか、とにかく量が多い。さすが軍人飯だ。味はそこそこ美味しい。エファインを誘ったら、断られた。今朝、リンカの料理を食べ過ぎたから、とエファインは答えた。仕方なく、その量でローズが一人で食べることにした。上品に食べるつもりだったけれど、いつの間に全部食べ尽くしてしまった。それを見たエファインが思わず笑ってしまった。彼女の小さな体のどこに入ったかと不思議な目で、疑問を口にした。
「軽食」を食べて小腹が満たされて、気分が良くなったローズは、エファインに案内されて、ガレーが待っている医療棟に向かった。ロッコもこの基地のどこかにいるはずなのに、まだ仕事中でしょうか、会わなかった。ローズはロッコにリンクをかけたいけれど、仕事の邪魔になるといけないと思って、我慢した。結局ガレーと合流して、基地を後にした。
ガレー達と町に向かった。今度は三人だけではなく首都から来た暗部三人と一緒に行動することになった。偽薬の件もそうだけれど、ジェンの行方も捜さないといけないと言われた。何しろ大変な危険人物だからだ。
町に着くと、焼き鳥の匂いがした。しかし、その美味しそうな匂いは雷鳥で、とてもまずいらしい。焼かれると香ばしい匂いがしたのに、食べられるものではないと昔柳とダルガに教えられた。そう言えば、昨日大量な雷鳥石のこともエフェルガンに聞き忘れた。後で聞いてみよう、とローズは思った。
情報によると、この辺りにあの薬を売っている店がある、とムイネ村の店主から聞かされた。しかし、周りはただの空き地だった。偽薬で、偽の住所か、とローズが思った。
これだと、調査を進めることができない。仕方なく、周囲の店を訪ねて薬を売っているかどうかを聞き回るしか方法がない。聞き回って、歩いて2時間が経ち、やっと一つの店に同じ薬が販売されていることを発見した。店は町はずれにある小さな店で、この薬を販売し始めたのが今月に入ってからだと店主が言った。ガレーは店主の話を細かく記録して、販売した商人の風貌など細かく聞いた。その風貌から絵を描いて店主に見せたら、店主は頷いて、間違いない、と答えた。他の暗部達にその絵を見せて、彼らはその姿を頭に刻んだ。ローズもその絵を見て、覚えた。とても良く描けているんだ。ガレーのすごい才能に惚れてしまいそうだ。彼のようなすごい暗部に恵まれて、エフェルガンは幸せ者だ。
ローズたちはもう少し遠くへ足を伸ばしてみることにした。ここは町から少し離れている小さな集落だ。家は十軒しかなく、その一つは小さな店がある。ローズたちが訪ねると、中年ぐらいの女性の店主が対応してくれた。この集落でも同じ薬が販売されている。店主にガレーが描いた絵を見せると、まさしくこの人だと、同じ薬売りの商人であることが分かった。運良く、この店主は彼の連絡先を控えていた。ガレーはその住所を記録して、店主に礼を言った。
ローズたちは教えられた住所へ向かった。今度はまた町の方へ戻っている。場所は町の東当たりにある。そこは、とても大きな住宅だった。ガレーは頭を傾げて、どこも店なんてなかったからだ、と彼が言った。その住宅は高い壁に囲まれて、中の様子が外からだと見えない。
とりあえず、少し離れた所に緊急会議だ、とローズが言うと、全員うなずいた。近くに宿があるから、急遽部屋一つを借りることにした。狭い部屋で女性1人男性5人で入って、宿の人は不快な目で見ていたが、ガレーが身分証明書を見せると、態度が変わった。
きっと変な想像がされていたのでしょうけれど、これも仕事のためだ、とローズが思った。
「目が良くて、忍び込むことが上手な人がいますか?」
ローズが聞いた。
「それならコイザが適任者だ」
暗部の誰かが言った。
「コイザさんですね」
「コイザで良いんですよ、ローズ様」
コイザという人がうなずいた。
「分かった。じゃ、一人で、あの住宅に忍び込んで下さい。念のため一人、外で待機する。えーと、誰かコイザと一緒に行く人がいるかな?」
「私が外のサポートをする」
「ガラタさんですね」
「ガラタで良いかと」
「分かった」
ローズがうなずいた。
「じゃ、誰か、鏡一つと灯り四つを、宿の主から借りてきて」
「了解」
もう一人の暗部隊員がうなずいて退室した。
「何をなさるのですか?」
「まぁ、基本的に私は暗部の仕事が分からないんだ。忍び込んでも、何を、どう見ているのか、全然分からない。だからコイザが見るものはガレー達が見れば適切な指示ができるんじゃないかな?」
「なるほど」
ガレーがうなずいた。もう一人の暗部ケルクは頼まれた灯りと鏡を持ってきた。元々部屋にあった鏡と、借りて来た鏡が全部二つあるから、それらの鏡を並べた。寝台をずらして、灯りをその周りにセットした。
「リンクかけます。名前を呼ばれたら返事してね」
「はい」
気を静めて額に力の集中をした。一気に光り出す私をみて、暗部達が驚いてしまった。結界の灯りを灯し、それぞれの名前を呼んだ。コイザとガラタ。すると、それぞれの鏡に、彼らが見たものが映りだされた。これから外に行く二人の暗部隊員がびっくりして、興奮してしまった。
「じゃ、安心して忍び込んで下さい。私たちがここにいるから、何かあったら、外にいるガラタが援護する」
「了解!」
宿からその住宅と本当に近い。距離的にいうと、二十メートルぐらいだ。だからといって、外で皆が集まると、目立ってしまう。住宅街なので主婦たちもたくさん行ったり来たりしている。そして主婦達は見慣れない顔には必ず不審者としてマークしてしまう。暗部にとってとてもまずいことだ。証拠隠滅でもされたら、この調査がすべて水の泡となる。
(入ります)
「はい。コイザに速度増加エンチャント!」
(ほう!)
「コイザ、落ち着きなさい、とガレーが言ったよ」
(はい、すみません)
「だから、だまっていなさい、と」
(はい・・)
若い暗部のコイザはとても目が良くて、画像がとても鮮明に見える。そして忍び混む技術も高い。一方、外にいるガラタは数人の主婦達に囲まれていたけれど、さすがイケメン暗部、その巧みな言葉で主婦達の注意を引きつけている。
ガレーの指示で、コイザがかなり中まで潜り込んだ。なんと、その住宅の中に、たくさんの薬の箱が置かれている。ガレーの命令でコイザが一つの箱を取り、ポケットに入れた。数人の使用人らしい人たちがいたが、コイザの存在に気づいていなかった。さすがだ、ちゃんと気配を殺す技を熟知している、とローズが彼を見て、うなずいた。
コイザは隣の部屋に入り、その奥に入ると地下へ通じる道がある。危険だけれど、その地下に通じる道に入るように、とガレーが命じた。念のため、ローズがバリアーをコイザにかけた。速度増加がかかっているためか、コイザがとても素早く動いている。
地下に入ると、そこはまったく違う雰囲気の部屋がだった。そこに見えるのが術式が施されている空間だった。危険だ。
「コイザ、直ちにそこから出て行って」
(はい)
ローズがコイザに指示をだした。
「ガラタ、コイザが今屋敷を出るから、そこの奥様達をなんとかして」
(・・・)
ガラタがうなずいて、動き始めた。
「どうしてですか、ローズ様?」
ガレーがローズの判断について訳を尋ねた。
「危険だからだ。あれは術式の部屋で、コイザが触ったら、大変なことになる」
「なるほど」
「ガレー、これから私はエフェルガンに連絡する。単独で動くのが危険だ。恐らく、あれはジェンと関係することだから、ロッコにも連絡を入れる」
「了解」
ローズが彼を見て、確認した。ガレーがうなずくと、ローズが直ちにエフェルガンとロッコに連絡を入れた。
「エフェルガン、ロッコ、返事して」
(ローズ、どうした?)
エフェルガンから返事が来た。
「偽薬の隠れ家を発見したけど、ジェンの術式が見えたので、今中に入った暗部を撤退させた」
(場所はどこ?)
ローズがガレーに詳しい場所を聞いてから、エフェルガンとロッコに教えた。あの二人はなんとかするでしょう。ガラタはその奥様達を別の方向に誘導して、コイザが無事その住宅から出て行った。二人が再び宿に戻り薬箱を渡してくれた。ガレーがそれを確認した、探したものと同じ箱だった。
暗部達はローズとエファインを残して、宿から出て、その住宅を囲み。ガラタのリンクを切って、ガレーに切り替えた。エファインはあと2つの鏡を宿の主から借りてくれた。
(ローズ、到着した)
(俺も到着した)
エフェルガンとロッコから連絡が入った。
「地下に術式がある、要注意よ」
ローズが言った。
(了解)
エフェルガンがうなずいた。
「エフェルガン、周囲に住宅が多いので住民の避難をお願いします」
(ローズは今どこに?)
「近くの宿にいる」
(危険だ)
「大丈夫、エファインがいる」
(では、エファインに伝えて、いざというときに、ローズを連れて逃げるように、と)
「む」
(ローズ、命令だ)
エフェルガンの声が聞こえている。
「はーい・・」
(不満はあとでゆっくりと聞くから、今は僕の指示に従って)
「分かった」
ローズがうなずいた。
(ローズ、術式はどの辺りにある?)
ロッコからの連絡が入った。
「コイザが知っていると思う」
(コイザはどの人だ?)
ロッコが回りを見て、確認している。
「コイザ、ロッコのところに行って。詳しい情報を伝えて下さい」
(はい)
エファインにエフェルガンの指示を伝えた。エファインは窓を開けて、いつでも脱出できるようにした。
エフェルガンとロッコとガレーは作戦の話し合いをしている。周囲の住民は警備隊に任せて、あの大きな住宅は国軍兵士に囲まれている。
「エフェルガン、目を貸して」
(はい。どこを見れば良い?)
「扉と壁、できればその首位も」
(分かった)
エフェルガンが言われた通りに周囲を見て回る。やはり扉に術式が施されていた。たまたまコイザが入っている所は術式がなかった。なんていう運が良い人だ。
「エフェルガン、入り口と壁に術式を破壊する必要がある」
(分かった。任せて)
「エフェルガンに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
(ありがとう、ローズ。行ってくる)
「ご武運を!」
ローズがエフェルガンに言った。
「ロッコ、エフェルガンは術式を破壊するから、それを終わってから突入して」
(了解)
「ロッコに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
続いてガレーとコイザにもかけた。コイザが興奮してしまって、またガレーに怒られた。ロッコも初めてエンチャントされた時も興奮したから、大丈夫だよ、コイザ!、とローズは笑いながら鏡を見つめている。
エフェルガンは呪文を唱えた。とても巨大な魔法陣が空に浮かんだ。その魔法陣がその住宅の上から下へゆっくりと降下している。パチパチと音が聞こえながら、その大きな住宅の周囲にある術式を破壊している。家にいる人々がまだ気づいていなかったようだ。
(突入開始!)
エフェルガンの命令で国軍兵士達が住宅の扉を破戒して中に入っていく。ロッコと暗部達が上から入り、中を目指す。鏡で映ったロッコとガレーとコイザの映像が中の様子をきれいに見える。コイザに案内されて、地下に入った瞬間に突然爆発が起きた。
「ロッコ、何があった?」
(術式が発動した)
「触ったのか?」
(いや、何も触ってなかった)
「気をつけて。恐らく、それが魔力に反応したものだと思う」
(あい)
ロッコがうなずいた。
「怪我は?」
(ない。コイザも無事だ)
「うん」
ロッコがうなずいて、また動き始めている。
(ローズ、人らしいのがいるけど)
「見えない。煙が」
(一旦上に上がる。コイザ、来い!)
ロッコは窓を破壊して空気の流れを作ろうとしたけれど、まったく効果がなかった。煙が充満してかなり苦しそうな様子だった。
「ロッコ、大丈夫か?」
(まずい、これは薬品だ)
「風で飛ばしたら煙がなんとかなるかな?」
(俺が風の魔法が使えない)
ロッコが言うと、ローズが考え込んだ。
「エフェルガンは風の魔法が使えるか?」
(できるよ。必要か?)
「ロッコの所にいって、そこの煙を全部風でぶっ飛ばして」
(了解)
「お気を付けて」
(大丈夫だ)
エフェルガンはロッコがいるところを目指して動いた。ロッコとコイザが咳き込みながら、窓や扉を開けて煙りを逃がした。
「ロッコ、エフェルガンが合流する。風の魔法に備えて」
(あいよ)
ロッコが咳き込みながら言った。
(ローズ、この辺りで吹っ飛ばす、と?)
「もうちょっと前、そう・・その辺りで」
(分かった)
エフェルガンは呪文を唱えた。今度は上に向かって風の魔法を送った。そう、エフェルガンは風属性の魔法が得意のだ。風に押されて煙りが住宅の外に押し出されて部屋がすっきりになった。
邪魔な煙がなくなって、ロッコは再び部屋の中に突入した。エフェルガンはロッコを援護して、風を送りながら部屋の中の煙を押し出した。
(人が転がっている)
ロッコはその部屋に入って、奥に進むと数人の女性が床に倒れているのが見える。
「ロッコ、近づくな。恐らく、それは術式だ」
ローズが注意深く言った。
(まじか)
(奥に人がいるよ、ロッコ殿)
エフェルガンの優秀な目が奥にいる人物を捕らえた。ロッコは探知魔法を発動した。奥に一人の魔法師らしき人がいる。
(こんな狭い空間に何をしようとするんだ?)
コイザがそう言いながら、近づこうとした。
(気をつけろ、呪文を唱えている)
ロッコが言って、その魔法師を見ている。すると、ローズが気づいた。これは、とてもまずいことだ。
「退避!」
次の瞬間、ローズが急いでそれを言った。
(何?!)
「良いから・・早く退避しなさい!」
(了解!)
その部屋にいる彼らが慌てて動いた。
「ガレー! 全員退避せて、今すぐに!」
ローズが言うと、エフェルガンも驚いた。
(ローズ、どうしたんだ?)
「あれは、化け物の召喚魔法よ!」
(何?!)
ロッコの目から見えている風景で分かった。あの魔法陣の中から大きな頭らしいものが見えてきた。
(全員退避!退避!)
エフェルガンの命令が響いた。彼は素早く翼を羽ばたき空に飛び、国軍兵士に命じた。ロッコもそこから脱出したけれど、地下から住宅が押し出されていくような大きなものが現れようとしている。
「ロッコ!」
(大丈夫だ。ローズのバリアーで無事だ)
「探知魔法をかけて。あの魔法師が逃げるかも」
(あいよ!)
ロッコはまた探知魔法をかけた。部屋の奥に動いた人物は別の方向に動いていることに気づいた。
「召喚がもうすぐ完成する。全員、攻撃に備えて!」
(はい!)
「エフェルガンに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
(ありがとう、ローズ)
「はい。気をつけて」
エフェルガンがうなずいた。
(リンカとオレファも合流した)
エフェルガンがそう言って、リンカとオレファが見えた。
「分かった。コイザ、リンクを切るね。ガレーの命令に従って!」
(はい!)
コイザとリンクを切った。
「リンカ、リンクかけます。繋がった。リンカに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
リンカに魔法の支援を送った。
(こんな町の中に、あれが出てくるとは)
「うん、かなり大きい」
ローズがうなずいた。
「ロッコに金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
(ローズ。あれはジェンだ!確認した)
ロッコが直ちに動いて、ジェンを追っている。
「エフェルガン、ジェンが現れた!ロッコが追っている」
(分かった!暗部に追跡させよう)
エフェルガンからの指示があった。
「ガレー、ロッコの方に向かって!ジェンがいた!」
(了解!)
暗部達がロッコがいるところを目指して移動した。魔法師ジェンはすごい早さで逃げている。あれは本当に魔法師なのか?、とローズが思ったぐらい、彼の足が速い。
ジェンはロッコと良い勝負ぐらいの早さで逃げている。ガレーがロッコの後ろについて、複数の暗部隊員もすごい早さでジェンを追っている。ロッコは走りながら何かを手に準備している、そしてジェンの背中に向かって投げたけれど、回避された!しかし、ロッコは次の攻撃の準備が完成した。彼が液体の玉のようなものを口から飛ばして、ジェンの後ろの服装が一瞬で解けている。
ローズがそれは毒か酸か分からない。けれど、それでジェンが少し背中を気にして、足が少し遅くなっている。その肌が露わになったジェンの背中に、ロッコは口から何かを飛ばした。その背中に命中して、青紫色になった。猛毒だ・・。
ジェンは突然止まり、振り向いた。武器を構えている。あれは攻撃をするか、あるいは彼が自害しようとするのか?、とローズは思った。
「ロッコ、ジェンは自害するかも!」
(させん!)
すごい早さでロッコが動いて、そして武器を持ったジェンの腕を見えない早さで切った。そしてもう一本の手でジェンの首に何かを刺した。ジェンは崩れ落ちて、気を失った。でも、先のロッコの動きは、あれは見えないぐらい早かった、とローズはドキドキしてしまった。しかし、あれはまだ全力と感じなかった。
「ロッコ、ジェンは?」
(気を失った。腕を切ったから、ガレー殿に任せた)
「分かった。残りはあれだね」
(ああ、でかいな。あれは都よりもでかいな)
「うん。オオラモルグとバナダ村と同じ大きさよ」
ローズがうなずいた。
(ローズがやったのはあの大きさか?)
「うん。とどめはオオラモルグの化け物だけなんだけどね。バナダ村はエフェルガン達がやった」
ローズがうなずいた。
(しかし、まずいな。レベル6のロッコじゃ結構きついかも)
「私が出ても良いよ。かなりの戦力になるよ」
(ダメだ)
ロッコが首を振った。
「エフェルガンとリンカだけじゃあれが倒せないよ。口から高熱線の攻撃が出るから注意が必要だ」
(まじか)
ロッコがゆっくりと歩いて、それを見ている。
「あの口を防ぐには水属性の攻撃が有効だ」
(俺は水攻撃ができない)
「うむ、どうするんだ」
(ちょっと様子みてくる)
「うん。ロッコにヒール!金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
ローズがロッコに支援魔法を送った。
(ローズ、化け物の召喚が終わったみたいだ、頑張るよ)
「エフェルガン、あいつの口が開いたら気をつけて」
(了解)
エフェルガンは力を解放して、両手に気をまとって、金色に光った。凄まじパワーが周囲に漂っている。現場から20メートルしか離れてないローズも分かるぐらいの感覚だ。エファインが心配して、窓の近くに行って、大きく開けた。いつでも逃げられるようにしている。化け物の光線が来るかもしれないという不安もある。また尻尾も左右に動いて家々をなぎ倒している。
「エファイン。私の近くに来て。バリアーをかけるよ」
「はい。でも避難した方がよろしいかと」
「今から避難しても、もう遅いんだ」
「では、どうしたら・・」
「ここに結界があるから、この結界内なら大丈夫だ」
「どうしてそれを分かるのですか?」
「都で、唯一無事だった建物は龍神の神殿だった。あの化け物が破壊できないぐらいの結界に守られているんだ」
「ここは宿ですよ」
「うん。でも、なんとなく分かるんだ。龍神様の力が漂っている。いや、これは・・聖龍様の感じもあります」
「では、私はそれを信じてここにいます」
「うん。でも怖いなら避難しても良いですよ」
「殿下の怒りの方が恐ろしいです。あの化け物よりも」
「そうか。ありがとう、エファイン」
「いいえ」
エファインに金のバリアーをかけて、ローズも自分自身にかけた。万が一に備える損はない、と。
エフェルガンはすごい力で化け物と戦っている。両手の拳で凄まじく素早く激しく交合に化け物を殴っている。これは彼の全力か。すごい力だ。ジャタユ王子と良い勝負。やはりこれは鳥人族の得意技かもしれない。似たような武術だったからだ。
リンカは遠距離で魔法を放ってから、剣でたたき切ろうとしたけれど、彼女の武器では切れなかった。
(ローズ、この化け物は不死だ)
リンカが連絡した。
「む。あれは確か特集武器じゃないと切れない」
(ええ、あるいは魔法で倒すしかない)
ローズがその化け物を見ながら、考え込んだ。
(ローズ、奴が口を開けている)
ロッコは近くにいて知らせてくれた。
「まずい、高熱線の攻撃がくる!」
いきなり大きな声とともに、あの化け物は口からすごいエネルギーを放って、周りを一瞬で破壊した。凄まじい攻撃とともに、周りは火の海となった。宿にいるローズが何とか無事だ。やはり結界が守ってくれた。
「エフェルガン、ロッコ、ガレー、リンカ、無事か?」
ローズが呼びかけると、彼らから返事が来た。
(ええ、なんとか)
(問題ない)
(無事だ)
(何とか大丈夫です。コイザが当たったけど、バリアーのおかげで大した怪我がなさそうだ)
ローズがほっとした様子でうなずいた。
「分かった。ガレーは負傷した者をお願いします」
(了解)
ローズがガレーに指示を出した。
(また口開いている!)
(連続するのか?!)
現場がパニックになって、聞こえている。
「バリアー・シールド!」
ローズはエフェルガン達の前に範囲バリアーを展開した。その直後、2回目の高熱線の攻撃が放たれた。今回はかなりの数の負傷者が出ているようだ。大変だ・・。
「このままじゃ、埒が明かない。やはり私が出るよ、ロッコ!」
(ダメだ。これは罠だ。ジェンが一人で行動していることと限らない)
ロッコが首を振った。
「でも・・このままじゃ、エフェルガン達も大変だ」
エフェルガンもリンカも今一所懸命あれと戦っている。不死と分かった以上、ブラディー・ローズを放つしかない。
「エフェルガン、私も出るから許可出して」
ローズが言うと、ロッコはそれを拒否した。
「ダメだ、ローズ!」
ロッコの声が聞こえた。彼は宿の窓に現れた。
(ローズ? どうした?)
エフェルガンは、ローズの声の変化に気づいた。
「エフェルガン、敵は不死なの。普通の武器で切れないの。魔法で倒すか、特殊武器で切るか・・それしか方法がない」
(本当か?)
「ええ、だから・・だから・・私も出る・・」
ローズが結界から出ようとしたけれど、ロッコが歩いて、彼女を止めた。
「ローズ、ダメだ!」
「ロッコ・・じゃ、どうしたら良いの?皆、死んじゃうよ。誰か死ぬのが、いやだよ・・」
ローズが泣き出してしまった。あまりの不安に耐えきれなくなった。ロッコはローズの結界に入って優しく抱きしめた。近くに立っているエファインは無言で見ている。
「俺は何とかする」
「でもさっき、レベル6のロッコじゃ無理だって・・」
「レベル6のロッコなら無理だね」
ロッコが即答した。
「あ」
「分かった?」
「うん」
「だから、もう泣かないで」
「はい」
ロッコはローズの涙を指で拭いてくれた。ロッコが跪いて、ローズの前にいて、見つめている。
「小さな声で命じて」
ローズはロッコの首に手を回し、頭を耳に近づき、小さな声でささやく。
「フェルト、あの化け物を倒して、・・そして無事に戻ってきて」
「心得た」
その一瞬で、ロッコの人格が変わって、フェルトとなった。フェルトは優しくローズのほっぺに口づけして、立ち上がった。
「行ってくる、ローズ」
「はい、ご武運を・・」
ロッコは今もう一人の人格になった。彼の声のトーンが変わった。ロッコはいつも軽い感じの話し方だけれど、フェルトになるとかなりシリアスな感じになる。そして何よりも、一瞬で圧力を感じる。桁違いの力強さが一瞬で周囲に伝わっている。エファインは無言で大粒の冷や汗をしている。
フェルトになったロッコは腰にいつも身につけたもう一つの剣の封印を解いた。彼はいつも別の短剣を使っていて、この剣を使用した姿を見たことがない。封印された剣は長い剣ではなく、短剣より少し長めぐらいのものだ。その封印が解かれた瞬間、一瞬の冷気を感じた。暗殺者の殺気だ。リンカがたまに発したあの冷気に近い。
その冷気は、フェルトの本性かもしれない、とローズは思った。殺気を感じられないほど、とても繊細で調整されている。彼は振り向かずに窓から出て行った。これからその化け物を殺す顔をローズに見せたくなかったかもしれない。それは彼の優しさだ、とローズは思った。
「エフェルガン、これからロッコがそちらに向かう」
(分かった。でもロッコ殿は魔法できるのか)
「魔法をやめて下さい。ロッコにやらせて・・」
(だが・・)
エフェルガンが戸惑っている。化け物が暴れて、町を破壊しているのだ。
「お願い、エフェルガン。言う通りにして・・全員、攻撃をやめて・・」
(分かった)
エフェルガンがうなずいた。彼の目線がロッコが見えて来る方向へ向けられた。
「リンカ、魔法をやめて。ロッコが行くって」
(あい)
エフェルガンの命令ですべての攻撃が止まった。あんなに魔法を使ったのに、大したダメージを与えることができなかったという現実にエフェルガン達は落胆している。
その現場にロッコが現れた。急に攻撃を止めたエフェルガンたちに、化け物がキョロキョロしている。尻尾でたくさんの建物が破壊されている。しかし、エフェルガン達も、国軍兵士も全員攻撃をやめて息を呑んだ。とても不気味なぐらい静かになった。エフェルガンの目を通して鏡が見せてくれた映像で、ローズはフェルトの戦いを始めて目撃することになる。
今まで見せたこともない彼の全力だ。彼はあの大きな化け物の体を下から軽く登り、無表情でその片手でにぎっている剣で、化け物の首を一瞬で刎ねた。首を失ったその大きな化け物が倒れて、大量の血で町を赤く染めた。ロッコは剣についた血を振り払って、鞘に戻して、封印した。そして無言でその場を後にして、ローズの元へ戻った。それを見ていたエフェルガン達は無言で、彼を見つめていた。




