64. スズキノヤマ帝国 温泉地の暗殺事件(2)
「眠いか?」
ローズはエフェルガンの声で一瞬寝てしまいそうな気分が消えた。ローズたちはフクロウの上にいて、温泉地のチアータからヒスイ城に向かっている最中だ。月が満月ではないため、周りは暗い。けれど、星空がきれいに見える。ローズたちはチアータの警備兵十名と一緒に空を飛んでいる。
「うん、ちょっと眠い」
「僕に少し寄りかかって、手を僕の体に回して、寝ていて良いよ。何かあったら声をかけるから」
「うん、ありがとう」
言われた通りに、フクロウをまたがりながらエフェルガンの胸に頭を付けた。エフェルガンの心臓の音が聞こえて、あっという間に安心感に包まれて、眠った。
「ローズ、起きて」
ローズがどのぐらい眠ったか分からないけれど、エフェルガンはローズを起こした。
「んー」
「敵が現れたんだ」
「む」
敵という言葉に反応して目がぱっちりと開いた。リンカ、ハインズ、オレファ、ケルゼックにリンクをかけた。エフェルガンは自分で魔法をかけることができるから、問題ない。そして自分自身とリンクかけた全員にバリアーと支援魔法をかけた。
「良く分からないけど、数は多いの?」
「向こうは巨大フクロウで約十羽あるから、敵は20名ぐらいじゃないかな」
「かなりまずいね」
「しかも弓と魔法職もいる」
「厳しいな。私は空中戦をやったことがないから」
「これから体験するから、しっかりつかまえて」
「はい!」
ローズは目を閉じて、意識を集中して、敵の位置を探る。暗い夜にはミミズクフクロウ種族である彼らの方が有利だからだ。リンカは空が飛べないけど、猫の目だから、エフェルガン達と同じく、夜の暗闇に強い。ふっと風が怪しく感じる。大量の矢が飛んでくる!
「バリアー・シールド!」
広い範囲のバリアーが展開された。飛んできた矢が空に浮かぶ魔法陣によって防がれた。
「かかれ!」
敵側から大きな声が聞こえた。何人かフクロウから離れて、剣や槍を構え、突っ込んでくる。エフェルガンは巧みにフクロウを操って、攻撃を交わしたけれど、かなり不利な状況であることが明らかだ。ケルゼックと兵士達もフクロウの上から飛び立って、敵を向かい撃つ。
「飛ぶ!」
ローズは飛ぶことを認識して、エフェルガンの前から一飛びで前に出た。
「ローズ何をする!」
「このままじゃ、やられるわ。私は壁になるから、エフェルガンは後ろで敵を撃って!」
「分かった!でも無理はしないで!」
「無理なんかしないわ!」
ローズが言って、構えている。
「その女を殺すな!生きたまま捕らえろ!」
なるほど。今度の狙いは私ですか?、とローズは敵を見ている。
「自然よ!ここにローズが命じる:我に力を与えたまえ!」
ドーン!
凄まじい力が現れて、ローズを包み込む。体中光ってしまって、敵も味方の兵士も驚いてしまったようだ。空中に浮いている光る娘、これこそ噂の龍神の姫よ!、と彼女が周囲を見つめている。
手の平から鞭を出して、パン!と乾いた音が響いた。トゲがびっしりの長い鞭である。
「火属性エンチャント!」
鞭にめらめらと火の属性にした。さぁー、かかって来い!、とローズは空中で構えている。
「火の輪!」
リンカとオレファペアが敵のど真ん中に向かって範囲攻撃魔法をあてた。炎に焼かれてパニックになっている敵兵は数人がいた。またあ絶命して地面に落ちていく敵の兵士もいた。一歩、別のところで味方の兵士達とケルゼックとエファインは攻撃してくる敵に応戦し、空中で激しい斬り合いとなった。ハインズとハティはエフェルガンの隣に回し、エフェルガンの防衛を固めている。エファインは巨大フクロウの紐をハインズに渡して、単体で敵を攻撃している。
ローズもエファインに続いてエフェルガンの前に来た敵を片っ端から攻撃した。素早く鞭を動かし、敵を襲いかかる。後ろから魔法を唱えようとした魔法師が見えた。
「ライトニング!」
その魔道師に向かって雷属性の魔法を唱えた。相手の魔道師に直撃して、気を失ったか麻痺しているか分からないけれど、とにかくあちらから魔法が来ないことを確認した。
敵の後衛を気になって、油断したその時、横から剣の気配を感じた。避けようとした時に、後ろからエフェルガンの魔法が先に相手を吹っ飛ばした。
「ありがとう!」
「また来るぞ!」
「はい!」
ローズは目の前にいる敵を相手にしている時、リンカはオレファのフクロウから飛び出して、素早い動きで両腕にいつも身につけているアサシン系の武器、可動式剣で、回転しながら向こうにある敵を切った。敵の頭をかかと落としで攻撃し、そして素早くそれを踏み台にして後ろに回転し、攻撃魔法を手の平から放った。
「火炎砲!」
リンカの火属性の魔法攻撃に敵の巨大フクロウとその上に乗った敵兵士が絶命した。オレファはリンカの下にまわり足場を与え、また再び高くジャンプして敵を斬りかかるリンカである。実に良い連携だ、とローズが思った。
「サンターズ・ストーム!」
敵の前衛をリンカ達にまかせて、ローズは雷系魔法を唱えた。敵の後衛を何とかしないとまた矢が飛んでくるからだ。空から4つの竜巻を呼び起こし、その中に複数の雷が現れた。その雷の光に照らされる敵の後衛部隊は急いで避難しようとしたが、そうはさせない!
「ブリザード・ストーム!」
強力な水属性の魔法を唱えた。その範囲にいる人々が急激に降ってきた雪や氷に凍って動けなくなる。その時に、まだ発動中の雷が彼らに直撃した。
ドーン!
水属性と雷はとても相性が良い、とローズが思った。雷の光に照らされている敵の後衛部隊の様子がよく見える。敵は口から煙りを出して次々と落下していく。
ローズが魔法で敵の後衛部隊を攻撃した時に、エフェルガンは彼女の周りにいる敵を次々と撃ち落とした。彼のの命中率は非常に高い。しかも彼が繊細にその魔法を操っている。ハインズもまたエフェルガンの背中を守っている。ハティは何度もバリアーを発動して、エフェルガンを守っている。実に良い連携だ。さすがこの人たちは長い間連携をしているため、誰が、どう動くか、その無駄のないチームプレイがすごいとローズは思う。
残りの敵は数人だけなった。大将らしい者は数人に囲まれている。どう崩せば良いかと思っている最中に、リンカが飛び込んでいるのが見えた。彼女が一人ずつと切り捨てながら突っ込んでいく。いきなり敵の大将は手のひらから魔法をリンカに向かって撃った。
「リンカに金のバリアー!」
ドーン!
リンカの体に上位防御魔法をかけたから攻撃に耐えた。けれど、彼女がはバランスを崩して落下した。それをみたオレファはフクロウの操縦紐を離しフクロウの上からジャンプして両手を重ねてリンカに足場を与えた。リンカはオレファの腕の上に乗り、その腕を踏み台にして、再び上に飛び跳ねた。
「火の輪!」
リンカが範囲魔法を唱えながら、下から猛スピードで燃えている敵を切り裂きながら敵大将がいるところを目指す。飛んできたオレファもリンカの動きに会わせて次々と敵の残党を切った。
リンカは切った敵の体を踏み台にしてひょいっと敵大将の前に現れた。敵大将は慌てて剣を振り回しリンカを攻撃した。しかし、死神リンカの前でそんな剣の振り方はもう見切られて、何の役にも立たなかった。そして、その美しい死神は鮮やかに手を振ると、敵大将の頭が体から離れた。オレファはその大将が乗ったフクロウの操縦士を切って、落下したリンカに手を伸ばし、リンカの腕を捕まえた。リンカのもう一本の手には敵大将の首がある。
オレファはピー!、と口から音を出したら、なんとあの巨大フクロウが戻ってきた。ちゃんと訓練されたフクロウだったのだ。リンカの体を支え、二人は再びそのフクロウに乗った。まだ知り合い間もないのにこの二人は、実に良い連携プレイをしている。
残りはケルゼック達の敵だ。でもほとんど彼らは戦意を失って逃げようとした。しかし、エファインとケルゼックがそれを許さない。素早い動きで敵を切り、一人も逃がさなかった。兵士に囲まれて、降参した、と武器を捨てた。勝負あり!
エフェルガンは周囲を確認した。ローズも探知魔法を唱えた地面にまだ動いた人影があった。さっきの水属性魔法と雷魔法で落下した後衛部隊か。
ローズが急いで下へ向かい捕らえようとした、とその瞬間、相手の魔法師が呪文を唱えた。まずい、これは召喚魔法だった!
「金のバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力エンチャント!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
その召喚術の魔法陣の中から殺気に満ちる何かが出てきた。
「えっ?!」
出たのはあのオオラモルグの悪夢・・例の化け物モンスターだ!
「ローズ、大丈夫か!」
エフェルガンが叫ぶと、ローズが首を振った。
「これは大丈夫なんかじゃない。モルグ人の召喚術はなんでここにあるか、あの魔法師を捕まえないといけないのよ!」
ローズが叫んだ。状況が最悪だ、と彼女は知っている。
(私がその人をとらえるわ。あなたはその化け物を何とかして)
リンカからの通信で役割分担が決まった。
「はい、魔法師を任せたよ、リンカ!」
(あいよ!)
「リンカに速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
リンカは持ってきた敵大将の首を近くの兵士に投げた。兵士はそれを受け取った。そしてオレファとともにに地上で逃げている魔法師を追って、降下した。狙い定めたリンカの目は捕食者の目となっている。そして彼女が乗っているフクロウの上から飛び降りた。しばらくしたらまた通信が入った。
(生きて、捕まえたわ。今気を失ったみたいだ)
「さすがリンカ。ありがとう」
(それよりも、あの化け物を倒さないと、近くにある村は危ないわ)
村?! この近くにある?!
「ねぇ、エフェルガン、近くに村があるらしいから、住民の避難お願いします!」
「分かった!」
エフェルガンはハインズに指示をした。ハインズとハティは味方兵士とともに村に向かった。残った兵士らは降参していた敵を捕獲してから、少し離れた所に降りた。
「ローズ、あれはなんだ?」
「モルグ人が良く召喚したものなの。私はそれをモンスターと呼ぶけど、正直言って、名前が分からない。化け物でも良いけど」
「その大きさはかなり大変だ」
「半端なく大変だよ。あれで魔力がすっからからになったからな」
「分かった。僕も戦うよ」
「口から高熱線の攻撃が出てくるから、注意して!」
「了解!」
「全員に伝えて、口開いたら、逃げて」
「分かった」
敵が目を開く。完全に召喚されてきた。嫌な予感がする。と、いきなり口を開いた。まずい!
「バリアー・シールド!」
ドーン!
高熱線の攻撃が放たれた!
「きゃあああああ!」
ローズとエフェルガンが吹っ飛ばされた。しかしバリアーのおかげで二人とも無事だった。服がぼろぼろになったけれど、大した傷がない。エフェルガンの移動用フクロウがびくっと動かなかった。絶命したようだ。
ごめんよ、フクロウ、守り切れなかった、とローズが悲しそうにフクロウを見た。
「ローズ、大丈夫か?」
「うん」
自分に回復魔法をかけた。そしてバリアーを付けなおした。
「皆無事か?」
リンク先のリンカ、オレファ、ハインズ、ケルゼックは次々と無事であることを伝えられた。
「エフェルガン、私を後ろから援護して!」
「了解」
ローズは急いで敵の前に飛んで行った。このような化け物とはもうこれで三回目だ。もう見たくもないこのモンスター!大、大、大嫌い!、と彼女は思った。
「火属性エンチャント!強さ7倍!」
これは今のローズが片手で限界に振り回すことができる重さだ。早い段階にこのモンスターを戦闘不能にしないと、またあの高熱線の攻撃が放たれる。
「全員ができるだけ、攻撃を与えて。口を開かせるのよ」
リンクでそう伝えた。そしてローズは、思いっきりこの化け物の顔に刺々しい茨の鞭を振り叩いて、激しく、今までよりも強く叩いている。温泉街から始まった長時間にわたって連続した戦闘によって、ローズにはもうかなり余裕がなくなってしまった。けれども、今はそれを見せてはいけない。このモンスターを倒すことができるのは、ローズだけだ。
エフェルガンは翼を広げ、ローズの近くにきて、力を解放して両腕が光ってきた。ローズが振り向いて、とても大きなパワーを感じた。
「僕はおなかを攻撃する。こいつを倒そう!」
「はい!」
なぜか、ローズがとても嬉しくなった。彼女の顔に思わず笑みが出た。
エフェルガンは両手で敵をすごいスピードで攻撃している。彼の拳が次々と放たれている。また化け物の後ろでケルゼックらも参戦して、背中や足など攻撃している。
この大きな化け物を倒すには皆の力が必要だ!
痛みからか、この化け物が暴れ出してきた。尻尾が左右に動いて、村が更地になってしまった。でもほとんど住民が避難していたから、多分怪我人がいないでしょう。遠くへ逃げて欲しい。この近くにいると、極めて危険だからだ。
「ガーーーーーーーー!」
化け物が口を開き、再びあの高熱線を放つつもりだ。
させるか!、とローズが化け物の真上に飛んで行った。
「アイス!」
ローズは氷魔法を唱えた。またオオラモルグと同じように、その化け物の口に突っ込んだ。
「アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!アイス!」
できるだけ大量の氷をこの化け物の口に入れて攻撃を発動させない。
「エフェルガン、おなかへの攻撃をやめて、この氷をこいつの喉に突っ込んで!」
「了解!」
エフェルガンはこの化け物の上まで飛んで行ってそしてすごいスピードで拳を構えながら下へ向かって攻撃する。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ドーン! ズサっ!
鈍い音が聞こえて、大量の氷が喉の奥まで入った。エフェルガンは急いであの化け物の口から退避した。
「ギガ・バインド・ローズ!」
ずるずると大きな茨の枝が地面の中から現れて、あの化け物を縛り付けた。痛々しくトゲが食い込んで、化け物が痛みのあまりか暴れようとしたが、無駄だった。
「ギガ・ブラッディー・ローズ!」
たくさんの鋭い大きなトゲが枝から現れて内側に向けて、あの化け物の体に刺し込んだ。散った赤い薔薇の花びらのように、血の雨がこの地に降り注いでしまった。
「エフェルガン、トドメを・・頼む」
「ローズ!分かった!」
エフェルガンは強力の魔法を唱え、その化け物に向かって放った。リンカ達もそれを続いて遠距離から強力な魔法を唱え放った。しばらくして化け物が完全に動かなくなった。
それを見届けにしてから、ローズが力を尽きて、倒れ込んだ。最後に見えたのは心配そうなエフェルガンの顔だった。そして、すべてが暗闇に包まれた。