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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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63/811

63. スズキノヤマ帝国 温泉地の暗殺事件(1)

カニア島を後にして、気分転換のために西にある観光地のチアータへ向かった。チアータは温泉の町で、数多くの観光客が訪れている人気の観光地である。


ローズたちはその数多くある温泉宿の中の一つに向かった。この宿はとても高い山にあって、広い庭もある。エフェルガンはフクロウをその宿の庭に着地させて、周囲を見渡した。この宿に、事前に予約をしたらしく、ローズたちが到着したまもなく宿の使用人達がフクロウの世話や宿への案内をしてくれた。宿の使用人たちはとても丁寧な言葉を使って、エフェルガンの身分を知っているようだ。


最初の計画だと、この宿に午後まで過ごし、そしてまた約5時間をかけてヒスイ城に戻るつもりだったが、思った以上にカニア島で過ごした時間が長引いてしまい、チアータに予定通りの時刻に着かなかった。このまま進めばヒスイ城に到着するのも夜中になってしまいそうだ、とオレファが懸念していた。いくら夜間飛行は得意であっても、ローズを連れて行くとなると、とても危険だと判断されて、今夜この宿で過ごしてから、翌朝ヒスイ城に戻るという話になった。幸い、ローズもエフェルガンも明日重要な用事がないので、明日も観光気分で一日過ごせることになる。


問題は、誰一人も着替えを持って来なかったことだった。日帰りと聞いたので、本当にそのつもりで手ぶらだった。急遽、日帰りプランからお泊まりプランに変わってしまって、宿も大急ぎで準備に追われている。予約の関係で一つ大きな部屋のみを頼んでいたため、今日の宿は、残念なことにすべての部屋がいっぱい埋まっている状況だった。他の宿に問い合わせをしても、今日はほとんど空きがない状況だった。一国の皇子だからと言って、勝手に他の客を追い出したりしてはいけない、とエフェルガンが宿の主の提案を断った。今夜、全員がこの部屋で雑魚寝になる。寝間着は宿の方から提供してくれる。また寝具も全員分があるため、問題なく寝られるそうだ。


もう一つの問題は、女性二名と男性六名だ。一つの部屋で寝るのはかなりまずい、とリンカが言った。なぜなら、ハティ以外、全員未婚者だからだ。おまけに、エフェルガンは夜這いのチャンスだと余計なことを言ったから、リンカの機嫌が悪い。


しかし、せっかく来たので、遅い昼餉を食べてから、温泉を楽しむことにした。この国の温泉では、ほとんど男女混浴になっている。ちなみに裸で温泉に入るではなく、用意された布を体に巻いて、湯に入ることになる。男性は腰辺りに巻いて、女性は胸辺りに巻く。ついでに言うと、布の下には何も付けてはいけない。水着のような感じで、結構面白い、とローズは思った。ローズたちも着替えて、案内された風呂場に向かった。


事前に貸し切りとして、予約したので、ローズたち8人だけで楽しめることになった。それでも警備の面で護衛官二人ずつ順番に入ることになった。全員入っていたら、何かあった時に、反応に遅れてしまうからだ。だからハインズとエファインが入っている間に、周囲の警備はオレファとケルゼックがする。そしてその後、ハインズとエファインが上がって警備について、代わりにオレファとケルゼックがお風呂に入る。ちなみにリンカと毒味役のハティは自己判断となった。


護衛官達はローズとエフェルガンに気にしているかのように、離れた所で温泉に入った。しかし、まぁ、この殿方達全員、良い体付きをしていて、腰に布を巻いただけの姿になる、と彼らはローズの目の保養になった。けれども、男性らから彼女とリンカがどう見られているか、ローズが分からない。


風呂場には屋根があるけれど、壁がない。外の景色がきれいに見える。一番上にある温泉風呂なので、他の客に見られる心配もなく、とても快適な温泉だ。ローズはしばらく温泉を楽しんでから、温泉風呂の近くにあるベンチに座り、山から見える景色を楽しんでいる。先に上がったリンカとハティは乾いた布に着替えて、飲み物を調達してくれた。エフェルガンも風呂から上がって、ローズの隣に座る。


「気に入った?」

「うん。こんなの初めて」

「アルハトロスにはないのか?」

「ないわ」

「そうか」

「記憶にはプールと呼ばれる施設があるの。大きな浴槽みたいなもので、水かお湯が入って、人々はそこに入って泳ぐ。競泳もそのプールで行われたな」

「それは龍神の世界の記憶か?」

「うん。私は泳ぐのが得意だった」

「ほう、面白そうだね」

「海でもよく泳いだよ。ドイパ国で島の周辺の海で結構泳いだ」

「じゃ、今度海の方に行こうか。ヒスイ城から海で泳げる場所が遠くにあるから、数日間の休暇が必要だ。何しろ北の方の波が高くて危険だからな。今度予定を組んで、計画しよう」

「うん。楽しみ」


エフェルガンの提案にローズがうなずいた。


「しかし、ローズの髪の毛が長いから、乾かすのに時間がかかりそうだね」

「うん、ちょっと不便なの。切ろうかと思ったけど、いつも周囲に反対されて、困っている。ドイパ国にいた頃なんて、髪の毛を切るだけで、神殿から司祭が来て祈られてから切ったのよ。また切った髪の毛を神殿に上納されて、とても複雑な気持ちだった」

「ははは、何しろ龍神の姫の髪の毛だったから、そのまま捨てると、恐れが多いことだ、と思われただろうな」

「でもここではそういうのがなさそうだから、今度美容室の人に頼んで髪の毛を切ってもらおうかな」

「あまり短すぎなければ良いかもしれないね」


エフェルガンがそう言いながらローズの髪の毛を見ている。


「エフェルガンも反対なの?」

「ローズの長い髪が好きなんだ」

「そうなんだ」

「でもローズが好きなようにすれば良いと思う」

「うん」

「さて、着替えて、少しこの周辺を散歩しよう。明日の着替えも買わないとね」

「はい」


ローズたちが着替えて、町へ出かけた。とても賑やかな町で、屋台もおみやげの露店もたくさんあって、どれも珍しいものばかりだった。ローズはあまりにもキョロキョロして、何度もエフェルガンに手を引っ張られてしまった。迷子になると困る、と注意された。


ローズが気になったお店に入り、気に入った服を買ってもらった。エフェルガンと護衛達にも念のため一着ずつ買った。ちなみにリンカの分も買ってもらった。エフェルガン達は普段、遠出するときに着替えが無ければ、そのままの格好で平気に過ごせると言った。女性と違って、普段上半身が裸だからか、そこまで気持ち悪さを感じないらしい。ついでに言うと、汗がかくため、濡れた布やタオルで体を拭いておけば問題がないと説明された。


屋台で温泉の蒸気や地熱を利用した料理が数多く売られている。ローズは蒸しパンのようなものが欲しいと言うと、エフェルガンは毒味役のハティに命じて一つ買ってもらうことにした。当然、毒味されてから食べることにした。蒸しパンの中に甘く味付けされた木の実がたくさん入っていて、とても美味しかった。エフェルガンもその蒸しパンの半分を食べた。モグモグしながら、とても美味しい、と彼が言った。


夕餉の時間になり、ローズたちは宿に戻った。灯りに照らされる宿の庭がとても幻想的で美しかった。食事は宿の部屋で準備されている。当然すべて毒味役のハティの検査を受けてから食べることにした。食器や飲み物まですべて確認されていた。毒味役ハティは大変几帳面で、色や臭い、味まですべて確認した。ハティの安全宣言が出てから、ローズたちは食事をし始めた。


数々の素晴らしい料理が机に並んでいて、初めて見たものばかりだった。宮殿や城の食事と違って、これらの料理はこの地方の伝統的な料理が多く、かなりスパイシーな味がする。葉っぱに包まれて蒸し焼きされた料理もあって、包みを開けると野菜と肉がごろごろと入っていて、シンプルな塩味で味付けされていて、とても美味しかった。また数々の果物や甘いデザートで、どれも美味しかった。全員で残さずきれいに食べた。食事の後、宿の使用人に部屋を掃除してもらって、絨毯の上に寝具を設置された。全部8枚セットで、部屋全体が寝室に変わっている。


問題はローズとリンカはどこで寝るか、と言うことだ。


扉と窓の近くだと危険すぎる。かといって、エフェルガンの隣にローズを寝かせるのも、リンカがかなり心配している。ジャタユ王子のこともあって、基本的にリンカは鳥人族の男性を信用していないようだ。かといって、他の護衛官が彼女の寝具の隣で寝ることも、かなり抵抗があるという。結局エフェルガンは何もしないと約束してから、寝る配置が決まった。灯りを消して、今宵はもう休むことにする。


しかし、ローズはよく眠れない。なぜなら隣にエフェルガンが無言で、横になりながら、彼女をずっと見ている。ローズにとって、とても居心地が悪い。


目を閉じて見ると、何人かのいびきが聞こえている。リンカのスーという声が聞こえている。エフェルガンが寝ていない。ローズは向きを変えて、目を開けるとあのオレンジ色の目が彼女に向かって、まだ開いている。ミミズクフクロウ種族の目は夜間でもよく見えるのだ。他の鳥人族と違って、彼らの目はとても優れている。だからこの真っ暗の部屋の中でも、ものをきれいに見ることができる。


「うむ」

「眠れないのか」

「エフェルガンこそ・・」

「・・・うん」

「ちょっとベランダに行っても良いかな」

「僕も行こう」


ローズたちがゆっくりとベランダに向かって、ベランダへの扉をこっそりと開けた。


「殿下、どうなさいましたか?」


窓の近くに寝ていたケルゼックが起きた。


「いや、ちょっとベランダでローズと一緒にいたい。休んで良いよ」

「はい。私はここで待機します」


オレファもハインズも、エファインも、リンカも起きてしまった。あっちゃ・・、とローズは苦笑いした。


「ごめん、起こしちゃった?」

「大丈夫ですよ」

「ちょっと夜景が見たいだけなので、気にせず寝ていて下さい」

「どうぞ、ごゆっくりと夜景を楽しんで下さい。我々はここで待機します」

「うん」


オレファが微笑みながら言った。なんだか、睡眠妨害してしまった、とローズは思った。さすが護衛官達だ。何に一つも嫌な顔をしないで、それぞれ自分の寝具の上で座っている。


ベランダに出て行くと、星空がきれいに見える。二つの月がまだ満月ではなかったけど、結構明るい。この山の上から見える景色が暗闇でほとんどあまり無かったが、下にある宿の灯りがあちらこちらでぽつぽつと見える。夜がかなり遅いためか、周囲に誰もいない。


「少し空を飛ぶ?」

「危険じゃない?」

「ちょっとこの上ぐらいなら、大丈夫だ。何かあったら。ケルゼック達が駆けつけてくれる」

「はい」

「じゃ、僕につかまって」


エフェルガンはローズを抱っこして、羽ばたいて、空を飛んでいく。山の上にある宿が小さくみえている。


「眠れない時に、いつもどうしているか?」


エフェルガンはしがみついたローズの顔に自分の顔を近づけている。


「昔、兄さんの心臓の音を良く聞いて眠れた」

「なぜ心臓の音?」

「分からない。心臓の音を聞くととても安らかな気持ちになって安心する・・かな」

「僕の・・僕の心臓の音を・・聞くか?」

「聞かせてくれるなら・・」

「いつでも・・」

「ありがとう」


ローズはエフェルガンの心臓に耳を付けた。とてもペースが速い心臓だ、とローズは思った。


「・・ローズを・・口づけしたい」


エフェルガンがそう言いながら、彼女を抱きついている。


「唇以外なら・・」

「なぜ唇がダメ?」

「自制ができなくなるから」

「自制をしなくても良い」

「それはまずいよ」

「なぜ?」

「私たちはまだ結婚していないから」

「・・・そうだな」

「うん」


それを聞いたエフェルガンはローズの額に口づけをした。そしてしばらくまた無言になった。ローズは気持ちを落ち着かせようと、周囲を見渡すことにした。夜の暗闇にはエフェルガンの目と比べるとあまり良く見えないけれど、普通の人と比べると良く見える方だ。ふっと気づいて、下でなにが動いているような気がする。飛ぶことを念じて、エフェルガンから離れることにした。


「どうした、ローズ?」

「なんか下で・・動いているのが見えた」

「本当だ」


エフェルガンも彼らを見ている。


「探知魔法!」


怪しい影がローズたちの部屋に向かっている。数は十数人の者の存在が確認された。直ちにリンカをリンクして、注意するようにと指示した。


「彼らは、僕たちがここにいることに気づていないようだ」

「何より・・と言いたいところだが、寝間着で丸腰だね」

「魔法で何とかなるだろう」


エフェルガンがそう言いながら、うなずいた。


「余裕ですね」

「そうだな。そのぐらいの人数なら、余裕だ」

「経験済みなんだ」

「いつものことだから」


ローズがうなずいた。そして支援魔法を放った。


「リンカにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


エフェルガンが自分に魔法をかけると、ローズも自分にもかけた。


「バリアー!」

「バリアー!速度増加エンチャント!攻撃力エンチャント!」

「できればケルゼックにリンクかけてほしい」

「はい。ねぇ、エフェルガンは速度増加や攻撃力のエンチャントをしないの?」

「このぐらいの奴らならまだ必要ない」

「油断大敵だよ」

「それはそうだね。反省する」

「うん、じゃ、ケルゼックにリンクかける」

「頼む」


ローズがうなずいた。


「ケルゼック、リンクかけます。繋がった」

「下の状況判断任せたと」

「ケルゼック、下の状況判断を任せたとエフェルガンが言った」

「あとは、リンカのことはオレファに任せてもらって、ペアで行動よろしく。ハティはハインズに任せたと」


エフェルガンの細かい指示をケルゼックとリンカに伝えた。


「ケルゼックにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」


ケルゼックの支援が終えると、彼女たちの近くに敵が現れた。


「エフェルガン、どうやら、私たちにも相手がいるようですね」

「ふむ」


下の影が上にいるローズたちに気づいて飛んできた。片手で鞭を出した。


「私はエフェルガンの壁になるわ」

「了解。でも無理しないでね」

「か弱い姫だから、ピンチの時に必ず助けて下さいね」

「喜んで。助けたら、ちゃんと後で、僕に口づけをして下さいね」

「良いわ!えーーーーーーい!」


空中で、下からかかってきた暗殺者に向かって、ローズが鞭を振り下ろした。左右に上下に素早く鞭を動かして、敵を襲いかかる。血の飛沫が周囲に散らばり、小雨のように降っている。また後ろから攻撃しようとした者がいて、蔓が自動的に対応してくれた。そう、彼女の頭の回りにいつも浮いている四つのふわふわな赤い光の玉で、母の能力によって組み込まれている自動防衛システムだ。格好良い名前にしたけれど、その正体は四本の蔓で、彼女の周りの360度の物理攻撃に対して防いでくれる役割がある。いつも認識して発動しないようにしたけれど、今回認識忘れて発動してしまった。出てくると戦いづらいからだ。でも今回この蔓の働きによって助かった。


「ローズ、油断するな!」

「はい!」


エフェルガンは正確に敵一人ずつ手の平から出した魔法で撃ち落としている。エフェルガンの繊細で正確な魔法攻撃はやはりすごい、とローズは素直に思った。ローズは大雑把だからここまできれいにできない。


エフェルガンは次々とローズを攻撃してきた敵暗殺者を魔法で撃ち落として、時には武術で敵の攻撃をかわし応戦した。魔法と武術の融合がとても良くできている。しばらくすると、ケルゼックとエファインが駆けつけて来た。残りの暗殺者は彼らによって次々と倒されていた。リンカとハインズ達は敵の身元確認と宿の人の安否を確認しているところだ。部屋を襲撃した全員を処理したそうだ。


残り一人は雷の鞭で麻痺になり気を失った。取り調べのためにわざと生かした、とローズは思った。逃げないように茨の蔓でグルグル巻にして、自害できないように口の中に近くにある適当なものを詰め込んだ。それを見たエフェルガンは笑っただけだった。


宿に戻ると大騒ぎになっている。宿の人たちは地方の警備隊を連絡してしばらくしてたくさんの兵士とともに駆けつけてきた。敵の正体はなんと、同じ宿に泊まっている客だったのだ。しかもほぼ全員だった。この事実の報告を受けた時、エフェルガンの顔色がとても険しくなった。


連絡を受けたこの町の役員が見えて、ケルゼックと話し合っている。ローズとリンカとハティとハインズは比較的に安全な所に移動して、おとなしくしている。エファインはローズとリンカの荷物を取りに、部屋へ戻った。寝室はもう使えない状態だとリンカが言った。ローズだって死体だらけの部屋で、一夜も過ごしたくない。


しばらくしてからエファインが戻ってきて、リンカに荷物を渡した。エファインはもうすでに着替えていた。ハインズとハティにもそれぞれの衣服を渡して着替えることができる部屋を案内してもらった。


着替え終わると、部屋の外でエフェルガン達が待っていた。彼らもすでに着替えていた。やはり行動が早いのだ。とてもシリアスな顔で話し合っていたが、彼女が見えてくると話をやめて近づいてきた。


「ローズ、大変だろうけど、今夜中にヒスイ城へ戻ることにする」

「はい」

「とても危険な夜間飛行だが、警備隊数名も一緒に行くから、大丈夫だと思う。でも、もしローズが怖いなら、明日の朝リンカとハインズ達4人で帰っても良い。その場合、この土地の領主の家に泊めてもらって翌日数名の兵士と一緒に帰れば問題ない。どうする?」

「エフェルガンと一緒に帰ります」

「分かった。じゃ、一緒に行こう」


ローズたちは急いで宿を後にした。フクロウが皆無事で良かった。複数の警備隊とともに、これから約5時間の夜間飛行に挑む。


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