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人形姫ローズ  作者: ブリガンティア
スズキノヤマ編

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58/811

58. スズキノヤマ帝国 皇帝陛下への挨拶

「堂々とすれば良い」


エフェルガンは緊張したローズの手をにぎりながら言った。そう、本日、大国スズキノヤマ帝国の皇帝陛下に挨拶する日だ。


ローズはアルハトロスの正装に身を包み、宮殿についた。民族衣装なので、ローズはフクロウにまたがることができなかった。なので、彼女は横に座って、エフェルガンに支えられて、ヒスイ城から宮殿までフクロウに乗って飛んできた。


「とてもきれいだ」

「ありがとう」


エフェルガンはローズをフクロウの背中から下ろした。ローズの髪の毛はリンカがセットした。リンカは意外ととても器用で、びっくりした、とローズは思った。髪の毛をきれいに結って、持ってきた宝石で着飾ってした。口紅まで付けて、今日のローズは自信満々だ。女王陛下の命令で、どこへ行っても必ず武器を身につけるようにということで、彼女の腰に柳の短剣がある。


エフェルガンも正装して、光り輝く布や首飾りをして、とても凛々しい。おなかの前に、きれいな宝石で飾られている短剣がある。けれども、彼の顔がとても険しい。一瞬だけローズに優しい顔を見せたけれど、彼の顔は再びとても険しい顔に戻った。


リンカはアルハトロス女性武人の正装で、とても美しい。女性武人の正装は、アルハトロス国の正式色、青い着物のような服だけれど、着物の横に腰までスリットがある。着物の下には黒いズボンに、革の長靴をしている。ちなみに着物の背中にアルハトロスの紋章がある。胸は左側は青竹の里の小さい紋章で、右側は王家の小さい紋章がある。当然、武人だから武器も身につけている。リンカは戦闘の時に、両腕に設置した暗殺者(アサシン)系の武器である可動式剣を良く使う。けれども、今回その武器は特別許可を得て、彼女の着物の袖で隠している。リンカも赤い口紅を付けて、髪の毛はフレイが作った赤と金色の髪紐で束ねた。とても美しい。


ローズたちが宮殿に到着すると、エフェルガンを先頭に、皇帝陛下がいる居間へ向かった。とても豪華な宮殿で、人も多くいる。天井が高い居間に入り、いよいよ扉が開かれる。


ゴーン!


大きな音が聞こえた。そして扉が開いた。エフェルガンは顔を上げて堂々と中へ入った。ローズも後ろに続いて入り、大使が入り、最後にリンカも入った。


皇帝の玉座には一人の男が座っている。年齢は大体中年辺りでしょう、とローズは思った。豪華な服装で身を包み、威厳がある方だ。体が比較的に大きく、その顔にひげがあって、きれいに整えている。皇帝の隣にエフェルガンの母である皇后が座っている。けれども、その目はとても冷たく、微笑みもない。玉座の下で皇子や皇女が集まっている。また正妻や側室もたくさん集まってきた。どうやら、珍しいものを見るために、皆が集まって来たようだ、とローズは思った。皆の視線が彼女に集中している。


エフェルガンは皇帝に挨拶をしてから、この旅のことと成果を軽く説明した。そしてローズと大使とリンカを軽く紹介してから、ローズに自己紹介をするようにと彼女の手を取り、一緒に皇帝の前に立った。ローズがかなり緊張していると気づいたエフェルガンは、ローズの手を軽くにぎった。


「お初にお目にかかります。アルハトロス王国第一姫、薔薇・ダルゴダスでございます。こちらは大使のニエルと私の護衛官のリンカでございます」


ローズが自己紹介して、頭を下げた。


「ようこそスズキノヤマ帝国へ、龍神の姫、薔薇姫よ」

「ローズとお呼び下さいませ」

「ほう?なぜだ?」

「龍神族の名前の読み方でございます」

「薔薇と書いて、ローズと読むのか」

「はい」

「なるほど」


皇帝がそう言って、うなずいた。


「お待ち下さい。あの娘は龍神の姫である証拠がありません」


一人の皇子が言った。確かにない、とローズは思った。


「そうだ。しかも皇帝陛下の前で武器を持つなど、暗殺の目的ではないか?」


「女人が武器を持つなど野蛮人の証だ」


「衛兵に引っ捕らえさせよう」


「なりすましだ」


「エフェルガン皇太子の謀反の企みだ」


一人一人と彼らが言いたい放題だ。突然、その場でヤジが聞こえてきた。


なるほど。


これはエフェルガンの顔が険しくなったわけだ。ここにいるほぼ全員が敵だということだ、とローズは思った。


エフェルガンは反論しようとした。ローズはエフェルガンの手を取り、急いで頭の中でエフェルガンとリンカにリンクをかけて、付き合うように、とお願いした。


彼らはローズをみて、何も言わずに瞬いた。ローズは能力を集中して、力を額に集めた。体が急にまぶしく光り出した。


パチ!パチ!、という音が部屋中に鳴った。


彼女の体が浮くように念じた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「なりすましですと?この龍神の姫である私が、暗殺者だと?!野蛮だと?!」


ローズが空中に浮いて、皇帝をまっすぐに見た。


「ひぃー!」


人々がローズを見て、怖がっている。


「この国を祟りましょうか」


ローズの言葉を聞くと、ニエル大使は彼女の前に平伏し、震えながら声を出した。


「龍神の姫君、どうか、お怒りをお鎮め下さい・・、どうか・・、どうか・・」


彼が震えて、彼女の前で必死にそう願った。ローズはニエルを見て、複雑な気持ちになった。ニエルは本気でローズを怖がっている様子だ。


「ローズ姫、どうか、我が国の無礼をお許し下さい」


エフェルガンもローズの前に跪いた。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


ローズは殺気をわざと出した。それに合わせて、リンカはローズの前に出て、守りの体制になった。その冷たい目と殺気もわざと出した。その場にいる者は凍り付く恐怖に包まれている。さらに効果音のパチパチと出した。


「龍神の姫、無礼をお許し下さい」


皇帝陛下は玉座から降りて跪いた。当然、その場にいる全員が跪いた。女性達はあまりの恐怖に泣いて、震えている者もいた。


「龍神の姫よ、無礼を働いた者の首を差し上げますので、どうかお怒りを静めて下さい」


皇帝は衛兵にヤジを言った者たちを捕まえるように、と命じた。これはちょっとやりすぎたかもしれない、とローズが判断した。殺気も効果音もやめることにした。


光ったままで、地面に降りて、エフェルガンの前に立った。エフェルガンはローズの手を取った。


「どうか、怒りをお静め下さい。あの者たちは自分が何を言っているのか理解できない、ただのバカでございます」


エフェルガンがそういうと、ローズが彼を見つめて、うなずいた。エフェルガンはまったく笑顔をしていなかった。


「そうなんですか、エフェルガン皇太子様」

「はい。ただのバカだから、死ぬ価値もございません」


エフェルガンがうなずいた。


「分かった。あなたがそう言うなら、信じよう。あなたに免じて、彼らを許そう」

「ありがとうございます」


エフェルガンはローズの手に口づけをした。


「皇帝陛下、聞いての通り、あの者たちを自由にして下さい。私は彼らを許しました」


ローズが言うと、人々の顔からほっとした様子が見えた。


「龍神の姫のお望みのままに」


皇帝がうなずいて、ゆっくりと自分の玉座にまた座る。


「ニエル大使、怖がらせてしまい、ごめんなさい」

「は・・はい」


ローズは気を静めた。けれども、一度光るとなかなかおさまらないから、仕方ないと彼女は思う。皇帝は再び玉座に座って、かなり汗をかいた。あの冷たい目の皇后もおとなしく座っている。周りの人々は恐る恐ると立ち上がる。ヤジを言うどころか、大変怪しく光る娘を恐怖の目で見ている。


「見苦しいところをお見せしてまいました。お許し下さい」


ローズは皇帝に詫びると、皇帝は首を振った。


「こちらこそ、お許し下さい。この国を祟らないで下さい」


皇帝が言うと、ローズはうなずいた。


「はい。心から許しました。ご安心下さい」

「ありがとうございます、姫」

「では、我が国の紹介を続けてもよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」


その場にいる全員が急におとなしくなった。大使ニエルに仕事のバトンタッチした。リンカもおとなしくローズの後ろへ戻って、警備体制をしている。


大使ニエルが説明を終えて、持参した女王鈴の親書を皇帝に差し上げた。皇帝はそれを読んで、ふむふむと一人ごとした。


「このたびの同盟と条約のことが書かれている。あとは、・・エフェルガン、龍神の姫との縁談の話はすべて龍神の姫の本人に決断を委ねること、・・だそうだ」


む?縁談?聞いてないよ、エフェルガン。ローズはエフェルガンを見て、首を傾げた。


「分かりました。ならば、ローズ姫の心が少しずつ私に向くように努力します」

「む」


エフェルガンは微笑みながらローズを見ている。


「龍神の姫よ。そのエフェルガンは実の弟を無慈悲で手をかけたのです。可能ならば、縁談をおやめ願います」


皇后が冷たい声で言った。エフェルガンの笑みが顔から消えた。


「母上!」


エフェルガンは皇后を見上げた。ローズも皇后を見上げて、しばらく考え込んだ。ざわめきが聞こえているような雰囲気になった。


「その出来事に関しては、分かっております、皇后陛下。けれども、それはその皇子の報いであろう?その憎しみや恨みは、エフェルガン皇太子に対する筋違いだと思います」

「なんですと・・?!」


ローズが言うと、その場にいる人々がざわめいた。


「皇后はお疲れだ。誰か皇后を部屋まで送ってくれ」


皇帝は命令して、数人の家臣が皇后の手を取って、退室させた。皇帝は再び詫びをした。ローズはうなずいて、話を外交に戻すことにした。


大使ニエルはアルハトロスからのおみやげを皇帝の前に出して、準備が間に合わなかったことを詫びた。皇帝は快く理解を示した。金属でできた飾り物、彫り物、陶器、織物、刺繍品、そして一本の剣だった。シンプルな青色の鞘で、アルハトロスの紋章が刻まれている。鞘にいくつかの宝石が飾られているけれど、特別に豪華な物ではなかった。しかし皇帝はその剣に興味を示した。その剣を手にして、鞘から出した瞬間、驚きの声を出した。なんとその剣に、美しい模様があって、それはその剣を作った工程でできた模様だった。とても高い技術が必要とされる技である。とても丈夫で、美しく、そして切れ味がとても良さそうな剣だった。


「この剣は素晴らしい。余はこれを使うぞ」


皇帝が嬉しそうな顔で、その剣を見つめた。すると、大使ニエルはアルハトロスの武器工業や金属の加工品について説明した。ちなみにアルハトロスの女性は武術を学んだり、武人になる女性も多いことも説明した。女王でさえ短剣を身につけていると説明して、ローズとリンカの武器持参するわけも説明をした。その説明に興味を示した者も数多くいた。なぜなら、スズキノヤマでは女性はほとんど武器を持たないからだ。リンカのような女性武人はとても珍しく、あっという間にリンカに、男性たちの注目が集まってくる。きっとこのスズキノヤマでも、非公式リンカファンクラブが誕生するのでしょう。


そして最後のおみやげだ。ローズは一つの箱を取って、皇帝に見せた。とても美しい箱で、封印されている。封印を開けてもらい、中身を見せた。アルハトロス女王が作った焼き菓子であった。料理長のレシピで、とても美味しくできたと言って、おみやげにでも、と笑いながら荷物の箱に入れた。


毒味役の家臣がその焼き菓子を一つ取って、恐る恐ると口に入れた。彼の目から涙が出てしまった。会場がざわめいている。毒か?


「なんて言う美味しさでございましょう。今まで、このような美味しい焼き菓子を食べたことがございません。生まれて初めて、こんなに・・」


その家臣が指に着いたお菓子のかけらまでなめてしまった。


うわー、恐るべし料理長オリジナル焼き菓子だ、とローズは彼を見て笑った。


皇帝はその焼き菓子を食したいと言ったから、家臣がそれを皇帝陛下の前に持って行った。皇帝は一つそれをとって食べたら、目を大きくして、食べた。また一つ取って、食べた。そしてまた一つを取って、食べた・・の繰り返しだった。


「美味じゃ。なんていう味だ」


皇帝がそう言いながら焼き菓子を食べた。


「ありがとうございます。我が国の特産品の焼き菓子でございます。その焼き菓子は、アルハトロスの女王陛下は皇帝陛下の為に、お作りになった物です。ちなみにレシピの本もただいま大陸では絶賛発売中でございます」


ローズがさりげなく宣伝した。


「おおお。もっと欲しいが、これしか持って来なかったか?」

「はい、残念ながら」


ローズが詫びた。実際に、それしかなかったのだ。


「なんとかできぬか?」

「ニエル大使なら本国からお取り寄せができると思います。スズキノヤマでの販売も検討しますが・・」

「大使、その話を貿易大臣と進めてくれ。大臣よ、年内に実現可能にせよ」


皇帝が言うと、大臣が頭を下げて、うなずいた。


「はい」

「仰せのままに」


ニエル大使は笑顔で答えた。これで、なんとか貿易のきっかけになった。ローズはニエルを見て、うなずいた。


後は頼んだよ、ニエル大使!、とローズの合図に理解したニエルは微笑んでいる。


宮殿でのハードな一日が、なんとか、終わった。リンカに求婚してきた男性もいたぐらい、大人気になった。けれども、リンカは相変わらず、相手にしなかった。


「任務中だ」、という理由ですべての誘いを断った。


エフェルガンはずっとローズから離れなかったから、他の男性は挨拶程度で、ほぼ会話なしで終わってしまった。ローズは疲れすぎて、宮殿の食事の味なんて、分からなかった。


ヒスイ城へ帰る途中でエフェルガンはその焼き菓子も食べたかったと言った。それで、ローズは部屋にあるおやつ用の焼き菓子を分けてあげることを約束した。案外、ミミズクフクロウ種族は甘い物が好きかもしれないと、新しい発見になぜかにっこりと微笑んでしまったローズであった。


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