44. アルハトロス王国 龍神の都 暗殺事件(1)
ローズが都に来てから、数ヶ月間が経った。
なんとか都での生活に慣れて来た。ダルゴダスに手紙を送ったら、その数日後に返事が届いた。注文通り、ローズの本を送って、おまけに料理長からの焼き菓子も送られた。里から届いた焼き菓子は、最近姉妹らしく仲良しになった女王と一緒に食べた。もちろんリンカと侍女サイラとミランダにも分けた。ミリナは相変わらず帰って来ない。女王に聞いてみたら、返事はただ一つ、「ちょっと今仕事を頼んでいます」だけだった。
彼女がもう数ヶ月間も帰って来なかった。いったいどんな仕事なのか気になる、とローズが思った。しかし、女王が直々に暗部の総隊長に仕事を頼んでいるぐらいの仕事だから、きっととても重要な仕事だと思う。
エフェルガン皇子にも手紙を送ったけれど、まだ返事が来ない。スズキノヤマは南の海を渡って遠い国なので、時間がかかることは分かる。それに皇子だって忙しいでしょう、とローズが首を長く、待っている。ちなみにローズが送った手紙に使う紙や封筒にはアルハトロス王家の紋章が入っている。
宮殿で相変わらずそんなに自由に歩き回れない。入っては良い区域と、入ってはいけない区域がある。どういう理由でそうなるかが良く分からないけれど、住居区域以外を出ると侍女と護衛官を連れて行かなければいけない。侍女を連れて行く必要がないのは、朝の運動の時である。
朝になると、運動着に着替えて来た彼女を必ず迎えに来るのは運動の先生のガイルだ。ガイルは王国の兵士を教育する武官であり、とても強い人だ。彼は住居区域の扉の外で必ず待ってくれる。護衛官の一人と一緒に来るローズが見えて来ると、兵士の訓練場まで一緒に歩いて行く。
宮殿では、ローズが上位兵士らと一緒に訓練を受けることになっている。ここでは下級、中級と上級の訓練所がある。下級だと一般兵士が受ける訓練だ。主な訓練は体力作りと簡単な武器の扱い方である。基礎訓練も行う。中級兵士は下級より少しハードな訓練を行う。走る距離も長くなり、様々な武器を扱う練習となる。そして伝達の訓練や特殊な訓練も行う。中級の兵士は主に小隊隊長や重要施設の護衛艦として働く。最後に、上級の訓練は上位武官や上位兵士の対象に訓練を行う。特殊武器や一部魔法も訓練する。上位武官は主に隊長クラスの職に就き、上位兵士は宮殿内の衛兵や正規軍のエリート部隊になる仕事になる。
都の襲撃事件で数多くの兵士が命を落としてしまい、今は正規軍の再建にガイルが力を入れている最中だ。だから現在たくさんの新米兵士が訓練に来ているわけだ。けれど、ローズの場合、都の件もあって、オオラモルグの件もあったから、能力的に上位の方に分類されている。だから毎朝体が大きな武官達と一緒に、宮殿外側を走ることになっている。これは結構大変だ。なぜなら宮殿はとても広いからだ。
走った後に、水分を取るなど少し休憩をしてから、技の組み手や武器の練習をする。ローズの場合、武器に関しては素人だ。見たこともない武器が多く、その使い道も分からない。ガイルは丁寧に説明をしながら、使い方を教えてくれる。最近、練習用武器を使用して模擬戦をしたら、魔法なしでも互角に戦えるぐらいになった。身長1メートルのローズでも、大きな武官には負けない。もちろん、手加減も互いにしない。
ハードな午前中の修業が終わると、昼餉をしてから午後の勉強に入る。作法を学んで、姫らしいふるまい方を学んだり、政治や、社会などを勉強する。裁縫ももちろん、王宮の女性の知識も学ばなければいけない。
女性だけの集まりになると、そこは女の戦場となる、と先生は言った。言葉の操り方や嫌みなどを、要するに会話や言葉でどのように相手を落としめるかを、実際に体験して、その対策も含めて、学ばなければいけない。難しい、とローズはここで苦戦してしまった。
無論、情報収集も兼ねて、色々な話を聞くことによって、心理を学ぶ。面倒なことだ、とローズがたまに寝てしまう。このようなことが嫌いだ。猛獣を倒した方が楽だ、と彼女が思うけれど、貴族や政治の世界では武力だけが解決法ではないと知った。できるなら武人か、一般人の所に、一生この身を置きたい、とローズは思った。
今日もなんとか一日が終わった。慌ただしい毎日で、気づいたらもう日が沈んでしまう。時が夕餉の時間になった。夕餉はいつも一人だ。たまにリンカが隣に座って一緒に食べるけれど、基本的に一人で食べる。食事は台所から部屋まで運ばれて来る。部屋には食事をする場所があるから、そこでいつもご飯を食べる。
たまには鈴からお食事の誘いが来る。侍女に案内されて、鈴の部屋に行くと、一緒に食事をする。姉妹らしく、女子らしく、色々な話をしたり楽しく食事をする。
ローズは、鈴が暗部時代に影丸のことが好きだったことと聞かされて、びっくりした。ペアだったから、そのような気持ちになってもおかしくない、とローズは思った。けれど、いつも無表情な影丸を見ていると、本当にその気持ちを抱いて、どうしたら良いかと迷ったあげくその気持ちを伝えられないままで諦めた、と鈴が言った。だから神籍になった今は、もう恋愛を考えないことにした、と。国民のことを第一に考えて、そのすべてを捧げることに決めた。とても大きな覚悟だったんだ、とローズは改めて思った。鈴は落ち着かなかった影丸の様子を知らなかったようだ。ローズもそれを言うつもりもない。二人はもうどうしようもなく離れてしまったんだ。だからローズは、自分の気持ちと正直に向き合うつもりだ。問題は相手の柳が、今どこにいるのか分からない。
夜になって、ローズが寝る準備をして寝室に入った。都に来てから屋根の上に登る機会がなかった。中庭に出るのに、侍女達と衛兵を通らなければいけない。ローズの部屋には、窓があるけれど、開けるには不便だ。寝室の窓は基本的に大きくない。万が一忍び込む暗殺者がいると想定して、小さく作られている。
一人で寝台の上に横になり、ローズは目を閉じた。しかし、突然悲鳴が聞こえた。ローズは慌てて、起きて短剣を取って、外に出たらサイラの泣き声が聞こえた。リビングには誰もいないため、素早く手前の部屋に行った。そこに横たわったミランダの隣でサイラが泣いている。
「何事だ?」
サイラは返事をせず震えながら首を振った。これは非常事態かもしれない、とローズが思って、リンカにリンクをかけた。けれど、返事がない。ミランダの脈を触ると、まだ生きている。念のため、彼女を中まで引っ張った。
急いで女王にリンクをかけて非常事態が起きていることを伝えた。なんとか、一発で成功した。短剣を腰に付けて部屋の外に出たら、衛兵三人とも倒れていた。残念ながら倒れた衛兵の中から二名がすでに死んでいた。一人はまだ生きているが、意識がない。注意深く周囲を見て、探知魔法をかけた。周囲には誰もいない。念のため、あの衛兵も彼女の部屋の中まで引っ張った。そしてサイラに扉を閉めるように命じた。リンカを探して中庭に出たら、戦っている人影がいた。
リンカの波動だ。
ローズは参戦しようと思ったけれど、別の方面から別の人影が現れた。その人影がいきなりローズを襲ってきた。
ローズはとっさに鞭を出した。防具なしで、かなり不利だけれど、今はそのような余裕がない。襲われた以上、応戦するしかない。
女王鈴の住まいは中庭にあるフェンスの向こう側にあるが、無事のようだ。連絡をもらった鈴は、衛兵や武官を中庭に来るようにと命じた。暗い中庭があっという間に明るくなった。
どうやらリンカは襲ってきた相手を倒した。衛兵や武官達はローズの周りに集まって来ている。ローズを襲ってきた相手は勝ち目がないと思ったらしく、逃げようとした。けれど、ローズの鞭の方が早かった。相手の足を引っかけて落とした。
「バインド・ローズ!」
ズズズ、と地面の下から出てきた薔薇の枝で、動きを封じた。生きたまま捕らえたかと思ったら、どこから来たか分からない矢が飛んで飛んで来て、薔薇の枝でつかまった相手の首に命中した。残念ながら縛られた敵が仲間の攻撃で死んでしまった。
ローズは探知魔性をかけたけれど、人が多すぎて分からなくなった。念のため、自分自身にバリアーの魔法をかけた。
暗殺者が明らかにローズの部屋を目標にして、狙っている。侍女サイラが悲鳴をしたからリンカがそれに気づいて、忍び込んだ者と戦っていた訳だ。けれども、何か引っかかる。何かがおかしい。けれど、ローズはそれが分からない。
衛兵や武官が中庭に来たことで騒ぎが収まった。念のためリンカとリンクを行うことにした。複数の武官とともに部屋に入り、意識不明の衛兵とミランダに回復魔法をかけた。医療師が来てくれて、引き続き彼らに任せることにした。
ローズは防具を急いで身につけて、再び外へ向かった。オオギが見えて来たので、ローズは状況を確認してもらった。まだ矢を放った者がつかまっていない、とローズは言って、どこかに潜伏している可能性があるから鈴の警護に集中して欲しい、と頼んだ。
どこに潜伏しているのかと気になったので、人々が目を離した隙に、ローズが屋根の上に登った。それでもまだ分からないので、もっと高い所にある宮殿の見張のタワーの上まで登った。そこから探知魔性をかけた。今度はもっと広い範囲だ。彼女は怪しい気配を感じた。飛ぶ、とローズは念じて、その怪しい気配をかけていた。けれど、これも罠かもしれない。おそらく敵は彼女をおびき出そうとしている。念のため、ローズはリンカと鈴に連絡した。
リンカはローズが一人で追わないように、と言った。しばらく待っていたら、リンカが合流して、二人はあの怪しい気配を追いかけている。方向は町の方だ。この高さなら、どの辺りにいるかが大体分かるけれど、夜は暗い。いくら彼女の目が良くても、暗い夜になるとやはり不利だ。
「私が追うから、ローズは安全のため上を飛んで、援護して」
「はい、お気を付けて」
「ローズも、無茶をしないでね」
「はい」
「じゃ、行きましょう」
リンカはその走って逃げている気配の持ち主を追う。ローズが上から飛んで、安全距離を測って、リンカに指示を与える。
「リンカさんにバリアー!速度増加エンチャント!」
しばらく飛んで行くと、ある建物が密集している地域の上に気配が3体増えた。
「リンカさん、怪しいのが三体増えた。お気を付けて」
(了解)
「リンカさんに攻撃力増加エンチャント!」
予測通り、その三人は逃げた者の仲間だった。彼らは逃げた仲間をかばい、三人でリンカを攻撃している。そして、ローズが上から一人を魔法で攻撃した。
「ファイアー・ボール」
丸いボールのような火だるまの魔法が、一人の敵に命中した。相手は火だるまになって、地面にもがいて、動かなくなった。とても怖いもので、良い子が見てはいけない光景だ、とローズは思った。
もう一人を狙おうとして、彼女が建物の屋根に着地して、安定した足下で構えた。
けれど、突然矢が飛んで来た。ローズは気づいたけれど、遅かった!
回避できない!
当たってしまう!、と彼女が慌てて回避しようとした時、その一瞬で、いきなり強い力でぶつけられた。バランスが崩れて、落ちそうになって、いきなり体を支えた手を感じた。ローズは何者かに抱きかかえられて、着地した。
「まったく、ローズってあぶなかしいな」
聞いたことがある声だ。
「ロッコ!」
ローズは彼を見て、驚いた。
「ごきげんよう、ローズ」
ロッコはローズを見て、微笑んだ。ローズもうなずいて、ロッコの手から降りた。
(ローズ、大丈夫か?)
リンカは心配してローズに問いかけた。
「はい、大丈夫です。今暗部のロッコと一緒にいる」
(なら、良い。そこにいて)
リンカは残りの相手を片づけて、矢を放った者も一撃で戦闘不能にされた。
(ローズ、女王様に連絡して、こいつらに取り調べをするように。生きたまま捕らえたから、情報が聞き出せる)
「はい」
ローズは女王様に連絡を入れて、近くにいる兵隊を向かわせる、と返事が来た。リンカはしばらく捕らえた敵を確認した。自害や逃亡しないように見張っている。その間に、ローズとロッコは近くにある建物の屋根の上に移動した。
「ロッコはなんでここに?」
「任務中さ。ローズこそこの夜中に、寝間着でうろうろして、何をしているんだ?」
ロッコはそう言いながら、ローズを見つめている。
「うろうろなんかしていない。私の部屋に入ろうとした不審者を追っているだけだよ」
「ローズの寝室に忍び込んだ奴がいるのか?物騒だね。夜這いか?」
ロッコが聞くと、ローズは思わず苦笑いした。けれど、その後、彼女の様子がとても険しくなった。
「夜這いではない。暗殺未遂だ。衛兵二名も殺された」
「まじか」
「本当だよ」
「でもだからといって、寝間着姿で行動するのは考えて欲しいな。空なんて、飛んだりしないで下さい。いくら夜で暗くても、俺の目は良いんだよ。あんな魅力的な物を見せらて、目のやり場に困ったんだ」
ロッコが呆れた様子で言うと、ローズの顔が赤くなった。
「あ」
「理解した?」
「うん」
「で、怪我はないか?」
「うん、大丈夫」
ローズは周囲を見渡して、不自然な気の流れを感じた。夜空を見上げていたら、その原因が分かった。
「ねぇ、ロッコ。あなたの任務は一時的に中断できる?」
「まぁ、先ほどの矢で任務が中断されたけど」
ローズを殺そうという試みが十分すぎるの理由として成り立っている。ロッコがそう考えながら、うなずいた。
「ごめんね。でも今度は緊急事態になっているのよ」
「説明して」
「説明も何も。あれなんだけど」
ローズは空を指さした。そこに飛行船が飛んでいる。敵の襲来だ。
「まじか」
「ロッコ、私とチームを組んで」
「あいよ、ローズ」
「これからリンクをかける」
「あい」
ロッコはうなずいた。
「女王様、ごめんなさい、これから鈴さんと呼んでも良い?緊急事態なの」
(鈴でも構いません。何がありました?)
「飛行船が見えた。数はまだ未確認。これから調べる。今暗部のロッコとリンカとチームを組んでいる」
(分かりました、情報ありがとう)
鈴に連絡を入れた。
「リンカさん、ごめんなさい、これから 呼びすてになるかもしれない」
(良いわよ。でも私は飛べないから、地上でなんとかする)
リンカが遠くからうなずいた。
「私とロッコで調べてみる」
(気をつけてね)
「はい」
ローズはロッコの手をにぎった。
「ロッコ、私の体を抱いて、しっかりとつかまえて」
「へ?」
「変なことを考えないでよ」
ローズが言うと、ロッコは笑った。
「はい、これで良いのか?」
「うーん、もうちょっと強くして欲しい。私は手が小さいから、ロッコを支えることができない。だからロッコはしっかりと私に抱いて欲しい」
「このような感じで?」
「うん」
ローズがうなずいた。
「良し、行くよ!」
「え?どこへ?!」
「空を飛ぶのよ!」
「えーーーーーーーーーーー!」
「寝間着の下を見ても構わないから、落ちないでね」
ローズは空を飛んだ。人を連れて飛ぶのは初めてだ。下着が見えて、本当は恥ずかしいけれど、でも今はそのようなことを気にしている場合じゃない。今は都がまた襲撃されている。鈴に彼女が見たものをリンクで繋いでいる。目の前に大きな飛行船が見えた。
「ロッコ、もう少し我慢して!」
「ひええーーーーーーーーー!」
ローズは猛スピードで上に上昇した。ロッコは多分生まれて初めてこんな高さまで飛んで行くのでしょう、とローズは思った。仕方ないから、ローズは蔓を発動して、ロッコの体を蔓で固定した。
「飛行船は一機しかない。おかしいわ。着地するよ」
ローズたちは飛行船の上に着地した。ロッコは飛行船の上に足を着地すると、しばらく固まった。多分、今どういう状況なのかを考え中なんでしょう。
しかし、この流れがおかしい。都を攻める気なら飛行船一機では無謀だ、ということぐらいはモルグ人なら分かるはずだ。飛行船5機でも簡単に落とされた。それに、敵は暗殺者まで宮殿に送って、彼女の部屋に侵入しようとした。そして一人がにげて、三人が待ち伏せ。いや、待てよ。わざと彼女をおびき出そうとしたのなら、本当の狙いは何?、とローズは考え込んだ。
「リンカ、急いで宮殿へ向かって、鈴の元へ、大至急!彼女が危ない!」
(了解)
そして鈴にも連絡を入れた。
「鈴、周りをかためて、恐らく敵はもう宮殿の周りか、あるいはもうすでに中にいると思う。狙いは鈴だ!」
(えっ!分かりました!)
ローズはロッコにやってもらわないといけないことがある。なぜなら、この飛行船はここに落とす訳にはいけないからだ。
「ロッコ、もう大丈夫か?」
ローズはロッコの体と自分の体を巻き付いた蔓を外した。
「なんとか」
ロッコの目がまだ回っているように見える。
「しっかりして!」
「大丈夫だ」
ロッコは顔を叩いて、しっかりした目に戻った。ローズは微笑んで、うなずいた。
「よし、これからこの飛行船の中に入る。操縦士以外、全員片づけて欲しい」
「ローズ、あなたは本当に怖い女性だ」
「何を言われても構わないわ。この飛行船は宮殿まで行かせる訳にはいけない。でもこの下に落としたら、どれぐらい人が死ぬかと考えれば、この飛行船の中の敵を殺して、飛行船を奪ってどこかに落としてしまえば、犠牲が少なくて済むわ」
「なるほど」
ロッコはうなずいた。
「ロッコ、さっきと同じように、私の体をしっかりと抱いて、離さないでね」
「あい」
ローズは集中していて、体中が光っている。
「私を信じて、ロッコ」
「信じるよ、ローズ」
「うん。行くよ!」
目を閉じて、座標を定めて、着地は飛行船の中に!
「瞬間移動!」
成功した!
ローズとロッコは飛行船の中に入った。中にいるモルグ人兵士はローズたちの出現に驚いた。
「頼んだよ、ロッコ!」
「あいよ!」
ロッコは動いた。非常に軽やかな身のこなしで、彼が素早く動いて、次々と敵兵を仕留めた。すべての動きは無駄がない。武器を振るたびに敵が絶命した。とても鮮やかな動きをしている。これは猛毒のロッコ、暗部レベル6の本当の実力だ。
ローズは操縦士を捜して飛行船の前方へ動いた。自分はロッコのような動きがまだできないから、とりあえず鞭でなんとかしてから前に進もうと考えた。けれど、ロッコは素早い動きで後ろから彼女を抜いて、彼女の前にいる敵を次々と倒して行く。
「ロッコにバリアー!速度増加エンチャント!攻撃力増加エンチャント!」
すると、ロッコの動きが数倍も速くなった。恐ろしいぐらいに、風の早さの死神のように。
「すごい!」
ロッコのつぶやきが聞こえた。ローズは前に進んで、操縦部屋の入り口が見えた。扉の向こうに数人いた。
ローズが中に入ると数人が剣を抜いて斬りかかろうとしていたけれど、絶好調のロッコの敵ではなかった。あっさりと片づけられた。
というか、操縦士まで殺されてしまった。どうしよう・・、とローズは呆れた顔でロッコを見ている。
ローズは飛行船なんて操縦したことがない。前世も、現世もだ。
「どうした、ローズ?」
ロッコは動きを止めて、聞いた。敵がもうほとんどいないのだ。
「操縦士まで殺されてね、どうしようかと思ってるところだ」
「俺、やってしまったか?」
ロッコは自分の失敗を知った瞬間だった。
「うん。だから今どうするか、と考えている」
「それって、かなりやばいか?」
「うん」
「まじか」
「まじだ」
「・・・」
二人がまだ動いている飛行船の操縦を見つめている。
「何とかするしかないな」
「ですよね、あはは、一緒に考えよう」
「ロッコ、あなたは、実は、とてもピンチに強い人だね。今、その一面を知った」
「そうかもね。俺は基本的に死にたくないからね。さて、何をすれば良いかな」
ロッコがうなずきながら、その飛行船の操縦を見つめている。
「うむ、まずこの飛行船はどうやって動いているか理解しないといけない」
「これ船の操縦に似ている」
「船を操縦できるの?」
「本で読んだことがあるだけだ。実際にやったことがない」
「じゃ、今は実戦だね。よろしく頼むよ、船長!」
ローズが言うと、ロッコは苦笑いした。
「って、どこに持って行けば良いんだ?」
ロッコが聞くと、ローズは外へ見ている。
「町以外はどこでも良い。あの山の上でも良い」
「俺は飛行船を操縦したことがないから、無事の着陸は無理だと思うけど」
「私も操縦したことがないのよ。ロッコに操縦を任せるしかない」
「まじか」
「まじだ」
ローズがそう言って、うなずいた。
「それにね、さっき、二人で空を飛んだことと瞬間移動で、魔力がごっそりと消費してしまったの。瞬間移動がもう1回できるかどうか分からないほどに、魔力が切れている」
「えっ?!」
「それに、この飛行船はここに落とすわけにはいかないから、できるだけ遠くへ持って行きたい。都の民の命と私たちの命はロッコの操縦技術にかかっているのよ」
「責任重大だね。げ!向きを間違えた。おっと、これは逆なんだね。これで良いかな、多分、んー、どうだろう」
ロッコが操縦して、間違いに気づいた。船がぐらっと変な方向へ向かっている。
「しっかりして、ロッコ!私はまだ死にたくないよ」
「俺も死にたくないから、大丈夫だ」
「・・・」
「今、町と反対方向の山に向かってる」
なんとか修正ができたようだ、とローズは思った。
「ねぇ、なんか速くなってない?」
「さぁ、俺はさっき何を触ったか覚えてない」
「・・・」
「まずいな。早すぎる」
ロッコはまた何かを触ってしまった。飛行船のスピードがまた上がってしまった。
「ねぇ、ロッコ」
「何?」
「町が無事で、私たちも無事で、女王様もリンカさんも無事で、すべてうまくいったら、どこかで昼餉でも一緒に食べに行こうか」
「良いね。女性にお食事を誘われたのが初めてだ」
ロッコは微笑みながら言った。
「いつもロッコの方から声をかけるの?」
ローズが聞くと、ロッコは苦笑いした。
「それって答えた方が良いか否かの質問になってるね」
「まぁ、気にしないで。そろそろ町はずれになった。でも、これって山に突っ込んで行かないよね?」
「さぁ・・」
しばらく二人とも無言になった。ロッコは必死に操縦機をにぎって、飛行船を山に向かわせている。けれど、すごいスピードで山に近づいて行くのも怖いほどに分かる。
「ねぇ、ロッコ、あなたの友達になれて良かった」
ローズはロッコの足下で丸くなっている。
「俺もだ、ローズ。楽しかった」
「・・・」
「そろそろ、着地する。つかまって!」
ロッコは操縦機をにぎって、山にぶつからないように左や右へ動かした。地面に接触した瞬間に、ロッコは操縦を手離して、ローズを素早く抱いた。激しい衝撃が起きて、飛行船が二つに割れて、ローズたちはその衝撃で外へ投げ出された。
「きゃあ!」
「ローズ!」