45. アルハトロス王国 龍神の都 暗殺事件(2)
強い爆風に飛ばされて、一瞬何かあったか分からない状態になった。破片や石など、体に当たっていることが分かるけれど、どうしようもなかった。ローズはロッコにバリアーを戦闘中にかけていたけれど、今それはまだ有効かどうか分からない。もう一度かけておけばよかった、とローズは一瞬で思った。けれども、自分自身のバリアーはもうすでに切れていた。
ふわーという感覚になった時に、ローズは体を強く抱かれていることに気づいた。目を開けると、あの青い鱗が見えた。そして頭と背中が強く内側に押さえられて、地面に一度叩きつけられて、再び中に跳ねてから、地面に落ちて、転がって落ちて行く。
山の斜面か、とローズは思った。そして最後にぴょーんとなんだか高く跳ね上がるような感覚になった。そのような状況でも、ロッコはずっと彼女を離さなかった。
目を開けると、下は崖だ! うわー!
「瞬間移動!」
一つ見えた真っ平らの斜面を行き先に決めた。近距離ならなんとかなる、そう思ったローズは念を込めて瞬間移動の移動先をそこに決めた。そう、瞬間移動はランダムではない、移動先を強く念じて、行く場所を決めてから行う技だ。
「がはっ!」
ローズたちはその斜面に無事着地した。けれども、もう魔力が残ってない。
「大丈夫か、ローズ」
ロッコは弱い声で彼女の安否を気遣う。
「うん。ロッコは?」
「大丈夫だ」
「良かった」
「本当だね。本当に良かった」
「うん」
二人がゆっくりと身を起こした。ローズは自分自身を確認して、大した傷がなかった。しかし、ロッコの体を見ると、頭と背中から血が流れている。
「ロッコ、怪我してる」
「あ、かすり傷だ。問題ない」
「ダメ!傷を見せて!」
ローズが言うと、ロッコが困った顔した。
「乙女の前で服を脱いでしまうことになるから、いやだな」
「何を言ってるの?さっさとひっくり返って、背中を見せなさい」
ロッコは仕方なく、ひっくり返った。背中と頭に爆風や破片による傷が痛々しく見えた。彼女をかばって怪我をしてしまった。
「ヒール!」
ローズが回復魔法をかけてみたが、魔力が足りない。
「ううう。ごめんね、今魔力が足りないの。あと一時間ぐらいで回復するから、それまで我慢して」
「大丈夫だ。傷が深くない。骨も折れてないからじっとすれば、血が止まるから、何とかなるさ」
「痛い?」
「ちょっとね」
「ごめんね、私をかばって・・」
「問題ないよ。ローズを守りたいと思ったから守っただけさ」
「うん。ありがとう」
ロッコが身を起こして、座った。ローズは周囲を見渡した。何もない山だ。山の上に斜面に突っ込んだ飛行船があって、一部燃えてしまった。割れた半分は形がそのままだった。あとで鈴に連絡して調査してもらう。
ところであちらではどうなっているのか。リンクをかけてみたけれど、魔力がないためか、うまく繋がらなかった。
「ロッコ、少し休む。魔力がない今、どうにもならない。それに、なんだか、とても眠いんだ」
「そうだね。俺も少し休む。日が昇ったら起こしてやるよ」
「うん。お休み、ロッコ」
「お休み、ローズ」
ローズはロッコの隣に横になって、眠ることにした。もう寒いとか、地面にある小石が肌に刺さっていることでさえ感じなかった。
「ローズ、大丈夫か?起きて」
「うーん」
「朝になったよ」
朝日が昇って、周りを照らしている。ローズは身を起こして、座った。ローズの体の上に、ロッコの上着がかかっている。背中の部分がぼろぼろになった服だけれど、ローズの体を冷えから守った。目の前にロッコが上半身裸で座って焚き火をしている。背中の傷は血が止まっているが、まだ痛々しく見える。
「おはようございます」
「おはよう、ローズ。良く眠れた?」
「うん。服ありがとう。寒いのに、私のために・・」
「俺は大丈夫だ。寒さに強いさ。ちゃんと訓練を受けていたからな。ローズの方が薄着だから風邪引いたら、大変だ」
「普通の寝間着だからね」
「そうだね。ローズが寒そうだったからね。抱いて暖める訳にはいかないからな。服ぐらいなら、柳に殺されずに済むよ、ははは」
ロッコはそう笑いながら、言った。
「抱くことぐらいなら大丈夫だよ。それ以上のことをしたら、多分柳兄さんだけではなく、里の父上とアルハトロス女王と喧嘩することになるかもしれないね」
「だね。ははは」
ローズは立ち上がって、ロッコに近づいて、背中の傷を確認する。
「血がほとんど止まっている。何をしたの?」
「気を回したさ。なんとか血が止まった」
「すごいね」
「これも訓練でできた技だ。任務中に、たまにどうしようもない状態になる時もあるから、そのために訓練した」
「そうか」
「俺がダルゴダス様に従い、この世界に来た時はまだ柳ぐらいの年齢だったな。いや、もっと若かったか?その年齢ぐらいから、たくさん訓練してきたな」
ロッコがそう言って、うなずいた。
「え?ロッコってそんな年齢だったの?」
「ははは、自分からばらしてしまって、うかつだった」
ロッコは苦笑いした。
「でもとても若く見えるから気づかなかった。声まで青年っぽくて本当に若々しい」
「良く言われるさ。だから若者の間に紛れ込みやすいんだ。でもこれは秘密にしてね。俺の命に関わることになるから」
「うん。でもロッコって、てっきり私とあまりよく変わらないかな、と」
ローズはロッコの隣に座って、たき火に手をかざした。
「俺は3歳児じゃないのは確かだ」
「あはは。そうだね。じゃ、秘密だけど、教えるよ。ロッコはさっき自分の年齢を教えてくれたから、私も教える。実はね・・」
「はい」
「私の体と魂が合ってないのを分かっていると思うけどね」
「そうだね」
「体は3歳でも、私自身は恐らく、今は20歳ぐらいだと思う。確信はないけど」
「20歳か。だから会話しても、大人の女性と会話する感覚になるのも、自然なんだね。何の違和感もなかった。まぁ、見た目も体つきも大人の女性だけどね。全体的に小さいだけだ。でもなんでだ?不思議だね」
「一度は死んだの。魂がここに来て、この体で生まれ変わった。記憶を持ったままだけどね。でもその記憶と言っても、断片的なものしかなくて、不完全なんだ」
ローズがそう言いながら、ロッコを見ている。
「死んだ記憶もあるのか」
「うん。実はローズという名前も、私が死ぬ前の名前だったんだ。私がいた国の言葉だったけど、薔薇の花だという意味だ。その花言葉は、愛を意味するんだ」
ローズは照れながら言った。
「初めて聞いた話だ。なんという国?」
「ごめん、覚えてない」
「まぁ、仕方がない。しかし偶然で、同じ花の名前だったとは。不思議な話だ」
「うん。でもこれは秘密にして。父上や母上、柳兄さんですらこのローズという言葉の意味が知らないの」
「柳が知らないということなら、ローズの名前の秘密は俺の宝物にするよ。そうか、そういうことだったか。じゃ、報告は本当だったんだね」
「報告って?」
「ダルゴダス様の奥さんは菫というお嬢さんを産んだが、その数日後、また子どもが産まれたって届けがあった。どう考えても不自然だからね。養女ではないかという話があるけど、その正体も詳しい話も一切なかった」
「そうだね。実は、私が父上と母上とまったく血のつながりがなかった。でも実の娘のように育ててくれた」
「ローズは龍神様からの預かり者かもしれないね」
「そう思うの?」
「そう思っている」
ロッコがうなずいた。
「でも私は自分の正体なんて分からない」
「別に分からなくても良いんじゃない。ローズはローズだから、俺の友達さ」
「うん。ありがとう。本当にロッコと友達になれてよかった」
「俺もさ。飛行船で楽しかったと言ったけど、それを撤回する」
「なんで?」
「ローズと一緒にいると、楽しかっただけじゃなくて、気持ちが良くて、幸せな気持ちになった。これからもっと楽しいことができるかなと、勝手に期待しまう」
「うん。ロッコと一緒にいるとわくわくする。会話をすると、数時間が経っても飽きないし、物知りだし、楽しいよ。一度でも一緒に狩りでもしたいな。でも私は暗部隊に入らないな。影丸さんに誘われたけど」
「ははは。暗部に入ることができるなら、俺の部下にしたいね。ペアを組んだら俺たちは無敵だ。ははは。でも無理か。残念だ」
ロッコは笑って、彼女を見つめている。本当はそれで彼がほっとしたのだ。ローズが暗部に入らなくて、良かった、とロッコは思った。
「うん、立場的もあるけど、父上は私が武人にならないようにレベル鑑定すらさせなかった」
「それも報告に書いてあったな」
「ずいぶんと私のことを調べているんだね」
「これも仕事だから、許してと言っても、無理があるよね。ごめんな」
「ううん。ねぇ、ロッコって本当は暗部のえらい人なの?」
ローズが聞くと、ロッコが首を振った。
「えらくないよ。下っ端だね」
「さっき、部下にしたいと言ったけど?」
「ははは、よく気づいたね。ローズって鋭いな」
「うーん、言いたくないなら良いけど」
「まぁ、言うよ。隊長クラスぐらいかな。暗部では上から3番目のランクで、複数の隊長がいるんだ。俺はその一人だ。給料はそこそこ良い方だ。ちなみに嫁も恋人もいない」
なぜそう言ったか、ロッコ自身も分からない。けれど、それを聞いたローズが笑った。
「そうか。結構えらい人だね。でもロッコなら、お見合いしたらモテモテだと思うけどね」
「無理だね。暗部は他の職業と比べると一番死に近い職業で、とても危険な仕事だ。だからできるだけあまり個人的な関わり合いをしないようにしているんだ。給料が大きい代わりに、その命をいつでも捨てられる覚悟で任務を全うするんだ」
「でもロッコは基本的に死にたくないと言ったでしょう?」
「そうだよ」
「なんで?」
「死んだら、ローズと会話できなくなるからだ」
「そうだね。ロッコが死んだら、私は悲しくて泣いてしまうよ」
「俺のために泣いてくれるのか」
ロッコの質問に、ローズはうなずいた。
「うん。ロッコは大事な友達だから」
「できるなら、俺のために笑って欲しいな」
「そうして欲しいなら、たまに私を会いに来て、楽しい会話でもして下さい。都でも里でも、私はどこにいるか大体暗部って把握しているでしょう?」
「それは正論だ。やはりますます死にたくないね、いや、もう死ねないな。簡単に死ぬ訳にはいかなくなった、と今決めた。毎回の任務を全うし、必ず生きて帰って、ローズに会いに行くことにしよう」
「うん。また冒険もしたいね」
ローズが笑って、うなずいた。
「でも空を飛ぶ冒険はもうこりごりだ。怖かったよ」
「そうか、ごめんね」
「でも良い体験だった。二度と体験できないことだと思う」
「そうね。飛行船に向かって飛んで突撃して、飛行船ごと落ちていくのは2度や3度があったら困るけどね」
ローズは魔法を集中してロッコの背中に回復魔法をかける。蛇人族であるロッコの背中には、見事な青い鱗だった。肌の色は小麦色なのに、頭の一部と首、背中と腕の半分は青い鱗である。傷は頭の後ろと首筋のあたりと背中の広い範囲だった。魔法で、損傷した筋肉と皮膚の再生を行う。
「ヒール!」
魔力が戻ってきたから、少しは回復ができる、とローズは思った。
「ローズの魔法って優しいね。暖かいよ」
「回復魔法なら優しいよ。攻撃魔法はかなり恐ろしいものだよ」
「だね。見たよ」
「里で?」
「それも見た。都の奪還作戦でも見たよ」
「怖かった?」
「すごい、と思った」
ロッコはそう言って、うなずいた。
「そうか。なんか、ホッとした」
「どうして?」
「私は化け物だ、といろいろ噂にされたからね。実際に怪しかったし」
ローズは複雑な気持ちで言った。
「俺は初めて見た時はびっくりしたけど。でもローズは柳とうまく連携できて、すごいと思った」
「ありがとう、ロッコ」
「いや、俺は何もしなかった。暗部総隊の副隊長の影丸さんでさえ、歯が立たない相手だったから、俺が前に出ても、なんの戦力にもならないと分かったよ」
「私は弱いよ。柳がトドメをしてくれた」
ローズが言うと、ロッコは笑った。
「どの辺りが弱いか、分かりやすく教えてくれると助かるね」
「それは・・秘密です。でも私を観察したら分かるかもしれないね」
ローズが笑いながら言った。
「やはり昔の陰丸さんと鈴さんのペアをやってみたいね。ローズを24時間で監視して、朝昼晩と一緒に活動をすれば弱点が分かるかもしれないね」
「うむ、でもそれをしたらさすがに私が変になってしまいそうだ」
「俺もね。ははは」
「うん。って、どう?まだ痛む?」
「もう痛くない」
「じゃ、これで回復魔法は終わり」
「ありがとう」
ロッコは頭を下げて、礼を言った。
「ねぇ、ロッコ」
「何?」
「鱗を、ちょっと触っても良い?」
「良いけど、どうして?」
「気になるだけ。嫌ならしないけど」
「ローズなら良いよ」
「ありがとう」
ローズがゆっくりとロッコの背中の鱗を触ってみた。蛇の鱗や皮のような、何とも言えない感触。でも蛇のような冷たさがなく、温かい人肌のような感じがした。そしてやはりロッコの体は筋肉質で、とてもかたい。
「ロッコって脱皮するの?」
「なんでいきなり変な質問をするんだ?」
「うむ、知りたいだけなの」
ローズが答えると、ロッコは笑った。
「まぁ、多少。ローズだって肌の角質も老化すると、かさかさになるだろう?それと同じぐらいだ」
「そうか、蛇みたいに全身脱皮はしないんだ」
ローズが言うと、ロッコはまた苦笑いした。
「俺は蛇人族であって、蛇ではないんだ」
「ごめんなさい。失礼しました」
「でもローズにとって、すべてが新鮮だね。問題ないよ。ちなみにさ、俺はローズを噛んでも毒がないから大丈夫だ」
「噛むん・・ですか?」
「なんか変なことを考えてない?」
「ううん。いや、噛まれて、丸飲みにされたらどうしようと思っただけ」
「俺はローズを丸飲みできるあごを持ってないぞ。まったく、また変なことを言ったらぐるぐる巻きにしてしまおうか」
「体で?」
ローズが思わず聞いてしまった。すると、ロッコは笑って、振り向いた。
「・・・そう望むなら、その望み通りに叶えてやっても良いんだがな」
「ごめんなさい、つい・・」
「まぁ、これ以上この会話を続けたら、俺の野生の本能が本当に発揮して暴走しまうから、ここまでにしよう」
「うん。鱗を触らせてくれてありがとう」
「問題ない」
ロッコはうなずいて、彼女を見て、微笑んだ。
「蛇に比較してしまって怒ってる?」
「怒ってない。ローズなら、俺が許す」
「ありがとう。はい、服。ぼろぼろだけど」
「だね。でも裸で歩いていく訳にはいけないし、仕方がないな」
「うん」
「そうだ、先ほどの会話は俺たち二人だけの秘密にしよう。誰かに聞かれたらまずい内容ばかりだったからな」
「うん。約束する、二人だけの秘密だ」
「だね。さて、都に向かわないといけない。休憩が長引いてしまった」
ロッコが立ち上がって、ボロボロになった服を着ることにした。
「方向は分かる?」
ローズも立ち上がって、周囲を見ている。
「分かる。付いてきて」
「うん、でもあまり早く走れないかも。ちょっとおなかが空いたの」
「じゃ。何かを見つけたら、食べよう」
「うん。火を消すね」
「あい」
焚き火を消して、ローズたちは都に向かって走って行く。途中で見つけた果物で、なんとか空腹を少し満たして、移動を続ける。飛行船でそんなに距離がなかったとローズが思っても、実際に地上を走ったら、かなりの距離だった。
都に着くと、ローズはリンクをかけてみると、なんとか繋がった。
「鈴、やっと繋がった。状況はどうなっているんですか?」
(ローズ。無事なの?こちらは今一時避難できた。ミリナが良い時に帰ってきてくれて、なんとか助かった。リンカはちょっと負傷したけど、問題がありません。オオギは重傷で今手当を受けている)
「では今宮殿内にいるんですか?私たちはやっと都に戻ったけど、そちらに合流した方がいい?」
(ダメ。今宮殿内は誰か敵か味方か分からない。暗殺者は紛れ込んでいて、乱戦状態になっているんです。私達は今大丈夫なんだから、まずローズは自分の安全を優先して下さい。リンクはそのままにしてね)
「はい」
ローズが鈴と話してから、うなずいた。
「女王様はなんて?」
「今ミリナさんと、どこかに避難中だそうだ。宮殿内に敵が入っていて、兵士になりすまして、敵か味方かが分からない状態で、乱戦となっている。リンカさんは負傷してるらしいけど、問題がないが、オオギさんは重傷で、今手当を受けているそうです」
「まずいね」
「うん、どうしたら良い?」
「恐らく敵も相手の暗部か暗殺家業者だ。これは俺ら二人で何とかなるというレベルじゃないけどね」
「打つ手はなし?」
「そうでもない。ミリナ様が戻ってきたということは暗部全体にこの状況はすでに里の方まで知られている。もうじき援軍が来るはずだ」
「うん」
ロッコが説明すると、ローズはうなずいた。
「問題は敵か味方の区別する方法だ」
「私は兵士のことをすべて把握していない。どうやって区別するのかも分からないよ」
「まず現場に行って状況を確認しないといけないな」
「私も一緒にいくよ」
「危険だ」
「大丈夫。金のバリアーを付けるから、何とかなる」
「まぁ、ここに置いていくにも危険であることも変わらないな。でも俺の指示に従ってもらうよ」
「うん。念のためリンクをかけるね」
「あい。そうだ、ローズ、魔力を大切にした方が良いと思う。何があったら応戦できなくなると困るから」
「うん」
「俺の支援は優先的ではない。必要だと思った時だけかけてくれれば良い」
「うん」
ローズがうなずいた。
「後は、まずいと思った時に、俺を見捨てて逃げて下さい」
「それはできないよ」
「俺は暗部だ。身を守るぐらいならできる。ローズよりもうまく逃げられるから、安心して逃げて下さい」
「そうか」
「そうだ」
「うん」
「よし、行くぞ」
ローズたちは宮殿に向かって移動した。町の住民はほとんど家の中に隠れていて、外に出ていない。一般市民の被害がなさそうだけれど、兵士の遺体は宮殿の周りに数人転がっている。この襲撃はモルグ人が主犯なのか、国内の誰かが謀反を起こしたのかまだ分からない。けれど、モルグ人の関わりがあることは確かだ。
しかし、女王は神籍である以上、普通の武器では死なないはず・・少なくても現世にいたころ、ゲームのラストボスは大体不死で特集武器でないと殺せないという設定が多い。この世界ではそのような特殊武器の存在がどれほどあるのか分からない。もしあってもそう簡単に市場で出回ることも考えにくい。と言うことは、別の狙いがある可能性がある。
モルグ人は強力な魔石が欲しがっている。その証拠はスズキノヤマのエフェルガン皇子の事件であった。エフェルガン皇子に罠をしかけて、魔石にされた。その色も他の魔石と違って、黄色い石だった。魔力の強さによって色で分別されている。
スズキノヤマの国内の誰かがエフェルガン皇子に罠をかけて、その魔石をモルグ人に渡した・・という可能性が出てくる。あの時にジャタユの護衛のレイが見た飛行船は一機だった。今回と同じだ。偶然とは言えない可能性がある。
「どうした、ローズ」
急に考え込んでしまったローズをみて、ロッコは足を止めた。
「ちょっと今思い出した」
「何を?」
「スズキノヤマのエフェルガン皇子の誘拐事件と、今ここに起きている流れが多分似ていることに気づいた・・多分」
「詳しく説明して」
ロッコはローズを見ている。
「えーと、オオラモルグの事件は知っているかな?」
「ローズが一人で滅ぼしたという国のことか?」
「いや、一人ではないよ。あれはスズキノヤマ国とドイパ国が同盟してオオラモルグ国を攻めて、魔石にされたスズキノヤマのエフェルガン皇子を助けるための作戦だった。結果的にオオラモルグの国王とその召喚した化け物を私が倒してしまったけど」
「なるほど。続けて」
ロッコがうなずいた。
「その日の夜に、ドイパ国のジャタユ王子の護衛の一人、レイさんという人なんだけど、一機の飛行船を見て、追跡したところで撃墜されて、私と柳兄さんが発見したことで明らかになったの」
「はい」
「なんとか命が助かったレイさんから分かった情報は、その飛行船はオオラモルグの方面に飛んで行ったからモルグ人の関わりが明らかになった。でも大国であるスズキノヤマを襲うなら飛行船一機じゃ足りないはずだ。にも関わらず、レイさんが目撃したのはその一機のみだった。ということは、その飛行船はオオラモルグからスズキノヤマに行って、何かをして、帰ってきたという作業になる。スズキノヤマの国内では多くの民やエフェルガン皇子まで罠にかけられて、魔石にされたという報告があった。これはドイパ国に来たスズキノヤマの大使のズルグンさんから聞いた」
「ふむ」
「今ね、ふっと思うけど。スズキノヤマの国内のごたごたはよく知らないけど、エフェルガン皇子を目の敵にする人はおそらく存在しているでしょう。皇子がいなくなれば得するのは誰かと言うことになるけれど、私の勘だと、皇家の権力争いに関係があるのではないかと思う」
ローズが考えながら、言った。
「なるほど。でも、ここは龍神様の国だ。女王を殺しても龍神様がまた新しい王を選んだら、政権の転覆なんてありえない」
「そう思うでしょう?女王が死ななければ、どうしますか?」
「どういうことだ?」
「魔石にすれば、女王は死なない。死なないけれど、何もできない。女王は死ななければ新しい王を選ぶのも難しい。死なないから、救出することは優先になる。そうなると、ミリナさん達が女王の救出に集中するでしょう?」
「当たり前だ」
「その時に、政権はどうなる?」
「誰かが代わりにしなければいけない」
「正解。で、女王の代わりに、誰が政権をにぎるか、誰か得するか。そう考えてもおかしくないと思うよ」
ローズが言うと、ロッコの目が大きくなった。
「ローズ、あなたが欲しいと思う影丸さんの気持ちは分かる。なるほど、そこから見抜いて行かないと、この事件を解決することが難しいということだね。むやみに宮殿に行っても、罠に落ちることになるだけ、ということだ」
「うん」
「分かった、ちょっと考えさせてくれ」
ロッコがそう言いながら、考え込んだ。誰か得するか、と。




