12
Ψ
「何かやりたい」などと口走った俺だが、プールで泳ぎながら思いつくわけでもなく、といって泳いだ後は食欲ぐらいしか湧いてくることはなく、日が傾くのを待ってからK町名物の夏祭りでも冷やかそうかということになった。
プールに入って例のパイナップルみたいなアバンギャルドな髪型がほどけてしまった桐生は、もう一度セットするのも面倒だということで、黒い長髪を流れるままにした。その格好だと、まじめ度が増したメガネキャラの風情だな。呑気に祭りなんかに行ってていいのか?
「私の頭を普通に使ってれば東大には入ると思うけど、あなたにつられて遊びほうけたら、S大に収まってしまうかもねえ」
だとさ。
S大っていうと、高い山脈を隔ててK町の反対側にある有名大学だ。あそこの大学だって、うちの高校からは毎年三人合格するかどうかのはずだが。
しかし、ラノベの委員長キャラみたいな桐生としては、分かりやすい頂点である東大を目指す必要でも生じるのだろう。
こいつのように頭の中身が俺と対極にある人間とは今まで接点があったためしがないので、果たして会話が成立するのかというスリルがある。それと、並んで歩いてるとどうも恥ずかしく、心がふわふわしてくるのは気のせいか? 変に気疲れするなあ。
けど、公式戦の試合場に足を踏み入れた時のような、こういう緊張感は、俺の大好物だけどな。
里山のふもとにある公園を通りすがると、出店がたくさん並んでいた。立ち寄ることにしよう。
たこやきやら焼きそばやら、あとは、糖尿病まっしぐらの巨大な串団子なんてのもこの地方では名物なんだが、そういう定番食料を調達する。
で、俺達は会場の隅のブランコにひっそりと腰かけた。
ぱちん、と焼きそばから輪ゴムを外す桐生。
「悪いね。立て替えさせて。今月は小遣いを貰いそびれてね」
「別にいいけど。返してもらえりゃな」
「数百円といえども、高校生には大事だからね」
「親父が官僚じゃない一般高校生には、特にな」
「私はあなたの予想より貰ってないわよ。今月は父上殿が一日も帰宅してないし。帰ったら利息付きで請求しなきゃねえ」
「あの国家公務員さんは、あいかわらず、どうでもいい仕事で忙しいのかい」
「たぶんね。国からすると、どうでもよくない仕事なんでしょう。そして、この町の二人の人間にとっても、国の仕事は意味を持ったけど」
「打ち明けても、誰も信じねえだろうなあ。人工政府プロジェクト、なんて。信じないどころか、大笑いだと思うぞ」
「それでいいでしょ。笑いたい人々には、笑っていてもらうよ。人工政府プロジェクトに巻き込まれた経験は、私たちだけのもの」
桐生は、小さい口にしては盛大にヤキソバをすすった。
「私には、ちょっとした野心があってね。つまり、せっかく貴重な巻き込まれ体験をしたのだから、利用させてもらってもいいじゃない? 自分の体験をネタにして、本を書きたいの。本はそこそこ売れて、大金が入って来る」
「野心は結構だけど、無駄だと思うぞ? 口で言って笑われる話なら、紙に書いたって本気にゃされねえよ」
「本気にされなくていいのよ。世の中には、嘘を面白おかしく書くほど読まれるメディアがある。――たとえば、ライトノベル」
「お前がラノベを書くって!?」
俺は、正直戸惑った。ラノベなんか絶対読まない教師や大人たちからウケがいい委員長が、ラノベ執筆を志すとは。
「お前がラノベを愛好してるのは知ってるが、まさか、自分で書こうとはな……」
「愛好? 勘違いされちゃ、困る。あんなくだらないものを読んで、いちいち心を揺さぶられるほど感動したとでも? 違うわよ。満を持してラノベを書く時のために、ラノベのフォーマットを研究していただけ。日記みたいに体験をだらだら書いただけじゃ、退職老人が趣味で書く自伝と変わらないわ。つまらなくて生々しくて重々しい本になるのが関の山。そんな本は、売れない。お金も入って来ない。私の狙いは、あくまで大金を手にすることよ。これは東大合格の次ぐらいの目標ね。だから、売れ筋の作品のフォーマットを研究するために、ラノベを乱読していた。売れるジャンル。キャラ。構成。文体。計算されたフォーマットの中へ、人工政府のエピソードを放り込む。堅実なラノベのできあがり。うまくいったら、大々的に世に出るわ。人工政府の実験に巻き込まれるキャラたちの、破天荒なエピソードがね」
「その前に、〝人工政府協会〟の圧力で発禁にされらぁ」
「フフフ。されるわけないでしょう。誰がラノベの中身を本気にするっていうのよ」
「……それもそうか」
「そうよ。本を見た人が知るのは、キャラというピエロが喋っている面白おかしいセリフだけ。たぶん、読む人たちにはそれで充分。面白さを求めてラノベを買ってるはずだから」
桐生は焼きそばを完食し、パックを輪ゴムで閉じた。
「でも……。こういう思いもある。百万人に一人ぐらいは、知ってくれるかもしれない、って。〝このピエロ服の中に居る人間は、私と似ている人かもしれない〟ってね。私は、それを期待しているのかもしれない。ラノベを書いて一攫千金! の次ぐらいに……」
カタリ、とブランコの鎖を鳴らし、奴は立ち上がった。
「ま、ラノベ執筆は大きい目標よね。時間も長くなりそう。だから今は、小さい目標を立てようと思うのよ。あなた、何かやりたいって言ってたわね? やりたいことがないなら、一緒に小遣い稼ぎしない? 夏休みになったけど、遊ぶお金が足りなくて」
「バイト先でも探そうってのか?」
「一攫千金もいいけど、地道に小金もね。暇潰しにもなるし」
奴は夏休みの初日に宿題を終えたみたいに、ほくそ笑んだ。本当に金の話が好きらしいな。
しかし、バイトかよ。国会討ち入りに比べたら、みみっちい計画だよなぁ。俺は、夏休み最終日に真っさらな課題の山でも見るかのように、軽く溜め息をついた。
「ラノベの世界だったら、自由にお金を生み出す能力者ぐらい、居そうなものだけど。あなた、そんな超能力、持ってる?」
「持ってるわけねえだろ」
と即答したものの、
ちょっと考え直す。
即答していいものか。
能力を持っていないとも言い切れない気がする。
もちろん、金を手に入れる能力なんか、持ってない。正直、俺の微妙な機能を能力と謳っちまっていいのかは疑問だ。以前の俺に無かった機能であることは、確かだが。
「三つのキーワード?」
「ああ。朝、目が覚めると、頭の中で閃くんだよ。漠然とした言葉のときもあるし、妙にピンポイントな言葉のときもある。どうやら、キーワードはその日に起きる出来事と関係があるらしい。役に立ったためしは無い機能だけどな。〝コッカイ〟って閃いた日にテレビみると国会中継してたり、〝ツキ〟って閃いた日は、お空に月が出てたりな」
「かなりアバウトね。だけど、予知能力の一種と言えなくもない。閃くようになったのは最近? どうして急に?」
「さあ……。思い当たるのは、人工政府の実験の時だな。俺のデータを取る時に、人工政府のコンピュータから俺の方にもデータが流れちまうとか言ってたからな」
「人工政府がくれた〝お土産〟、か」
「そうなるのかね。どうせなら、手のひらから一日一万円出るような能力が良かったな」
「ちなみに、今日のキーワードは何だったの?」
「今日は珍しく役に立ったんだよ。〝m=1〟っていうんだ。今日の課外授業でいきなり指名されてな。先生の話なんて聞いてなかったし、聞いたところで自分じゃ解けるわけないんだが、m=1が数学の用語ってことは分かる。とりあえずm=1って答えてみた。それが正解だったらしい」
「なるほど。そういう使い方が……。他のキーワードは?」
「他のは、まるっきり意味不明だ。まず、〝熊〟っていうんだが、これは何だと思う?」
「K町は田舎だから、熊でも目撃するということじゃない?」
「熊は山の中で暮らしてるもんだろ。今まで熊を見たことなんかねえぞ」
「では、今日が初、ということか」
桐生が後方の一点を見詰めているので、なにげなく俺もそっちを向いたら、
豆電球みたいに光る目で俺達を見ている熊がいた。
え?
お祭りの実行委員が着ぐるみの中に入っているのか?
祭り会場へ出て行って二本足で盆踊りでも始めるという、ドッキリ企画なのか?
だがその線は即座に無くなった、なぜなら、毛むくじゃらの黒い動物は映画のCGでしか見たことないくらい滑らかな動きで接近してきたからだ!
で、あっというまに、ブランコの柵をくぐりぬけた。おいおい! まだ俺はブランコに腰かけて背中を見せたままだぞ!
ていうか、いくら田舎町だからって、熊に襲われるとかアリか? 俺達の死因は、「熊の襲撃による失血死」か?
キーワードは〝熊〟。正解は本物の熊。桐生よお、お前の頭でも予測できねえだろ。東大行きは無くなったな。
「まったくよぉ! くそくらえな能力じゃねえか!」
今更だが、俺は立ち上がった。
うお、熊の野郎も立ち上がって威嚇のポーズとは初めて見た。こいつは、今までで最強の試合相手だな。靭帯の一、二本がどうなんて言ってられねえ。骨がつながってれば、というか命が残ってれば、大健闘だろうぜ。
「下がってろ、桐生!」
俺は熊野郎のみぞおちとおぼしき部分に正拳を叩き込んだ。
ぼふっ。イテ! コンクリートに毛が生えてるような感触! 全然効いてねえな。
やべえ。終わった。
背中が熊野郎の腕に抱き込まれた。さあ、これから、俺はダンプカーに轢き潰されるみたいな状況を体感できるわけだな。畜生ーっ!
だが、熊は腕をほどいた。
……?
どういうことだ。俺は食ってもまずいってか?
いや、違う。
桐生寧が、か細い腕で熊野郎の巨腕をこじ開けていたんだ。
「しゃがめ!」
桐生にしては珍しい剣幕で叫んだ。
とっさに俺は地べたに体を沈めた。
その瞬間、熊の横っ面に桐生のハイキックが炸裂していた。……マジか!? なんて思っているまに熊はフラフラよろめき、手をついた。空手ならポイントを取られるところだが、動物は四つ足が基本だ。
その基本姿勢から、今度は桐生に突撃した。
が、居合い抜きみたいに素早く顔を蹴り上げられ、ふたたびフラフラになると、
返す刀の踵落としを埋め込まれ、地面に沈み込んだ。
桐生は自己流の軽めのファイティングポーズをとっていた。だが、熊野郎は戦意喪失だった。ふせをする犬みたいに軟弱な格好で後ずさったと思うと、尻を見せて藪へと逃げだした。
俺は阿呆みたいに、マジかよと呟き続けていた。
よもや、桐生が熊を撃退するとは。
で、俺を助け起こしているとは。
「命拾いしたわね。あなたよりは役に立つみたい。私の能力は」
なに? 能力?
「〝人工政府〟の置き土産よ。超人的な格闘能力が発揮できるの。一日のうち、限られた時間だけね」
「なんだかなぁ。配役がちがくねえか? 俺が格闘能力っていうんなら分かるが。つーか、正直うらやましい能力だぞ」
「ラノベみたいには都合良くいかないものなのよ。だって、ここは現実ですもの」
祭りのやわらかい明かりを浴びながら、ラノベキャラのようにコミカルな笑顔を見せる桐生であった。
ところで、会場の片隅でひっそりと熊退治が行われていたことなんか、誰も気付いてなさそうだった。
むらがる屋台にむらがっているお客たちは、熊の攻撃よりかは随分緩慢な動作で金魚すくいしたり、浴衣に草履でひよこみたいに歩いているだけだ。ここに熊一匹でも突っ込んできたら、大混乱に陥るだろう。熊が出たってことを祭りの本部に知らせておいた方がいい。というわけで、俺達は祭りの本部テントを探している。
その時、なにげなく桐生が言った。
「そういえば、あなたのキーワードのことだけど、一つ残ってたんじゃない?」
「ああ、何だったっけな。なんかハッキリしない言葉だった気がするな」
「熊に驚いて、忘れちゃった?」
「いや、たしか、どうでもいい感じのキーワードでなぁ」
俺は記憶をあさってみる。
人の波に揉まれて、しばらく歩いていたら、思い出した。
「そうだ、思い出したぞ」
「何が?」
今度は、桐生の方が忘れてやがる。お前から訊いたくせに。キーワードの話だよ。
「〝山の下の子供〟っていうんだ。意味不明だろ」
「今日、山の下に居る子供と会ったりした?」
「お前と一緒に学校に居ただろ」
「じゃあ、そのキーワードは、まだ消化されてないんじゃない?」
「そうだな。しかし、いちいち首を突っ込んでいたらキリがない。キーワードの指すものが分かったって、国会だったりお月様だったりするしな。俺は頭が悪いんで、つまらん推理ゲームには興味ないんだ」
桐生は立ち止まり、俺を振り返った。
「山の下の子供を、探してみようか?」
「お前なあ、俺の今のグチを聞いてなかったのか? つまんないから、やめとけ。だいたい、この町で探してどうすんだよ。盆地だぞ? 山だらけだぞ? この会場からだって、いくつ山が見えるよ?」
「……そうね。あなたの言う通り」
と、適当きわまりない棒読みで呟き、
桐生は今まで来た道を取って返した。
「だから、会場に隣接している山だけを見に行こう。推理ゲームの解答法としては、それがスマートなはず。当たりか外れかは別問題としてもね」
「はあ? 何を言ってるんだ? つーか、本部に行くのはどうしたんだよ?」
「キーワード間の関連を考慮してみるなら、いま向かうべき場所は――」
桐生は働き蟻みたいに、まっすぐ進んで行く。
左は祭り会場だが、右は里山へと続く草やぶだ。そういう微妙なラインを延々歩いた。
祭りの音は相当遠くなってきた。
「――たとえば、こういう場所」
名もない山の登山口があった。
そこに、ワタアメの袋なんか持って泣きベソをかいている子供が居て、
子供を睨みつける熊が居た。
俺達に気付いた熊は、体勢を低くした。もちろん俺も、予期せぬ再会に硬直している。
「懲りない輩だな」
いとも簡単に桐生が前へ出た。
熊の射程範囲を堂々と横切り、子供を守れるポジションへ。
「助けて!」
などと声を上げ、子供は桐生にすがりついた。
「大丈夫よ。安心して。追い払ってやるからね」
桐生は子供をなでた。
熊との、息詰まる睨み合い。
いや、緊張しているのは、熊の方だろう。
桐生は身構えもせず、余裕たっぷりすぎて、白けているようにすら見える。
そして、桐生はつかつかと歩み寄った。まるで、掘り出しものの木彫りの熊にでも手を伸ばそうとするようにな。
すると、熊は尻尾を巻いて逃げて行った。
おー。さすが野生動物。山を登って行く姿の速いこと。
熊が草を掻き分ける音も聞こえなくなった。
あたりには静寂が戻って来た。
この子供は、好きなゲームキャラのぬいぐるみやゲームソフトの当たるクジ引きをさせてくれない両親に腹を立て、わざと家族からはぐれ単独行動していたそうだ。分かるよ。そういうのは死活問題だもんな。熊に食われたら別の意味で死活問題だったろうがな。
ともかく子供は助かり、俺は抱き付かれたりしたわけだが、……あれ、なんで俺に抱き付くんだ? それに、変に大きな子供だなあ。
って、桐生かよ! 密着すんなよ、気持ち悪いな。
……おや? こいつ、首筋のあたりに冷たい汗をかいているな。体もブルブル震えやがって。どうした? 高校生にして低血糖の発作か?
桐生は蚊の鳴くような声で、
「ふえええん、怖かったよお~」
って、一体どういうわけだ。
なに、格闘能力の継続時間は五分程度? だから、熊と再会した時は能力が切れていた?
マ、マジか。今更だが、俺も背筋が寒くなってきたぞぉ。早く言えよなぁ……。ところで、お前は、いつまで俺を抱き枕みたいにして絡んでいるつもりなんだ?
「う、うるさい……! 昔から、怖いと誰でもいいから抱き付きたくなっちゃうのよ。しょうがないでしょ」
奇妙な習性だなあ。
しかし、まあいいや。
正直、抱き付かれるのは気持ち悪いが、
悪い気持ちでもない。
その後、まいごの子供を本部テント下にて両親に引き会わせた俺達は、両親から懇々と礼を言われることになった。
まさかの謝礼までもらったぞ。受け取らないと放してくれなさそうな勢いだったから、ならば、ありがたく受け取っておこう。帰ってから両親に落とされるであろうカミナリを思いながら、俺は子供に手を振った。
「なるほど。これは、能力の意外な活用法ね」
桐生は子供の親からもらった二千円をそよがせ、
「小遣い稼ぎ、できそうじゃない?」
と言う。どうだろうね。おとなしく普通のバイトした方が、金は貯まる気もするけど。
そういえば、小遣いを稼いだなら、入れとく場所が必要になるな。
俺は、ブーツの中敷きを外し、通帳を引っ張り出した。
「ちょうどいい。俺、口座持ってるから、これを共同で使うことにするか。暗証番号は××××。お前には後でキャッシュカード渡すよ。小遣いを積み立てたり、使ったりする時は、各自で自由にな」
「あなたらしい適当な考えねえ。別に、いいけど。私はお金の管理にはうるさいからね。明日の課外授業の時にでも、キャッシュカードを届けて。図書室に居るから。まずはこの二千円を貯金しましょう」
「官僚の娘のくせに、ケチだなあ。パーッと使おうぜ」
「分かってないわね。盛大に散財するためにも、地道に貯める必要があるんじゃない」
というわけで、俺の千円は口座行きとなった。
俺は、自分のフェイクのことを、ふいに思い浮かべた。
そうだ、あいつを目標にしよう。地道に金を貯めていったら、いつかは、あのロボットを買い取れるくらいの金額になるかもしれない。その日が早く来てくれたら、やつの言葉を借りて言うなら、ハッピーだろうなと思う。
没収した千円の代わりに、桐生はラノベを十冊ほどよこした。
奴が今までラノベ研究の資料として使ったものの中で、比較的読めるものだという。
俺は廃品回収業者じゃねえぞ。つーか、ラノベは嫌いだって言ったろ。
なに? あなたもラノベを研究して、私の書くラノベの編集作業を手伝いなさいだと? 夏休みの自由研究にしては、妙ちきりんなお題だなあ。
……しょうがねえな。覚悟を決めた。読んでやってもいいよ。
始まったばかりの夏休みだ。
いろんなことをやる時間は、果てしなく残ってる。
(終)
(0808-0809、0904)
当時のあとがきを下に抜粋します。
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長編。
もともと短編用につくったアイディアだったが、気付いたら長編になっていた。
内容は、政府のエージェントっぽい奴らが介入してきて主人公の生活が乱されるという、ラノベ的には普通の(笑)お話。当代からすると化石のようなお話とさえ言えるだろう。
たぶん、お話を書くときは、お話の隅々まで気を配り、出だしから終わりまで無酸素運動状態で一気に走り切ると、ダイヤモンドの指輪のようなキレイなお話ができる。そして、そういう作品のキラキラとした輝きが賞賛を受けるのだと思う。
が、不幸なことに、このお話はそういう尖鋭的な美しさのある作品ではない。
が、幸福なことに、尖鋭的な美しさを捨てたおかげで、無骨さがそのまま魅力となる鉱物原石みたいな味わいを閉じ込めることができた。
と、思う。(笑)
なんて書いているけど、じつは意図して無骨な書き方をしたわけではない。
このお話の前編~中編に関しては、一年前に執筆が終わっていたのだが、その時点では、「無酸素運動的に作品を書く」という技量がNに備わっていなかった。結果、偶然に無骨感が出たというのが正しい。
無骨な魅力は、冗長さと隣り合わせの危険な位置にある。だから、無骨なお話は、尖鋭的なお話に比べるとつまらなくなりやすい。しかし、尖鋭的なお話では端折りがちになる、「細部」や「空気感」を表すことができる。銭湯の場面とか、けっこう気に入ってる。
08年の8~9月に【9】まで書き、しばらく中断していたが、09年の4月に残りを書いて完結させた。お話の流れは、ほぼ当初のアイディア通りである。ただ、中断を挟んで桐生一男のキャラに少し変更が加わった。
お話のアイディアを考えている時に偶然かけていた曲(https://www.youtube.com/watch?v=FvNvPe-GP-c)が、哀愁があって非常に抜けが良く、「暑いんだけど、でも涼しい夏」といったイメージが頭に浮かんだ。そこで、お話のラストは夏の場面にしようと決めた。音楽にそそのかされてアイディアが加速することは、珍しくない。
お話を書いた後で知ったけど、主人公と同じ名前の芸能人が居るらしい。ありふれた名前だもんなー。もちろん、関連は無し。




