第九話 黒竜の最後
書き込むうちに日付変わってしまった(汗)
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解らない、どうしてこうなった?
何故?ルビさんを殺さなければならない。
何の為に?願いを叶えるため?解らない・・・
ルビさんの真意が測れないまま、立ち尽くす。
何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故・・・ただ繰り返すのみ。
「そうだね~トシ坊もいきなりじゃあ無理だわいね~此処は一つ、ある竜の話をしようかい。」
そう言って、ルビさんは俺にある物語を語り聞かせてくれた。
この世界が出来た時、あらゆる命が生まれ、生命が溢れた。
星が生まれ、海が出来、陸が誕生し、そこに住まう植物や動物があふれ出す。
そして、最後に4つの力と幾つかの種族が生まれた。
4つの力は世界の均衡を保つ為に共生し、幾つかの種族(俗に言う亜人達)はその適応力を持って世界に散らばり、多種多様な種族へと変化していった。
空に特異空間を造り住む、神力を持った神族。
森や湖に住み、火や水といった自然の力を持つ聖霊。
山や谷に住み、世界そのものの力を体現する力を持つ竜族。
地下深くに住み、全ての身に宿す魔力で魔法を操る魔族。
地上の至る所に住む、亜人たち。
この4つの力はお互いに協力し合い、地上に遍く広がる命の守り手として、星たちや星に散らばる全ての命を助け導いていく。
最初に、魔族が動いた、頭だけは異常に賢いのに、個人の能力があまりにも弱すぎた種族である人族を助けるために・・・。
しかし、その実態は、地底深くに潜む事を良しとしなくなった魔族が地上に出るために画策したものであった。
弱い人族に魔法を教え、その恩恵にすがらせる事で魔族の奴隷に引き込み、陰気な地下から澄み渡る地上に君臨するために。
仲良く地上で住まうという考えに至らない所は、魔族が異常にプライド高く、自らが世界を滑るに最も優れていると考え、他の勢力は認めなかったからだ。
魔法を教えて貰った人族の喜びは凄まじく、人族の持つ種族特有の欲望に長けた性質も相まって、次第に力を付けていく。
そうこうしている内に人族は、その頭脳をもって独自に魔法を研究し、魔族の恩恵に頼らない新しい魔術を創り出した。
人族を奴隷にしようとした魔族の目論見は脆くも費え、焦った魔族は、魔力の強い人間を勧誘し、魔族に転生させ取り立てることにより世界の均衡は崩れる。
永い永い年月の間に、魔族に取り立てた人族の影響から、魔族は、欲望に忠実な考えをするものとなり、魔族こそが世界の覇者たるとして世界に対して宣戦布告を発した。
もちろん魔族になるような欲望だけの人族ばかりではない。
その多くが、正義や愛情を持った人々だ。
その為、地上の支配に乗り出した魔族と最初に戦ったのは人族である。
身内の恥は、身内で片付けると強く思ったのかもしれない。
人族はその頭脳と、集団の力と、自ら編み出した魔法を使い対抗する。
その他の亜人種族は、各個に動いただけで人族ほどの対抗は見せられなかった。
さらに魔族は、地上の進行と同時に残る3つの力を抑え、あわよくば自陣に引き込もうと画策し、神族の1部と、竜族の1部を魔族に転生させ取り込む事に成功していた。
この時、聖霊は他の力とのバランスと、全ての生命の保護を優先に中立を保ち、動かなかった。
争いは混迷を極めたが、力の中で1人の天使と1匹の神竜が、地上では人族の中で1人の勇者が現れ、魔族の進行を阻み始めた。
1人の天使は主神の娘である。本来なら主神の子は、必ず女神として生まれる筈なのに、何故か天使として生まれてしまった。
それ故境遇があまりにも特殊で、周りから取り扱いに困られ、孤独だった。
神竜は竜を束ねる長であり、竜の中でも突出した力と、一目でその存在を見分けられる白金に輝く鱗を持ってる。
神竜は他の竜から尊敬と畏怖と恐怖でしか接する事が無い為、こちらもまた孤独であった。
そんな1人と1匹が共闘するうちに『友達』になるのに時間はかからない。
協力プレイは絶大な効果を上げ、天使と竜は、戦場で大きな戦火上げていく。
地上の人族は勇者の出現により、さらに勢いずき、徐々に魔族を地上から追い出すことに成功した。
魔族の不利を見て、慌てて戦いに参加した人族以外の亜人達は、人族に傭兵として加勢するも、体勢は人族により決していたため、魔族を退けた後も積極的に戦いに身をおかなかった事が亜人に対する禍根を残した。
人族は勇者を筆頭とし、有力な人族の下それぞれが国を作り繁栄していく。
取り残された亜人たちは、種族ごとに村を構える程度で、人族に対抗する術も無く、各国にそれぞれ服従していくしかなかった。
一方、力の間では1人の天使と1匹の神竜により、魔族の封じ込めに成功しつつあった。
だが・・・戦火も収束しいよいよ大詰めになった時、邪竜が現れる。
魔族の誘惑に乗り、その身を魔に染めて力をつけた邪竜は、戦いの形勢を変えだす。
元は竜族、叛意した神竜の弱点を付く。
世界そのものの力を体現できる竜族は、どうやって子孫を残すのか?
他と違い、竜の力は圧倒的に強い、強すぎるが故に絶対数も増えないように、世界から強制される特殊な個体群。
世界の強制により、個体数を増やさせない代わりに、自身の死が訪れるとと同時に、子々孫々と力を継承する事が出来るように、竜族は竜玉を持って生まれる。
竜玉こそ竜の卵であり、自身の力を継承させ、新たな肉体と共に新生する事の出来る、唯一の子供となるもの。
竜にとって何よりも大切であり、竜玉を壊される事は死そのものである。
その特殊性から世界は、竜族の持つ竜玉を壊す者に、誰も危害を加えられないように呪いを施していた。
この世で一番忌避されるべき存在への変貌と、自身の未来を絶望へと変えられ、そして・・・心もないただのアンデットに変貌し永遠に朽ち果てていく苦痛を味わうように呪われる。
そこを邪竜が攻めたのである。
邪竜は魔に染まる変わりに、竜族の持つ特性を放棄した。
世界から外れ、竜独自の力は失ったが、元々の堅牢さと魔族よりもたらされた魔法を持って、堕ちる前同様に強くなっている。
竜玉は無くなり、代わりに性別が出来、性交による繁殖で増える事が出来るようになった。
邪竜にとって、もはや竜玉は枷にはならないのである。
だから、邪竜は虚を付き力の弱い竜族を狙い打ち、竜玉を奪い去る。
竜玉を奪われた竜族は、自身に被害が及ぶ事を危惧し、気勢が削がれていく。
竜玉を奪われた竜達は、神竜に助けを求め、竜玉の奪回に望みを託した。
神族・竜族は最大限の警戒をするものの、隙は生まれやすくなる。
魔族と邪竜は隙を突き10個の竜玉を集める事に成功していた。
魔族と邪竜は、最終決戦を悟り、魔族を苦しめる力の一端を無くす事で戦いを押し返す為に交渉を持ちかけた。
曰く、10個の竜玉と1人の天使の交換を。
1人の天使と1匹の竜の連携を裂く事で、2人を無力化し神族と竜族に亀裂を生じさせる為に。
神竜は大いに憤り交渉を跳ね除けようとしたが、竜玉を奪われた竜とそれに同調した他の竜族は交渉を受諾。
神族は主神が反対を唱えたが、神族のほぼ全ての重鎮から扱いに困る存在である天使1人で犠牲が済むならと苦渋の選択をし受諾。
結局、交渉は開始され、魔族と邪竜は竜玉を、神族と竜族は1人の天使を交換する交渉の場に立つ。
両陣営が総出で見守る中、1人の天使と10個の竜玉が交換されようとしていた。
その様を神竜は見る、竜族全体の安寧には竜玉の問題を解決しなければならない。
魔族を地下に封じ込めるには神族と竜族の間に亀裂があってはならない。
解ってはいる、何が今一番重要なのか、何が一番この戦火の納め所に必要なものか。
だが、しかし、神竜は思う。
あの儚げな1人の天使の笑顔を、お互いに歯に衣着せぬ友としてのやり取りを、あの1人の天使が親の主神同様、一直線で真っ直ぐな信頼と親愛をもって己に接してくれた姿を。
両陣営の代表が、双方に向かってそれぞれの要求物を届ける為に動き、すれ違おうとする時。1人の天使は神竜に向かって笑顔を見せた。
その笑顔は、神竜に心配させないように向けたものであり、神竜に『ありがとう』を伝える為の笑顔。
神竜はいつの間にか両陣営の真ん中にいた。
1人の天使を背に庇う様にして立ち、竜玉を持つ代表の邪竜を右手に懸けて。
これこそが魔族の狙った2重の策略。
1人の天使か神竜、どちらか一方を再起不能にする為の、もしくは両方を無力かする為の罠。
邪竜の持っていた竜玉は偽者であり、本物の竜玉は邪竜が体内に飲み込んでいた。
1人の天使を助ける為に動いた神竜は、邪竜を見事に真っ二つにしている。
そう、体内にあった竜玉をも全て破壊して。
突然の事態に動揺する双方の空気が動き出す。
両陣営の睨み合いの中央で、神竜が変化を起こし始める。
10個の竜玉を破壊した呪いは、幾重にもなって強烈な呪力を持って、神竜を苦しめる。
のたうち、苦しみ呪いの呪力は神竜に襲い掛かる。
世界の強制は、神竜といえども逆らえない理、次第に茶色に染まる神竜の姿。
魔族の思惑は見事に叶った!
1人の天使は自分を責め、その場にだらしなく佇んでいる。
神竜はその身を茶色から呪いの強さを表すように漆黒へと変え、禍々しい気を纏い、怒りに我を忘れ始めている。
あわよくば邪竜となり魔族に組み込む事も出来る。
勝った!魔族たちは色めき立つ・・・がその魔族にかつてない強力なブレスが襲う。
勝利を確信した者は、突然の不利を呑み込めず、混乱は異常をきたす。
力のままに暴れる元神竜は、両陣営に向かってその力の全てを解放しだす。
総崩れとなる両陣営は、それぞれの所在に慌てて退却を開始する。
一頻り暴れた元神竜は、その場でただ1人残されていた。
周りにはブレスに焼かれ原形を止める事無く、溶けて交じり合うかつて魔族や邪竜、神族といったものたちの成れの果て。
焼け焦げる匂いと、有象無象の屍の中、足元には1人の天使がいた。
守ろうとしていたからか、はたまた背に庇う事で存在を忘れてたか、それとも1人の天使が動かなかったのが幸いしたのか・・・
1人の天使は悲しみと畏怖を持って元神竜を見上げている。
神竜は悲しみと絶望に打ちひしがれて、1人の天使を見下げている。
耐えられなくなったのか、元神竜は飛び立つ、何処へとも無く。
1人の天使は、飛び立つ元神竜を慌てて追い掛けようとするも、かける言葉が無い事に気付き足を止める。
こうして世界の混乱は収束に向かう。
魔族は地下に逃げ、一応侵攻の矛を収めた。
神族は事態の収拾と受けた被害の為、空の結界に閉じこもる。
地上は人族の下、次第に国家が力をつけ、支配力を高めていく。
そして・・・元神竜は何処へか姿を隠し2度と人目に触れることは無くなり、1人の天使は神族の忌避に堪えられず、自ら幽閉を望み1人孤独に閉じ篭る。
永い物語が終わり、沈黙が2人を包む。
語り部の元神竜は多分ルビさんの事だろう。
竜玉の呪いはルビさんを黒竜へと変えていたのだ。
「トシ坊、あたしにはね、竜玉は無いんだよ。」
この意味は理解できた、呪いにより多分新生する事が出来なくなった。
子に自分の力を与え、未来を紡ぐ希望を消されたんだ。
「それにね、あたしはもう直ぐアンデットになっちまうのさ。これでも一応神竜だったからだろうからかね~、呪いが最終段階を迎えるまでに数百年かかったようだよ。」
優しく微笑みながら、仕方ないといった具合に語り掛けてくるルビさん。
「だからね、トシ坊・・・あたしがアンデットになる前に殺して欲しいのさ。あたしがトシ坊を愛しく思える内に、トシ坊が親とまで言ってくれるうちに」
「でも・・・俺は・・・」
「子に力を与える事がこんなに幸せと気付かせてくれて、あたしの認める力ある者が、この身を殺してくれる事が、あたしの望みなんじゃよ。」
「・・・・・・・・」
「さあ、願いを叶えておくれ、トシ坊・・・あんたは優しい子だよ、だからあたしを殺せないだろうから、悪いとは思うけどこうしたんだよ・・・これを見ておくれ。」
そう言ってルビさんは体を起こし始めた。
唖然とした、悲しみが襲ってきた。
ルビさんの爪は両手とも折れて無くなっている。
体の一部が剥げ落ち、ルビさんの心臓がドクドクンと脈打つ姿が見え、地面に血が溢れ出す。
あの優美な尻尾は無残にも尻尾の先が無くなりだらしなくなっている。
「トシ坊、もうあたしは殺される以外この身を安んじる事が出来やしないのじゃ。痛ましいと思うなら、この心臓を破壊しておくれ。あと、トシ坊を傷つけたくないから爪も尻尾も、邪魔になる鱗もあたしが外しておいたよ。」
確かに、この様子だともう死ぬ事でしか苦痛をやわらげられないかもしれない。
でも、回復魔法なら効くんじゃないだろうか?
直せば呪いを解く鍵が見付かるまで、また一緒に至れるんじゃないか?
いまだ躊躇する俺にルビさんは懇願するように言う。
「ほほほっほ、トシ坊は本当に良い子だね~傷は治らないよ、なんせ呪いで自己治癒以外は受けつかないからね。」
「せめて回復くらい試しても・・・」
「それは無理な相談だね~トシ坊・・・あたしの体はもうアンデット化が始まるようなんだよ・・・さ、安んじさせておくれ、あたしの生きた最後に安らぎをくれたトシ坊よ。」
ルビさんの言う通り、傷口が徐々に腐臭を放ち腐りだしている。
先ほどまでと違い、明らかに異質な気配を漂わせて。
俺はなんて嫌な約束をしたんだろう?
なんで信頼する人を手にかけなければならないんだろう?
でも、ルビさんを苦しみから救いたい。
望みを叶える為にここまで来たんじゃないか。
なら、できる事は一つだけ・・・
「どうしてもそうしなきゃいけないのか?」
「どうしても・・・かね~、トシ坊だからして欲しいんじゃがね。」
俺は、段々アンデット化するルビさんを見て、剣を手にする。
イシュタルさんに貰った剣、そこに魔力を伝え強化し、心臓を狙うように掲げる。
「ん、頼んだよトシ坊。」
俺は叫んでいた。
ただ叫んで突き進み、ルビさんの心臓に剣を突き立てる。
嫌な感触だ、肉を抉り突き刺す先から伝わる鼓動の弱まり、噴出す血の流動。
「ああ、これで死ねる、安心おしトシ坊、あたしは嬉しいんだから。」
「・・・・ルビさん・・・」
「あたしは呪われているから、あたしからトシ坊に力をやれないのじゃ。だから殺される事で、トシ坊に力を譲渡するしか方法は無かったんじゃ。トシ坊・・・あたしの優しい子供・・・」
俺を子と言ってくれるのか?
「殺される願い、力を子に与える想い、あたしに幸せな時間を過ごさせてくれた感謝、全てトシ坊がくれたね。」
「・・・・・・・・・・」
いつの間にか無き咽ぶ俺に、優しく何処までも優しく語りかけるルビさん。
「ありがとや、トシ坊。これで思い残す事は無いわい。」
「・・・・よ・・かった・・ね・・・ルビ・・・さ・・ん」
「ああ、良かったんだよトシ坊・・・トシ坊、この身は死ぬと同時に腐り果てるだろうから、残してやるものが無いんじゃよ」
「そんなの・・・いら・・ないよ・・・」
「そういわず受け取って欲しいんじゃがの~あたしが折った爪と剥いだ鱗と皮、そして尻尾の先をトシ坊に残したいんじゃ。」
「うけ・・・とれない・・よ・・」
「頼むよ・・トシ坊・・・どうか肩身として・・受・・・け取って・おく・・・・・れ・・・」
最後の言葉を伝えたかと思うと、見る見るルビさんの体は腐り、溶けていく。
剣を突き刺したまま、動かなかった俺は溶けるルビさんの体と共に地面に落ちた。
もう、跡形も無く腐り溶けた肉溜まり中、ただただ泣き叫ぶ俺がいた。
高校生になってもこれだけ泣けるとは思っても見なかった。
ただ、暗闇の中ずっと泣いていた。
やっぱり動機付けとか伏線とか難しいものですね
ついつい説明になっている気が・・・反省です。