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華村花音の事件簿  作者: 川端睦月
エディブルフラワーの言伝

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凛太郎の謀略 ―5―


「悠太も寂しがってたぞ」


 咲の心の中を見透かしたように、凛太郎が告げた。


「そう、ですか」


 咲は自分の皿の料理を突っつきながら、応じる。


「しばらく店に顔出してないみたいだな」

「……そう、ですね」


 花音さんとの一件以来、顔を合わせるのが気まずくて、その可能性の高い悠太くんのお店から足が遠のいていた。


「お前、引っ越すのか?」

「え?」


 咲は目を見開いて、凛太郎を見つめた。


「悠太が言ってた」


 凛太郎はそう言って今度は鴨ロースのスモークを口に入れる。


「……まだ、決めてません」


 咲はテーブルへと視線を落とした。


「なんだ。てっきりそうなんだと思って、送別会開いてやったのに」


 凛太郎が意地悪な笑いを浮かべる。


 あ、これ、送別会なんですね。


 咲は頬を引き攣らせた。それを見て、凛太郎がハハッと笑う。


「ま、冗談はおいといて――もしかして、あいつとなんかあったか?」


 核心をついた質問を投げかける。


 咲は俯いたまま、身を固くした。


 観覧車の一件は完全に自分の落ち度だった、と思う。


 気になることがあると、ジッと見つめる癖が、花音さんに変な誤解をさせてしまったようだ。


 花音さんからしてみれば、それが誘っているように思えたのかもしれない。そして、そんな自分に恥をかかせてはいけないと、調子を合わせてキスをしたのだろう。


 そのことを思い出すと、恥ずかしさで消えてしまいたくなる。


 ――あの日も恥ずかしくて、観覧車から降りてすぐに逃げ出してしまったが。


 それは非常に悪手だった、と思っている。時間が経つと共に気まずさはドンドン増していき、今は顔を合わせることすら躊躇われる。


 ふいにスーツの男が咳き込む声で、咲は現実へと引き戻された。


 ――やけに咳き込む人だな……


 チラリと視線を向けると、激しく咳き込んだスーツの男が水を飲むのが目に入った。


「で?」という声に視線を凛太郎へと戻す。


「……いえ、別に」


 咲は素知らぬ顔で料理へと手を伸ばす。


 ふーん、と凛太郎は口をへの字に曲げた。


「まぁ、でも、大体想像はつくけどな」


 凛太郎は意地悪な笑いを浮かべる。


 ――想像がつくって、どこまで知っているのだろう?


 もしかしたら、花音さんから聞いている?


 咲は凛太郎を見返し、ゴクリと喉を鳴らした。下手にこちらから切り出せば、藪蛇になる可能性もある。


「――そういえば、凛太郎さんはトマトが嫌いですよね?」


 だから、咲は話題を変えることにした。先ほどの食べ物の好き嫌いに話を戻す。


「は? そんなことあるわけない……」


 言いかけた凛太郎の口へ、咲はポイッとミニトマトを放り込んだ。


 さっきから料理の食べかけを持っていく凛太郎だが、トマトにだけは手をつけていない。料理を盛り付けるときも、自分から進んでトマトの入った料理は取らなかった。だから、トマトが嫌いなのだな、と思ったのだ。


 口の中で数回ミニトマトを転がした凛太郎の顔がみるみる青ざめていく。


 ゴクリとそれを呑み込み、「咲、お前……」と咲を睨む。が、その怒気はすぐに消え失せた。


 何かを感じたようにハッと息を呑むと、横目でスーツの男を見遣る。その顔が一瞬で引き攣ったまま固まった。


 ――どうしたんだろう?


 咲は不思議に思い、その視線の先に目を向ける。


 ――な、なに?


 咲はギョッとして目を見張った。


 スーツの男が、まるで氷のように冷たい視線を凛太郎に向けていた。


 ――なんで凛太郎さん、こんなに睨まれているんだろう?


 さっきまでの言動を思い起こしても、スーツの男の気に障るようなことは言ってないと思うのだが。


 咲は凛太郎とスーツの男を交互に見比べた。


「……悪い、咲っ。俺、用事思い出したっ」


 凛太郎は席から立ち上がると、そのまま荷物を抱える。


「えっ、ちょっと……待ってくださいっ」


 凛太郎さん、と呼びかけるも、凛太郎は慌てた様子で立ち去っていく。


 咲は小さく息を吐き、テーブルへと視線を戻した。


 咲も今すぐ帰りたい気分だったが、目の前の料理を食べてしまわなければ、という使命感に駆られる。


 ありがたいことに粗方、凛太郎が食べ尽くしてくれていた。


 ――とりあえず、これならなんとか残さなくてすみそうだ。


 咲は皿を引き寄せ、料理に手を伸ばした。


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