ミーちゃんの失踪 ―1―
「ミーちゃんがいなくなった?」
花音が聞き返す。はい、と悠太は力なく項垂れた。
「今朝、ゲージを見たらミーちゃんがいなくて」
「ミーちゃんがいなくなったことに気がついたのは、今朝なのね?」
花音が確認した。
「そうです。トイレを片付けようと思ってゲージを覗いたんです。そしたら……」
「そしたら?」と花音は話の先を促す。
「ミーちゃんの姿がなくて。僕、一生懸命探したんですけど、全然見つからないんです」
悠太はションボリと肩を落とした。
「まず、落ち着いて。ここに座って」
花音は子供をなだめるような優しい声で、椅子を勧めた。
「ありがとうございます、武雄さ……」
悠太は礼を言いかけて、しまった、と口を押さえた。花音の空気がかすかにピリつく。
悠太は所在なげに辺りを見回し、そこでようやく椅子に座る咲に気がついたようだった。
「こんにちは」と愛想のいい笑顔を取り繕い、軽く会釈をした。それから「こちらの方は?」と花音に尋ねる。
「田邊咲さん。生徒さんです」
冷たい口調で花音が答えた。
「あ、そうなんですね」と頷いた悠太の顔が引き攣る。
それでも悠太は無理やり笑顔を浮かべ、「僕、山本悠太です。このビルの一階で喫茶店をやってます」と自己紹介した。
咲も、田邊咲です、とお辞儀をする。
まだあどけなさの残る顔を見る限りでは、自分よりも年下に思われた。二〇代前半くらいなのでは。
それなのに自分の店を持っているというのが、意外だった。
ほんわかした雰囲気の子なのに、実は凄腕の経営手腕の持ち主なのかな?
悠太は咲の向かいの椅子にちょこんと座り、それでですね、と話を続けた。
「ミーちゃんがいなくなったのに気がついて、一時間ほど探したんです。……でもダメでした」
悠太は情けない顔をする。
話の内容から『ミーちゃん』とはペットのようだ。そのペットが見つからなくて、悠太は焦っているらしい。
「もしかして、外に出たのかな?」
心配そうに腰を浮かせた。
「それはないね」
花音は悠太の考えをキッパリと否定した。
「だから落ち着いて、大人しく座ってて」
今にも部屋を飛び出しそうな悠太を嗜める。それから「いい?」と諭すように悠太を見た。
「ミーちゃんは寒さに弱い。だから、この時期、外には出ていかない」
花音の言葉に、「あっ」と悠太は天啓でも得たような表情を浮かべた。花音は呆れてため息をつく。
「……君の話より、実際の現場を見た方が早いね」
さっきから「見つからない」しか言わない悠太の話では埒があかないと思ったのだろう。花音はゆっくりと席を立った。
「あ、じゃあ、私はこれで失礼します」
それを機に、咲も退出しようと席を立つ。
「えっ?」
「……えっ?」
だが、花音が驚いた顔で見てくる。咲も驚いて見返してしまった。
「咲ちゃんも、一緒にどう?」
「え?」
――なぜ?
咲が戸惑っていると、そうですよ、と悠太もうなずいた。
「人手は多いほうがいいですもんね」
悠太は完全に、咲を当てにしている。
「お願いします、咲さん」
悠太は顔の前で手を合わせ、頭を下げる。咲は小さくため息をついた。
「……力になれるかわかりませんが、私もお手伝いします」
不承不承、咲は了承した。




