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華村花音の事件簿  作者: 川端睦月
ブルースターの色彩

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10/92

プロローグ

「なぁ」


 閉じかけたエレベーターに滑り込みで乗ってきた男は操作盤のボタンを押したあと、あからさまに不機嫌な態度で田邊(たなべ)咲(さき)に声をかけた。


 その不穏な空気に、咲は思わずキョロキョロと辺りを見渡してしまう。


「あんたしかいないだろ」


 乱暴な男の声にエレベーターの上昇と相まって、みぞおちの辺りがキュッと締めつけられる。


「私、ですか?」と咲は恐る恐る男を見上げた。


 男はエレベーターの壁にもたれかかり、無遠慮な視線を咲に浴びせる。年齢は二〇代後半くらいだろうか。咲より少し年上かもしれない。

 長い前髪から覗く鋭い目つきは、獲物を狙うハンターのようでつい身震いしてしまう。細身でありながら、背丈は天井に届きそうなほどで、狭いエレベーターの中では圧倒的な威圧感を覚えた。


 咲はゴクリと喉を鳴らし、目の前の男を凝視した。


「あんた、武雄(たけお)の彼女?」


 男が目を細めた。そうすることで、威圧感がさらに増す。


「……武雄さんって、どちら様ですか?」


 聞き覚えのない名前に、咲はパチパチと目を瞬かせた。


「なんだ、あいつ、名前も教えてないのか」


 男は呆れた声を上げる。


「まぁ、名前も知らないような奴が彼女のわけないか」と思い直したように咲を見つめ、頭を掻いた。


 その視線が品定めされているようで、居心地が悪い。咲は身を縮ませた。


 ふーん、と男は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「な、なんですか?」

「……貧乳だな」

「はっ?」

「あいつ、貧乳は好みじゃないんだよな」


 ニヤニヤと意地の悪い顔で笑った。


「なっ……」


 反論しようとしたところで、ポーンと音が鳴り、エレベーターが止まった。階数表示は『3』となっていた。


「じゃあ」と男はもたれていた壁から起き上がる。


 それからドアが開ききらないうちに、さっさとエレベーターを降りていった。


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