弾圧を躱(かわ)す知恵 ~学びの場の守り方~
秘密のプロジェクト――
「ルーナ学舎計画」始動!
ケインとティナは、言葉通りソルノ書房の隣の空き家を借り受け、自分たちの手で改装を始めた。ペンキを塗り、小さな机と椅子を作り、壁にはティナが描いた楽しげな絵を飾った。
資金は、ケインの私財とティナの貯え、そしてケインからの要請に応じたエリアナからの「ラゼルシアの子どもたちの未来への投資」という名の支援金で賄われた。教える人も、当面はケインとティナの二人だけだ。
数週間後、ささやかな「ルーナ学舎」が、その扉を開いた。
大々的な宣伝はせず、近所の子どもたちに
「新しい遊び場ができたよ。おやつも出るし、楽しいお話も聞けるよ」
と声をかける程度だった。
最初は、おやつ目当てや、珍しさから数人の子どもたちが集まってきただけだった。ティナが感情豊かに読み聞かせをし、ケインが身振り手振りを交えながら、絵や記号を使ったゲームやクイズを行った。
そこでは、「文字を覚えなさい」という言葉は一切使われなかった。
しかし、子どもたちは、物語の面白さに引き込まれ、ゲームの楽しさに夢中になるうちに、自然と壁に貼られた絵や、ケインが使うカードの上の「不思議な形(文字や数字)」に興味を持ち始めた。
「ねえ、このマーク、さっきのお話に出てきた竜の絵と同じだ!」
「このギザギザの形(数字の3)、僕が持ってるおはじきと同じ数だ!」
ケインとティナは、そうした子どもたちの自発的な「発見」を褒め、さらに興味を引き出すような問いかけを重ねていった。
「じゃあ、自分の名前を、特別なマークで書いてみるのはどうかな?」
ケインは、一人ひとりの名前を簡単な記号文字で示し、それを真似て書く練習をさせた。自分の名前という、最も身近な言葉が「書ける」ようになった時の子どもたちの喜びようは、想像以上だった。
学びは、強制されるものではなく、発見と喜びに満ちた「遊び」として、子どもたちの心に深く根を下ろし始めていた。
もちろん、この「ルーナ学舎」の存在が、いつまでも秘密にしておけるはずはなかった。
子どもたちが楽しそうに通う姿や、「あそこに行くと賢くなるらしい」といった親たちの間の噂は、当然、地域の有力者や、貴族たちの耳にも入っていた。時折、貴族の使いらしき者が、学舎の様子をうかがいに来ることもあった。
ケインは、スキルで彼らの「警戒度」や「介入リスク」を常に監視しつつ、あくまで「子どもたちのための無償の託児所兼娯楽施設」という建前を崩さなかった。授業内容も、読み書きの訓練と見られないよう、遊びや創作活動の要素を強く打ち出した。
幸い、貴族たちも、貧しい庶民の子どもたちが集まる小さな施設に、すぐさま大きな脅威を感じることはなかったようだ。
子供の頃、こういう場所がほしかったなぁ・・・
続きは、明日19時にアップします。
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