57.冬の水汲みと熊肉ジャーキーの仕上げ
日に日に朝夕の冷え込みが厳しくなり、うっすらと雪が積もる日も出てきた。
大きく息を吸い込むと、体に入ってきた冷気で胸が痛くなるほどで、若干咳き込みながら白い息を吐いた。
地面はそこかしこが凍っていて、霜柱をザクザク音を立てて踏みながら沢へ水汲みに行くのもまた楽しい…と思ったのは最初だけで、朝の水汲みは寒さがこたえるため、気合を入れてこの「苦行」に臨まねばならない。
……というか、シャルロッテと爺さんは、これをこなしていたんだよな?
たしか去年の冬は、ひとりでこの小屋で過ごしたってシャルロッテが言ってたよな?
どうなっているんだ。超人か!?
水汲みに同行すると言うシャルロッテを押しとどめて、自分一人で大丈夫だと、これぐらい騎士団の訓練に比べたらたいしたことないとかっこつけた手前、弱音は吐きたくない。
吐きたくないけれど…騎士団の訓練がキツイ、キツイって、あの程度がなんだ!
今度カタリナに、雪山訓練をすすめてみよう。
実現したら、こんな鬼畜な訓練を思いついたのは誰だと団員全員に恨まれるだろうな…と考えて、ひとりニヤニヤしながら沢から小屋へと上る山道をザクザク音を立てながら歩く。
鼻の頭を赤くしたハルが沢の水をたっぷり入れた木桶を手にひとつずつ下げながら小屋の前まで戻ると、ちょうどいいタイミングでシャルロッテが外に出てきた。
ハルの姿を認めてふわりと笑う様子に、こちらも自然と口元をほころばせながら笑顔で返した。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ちょうどスープができたところなんです。早く中に入ってあったまってください」
「ありがとう、助かるよ」
なんだ、このくすぐったいやり取りは。
密かに照れるハルをよそにシャルロッテは汲み置き用の大きな水甕のふたを開けて水を注ぎ入れ、早く入れと促すようにハルを背中を押しながら一緒に小屋の中へと入ったのだった。
「雪がたくさん積もったら、水汲みはどうしてるの?大変だろ?」
朝食のサツマイモ入り蒸しパンと野菜とベーコンのスープを食べながら、テーブルの向かい側で同じように食べているシャルロッテに尋ねた。
スープを一口飲むたびに、冷えた体中に染み渡るように温かさが広がってゆく。
「いっそたくさん積もってくれたほうが水汲みがラクになるんですよ。雪をすくって溶かせばいいだけですから、沢まで行かずに済むんです」
なるほど、その手があったか。
だから雪がしっかり積もる直前の今が、一番水汲みの大変な時期なのだと説明してくれた。
朝食のあと、雪が本格的に積もる前に熊肉ジャーキーを仕上げておきたいというシャルロッテを手伝った。
屋外用の燻製鍋として使っているという素焼きの大きな甕の底にチップを敷き詰め、甕の上部にセットした木網に先日とんでもないニオイの風味付けをして熟成させていた熊肉を並べていく。
甕を焚火の上に置いて蓋を閉めたらあとは火の様子を見ながら待つのみだ。
チップ自体もクセの強い物を使っている上に、あの風味付けだ。
蓋から漏れる煙のニオイは凄まじい。
それが風下へ向かって流れていくのを眺めながら、もしも今日も刺客が風下のどこかからこちらをうかがっているのだとしたら、たまらずに退散するだろうなと考えて口元が緩むハルだった。
ちなみに、実際に黒ユリの花は「ハエが好んで寄ってくる」と言われる香りがしますw




