52.ハルの回想 ~5年前~ (2)
「あの時、戴冠式の光景を見たんだろう?」
俺の過去の逃亡劇を聞いて、瞳を揺らして動揺しているシャルロッテに対して、この質問は酷だろうかと思いつつも、いい機会だから聞かずにはいられなかった。
シャルロッテはこくこくと頷いて静かに言った。
「赤い髪の王様と白髪の髪とヒゲの司教様がいる光景でした。だから、あなたの髪は本当は赤いのかって聞いたんです」
「つまり、いずれ俺が国王になると?」
「わたしの未来視が当たれば、そういうことになりますね…」
シャルロッテは言いながら目をそらした。
当たればも何も、彼女の未来視はこれまでに外れたことがないと聞いている。
それは本当に俺なのか!?とか、外れる可能性は?とか聞くのは無意味なのだろうな。
クリストファーとシャルロッテが婚約するとして、その後ふたりはどうなるのか…そこまで聞くのは野暮だろう。
「ありがとう。気まずい思いをさせて悪かった」
「こちらこそ、ごめんなさい。わたしが勘違いして5年前の未来視のことをクリストファー殿下に話してしまったせいで、ハルさんの立場を悪くしてしまったかもしれません。そのことをずっと申し訳ないと思っていました」
やはり、わたしの未来視は、人の不幸ばかりを招く…シャルロッテは瞳を伏せる。
ハルが最近、影武者としての仕事を干されているのも、クリストファー殿下がハルのことを避けているのかもしれない。
王都からはるか離れたこの小さな山小屋に派遣されて護衛任務にあたっているのも、その表れだろう。
「いや、俺としてはある意味ホッとした」
「え?」
よく意味がわからないという顔でシャルロッテがハルを見つめる。
「だって、その戴冠式までは俺は少なくとも死なないってことだろう?だったらこの先、任務でもかなり無茶なことできるなーって…」
「えぇぇぇっ!やめましょう、そういう無茶なことは!」
シャルロッテが上半身を乗り出して言うと、ハルは「あははっ」と笑った。
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ラフニール王国・王都
「なぜハルバートを巫女の護衛に?相談ぐらいして欲しかった」
執務室にサイラス・ドリュクを呼びつけた王太子は、不機嫌であることを隠すことなく抗議した。
「相談役が誰に相談するのでしょうね。僕の決定は陛下の意思と同等であるということはご存知でしょうに。不満がおありなら、殿下が玉座を手にしたときに僕をクビにすればいい」
悪びれもせずに笑うオッドアイに苛立ちの募る王太子は手を振り上げた。
「嫌味か!俺が国王になれないと知っているくせに。次期国王はハルバートなのだろう?」
バン!
机を強く叩く音が虚しく響き、舞い上がった書類がひらひらと床に落ちた。
「巫女様の未来視のことをおっしゃっているなら、ハルバート様はいずれ国王になるのでしょうね。でも、あなたが国王にならないと決まったわけではないのでは?」
――くそじじい
王太子の唇は音を発することなく、そう動いた。
「詭弁など不要だ。ドラゴンの襲来からハルバートを遠ざけたのだろう?俺を王城に縫い留めることができて満足か?」
「お答えしかねます」
サイラスは静かに答えると恭しく一礼し、背中を向けて退室した。
その顔がひどく悲しげだったことに、クリストファーが気づいていたか否かは定かではない――。




