48.まんぷく亭のハンバーグ(2)
スモークサーモンは、ルッコラが添えられ粉チーズと黒コショウが散らしてあった。
サーモンはもっと北方で捕れる魚であるため、この村やリリーズ貿易港の特産品ではないけれど、毎年晩秋には旬のサーモンを食べることにしている。
身がしっとり柔らかい半生のソフトスモークで、ちょうどいい塩加減と表面にしっかりと乗った燻製の香りがサーモンの風味を際立たせている。
鼻から抜けていく燻製の香りを堪能しつつ、アルコールが少しあれば…と思ってしまう。
「やばいなこれ。昼間っから酒飲みたくなる」
ハルがぽつりとつぶやき、シャルロッテは「そう言うと思った!」と笑った。
出されたものをチビチビのんびりと食べるには飢え過ぎていた二人は、マッシュルームのマリネもスモークサーモンも、いい勢いで胃袋に納めてしまい、「ハンバーグ待ち」の状態になってしまった。
「護衛の指示は、団長さんからですか?」
一体なぜ、王太子殿下の影武者が自分の護衛騎士なのだろうかという疑問がシャルロッテにはあった。
「いや、サイラス先生からの指示。だから詳しい理由は言えないんだ。おしおきが怖いからね」
ハルは眉間にしわを寄せて声をひそめた。
サイラスのおしおきは、彼の研究室で初めて知り得た情報を研究室の外で漏らした場合にもれなく、くすぐりの刑が待っているという恐ろしいものだ。
シャルロッテも「加齢臭」の一件でいきなりその洗礼を受けたし、おそらくハルもその表情から察するに経験があるのだろう。
二人そろって妙なゾクゾク感に襲われているところへ、メインディッシュのハンバーグとセットで付いてくる丸パンがテーブルに並べられた。
シャルロッテのハンバーグは鶏卵の目玉焼きが乗せられたもので、ハルの分はチーズインだ。
両方とも鉄板で出てきて、ジュウジュウと食欲をそそられる音を立てていた。
ナイフで目玉焼きごと半分に切ってみると、肉汁があふれ出し、中心部分はまだ赤みが残っている。
あとはお好みで、鉄板で焼きながらどうぞということか。
この状態で出すということは、豚肉を使わない、牛ひき肉100%のハンバーグってことね。
5年前、人さらいのメローズ夫婦と一緒にここで食べたハンバーグは鉄板で出された記憶はない。あれはたぶん、お子様仕様だったのね…。
ハンバーグをさらに一口大に切り、表面を軽く鉄板にジュウッと押し付けた後、ソースとトロリとこぼれた目玉焼きの黄身を絡めて口に入れると、ふっくらとした肉から旨味があふれ出した。
鼻から抜けるナツメグの風味が肉の旨味を引き立てている。
さすがカシム村ナンバーワンの『まんぷく亭』の看板メニューなだけはある。
牛肉100%とは思えないほどのふっくら感は、赤身と脂身、つなぎの量のバランスが絶妙の配合なのだろう。
立て続けに3切れ食べて、ふと我に返ったシャルロッテが正面のハルを見ると、すでにチーズインハンバーグが残りわずかとなっていた。
育ちがいいだけに、お行儀は決して悪くない。
マナーはシャルロッテなど比較の対象にならないほどに完璧だ。
しかし、食べるスピードが異様に早い。
これまで王都で美味しいものもたくさん食べてきたはずのハルが、少し笑みを浮かべながら無言でハンバーグを食べる様子を、シャルロッテは笑顔で眺めたのだった。




