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45.帰郷

 ハルに伴われたシャルロッテが騎士団の食堂に入ってきたのをいち早く見つけたのはケヴィン・マクロードだった。


 彼女に小走りに近寄ると、ケヴィンは躊躇なくその細い体を抱きしめて「会えなくて寂しかった」とささやいた。


 この光景はもはや騎士団の食堂では風物詩のようになっていて、最初こそ驚いて固まっていた団員達も、今では「ああ、またやってる」と仲睦まじい若いカップルを生温かい視線で見守るようになっていた。

 もちろん、やっかみや、からかいもあったが、ふたりとも気にならなかった。


 なぜかって、そもそもふたりは恋人関係ではないからだ。

 ケヴィンの姉が実は生きていたと言えないため、むしろ恋人同士だと思われているほうが都合がよかった。

 カタリナまでそう勘違いさせたままになっていることだけは、少々後ろめたかったけれど。


 シャルロッテが未来視の巫女であることを知っている一部の者たちは、ケヴィン・マクロードがシャルロッテを溺愛している様子や、すでに親にも紹介済みであることに心を痛めていた。

 未来視の巫女と王太子殿下の婚約発表は、もう間もなくのはずだったからだ。



 カタリナが奥のほうのテーブルで「えぇっ!?」と大きな声をあげた。

 ケヴィンから体を離して振り返ったシャルロッテは、ハルにつかみかかろうとする勢いのカタリナを見て、ハルが護衛騎士に抜擢されて自分と一緒にカシム村に行くことを知らされたのだなと思った。


 シャルロッテはケヴィンにもそのことを説明した。

「わたしね、しばらくここを離れてカシム村の山小屋に戻ることになったの。春になったら…多分戻ってくるから。マクロード家のみなさんによろしく伝えてちょうだいね」


「ずいぶん急だな」

 驚くケヴィンに、前から決まっていたことだとシャルロッテは笑って言った。。

「ねえ、ケヴィン、ひとつ約束してちょうだい」

 シャルロッテはケヴィンの耳元でささやく。


「いざとなったら、騎士の仕事もわたしのことも忘れて、公爵家のみなさんと一緒に王都から逃げてね。お母様のこと、頼んだわよ」


 にっこり笑って踵を返しカタリナのもとへ行こうとする姉の腕を咄嗟に掴んで、後ろから抱き寄せたケヴィンは、バニラベージュの髪に顔をうずめた。

「まさか、二度と会えないなんてことないよね?」


「もうっ、ケヴィンは甘えん坊さんね。大丈夫よ」

 シャルロッテは、後ろから回された腕に頬を寄せて笑った。




「今日は一段と熱烈だったな」

 馬車に向い合せに座りながら外の夜景を眺めているシャルロッテに、ハルは思い出したようにぽつりと言った。


「え?」

 シャルロッテは何を言われているのかわからずに首を傾げる。

「ケヴィン・マクロードだよ。離れがたそうにしてたなと思ってさ。…それを見せつけられたカタリナの殺気が凄まじくて、俺怖かったよ。なんで俺が護衛なんだってつかみかかられたあとで、今度は嫉妬まみれだもんな」


 シャルロッテは眉をひそめた。

「そうですよね。まさかハルさんがわたしの護衛だなんて、カタリナったらわたしに嫉妬しなんてしなくていいのに」


 シャルロッテのその言葉に、今度はハルが眉をひそめた。

「は?意味がよくわからないんだが。カタリナは自分がシャルロッテの護衛騎士になりたかったのに、副団長の仕事があるからそれが叶わなくて、なんでおまえなんだって俺につっかかってたってことと、それならせめて別れを惜しみたいのにケヴィンがベッタリでシャルロッテとのスキンシップが図れないことで、ケヴィンに嫉妬していたっていう話だよ?」


 シャルロッテはため息をついた。

「ハルさん…あなたとんだ野暮天ですね。カタリナの女心がわからないだなんて…。ハルさんにはあんなに素敵な恋人がいるんですから愛想尽かしされないように…」

「待て!」

 シャルロッテの話を遮ったハルが、頭を抱えている。

「何か勘違いしてないか?誰と誰が恋人だって?」


「誰って、ハルさんとカタリナのことですけど」

 首を傾げるシャルロッテの大きな勘違いに驚いて、ハルは口を半開きにしたまましばし固まってしまった。


「あ、ごめんなさい。もしかして、秘密の関係とかでしたか?わたし誰にも言いませんから安心してく…」

「いやいやいやいや、待て!」

 またもやハルが焦った様子で途中で遮った。


「違うんだ。断じて違う。俺とカタリナは、いとこ同士だから仲がいいだけであって、カタリナのことを男だと思っている俺は、あいつに恋心を抱いたことはこれまで一度もない」


 えぇぇぇっ!いとこ同士!?

 ハルさんといとこ同士ということは、クリストファー殿下ともいとこってことで、じゃあカタリナは、、、

「カタリナって、国王陛下の姪なの!?」


「知ってるんだと思ってたよ。驚かせたならごめん」

 ハルの笑いをこらえている様子が少し悔しくて、シャルロッテも特大の爆弾をお返しすることにした。


「じゃあこっちも言わせてもらいますけど、わたしとケヴィンは実の姉弟なんです。だから騎士団のみなさんが思っているような恋人関係ではないんですよ」


 爆弾は見事に炸裂したらしく、ハルは驚いて再び口を半開きにしたまま固まってしまった。

「え……?えぇぇぇぇっ!?」


「クリストファー殿下から聞いて知ってるんだと思ってました。驚かせてごめんなさい」

 さっきの言葉をそっくりお返しして、シャルロッテは笑った。 




 こうしてシャルロッテは、護衛の騎士を伴って2カ月ぶりにカシム村に帰ってきたのだった。

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