42.竜騎士団
海の向こうの国、オルディスは屈強な竜騎士軍団を保有している。
シャルロッテたちの暮らすラフニール王国よりも南にあり、年中温暖な気候のため寒さに弱いドラゴンの生息地となっていて、ドラゴンとの関係が深い国だ。
竜騎士はドラゴンに騎乗して戦う騎士たちのことで、手に持つ武器は銃や弓が多いと聞くが、中には斧や剣を持ち、接近戦を得意とする部隊もあるという。
部隊の大半は青竜で、それを体の大きい、そして力も強いドラゴンのリーダー格である黒竜か白竜が率いているという。
リーダーのドラゴンに騎乗するのは当然、竜騎士団長だ。
気位の高いドラゴンが背に乗せる人間を選び、そのドラゴンと人間は念話で意思疎通することができる。このパートナー関係はどちらか一方が命を落とすまで続くという。
オルディスには、黒竜や白竜に選ばれた人間が竜騎士団長になるという取り決めがあるらしい。
黒竜の寿命が尽きると、次に生まれかわるのを待つ間、ドラゴンのリーダーと竜騎士団長は空位となる。
空を自由に飛び、炎を吐き、地上を走らせても速い上に泳げる。
ドラゴンは、乗せてさえもらえれば万能で屈強な乗り物だ。
オルディスは、そんなドラゴンを神の使いとして神聖視しつつ軍事利用している国で、国家運営も軍部が掌握している軍事国家だった。
これは、シャルロッテが書庫で「竜騎士」について調べてわかったことだったが、未来視に出てきた白竜の背には誰も乗っていなかったのだ。
乗り手のいない白竜をどうやって操っているのか…。
そこでふと浮かんだのは、先日のキラーマンティスの腹の中にいた寄生虫のことだった。
虫を飲ませた人物やドラゴンを操るような、そんな魔法でもあるのだろうかと調べているうちに、シャルロッテは禁書にまで行きついてしまったのだ。
シャルロッテが順を追ってそのことをサイラスに説明すると、彼は「う~ん…」と唸った。
「まず、乗り手がいないっていうのがどういうことかってことと、念話の可能な距離…乗っていなくてもどこか近くで指示を出している可能性もあるよね」
「ありえません。わたしの知る限り、互いの体のどこかに触れていないと念話はできません。指笛で呼んだり簡単な指示を出すことはできますが…誰も乗っていない状況で攻撃なんて……するのかしら?」
シャルロッテの反論にサイラスは首をかしげる。
「シャルロッテは随分ドラゴンに詳しいんだね?書庫で調べたのかい?」
「……もう少し、調べてみます」
「う~ん、まあ考えがまとまってから教えてくれたらいいけどね。禁書はもう読んじゃダメ!司書にもシャルロッテにはNGって言っておくからね。あと…寄生虫のことだけど、僕は『体内の異物を排出させる魔法』なら使えるよ。意外とこれ高度な魔法なんだ。普通は、体内にできた腫瘍を除去する目的で使ったりするんだけど、それを応用できるかもしれないってことだけは言っておくよ」
サイラスの研究室から居住区エリアに帰る途中も、シャルロッテはずっと白竜のことを考えていた。
あれこれ調べたことをまとめると、オルディスの白竜は竜騎士団のドラゴンたちのリーダーだ。
黒竜の亡骸から白竜が生まれて、白竜は産卵するけれど、その卵からは白竜は生まれない。
ということは、オルディスでは白竜と黒竜が同時に存在することはあっても、きわめて稀な存在である白竜が同時に2体存在することは、ほぼありえない…。
マーガレット先生の研究室にいたルイーズは、3年前にリリーズ貿易港の上空を、オルディスに向かった飛ぶ白竜を見たと言っていた。
ということは、やっぱり……。
シャルロッテは白竜のことで頭をいっぱいにしていたため、廊下の角を曲がってはじめてそこで言い争う声が響いていることに気づいた。
マーガレット先生の研究室にいた弟子たちだった。
昼間と同じく、ルイーズのことを「嘘つき」だと責め、それに対してルイーズも「嘘じゃない」と言い返していた。
まだやってたのか…。
あの人たちの横を通り抜けなければ自分の部屋には戻れない。
どうしようか…と思っていたら、ルイーズと目が合って、彼女の「あ…」という声と視線で、イジワル3人組もシャルロッテに気づく形になった。
4人の視線がシャルロッテに突き刺さる。
正直に言おう。
ルイーズを助ける気などない。そういう学園モノにありがちなどーのこーのは関係者だけで完結していただきたい。巻き込まれたら迷惑だ。
それなのにルイーズときたら、いいところに助っ人が現れた!とでも言いたげな表情で「シャルロッテさん!」と声をかけてきたのだ。
まあ、そうなるよね…。
「頭のおかしなヤツが来た」
ルイーズを囲んでいた3人のうちのひとりがニヤニヤ笑いながらそう言ってきた。
ここでサイラス先生の名前を出せば、きっとこの子たちはビビっちゃうんだろうなあと思いつつ、こんなどうでもいいことに彼の威光をいちいち使いたくないとも思う。
「シャルロッテさんも、もしかして白竜を見たことがあるんですか?」
じっと黙って4人を見つめているシャルロッテに、ルイーズがおずおずと聞いた。
「ええ。炎を吐かれてスカートを焦がされたことがあるの。そのあとしばらくその子と一緒に暮らしていたのよ」
シャルロッテがにっこり笑ってそう言うと、ルイーズを囲んでいた3人はもちろんのこと、ルイーズまでもがポカンとした顔をしていた。
本格的に頭がおかしいと思われたかしら?
シャルロッテは、ふふっと笑うと「お疲れ様」と言って4人の横をすり抜けて自室へと戻った。
その翌朝から、食堂での空気が変わった。
あまり周りをジロジロ見ないようにしているシャルロッテでもはっきりとわかるほどの不躾な視線が浴びせられていた。
「白竜……嘘つき…」
「サイラス先生に贔屓されてる……」
ちらほらと、そんな言葉が聞こえてくる。
魔導研究所は、魔導師の学校のような役割もあって、各地の中等学院を卒業して将来魔導師を目指す15~18歳の若者たちが各研究室に所属しながら立派な魔導師になることを目指して集団生活を送っている。
その後、そのまま研究所に残ってより専門的な研究をする者もいれば、王城の医務室や騎士団の魔導師部隊に勤務したり、出身地に戻って魔導師として商売をする者もいる。
つまり、研究所の食堂を利用しているみなさんはたいてい10代の学生で、シャルロッテが絶対に巻き込まれたくないと思っていた学園モノにありがちなどーのこーのの渦中に見事にはまってしまったのだった。




