13.王都へ
朝食の残りの黒糖蒸しパンは道中のおやつとして持参した。
「こんな豪華な馬車、初めて乗るわ」
カタリナのことだから、馬に二人乗りをして一気に王都へ行くのかと思っていたら、ゆっくりのんびり、おまけに乗り心地のいい豪華な馬車での移動で肩透かしをくらった形のシャルロッテだった。
「巫女様をご案内するんだ、馬に二人乗りってわけにはいかないだろう?」
「偽物かもしれないのに…。わたしは馬に二人乗りがよかったわ」
「シャルロッテは馬に乗れるのか?」
「乗れないわ。でもカタリナとだったら楽しそうだと思って」
カタリナは長い足を組み、窓枠に肘をかけ、頬杖をついて微笑んでいる。
「シャルロッテは見かけによらずお転婆だな」
「そうよ、山暮らしだもの。こう見えても力持ちだし、もしも巨大な昆虫型の魔物と遭遇したらカタリナよりわたしのほうが役に立つと思うわ」
根拠のない自信を鼻息荒く語るシャルロッテがかわいくて、カタリナは声をたてて笑った。
「それは頼もしい。いつか二人乗りで出かけよう。約束する。王都に行ってほかにやりたいことはある?」
「マクロード公爵夫人に…直接会えなくても、元気にしていますってことを伝えたいのと、謝りたいかな。リンド家はわたしがいなくなって清々しただろうけど、公爵夫人は心配してくださったんじゃないかと思うから」
カタリナには、マクロード公爵夫人が実の母親であることまでは話していない。
左目の未来視のことも昨晩言いそびれたままだが「未来視の巫女を探している」とカタリナが言っていたから、そういう能力、あるいは素養を持っているのかもしれない、ぐらいのことは思っているだろう。
「そういえば昨晩言えないままになっていたんだが…マクロード公爵夫人の連れ子が第五騎士団に見習いで入隊したところなんだ。今回の任務には参加せずに王都で留守番をしながら訓練中だよ」
シャルロッテは身を乗り出した。
「―――!まさか、ケヴィン!?」
「そうだ、ケヴィン・マクロードだ。ケヴィンとも知り合いか?」
知り合いも何も、2つ年下の実の弟だ。
くりんくりんのくせ毛で、少したれ目の甘えん坊さんで、「おねえたま」と言いながらいつもシャルロッテのあとをついて回っていたかわいい弟。
「最後に会ったのがケヴィンが3歳のときだから、今どんな青年になっているか想像もつかないけど…騎士団に入ったのね。すごいわ」
後継者がいないのならいざ知らず、後妻の連れ子が公爵家の跡目を継ぐことは、ほぼない。
貴族の婿養子になるか、騎士や学者のような専門職に就くか、町の娘と結婚し公爵家を離れて一般庶民になるかだ。
「王都に行けば会えるから、私が紹介しよう」
「ありがとう!楽しみ!」
王都へ行く楽しみができた。
自分が巫女認定されるか否かはよくわからないが、そこはもう、なるようになれ!だ。
シャルロッテは上機嫌になって、カタリナと一緒にしたいことを挙げていった。
王都で冬用のブーツを買いたいこと。
王都でいま流行中のスイーツを食べたいこと。
シャルロッテの暮らす山の頂上付近に、クロユリが群生する素敵な花畑があること。
晩秋から春にかけてリリーズ貿易港に牡蠣小屋が設置されて、生牡蠣や焼き牡蠣を堪能できること。
リリーズ貿易港から東へ行った国境付近の砂浜は遠浅で、春から初夏にかけてアサリやマテ貝の潮干狩りができること。
「それとね…あとはね…」
シャルロッテの話はずっと続いた。
カタリナは優しく微笑んでそれを聞いていた。
それが全て実現できれば楽しいだろうと思いつつ、ふたりとも何故か胸の奥に嫌な予感が渦巻いていることを、お互い言い出せずにいた――。
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ラフニール王国・王城
「一体いつになったら『心の共鳴』とやらが鳴り響くのだ?」
王太子の嫌味っぽい口調など全く意に介さぬ様子で相談役はにこやかに微笑んでいる。
「連日あれだけのお嬢さんたちが巫女を騙って王城へとやって来ているのにねえ。本物はいつになったら現れることやら」
毎朝きまった時間に王城の敷地の一角にあるホールで行われている「巫女選定」。
そこへ集まった数十人の「自称巫女」を王太子と相談役がぐるっと見回して…。
「はい、みなさんご苦労様。帰ってよろしいですよ」
相談役のその一言で解散となる。
ひとりひとりに面接を行うことも、能力を試す試験もない。
何を聞かれるか、何を試されるのかと気負ってやって来た娘たちは、一体どういう判断基準なのかとポカーンとなったまま、追われるように王城を後にするのだった。
判断基準は極秘にされているが、実は相談役のインスピレーションのみという、呆れたものだった。
いや、それこそが占い師の真骨頂と言うべきか…。
今日も心の共鳴が鳴り響かないままお開きとなり、ホールから王城へとつながる渡り廊下をふたり並んで戻る途中だった。
「殿下こそ、巫女が見つかったらその人を娶るおつもりとか、気が早すぎません?」
相談役がからかうように言う。
「恋愛結婚など面倒なことをする気はない。効率重視だ」
「……それ、巫女様には言わないほうがいいですよ」
「わかっている」
王太子が秘密裏に捜査を進めていたシャルロッテ・リンドがようやく見つかった。
第五騎士団の副団長が昨晩遅くに連れてきているはずだ。
先に罪人とともに到着していた団員によれば「ごく普通の田舎の娘」らしい。
明日の選定に、その娘を紛れ込ませてやる。
楽しみだ。
クリストファーがそんな策略をめぐらせながらも表向きは全くのポーカーフェイスで歩いていた時、相談役が「ん?」と首をかしげて立ち止まった。
そして、渡り廊下の柵から身を乗り出すようにしてキョロキョロと辺りを見回す。
選定を行っているホールは王城の敷地の中でも小高い場所に位置しており、渡り廊下で王城の2階とつながっていて、その渡り廊下の下には、王国騎士団の訓練場があった。
「後継者を見つけました」
相談役が嬉しそうに笑って指さした先には、第五騎士団のハービッツ副団長と談笑しながら訓練場へと向かうひとりの娘がいた。




