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012


「まず、俺たちがやろうとしているのはこのガストロイを乗っ取ることだ」


 シンの口からあっさりと出たその言葉に、話を聞いていた男たちは我知らず唾を飲み込む。

 これまでの話の流れから、シンたちが何か大それたことを考えているというのは分かっていた。

 分かっていたのだが……それでも、まさかこのガストロイを乗っ取ろうとしているというのは、完全に予想外だった。


「えっと……その、何でそんなことを?」

「そうだな。簡単に俺たちのことを説明しておくか。こう見えて、俺は傭兵団を率いている。蛇王って名前だけど、知らないか?」


 その言葉に、男たちはそれぞれ何かを考え、思い出そうとするが、やがて全員が揃って首を横に振る。


「すいません。ちょっと知らないです」


 シンたちと離していた男がそう言うと、他の者たちも同様に自分も知らないと告げる。

 そんな男たちを前にしても、シンは特に怒った様子はない。


「知らなくても当然だろ。まだ傭兵団が出来てからそんなに時間は経ってないし。この辺でも特に何か活動はしていなかったしな」


 この辺りに関係している活動と言えば、それこそガストロイからやって来た馬車が襲われているところを助けたくらいか。

 それも別にガストロイの側でやったことではない以上、男たちが蛇王を知らなくてもおかしくはない。


「そ、そうですか……」


 知らなくても仕方がないといったシンの言葉に、男たちは何と言っていいのか迷い、結局それだけしか口にしない。


「話を続けるぞ。そして俺たち蛇王は、現在とある人物。そうだな、いわゆる……やんごとなきお方って奴に雇われている」


 それでも言葉の途中でアリスの方を見れば、そのやんごとなきお方というのがアリスなのだというのは、男たちにも理解出来たのだろう。

 フードを被っているので、顔はしっかりと確認出来ない相手に視線を向ける。

 アリスが具体的にどのような人物なのかは、男たちも分からない。

 ただし、やんごとなきお方と言われている以上、地位の高い人物であるというくらいは予想出来た。

 ……それでもアリスが王族の生き残りであるとは、気が付かなかったようだが。


「そんな訳で、俺たちは雇われている相手からの依頼で、このガストロイを占拠すると決めた訳だ」

「その、ですね。……もし貴方たちがガストロイを占拠した場合、どういう風にするつもりですか?」


 シンに尋ねる男の顔にあるのは、期待と不安が半々といったところか。

 本当にシンたちがこのガストロイを占拠出来るかどうかというのは、男にも分からない。分からないが、それでも実際に占拠した場合はどうなるのかが気になるのは間違いのない事実だった。

 その言葉に、シンは今までよりも少しだけ男たちに興味を抱く。

 この状況でそのようなことを聞いてくるということは、少なからず自分たちの行動に興味を示しており……協力しようとしているように思えたのだ。

 そんな男たちを前に、シンはどうする? とアリスに視線を向ける。

 視線を向けられたアリスは、フードを被ったまま男たちを一瞥し……やがて、自分に協力するべき相手として認めたのか、シンに向かって頷く。

 本来なら、このような男たちではなくもっと有能そうな人物を協力者にしたいと思わないでもなかったのだが、アリスの立場として使える相手は使わなければならないのも事実だ。


「許可が出た。……もしこの先の話を本当に聞きたいのなら、俺たちに最後まで協力してもらう。ガストロイを乗っ取る途中で逃げ出すことは許さない。もし逃げ出したりしたら、それこそマルクスがその力を発揮するだろうけど、それでも聞きたいか?」


 シンの口から出た言葉に、男たちは息を飲む。

 自分たちの中では最も喧嘩っ早いが、同時に腕力という点では一番上の男が、一撃で伸されたのだ。

 それを思えば、マルクスと呼ばれた男がどれだけの力を持っているのかは明白だった。

 そんなマルクスが力を発揮するというのは、それこそ殺されるということを意味しているのは明かだ。

 だが……それでも、現在のガストロイの状況を思えば、もしかしたら目の前の者たちならどうにかしてくれるのではないかと、そう思える。

 男たちはそれぞれに視線を交わし、無言で意見を交わし合う。

 鉱山での仕事というのは、個人としての力量もそうだが、仲間との連携が大きな意味を持つ。

 落石や毒ガス、モンスター。それ以外にも様々な危険がある場所で共に働いているだけに、お互いの信頼関係は非常に強い。

 だからこそ、こうして視線だけでお互いの意思を確認出来るといったことも出来る。

 ……もっとも、マルクスに殴られて気絶している男は当然この意思疎通に参加出来ていないのだが。

 そして数秒が経過し、やがて代表の男……先程までシンと話していた男が口を開く。


「分かりました。俺たちでどこまで協力出来るのかは分かりませんが、是非手伝わせて下さい。このままでは、このガストロイはどうしようもなくなってしまいます」


 そう告げる男の顔には嘘も何もなく、ただ真剣に自分の故郷たるガストロイを案じる色だけがあった。

 それは、現在の領主の搾取がそこまで酷いということを示している。

 普通なら領主に……貴族に逆らうなどといった真似は、そう簡単に決断出来ることではない。

 だが、この男たちは話を聞いてすぐに判断したのだ。


(もしかしたら、俺たちのことを領主に知らせて点数稼ぎ……って可能性もない訳ではないけど……)


 シンから見て、男たちにそのような真似が出来るとは思わなかった。

 何より、この男たちの表情に浮かんでいるのは、間違いなく領主に対する憤りだ。

 ガストロイの様子を見る限り、一見すれば普通に繁栄しているようにしか見えない。

 この男たちが抱くような、そんな状況がガストロイにあるとは思えなかったのだが。

 とはいえ、それはあくまでも一見しただけであり、実際にこのガストロイがどうなってるのかというのはこの地に住んでいる男たちだからこそ実感出来るというのもあるのだろう。


「それで、どうやってガストロイを?」

「簡単に言えば、領主を殺して俺たちがガストロイを乗っ取る。……出来れば兵士たちに被害を加えたくはないんだよな」


 そう告げるシンの口調には、もしその気になればガストロイの兵士や騎士といった戦力全員を相手にしてもどうにか出来るという自信に満ちている。

 ……実際、バジリスクの能力を持つシンだけに、それは不可能ではない。

 ただし、そのような真似をすれば石像と化した者たちは戦力として使うことはできなくなるのだが。

 それはシンとしても困るので、やはり領主の暗殺という手段が手っ取り早い。


「あ、暗殺……ですか……」


 暗殺というのはシンたちに協力すると言った者にしても予想外だったのか、驚いた様子を見せる。

 だが、すぐにそれが最善の選択だというのを理解したのだろう。

 頷いてから口を開く。


「分かりました。それで、俺たちは一体何をすれば?」

「領主がよく行く場所とかは知らないか?」


 駄目元で尋ねるシンだったが、そんなシンの言葉に男は頷く。


「分かります。十日に一度、劇を見に劇場……ここからでも見えると思いますが、あの劇場に行きます。それも、高い金を出して有名な劇団を呼んで」

「……へぇ」


 あくまでも駄目元で尋ねたシンだったのだが、その駄目元の問いに対し、男からは予想していた以上の返事があった。

 そのことを嬉しく思いながら、シンはアリスとマルクスの二人に視線を向ける。

 すると、当然のようにその二人は頷きを返すのだった。

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