79 傭兵隊の戦闘
「よし、ルジェ頼む」
ロージーはあっさりと説明をルジェに振った。
ルジェは「僕は副隊長なのに……」と不満そうだったが、受け入れる。
たぶん、ロージーは説明が苦手なんだろう。
「そもそも、ベルナード王国軍の進軍速度はすさまじかったんだ。準備をして応じようとしているところに、魔物との混成軍が突っ込んでくる有様だったって聞いた。その話が届いてすぐ、僕達は王都の近くの領地で雇われた」
レンデル傭兵隊はルース王国に住んでいる。
だから問題が起こってすぐに雇われたらしい。
そうしてみんな『通常の戦争ならこんな感じ』だからという調子で準備をしていたのだけど、次の報告が、もう道半ばまで接近してからのことだった。
「とにかく魔物退治の様相だったみたいだね。だから人と一緒に魔物が来ると思っていた兵士達も、遅れをとった。そして魔物が異様に統制されていたから、暴れさせようとか、そういう手段がとれなかったらしい。で、対策を考えているうちに、僕達の近くまであっという間にやってきた……」
そこでぼそっとロージーが口を挟む。
「あの時、逃げるべきだったんだよなぁ」
「結果を言えばね。でも、僕らも情報が足りなかったから、魔物担当と、周囲の人の担当を割り振りぐらいしかできなかった」
「だなぁ」
ルジェの説明に、ロージーもうなずく。
「魔物の数が多かったのかい?」
リュシアンの問いに、ルジェは少し考えてうなずく。
「想定よりは多かった。それよりも……人の言うことを聞きすぎて、的確に軍隊として行動するのが想定外すぎた」
「たいていの魔物は猛獣みたいなもんだし、前に見た魔物を使ってる軍も、鎖で縛りつけて押しとどめて、前方を敵味方なく蹂躙するためだけに放ってたからなぁ」
本来、魔物を軍で運用すると、そういう使い方しかできないようだ。
そりゃ、言うこと聞くわけがないものね。
「人間の指示を聞く魔物……」
ぽつりとつぶやくと、ルジェが言う。
「だからやっかいだった。戦士二十人分ぐらいの強さを持つ相手が、襲い掛かってくるんだ。弓矢の援護を受けて。それで逃げるにしても、敵兵もまだほとんど数が減っていない中だし、魔物を倒さないと撤退もできないしで……。隊のかなりの人数が死んじゃった」
ルジェの表情は、怒りも悔しさも浮かんでいない。
淡々としているけれど、でも剣を拾って、みんなでそれぞれ何本も持って旅をしてくるぐらいなのだ。何も思わなかったわけじゃないだろう。
一呼吸置いて、ルジェが続けた。
「あれがなんだったのか、調べたくてルース王国に再侵入して、そこで閣下と会った。一緒に見つかりそうになって脱出した縁と、金額で仕事を受けたわけだけど。閣下が早く国内のある領地に行く必要があるっていうから、俺達は仲間を拾ってから向かうために、遅れて到着した」
「あれから、何かつかめたかい?」
リュシアンが質問すると、ロージーが渋い表情をする。
「結局、魔物を従えている方法が、魔術なのか薬なのかはわかんねーな。人の指示通りに動いていても、時々錯乱したように暴れることもあるのは間違いない。だが、戦場で必ずそうなるとも限らないんだよな。それと……人間を、餌に与えているのを見た」
最後の言葉に、さすがの私もうっと顔をしかめてしまった。
「ベルナード王国軍に連れて行かれていたルース王国の人達は、餌だったと?」
リュシアンの方は、淡々と尋ねる。
「全員がそうとは限らないかなー。でも魔物の数は多かったからな。戦争の後、だいぶん死んだみたいだけどさ」
ルジェが付け加える。
「勝敗が決した後も、不思議だった。魔物に追いかけさせてもおかしくはなかったし、僕らもあと半分ぐらいの人数に減らされるのを覚悟してたんだけど。追ってこなくて。偵察してみたら、魔物が自壊してた」
「自壊……?」
「あー、こう、炭みたいに真っ黒になったかと思ったら、ぼろぼろと固めた泥が崩れるみたいな感じで」
ロージーの言葉に首をかしげる。
魔物が?
「普通は、倒さない限り寿命で死ぬものだが……」
リュシアンもいぶかしげな表情だ。
「でもなぁ、見たんだからしょーがねー。そのおかげで、ベルナード王国軍の兵士もこっちを追って来なくなって、俺達は無事に国外脱出ができたってわけで」
一拍置いて、ロージーは続けた。
「ただ傭兵家業をしていくにあたって、もう一度ベルナード王国軍とあたることも考えられる。アルストリア王国からも逃げたとして、他の国にもあの調子で攻め込んで来たら、とれる仕事ってのは全部対ベルナード王国軍になるからな。で、打開策がわからないかなーと思って、俺達は再侵入していたわけなんだよなー」
ロージーの言うことはもっともだ。
転職しない限り、戦争や紛争で稼ぐ気なら、ベルナード王国軍と当たることは覚悟しなければならない。
(たぶん転職しても、何も知らないと逃げられないんじゃないかしら)
一か月で一国を占領。
三か月後すぐに隣国へ進軍とか。
どう考えても、周辺国を一年で制圧できてしまいそうだし、その範囲から逃れても、翌年には侵略してくるかもしれない。
「魔物が自壊する理由がわかればいいんだけどな……」
リュシアンがつぶやく。
たぶん、この場の全員が同じことを考えただろう。
「とにかく情報提供ありがとう」
「料金もらってるから」
ルジェは返事をした後、これからのことを話す。
「それで、このハルスタット領にはいつまで雇われればいい?」
まずリュシアンは、私に確認してきた。
「一応、よほど膠着しなければ半年もあれば、引くかこちらが逃げるか決まると思う。どうかな?」
「それでいいわ」
三か月後以降も傭兵隊が必要なら、それは籠城するということだ。
敵は素早く占領していくことが得意なようだから、たぶん、こんな小さな領地で長期の籠城戦なんて望まない。
戦闘開始から三か月もいてくれたら、十分だろう。
私の意見を受けて、リュシアンはロージー達に提案する。
「半年。いくらになる?」
「こっちも人数減ったからな。金貨一人30。これは何人死んでも変わらない。それでどうかな? 閣下は」
「破格だね」
全員で二十人いるから、金貨600枚。
でもそれで、半年も魔剣を使える傭兵を雇えるなら安い物だ。
ロージーは頭の上で手を組んで、渋い表情で言う。
「ことベルナード王国軍相手だと、役に立つかわからないからな。全滅しそうだったら逃げる。一緒に脱出するなら、半額返金するさ」
「逃げる時もお世話になりたいから、返金はいいわ。ただ、半額は先に払えるけれど、残り半額は待ってくれる? 急いでお金になりそうな物を作って売るから」
私がそう言い、手を差し出す。
合意してくれたらしく、ロージーは私の手を握り返してくれる。
「ところで、作って売る?」
「ええ。錬金術で稼ぐから」




