78 魔剣使いの傭兵隊
「魔剣を? それは珍しい……」
魔剣は、魔道具師が作る剣だ。
魔術を込めた魔石をつけ、魔道具師がその魔力が剣を持つことで発動するように細工をして、魔術師ではなくとも使えるようにしている。
ただし、かなり高価だ。
魔術が込められた魔石だけでもかなりの値になり、魔道具そのもの自体も高価。
普通の傭兵が持てる物じゃない。
けれど魔道具師自身が作った物をあげるのなら、可能だ。
「レンデル博士の教えを受けた方々だから、魔剣の扱いを心得ているということなのね。皆さん学もおありなんでしょう」
魔剣を使うのには勉強が必要だと聞いたことがある。
そもそも魔道具師の養子なのだから、礼儀作法は度外視でも知識は学習しているはず。
するとロージーが嬉しそうな顔になった。
「よく知ってるみたいじゃん、領主ちゃん」
領主ちゃん!?
ものすごく斬新な呼び方に、一瞬あっけにとられた。
「あ、びっくりした顔してる」
「うん、かなりびっくり。でもロージーの言動は治らないからあきらめた方がいい」
ルジェの助言といっていいのか迷う言葉に、私はとりあえずうなずいておいた。
まぁ、仲良くやっていきたいし。
問題の日まで、色々協力してほしいし。
部屋の隅にいたセレナが、ちょっと目を吊り上げていたけれど、リュシアンも彼らの言動は仕方ないと思っている様子だ。
ロージーも悪びれる様子はない。
「普通さ、魔道具師のせんせーの養子になったからって、学があるなんて思わないわけよ。だってみーんな、魔道具師なんて鍛冶屋とか盥職人みたいなもんだと思ってるから。なんでそんなんわかったの、領主ちゃん」
なるほど、ロージーもこっちの言動に少しびっくりしたようだ。
「私、錬金術師なんですよ」
魔道具師とやることは違うけど、勉強が必要だろうというのは理解できる職種だ。
するとルジェが、お菓子を飲み込んで目を丸くしてこちらを見る。
「錬金術師、初めて見た! 剣がダメになったら修理できるの、魔道具師か錬金術師だって先生が言ってたんだ。治せる?」
聞かれて私はうなる。
「たぶん、魔剣の回路そのものをどうこうは難しいと思います。魔石の方の修復とか、剣そのものの修復なら手伝えると思いますけど」
魔道具師は回路なるものを描いて、魔石の魔力を物に宿す技術を持っている。
その回路はさすがに勉強しないと描けないし、理解してても魔力がそれほどない私にできるかどうか怪しい。
「へぇー、少しでも調整できるんだとしたら、今までで最高の依頼主になりそー」
ロージーがそう言って手を差し出してくる。
「これからよろしく! 代わりに、遺品の剣、ちょっと見てできそうだったら治してくんない?」
どうやら私のことを依頼主として認めてくれたようだ。
主に技術目的みたいだけど、それでいい。
(手に職つけた甲斐があったわ)
こんなところでわが身を助けることができたのだから。
たぶん、気ままな彼らのことだから、私のことが気に入らなかったり利益がなさそうだったら、リュシアンから受け取った金銭を返して立ち去りそうだったもの。
手を握り返しながら私は言った。
「よろしくお願いするわ。で、遺品の剣?」
「ベルナード王国軍とやりあった時に、さすがに仲間が大量に死んでさー。俺達遺体を拾えない時は、剣を回収することにしてんだ。そんな剣が沢山あってさ」
あっ、と声を出しそうになった。
彼らが持っていた沢山の剣。自分の物かと思ったら、遺品だったのか……。
ルジェも言う。
「先生の遺作でもあるから、拾えた分だけでも使えるようにしたいんだよね」
拾えた分だけ。
ということは、拾えなかった物もあるのか。
「できるかどうか、見てから判断したいわ。何本か借りれる?」
「ほい」
「はいこれ」
二人が一斉に、自分が持っていた剣を差し出してくる。
長剣と短剣の二つだ。
「できなかったら魔道具師に依頼とかしてほしーんだよな」
一応、職種違いではあるからか、ロージーが気遣ってくれる。
言葉は乱暴だけど、相手の様子をよく見て配慮してくれる人のようだ。
「そちらは私で手配できる。先に判断を任せてもいい? シエラ」
リュシアンが助け船を出してくれたので、わたしはうなずく。
「うん。じゃあ一度お借りします。一週間ぐらい時間をもらえると嬉しいわ」
「よろしくっす」
ロージーが軽い調子で返事をした。
「それにしても……ベルナード王国軍との戦いで沢山亡くなられたこと、ご愁傷様でした」
礼儀としてそう言うと、ロージーもルジェも目をまたたく。
「おいルジェ……。俺、はじめてご愁傷様とか言われた。喪主になった気分」
「君は喪主でしょロージー。兄弟も亡くなったから、こう言われてもおかしくないんだなって、僕も再発見した気分だったけど」
仲間や兄弟が亡くなったことも軽い調子で話しているのは、傭兵という稼業をしているせいなのだろうか?
そしてルジェが私に言った。
「気遣いしてくれて感謝します。僕ら式の葬儀はしたから、気にしないで」
「はい、わかりました」
「そういえば」
そこでリュシアンが言葉をはさむ。
「あの時は詳しく聞けなかったけど、戦闘時のことを聞かせてくれるかい?」
「あー。あの時はベルナード軍から隠れながらだったし、むしろあの状況で金渡して契約しようって人がおかしいんだけどさー」
ははっと笑うロージー。
どうやらリュシアンがレンデル傭兵隊と出会ったのは、とんでもない状況の中だったようだ。
でもそれでリュシアンは彼らを雇おうと決めるだけの、何かを感じたのだろう。
一方で、ベルナード王国軍との実際の戦闘についてはまだ聞いていないようだ。
たぶん、そのあたりの情報収集も含めて彼らを雇おうと即決したのだと思うけど。
するとロージーが目を細めた。
「大将の聞きたいことは、俺達の思い出話じゃなくて、戦場での敵さんの様子だろ?」
「よくわかっているじゃないか。頼むよ」
リュシアンにうながされ、ロージーが「いいよ」とうなずく。




