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77 傭兵さんいらっしゃい

 二人の青年の背後には、十数人の男性達がいた。

 誰もが薄汚れた旅装にマント。様々な剣を持っている。

 十代もいるけれど、ほとんどが二十代から三十代の若い人達ばかりだ。


「ようへい」


 まじまじと彼らを見ている私に、リュシアンが説明してくれる。

 

「彼らはちょっと特殊な傭兵隊でね。ベルナード王国軍との戦争に、ルース王国内で参加していた。情報源としてもこんなに最適な人はいないだろう」


「戦争に参加していたのなら、間違いない人選ですね」


 しかも生き残っている。

 それだけでも、すごいことだ。

 逃げるべきだという機を見るのに長けているのか、逃げられるだけの力を持つ傭兵隊なのか、どちらにせよ私にとっては有益なのには間違いない。


「逃げる機が勘でわかる人達なら、みんなで脱出する必要が出て来た時に、タイミングを教えてもらえばいいものね」


 ルース王国での戦争は、驚くような速さで終結した。

 リュシアンからは、ルース王国は多大な被害を受けたらしいことも聞いた。

 ということは、逃げることができた人も少なかったはず。

 そんな中、アルストリア王国まで来られたのだから……。被害は全くなかったわけではないだろうけど、逃げる機を見逃さずにいられたのだ。


 しかも次は、彼らにとって初見で迎える戦争ではない。

 どのあたりが一番逃げやすいのかも、わかっているだろう。


 そんなことを言っていると、白髪の青年は「ふふん」と言ってニヤニヤ笑う。


「さてはその子が、領主ってことか?」


「そうだよ、ロージー。君達に雇われてほしい領地の領主、シエラ・レーヴェンス子爵だ」


「女子爵、珍しい」


 黒髪の少年がぼそりとつぶやく。

 その様子を見て私は言った。


「この二人が、傭兵隊の頭なの? リュシアン」


 リュシアンがうなずく。


「やや特殊な傭兵隊でね。彼らはレンデル傭兵隊という。……とりあえず、二人は自己紹介もかねて話をしよう。他の隊員を休ませられる場所はあるかい、シエラ」


 私はうなずく。


「内郭の部屋はもうほとんど掃除が終わってますから、そこへ。南側の方が全員で固まって宿泊できていいかもしれませんね。案内させます」


 私は近くにいた兵士を三人呼び、一人は屋内のことを取り仕切っているギベルや執事への連絡を頼み、残り二人に部屋へ案内してもらうことにした。


「僕もちょっと、休みたい」


 黒髪の少年がげんなりしながら言う。

 ルース王国からここまで移動してきて、疲れたのだろう。

 まだ若い少年なら、なおさらだろうと思ったけど、横にいたロージーという名の白髪の青年がぽこっと頭を叩いた。


「せんせーに、そういうのダメだって言われてんだろルジェ。喧嘩も金の話し合いも、最初がカンジンなんだよ最初がさ」


「うー、先生の言うことだから我慢する」


 少年は痛がりもせずに、悩みつつ返事をした。

 なんだか、この二人は友達同士のような雰囲気だ。

 何より不思議なのは、若い二人が傭兵隊を率いていることだ。

 強いのかもしれないけど、普通、それだけで沢山の人を率いることができるわけじゃない。

 傭兵隊は身分で決められている貴族家とは違うのだから、そういった方面でも才覚のある人なんだと思う。

 外見からは全く想像もつかないけど。


「じゃ、お前ら大人しく寝てろ」


「そっちも粗相すんなよ、雑草育ち」


「お嬢さんに目がくらんで、タダで仕事受けるのだけはやめてくれよな」


 ロージーが傭兵隊の人達に声をかけると、笑顔と軽口が返る。

 そうして傭兵隊の人達が去る中、私達も館の中へと彼らを案内した。


 入口から近い応接室に入ってもらう。

 ロージーもルジェも特別驚きもしないのは、傭兵隊として交渉相手の貴族の家に出入りしたことがあるからだろう。


 向かい合わせのソファに座ると、セレナが手配してくれていてお茶がすぐに並べられる。

 すぐに飲めるよう、水も用意した。

 お菓子が置かれた瞬間、ルジェの目が輝いた。

 甘い物が好きらしい。


「どうぞ、長旅でお疲れでしょうし、喉を潤してください」


「こりゃ、ご配慮いただきましてっと」


 ロージーが申し訳程度に言うと、二人とも本当に遠慮せず水を呷った。

 そしてルジェはすぐにお菓子をほおばり始める。

 なるほど、本で読んだ以上にお行儀はいいけれど、傭兵って遠慮がないのは本当みたいだ。


 それぐらいの無礼も許せないなら、傭兵を雇うのは無理だという書き方をしている伝記があった。

 他の本では、自分達を動かす度量があるのか、自由に動いても邪魔しないような人物かを傭兵側もその対応で見るのだという記載もあった。


(私は依頼通りにことを運んで、時期が来るまでは町を荒らさないで生活し、防衛の手伝いをしてくれたらいいと思っている)


 リュシアンもそうだろうと思うのだけど。

 横目で隣に座ったリュシアンを見ると、万事こころえたような表情で彼はうなずいてみせた。


「まずはシエラ、彼らについて紹介しよう。彼らは先ほど言ったように『レンデル傭兵隊』だ。人数は現在二十人。元は百人ほどいて、それなりに名が通った傭兵隊だ。ルース王国を本拠にしていて、私は関わったことがなかったけれどね」


 話の間、当の傭兵隊の二人は黙々と菓子を食べていた。

 ロージーもお菓子は好きなようだ。


「彼らは、アニス・レンデルという魔道具師の養子達が始めた傭兵隊で。珍しいことに、傭兵隊もほぼ全員が魔剣を所持してるんだ」

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