2024/03/23
5114.
「これでヒロイン勢揃いだな。どうだ兄? ターゲットは決めたか?」
「“ターゲット”などという言い方はやめてもらおう。これはゲームじゃないんだ」
「いやゲームだろ。何言ってんだよ」
「没頭頂けているようで何よりです。さぁ、まだまだ続きますわよ?」
5115.
「それって結局ハーレムじゃねぇか!」
「うっはぁ、ついに篠田も女運に恵まれる時が来たか~」
「そんな言い方はやめてくれ。確かに女子ばっかりになったけど」
「言いたくもなっちゃうよ~。女友達どころか“話せる女子”すらアタシぐらいしかいなかったのに~」
5116.
「これは、英介が誰かとくっついてしまうのか、そしてそれは誰なのかが見物だな~。いやぁ楽しみ楽しみ!」
「お前なぁ・・・人の境遇で遊ぶなよ」
「いいじゃんか別に。人間関係ってのは、見る楽しみもあるんだぜ」
「そういう神原は、手当たり次第デートするよりもうちょっと一途になった方がいいんじゃないかと思うけどね~」
5117.
「それで、転校生だっけ?」
「あぁ、今日から来るはずだ」
「どんな子なんだろ~。篠田が鼻の下を伸ばすぐらいだから相当だよねぇ」
「伸ばしてなんかないからな?」
5118.
<昨日本人から頼まれて、今村先生の許可もさっき得て、クラスのみんなには転校生が来ること、家の都合で常に道着を着なきゃいけないことは伝えてある。もちろんそれをやったのは笠井さん。俺じゃ朝のホームルーム前にみんなの注目を集めようとしても見向きもされないだろう>
ガララララッ。
「よーし朝のホームルームを始めるが、笠井から伝えてもらった通り、新しい仲間が来ることになった。入谷、いいぞ」
「はい」
5119.
<そろそろ、自信のなさそうな足取りで、強そうな道着を身にまとった入谷さんが教室に入ってきた。事前に伝えてたとはいえ、教室がザワつく>
「おぉ・・・」
「マジで道着だ・・・」
「でも可愛くない?」
5120.
「入谷、自己紹介」
「はっ、はい! えっと、前の学校で上手く成績を残せなくて転校することになって、こんなカッコしてますけど、入谷鶇美です! よっ、よろしくお願いします!」
パチ、パチパチパチパチ。
<いきなり転校の理由まで明かされてみんな反応に困ったのか拍手はまばらになったけど、そんなに雰囲気が悪くなったとかではない。これならまぁ、笠井さんや俺が大してフォローしなくても上手くやっていけそうだ>
5121.
「親が道場をやってるせいで色々と制約を受けてしまっている子だが、非常に可愛くていい子だ。空手は道場の方で続けることになって、精神的な成長の糧にする目的で文芸部への入部が決まったから、笠井と篠田を中心に仲良くしてやってくれ」
「「「「は~~い」」」」
<この辺りも多分、先生からみんなに伝えて欲しいと入谷さんが頼んだのだろう。あらかじめ知っておいてもらった方が楽だという気持ちは分かる>
「それじゃあみんな、よろしく頼むよ」
5122.
<休み時間。入谷さんの周りには早速クラスメイトが集まった>
「それって柔道? それとも空手とか?」
「いやいや、実は聞いたことないようなマニアックな競技かもよ?」
「あわわわ、えっと、空手、です・・・」
5123.
<いきなり人が押し寄せたことで入谷さんも戸惑ってるみたいだ。多分本人として、誰も寄ってこなくて笠井さんと俺が来ることを想定してたんだろう。現状で助けられる部分はない、かな。笠井さんの方を見ると目が合ったけど、苦笑いするしかなく、このまま見守ることにした>
「空手なんだー。家が道場やってるってことは、全国いっちゃう感じとか?」
「あぁっ、えとえと・・・」
「入谷道場って、知る人ぞ知るというか、業界じゃかなり有名だぜ? 元日本代表夫婦がやってて、門下生からも日本代表が何人も出てるって話だし」
5124.
「あわ、あわわわわわわわ・・・」
「ちょっとなに困らせてんのさー。成績残せなくて転校されられたって話だったじゃん」
「あっ、ごめんね? 嫌なこと思い出させちゃったかな?」
「お、俺も、あの入谷道場の人だと思うと、つい」
5125.
「あっ、えっとっ、ワタシは大丈夫、だよ。全国大会に行けたことなくて、まだまだ強くならなくちゃいけないって、自分でも思ってるし」
「そっかぁ。元日本代表が親だと大変だねぇ」
「あぁ~っ、でも自分の学校から全国行っちゃう人が出るかもって思うと楽しみ~~っ!」
「だよなぁ。うちの学校スポーツ全然だし。だってあの入谷道場だぜ? 門下生どころか実の娘が来たとなると興奮するなって方が無理な話さ」
5126.
「てか入谷さん、もといツグミちゃん。普通の服着たら絶対可愛いよね!」
「それ思った! 道着だけなんてもったいない。許しさえ出れば買い物行ってアレコレ着せ替えたりできるのに~っ。でも上から重ねて写真撮るだけならオッケーだよね? ウィンドウショッピング行こうよ!」
「こんな格好でも良かったら、たまになら・・・。家での稽古もあるからあんまり遊びには行けないけど、よろしくね」
(それだけの毎日なら凄く楽しそうだったんだけどなあ。うぅぅ~~っ、せっかく人間になれたのに何でこんなことになっちゃったんだろ・・・)
5127.
<ワイワイ、ガヤガヤ。なんだかんだ、入谷さんは応対で大変そうだけど盛り上がってるみたいだ>
「この分だと篠田や笠井さんの出る幕はなさそうだね」
「それで済むんなら何よりだよ」
「とか言って英介、実は寂しかったりするんじゃないのか?」
5128.
「少し寂しい気持ちも否定できませんが、」
<笠井さんだ。いつの間にか近くまで来てた>
「クラスのみんなともすぐに打ち解けそうで安心しました」
「だな」
5129.
「笠井さ~~ん。篠田く~~ん」
「入谷さん。もういいのですか?」
「うん。質問攻めの疲れが表に出ちゃったみたいで、みんな遠慮してくれて。やっぱりワタシもまだまだだね」
「そこまでストイックにならなくても・・・」
5130.
「入谷さん文芸部に入ったんだよね? アタシ、篠田の第1親友やってる桐葉ゆかり。第2親友の神原ともどもよろしくね」
「誰が第2親友だ誰が。同性なんだから俺が第1のはずだろ? どっちにしてもよろしくね、入谷さん」
「あ、うん。よろしくね」
(篠田君のお友達も優しそうな人で良かった~っ)
5131.
「クラスのみんなは普通に接してくれそうですが、問題は移動教室やお手洗いで廊下を歩く時ですね。背景事情などを把握してない人が多いですから」
「初めのうちは好奇な目を向けられることも多いかもだけど、時間が解決するんじゃない? しばらくはトイレも購買もアタシや笠井さんが付いて行けばいいしさ」
「ありがとう。正直ちょっと、1人で歩くのは怖くて・・・」
「気にしなくていいですよ。空手の方で私たちに協力できることはないので、せめて学校生活だけでもサポートさせてください」
5132.
「ちえっ。そういうのは女子に任せるしかないかー。そうだ入谷さん。試合の応援に行くのはオッケー?」
「え? う、うん。ちょっとプレッシャーになっちゃうけど、嬉しい、かな」
「いよっしゃあ! 友達が頑張る姿を応援するのって憧れてたんだよなぁ~」
「少なくとも都大会の上位には行くってことだもんねえ。期待しすぎるのも良くないって分かってるんだけど、やっぱりそういう気持ちは抑えられないなぁ」
5133.
「どのみちプレッシャーは親から掛けられちゃうし、学校のお友達に見守っててもらえるなら、そっちの方が安心できるかも、とか考えちゃったりして」
「私たちは私たちなりに、入谷さんを支えられるよう努めましょうか」
「ありがとう、笠井さん。それにみんなも。ワタシ、全国行けるように頑張るね!」
「いよっし、その意気だよ入谷さん!」
5134.
<そんなこんなで、入谷さんもすぐに普通に過ごせるようになって10月も中旬。結局のところ喋ってるか本を読むかで創作活動なんてしないままに文芸部の日々は過ぎていったけど、楽しく過ごせていた。そんな時だった>
「文化祭でコスプレをやらない?」
<穂照先輩が、そんなことを言い出したのだ>
「「「「コスプレ?」」」
5135.
「コスチュームプレイよ? マンガのキャラクターとか、ナースとかメイドとかの服を着て、それになりきるの」
「それは私でも知ってますが・・・どうしてそんなことを?」
「楽しそうだから♪ それに、文化祭ってちょうどハロウィンの時期と重なるでしょ?」
「理由になってませんケド・・・」
5136.
「しょうがない、これを言うしかないかぁ」
「何らかの事情があるようにも思えませんケド」
「ほら、この部って、文芸部の割に一切創作活動をしてないでしょ? コンテストに出すとかもしてない訳で、それは生徒会としては黙ってられなくなっちゃって、要は活動実績残しましょ♪ ってこと」
「思ってたよりシリアスな事情だった!」
5137.
「そういうことでしたか・・・ですが何故コスプレを?」
「それじゃあ、何か作って作品を展示する?」
「え、無理です無理ですそんな2週間で!」
「じゃあ決まりね♪ みんなでコスプレするわよー?」
5138.
「いいじゃないですかコスプレ。楽しそうですし」
「でしょ? 一応文芸部だから、何かの小説の世界を再現、とかにしちゃってカフェを開きましょうよ。 あ、入谷さんは無理のない範囲でいいからね? 親御さんに見つかっちゃうと大変だから」
「はい。1人だけ道着は寂しいですけど、カフェやるのって楽しそうですし、お料理とかもやってみたいですから!」
「これはもう決まり、みたいですね・・・」
5139.
「笠井さんは、やっぱり及び腰?」
「はい。人に見られると思うと、なんだか恥ずかしくて」
「何を言ってるの。笠井さんがコスプレでウェイトレスやったら大繁盛間違いなしなんだから」
「大繁盛で大勢の人に見られるなんて絶対に嫌ですよぅ」
5140.
「それで、肝心の衣装はどうするんですか?」
「まずは演劇部に頼んでみましょう。使わせてもらえる衣装を見てカフェのコンセプトも考えるのがいいんじゃない?」
「そうですね! コンセプトをイチから考えるのって難しそうですし」
「もう話は付けてあるから、行って見ましょ♪」
5141.
<さっそく全員で演劇部へ。というか先輩、俺たちにコスプレの話をする前に演劇部に話を付けてたのか。さすがだなあ>
「やっほ~。例のブツ、準備できてる?」
「それはもう、滞りなく」
「何で怪しげな取引みたいなコト言ってるんですかこの人たち・・・」
4152.
「これが穂照生徒会長の分で、これが笠井さん。こっちが深山さんでこれが男子の人の分、そしてこれは、折られてしまったモップの分!」
「「「モップはテメェが!」」」
「この人たちは何をやってるんですか?」
「演劇部だからたまに熱が入っちゃうことがあるみたいなのよ。温かく見守ってあげてね、深山さん」
4153.
「それじゃ、レッツ試着タ~~イム! 入谷さん、悪いんだけど少し待っててくれる?」
「はい! ワタシは混ざれなくて申し訳ないんですけど、楽しみにしてます!」
「あっ、篠田くんは、覗いたりしちゃダメだよ?」
「しませんよそんなこと! そもそも俺も着替えるんですから」
4154.
「あ、篠田君おかえり。わあぁ、白いタキシードすごく似合ってるよ!」
「あはは、そうかな・・・」
「みんながどんな衣装なのか、楽しみだね」
「あはは、どうかな・・・」
5155.
「おっまたせ~♪」
<!?>
「わあ!」
<現れた先輩は、なんというか、はい。コメントを差し控えさせていただきます>
5156.
「すっご~~い。サキュバス、ってやつですよね?」
「うっふふ♪ そうみたい。篠田くんみたいな年下の男の子を惑わせる魅了の悪魔だよ? せくしぃでしょ?」
「いやー・・・まあ」
「あはは、反応に困っちゃうね・・・」
5157.
「やっぱり篠田先輩もフツーの男子なんですね。バーカばーかバーーーカ」
「さすがにこれは・・・深山さんはナース?」
「そうですよ? 先輩がヘンな気を起こさないようにクスリを飲ませないといけないみたいですね」
「待って待って待って! 深山さんも似合ってるから許して!」
5158.
「なんて取って付けたような言い方ですか・・・どうせ奈々先輩の方が楽しみなんですよね」
「そんなことは・・・」
「ほぉら笠井さん、篠田くんが楽しみに待ってるよ?」
「うぅ、楽しみになんてしなくていいのに・・・」
5159.
「「おぉ~~っ」」
<思わず、入谷さんと声を合わせてしまった。仮装で登場した笠井さんは、文字通り天使だった>
「すっごぉ~~~い。多分どんな恰好でも似合ってるんだろうけど、やっぱり笠井さんはすごいねえ」
「そ、そんな、入谷さんまで・・・」
5160.
「ほら篠田くんも、ちゃんと“似合ってる”って言わないと」
「い、いいんですよ篠田君そんな無理に褒めたりしなくても高校生にもなってこんな恰好なんて変ですよね終わってますよね海か土にでも帰った方がいいですよね今まで楽しかったですどうもありがとうございましたさよなら私の人間生活」
「奈々先輩が壊れた!?」
<久しぶりに見たなこの笠井さん・・・>
5161.
「ほ、お、ら。篠田くん、早く言って笠井さんを楽にしてあげないと」
「分かってるなら言わせようとしないでくださいよ」
「そうです早く楽にしてくださいこんな生き地獄を続けられるぐらいならバッサリと斬られてしまった方がいいですさあ早く早く早く早く・・・」
「奈々先輩が怖い! でも可愛い!」
5162.
「え、えっと、笠井さんもその、似合ってる、と思う」
「「思う?」」
「似合ってる」
「っ~~~~~~~~!」
5163.
「あぁ~奈々先輩が可愛い~~。こんな姿が見られるなんて、男子にも存在価値があったんですね。でもさすがにそろそろ勘弁してあげましょうか、穂照先輩」
「そうねぇ。お姉さんはもう満足です♪」
「初めから勘弁してくださいよぅ」
「それじゃあ次は文化祭当日ってことで、制服に戻りましょっか」
5164.
「お帰り篠田君。やっぱり見慣れてる制服の方がしっくりくるね。そっちも似合ってるよ」
「そうなのかな。どっちにしても疲れたよ・・・」
「あはははは・・・でもやっぱり気になっちゃうなあ。みんながお着換え中に聞いちゃえ。篠田君は、誰が一番似合ってたと思う?」
「えぇぇっ?」




