2024/03/16
5077.
「後輩キャラが追加されたな。ぐ、おぉ・・・!」
「お兄さん、悩んでるわね・・・ここは年下に行ってもらわないと困るのに」
「行かれた方が困るんだが? コイツは元来年上好きだったはずなのにどうして・・・!」
「そんなことはどちらでもよいでしょう。さぁ、サバたちの物語が続きますわよ」
5078.
<ポスターを貼ってから1週間。結局あれから、新入部員が増える気配はなかった>
「どうして・・・深山さんがチョロかっただけだと言うの?」
「ちょっと!? 失礼な言い方しないでくださいよ! 確かに軽い感覚で入りましたけど!」
「何にせよ、私は入部してくれて嬉しかったですよ、深山さん」
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「わ~~ん! 奈々先輩が優し~~~! こんな聖母のような人がいるのに、何で誰も入らないんですかね? 篠田先輩みたいに奈々先輩目当てで来る人がもっといてもおかしくないのに」
「君も失礼だね!? 俺は先生に言われて入った経緯があるからね!?」
「じゃあその時の唯一の部員が笠井さんじゃなくて、いかにも根暗そうな男子だった場合でも?」
「ああ。気が合いそうだから大丈夫だ」
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「うん、何なら先輩自身が“根暗そうな男子”、じゃなかった“根暗な男子”ですからね」
「わざわざ言い直さなくても良かったからね?」
「安心してください。女子目当てで入部する度胸も先生に逆らうような度胸があるようにも見えませんから。多分さっきのも嘘じゃないんでしょう」
「否定できないだけになんか複雑だなぁ・・・」
5081.
「えっと、部員同士、仲良くしてくださいね・・・」
「大丈夫ですよ奈々先輩。これはコミュニケーションの一種ですから。きっと篠田先輩も満更でもないと思います」
「いけないわ。このままじゃ篠田くんにとっての“何かと蔑まれるけど満更でもない相手”枠が深山さんに取られてしまう・・・」
「そんなことで張り合わなくていいですからね?」
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「というか深山さんが帰宅部だったことも意外なんだけど。なんだかんだ毎日顔出して下校時間までいるし」
「あぁー、そこ聞いちゃいますかー・・・」
「え、なんかまずかった?」
「いいですよーだ。どうせ私は先輩から同類だと思われるような暗い女ですよーーだ」
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「いや、別に同類だとは思ってなんか」
「実際同類ですよ? 派手に見えるかも知れないですけど、ただの高校デビューですし。で、入学前に胃腸やっちゃって2ヶ月休み、復帰する頃にはもう・・・って感じです」
「あぁ・・・」
<その頃にはもう周りも人間関係が出来上がってたってことか。部活にも入りづらくてそのままズルズルと、っていうパターンか>
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「ま、休み時間に話せる相手もいるんですけど、友達、と呼べるかは怪しいです。土日に遊びに行ったりはしてないですし」
<分かるよ、その気持ち。俺も神原や桐葉以外とはそうだし、記憶として脳内に存在するだけの中学の頃の記憶もそうだ>
「それを言うなら私も、休日に遊びに行くようなお友達はいませんよ」
「奈々先輩はいいんですよぉ。人気者、というか一目置かれてる存在ですし、一緒に遊ぶのもおこがましいというかぁ~」
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「そんな大層なものでもないので、できれば普通に接して頂けるとありがたいのですが」
「じゃあ抱きついたりしてもいいんですか!?」
「え? えぇ~っと・・・」
「うぅ~~~~っ」
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「そんな目で見られると弱いです・・・す、少しだけなら・・・」
「やったー! わーーい! ありがとー奈々せんぱ~~~い!」
(これだよ! これこれ! ニンゲンの体って何でこんなに柔らかいんだろう! ただし美少女に限るけど!)
「わっ、ちょっと深山さん、“少しだけ”と言ったのに・・・」
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「どうしよう篠田くん。私、お姉さんとしての魅力ない・・・?」
「そんなことはないと思うんですが・・・」
「私だって、可愛い後輩に甘えられたい・・・笠井さんには私にない魅力があるのは重々承知なんだけど、私の何がいけなかったというの?」
「俺に聞かれても・・・」
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<でも強いて答えるなら、先輩はどこか危険なオーラが出てるというか、どうにも防衛本能が働いてしまう部分がある>
「やっぱり・・・! やっぱり“危険なお姉さん”を演出してる部分がダメだったというのね・・・!」
「えぇぇっ!」
<怖い! 怖い怖い怖い! 心の中で呟いただけなのに何で分かったの!? そういうところですよ先輩!>
5089.
<そんな日々を過ごしながら、2週間が経過してしまった。今月も残り1週間。部員が来なければ文芸部は廃部になってしまう。もう1回ビラ配りをしたし新しいポスターを作ったりもしたけど、これといった成果は得られなかった>
「どうしましょうか・・・アタシ嫌ですよ。せっかく入ったのにすぐに廃部になっちゃうなんて」
「そうですね・・・残り1週間、穂照先輩は生徒会で忙しいそうなので私たちで何とかしたいですが・・・」
「参ったな・・・」
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<策がない。本当に策がない。こういう時に先輩がいてくれたら、としみじみ思う。何かと振り回されるけど、やっぱり頼りになる人だった>
「けど、来年のことも考えたら自分たちで何とかしないとな」
「そうでした! 穂照先輩って3年生だから卒業したらまた部員減っちゃうじゃないですか! いつもあんなだから忘れちゃってました!」
<微妙に失礼なことを・・・あの性格のお陰で接しやすい部分もあるし、本人もそのつもりでああいうキャラでいるんだろうってことは深山さんも分かってると思うけど>
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「よし、こうなったら」
「篠田先輩、何か策があるんですか?」
「今村先生に相談しよう」
「結局人頼みですか!」
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<とは言え、背に腹は代えられないので、3人で職員室に向かった>
「なるほど・・・そこも自分に乗り越えて欲しいという意味で篠田を文芸部に入れたんだが・・・まぁ、“人に頼る”を覚えただけでも進歩か。廃部になっても困るし、実はちょうどいい子がいるんだ」
「ほんとですか!」
「おぉ~~っ!」
5093.
<意外だ。ここで先生が頼りになるなんて>
「おい、今何か失礼なこと考えなかったか?」
「すみません! ついうっかり!」
「そこは嘘でも“違います”って言って欲しかったんだが?」
5094.
「まぁいい。実は、特殊な事情を抱えた子でね。君たちにフォローしてもらえないかと思っていたところだ。明日、文芸部に連れて行くからよろしくな。もちろん、入部するかは本人次第だが」
「それでも構いません。先生のお役に立てるだけで何よりです」
「さすがは笠井だ。頼りにさせてもらうよ」
<決まるのが早いなぁ。特殊な事情って話だけど、どんな人が来るんだろ>
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<翌日。部室で先生を待つ。穂照先輩にも、笠井さんからワケを話してもらって最初の顔合わせだけでも来てもらった>
コンコン。
「入るぞー」
「はい、どうぞ」
5096.
<笠井さんが返事をすると、先生がドアを開けた。そして俺たちは一同、目を丸くした>
「え、えっと・・・」
「諸事情で転校してくるようになった子だ。ほら、自己紹介」
「は、はい・・・! えっと、明日からこの学校の生徒になる、入谷鶇美です。よろしく、お願いします・・・」
5097.
「「「「・・・・・・」」」」
<俺たち4人は、未だにぽかーーんとしていた。何故なら、入谷鶇美と名乗った転校生は、柔道か空手か、その類の競技の道着を着ていたからだ。入谷さんは先生に助けを求める視線を投げたが、先生からは“自分でやれ”という仕草が返された>
「えっと、家の事情で外ではこれしか着ることを許されてなくて、い、家の事情っていうのは空手の道場をやってて、たるんだ姿を人に見せちゃいかんとかで、未成年の家族は男女問わずこの格好をさせられて・・・という感じ、です・・・」
<なるほど・・・それは大変そうだな>
5098.
「・・・っと、黙っててすみません。少し驚いてしまって。入谷さんですね。私は文芸部の笠井奈々と言います。2年A組です」
「あっ、アタシは1年C組の深山ひかるです! ゴリゴリの1年生です!」
「笠井さんと同じ2年A組の篠田英介。よろしく」
「3年A組、生徒会長もやってる穂照祥子だよぉ? 困った時はお姉さんを頼ってねぇ」
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「あ、えっと、ワタシは、えっと・・・」
「そういえば言ってなかったな。安心したまえ、そこにいる笠井や篠田と同じ2年A組だ」
「ほっ」
「この格好だから校内で浮いてしまうこともあるかも知れないが、特に笠井と篠田、色々と見てやってくれ」
5100.
<後は若い者だけで、ということで今村先生は職員室に戻った。俺たち5人だけが残されたわけだが・・・>
「あっあのっ、入部でも何でもしますから、どうかワタシと仲良くしてください! この通りです!」
「そ、それはもちろん構いませんけど・・・」
<なんというか、前の学校では上手くいかなかったのだろう。すごい及び腰だ。見てるこっちの方が不安になる>
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「それにしても、今どき子供が着る服を制限するなんてことする親がまだいるんですね」
「本当に厳しくて・・・でも道場は、父も母も元日本代表ですから、すごく人気があるんですよ」
「「日本代表!?」」
<ビックリした。思わず声を出したのは俺と深山さんで、他2人もさすがに驚いたような顔をしてる>
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「凄いわね・・・それじゃあ、入谷さんもかなり強かったり?」
「わ、ワタシなんて全然ですよ! 転校してきたのも、前の学校で成績残せなかったからだし、門下生で勝てない相手も少なくないですし、全国大会に行けたこともないですし・・・」
「全国行きを争ってる時点で凄い領域なんだけどね?」
「とにかくメチャ強いってことは分かりましたね・・・でも転校してきたのに文芸部でいいんですか?」
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「それが、叩き直すから学校の空手部には入るなって言われちゃって・・・」
「そっかぁ、全国を争うレベルの実力でも大変なんですね」
「私たちのためにこの部に入ってもらうのも申し訳なく思えてきたのですが」
「そこは全然大丈夫ですから! むしろ“強くなるために何か新しいことを始めろ”って言われてるぐらいで・・・!」
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「まぁ、本人に入部の意思があるなら私たちが拒む必要はないんじゃない?」
「ただそれが、学校生活の手助けするお礼で、というのはさすがに・・・前向きな理由で、と考えても差し支えないですか? 入谷さん」
「はい! 部活をして、お友達と過ごすことで空手にも活かせるものも得られると思うので、ぜひ・・・!」
「もちろんです! アタシも色んな(女子の)先輩と仲良くしたいです!」
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「分かりました。それじゃあ歓迎しますね。入部ありがとうございます、入谷さん」
「そ、そんな・・・! 空手家としての成長に利用しようとしてるのに・・・!」
「そんなことを気にする必要はないですよ。みんなそれぞれ、個人の思うままに入部を決めてますから」
「俺は先生に言われただけなんだけどね・・・」
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「まーいいじゃないですか。篠田先輩は女子に囲まれて満更でもなさそうですし。アタシだって、高校デビューに失敗したけど居場所が欲しいっていう超個人的な理由ですよ」
「私も。本を作りも読みもしないのに、ここで過ごすのが楽しいってだけだよ」
「あはは・・・そう言われると気が楽になったというか何というか・・・」
「正直に言っていいぞ。この部に決めて良かったのだろうかって」
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「そ、そんな! みんな優しそうですし笠井さんと篠田君にはかなりお世話になりそうですし・・・!」
「ひとまず、私と篠田君には敬語を使うのをやめるのはどうでしょう。私が言っても説得力ないですが」
「奈々先輩はそれがハマってるんでアリですよ。でも入谷先輩には似合わないんで賛成です。アタシにだけタメぐちだったのが無くなるのはちょっと寂しいですけどね」
「言われてみれば、同級生にタメぐちって変だったね。緊張してたらからつい」
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「あ、それじゃあ、ツグミ先輩って呼んでいいですか? 可愛い名前だから気に入っちゃって」
「えぇぇっ!? えと、はい、大丈夫、です・・・」
「なんでそこで敬語!?」
「きゅ、急だったから、つい。えへへ・・・」
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「あーんもう! ツグミ先輩かわいすぎじゃないですか!? 制服着てたらどれだけヤバかったことか! ねぇ篠田先輩!」
「俺に振るなよ・・・」
「え、何ですか? 女子の服装を褒めることもできないんですかこの先輩は。妄想で補って褒めるぐらいのことはできますよね? 妄想得意ですよね?」
「妄想で褒められるのはワタシとしては複雑かな・・・」
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「もったいないことをする親御さんですねえ。絶対ツグミ先輩オシャレしたら化けるのに」
「ワタシももっと、女の子らしい服とか着たいんだけど・・・前にお店で試着したのがバレちゃっただけでも大変だったよ・・・」
「あーもう! なんかモヤモヤするー!」
「こればかりは家庭のことなので、私たちにはどうすることもできないですね」
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「でもきっと、空手が強くなったら許されるようになったりするかもよ? 文芸部が、その手助けになるといいわね」
「はい! よろしくお願いします!」
「ところで深山さん、私のことも“祥子先輩”でいいのよ?」
「うーーん・・・先輩はなんか、“穂照先輩”、なんですよね」
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「がぁん! お姉さんショック! 私じゃ深山さんのお姉さんになれないのね・・・それはそれとして、これで部員は5人。無事に文芸部の存続が決定したわね。パラリラパラリラ~!」
「あ、今村先生が言ってたことって本当だったんですね。あと1人いれば廃部を免れる部があるからどうか、って言われてたんですけど」
「あの先生、ちょっと信用できないところあるもんな」
「え! いや、そんなことは・・・!」
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「何にせよ、廃部を免れてめでたしめでたしね」
「ホントですよ~。入部して早々なくなっちゃったらどうしようかと思いましたよ」
「私も、せっかく知り合えた皆さんとお別れせずに済んで良かったです」
<こうして、文芸部の存続は無事に決定した>




