2023/05/21
4553.
「誇り高きサバ部の皆さん、本日集まって頂いたのは他でもありません」
「いや割と2日に1回ぐらいは全員そろってるけどな」
「そろわない理由は主に美々香とお兄さんのバイトだものね」
「あとは家業でお忙しい部長の仕事だな」
4554.
「コホン。とにかく本日はその仕事関係で、皆さんにはこれを試食して頂きます」
「へぇ。栄養食か?」
「ダイエット食だろ」
「いいえ。これは一時的に脳の回転を何倍にもする、言わばドーピング食です。その名もザ・サバ・ブレーンクラフトthe 3rdですわ」
4556.
「無駄にthe 3rdの発音よくするのやめろ」
「商品名なのですから仕方ないでしょう」
「誰が考えたんだよその名前」
「わたくしです」
4557.
「3rdってことは三代目か? この商品名、1stも2ndも聞いたことないんだが」
「どちらも失敗に終わりましたからね。脳の回転が早すぎて神経系と声帯が付いて行けず動けず喋れずだったり、脳内に留保される情報が増えすぎて被験者が高熱にうなされたり・・・」
「無駄に効果だけは出ているのが憎いな」
「というか私らは今からそんな劇物を食わされようとしているのか?」
4558.
「そんなことはありませんわよ。既に刑務所の囚人を用いた検証は完了しています。どこかの乳製品業のような、安全確認の取れていない状態で社員の家族に試食させる会社と一緒にしないでくださいまし」
「ウチの親の勤め先が悪いみたいな言い方はやめてもらおうか部長。そんな真似をするのはウチの親含めごく一部だけだ」
「お前ら自分の親がヤバいって言ってるの分かってるか?」
「親がヤバくない人なんて世の中に存在するの?」
4559.
「ダメだコイツら完全に終わってる」
「言うてウチら満月家もそう変わったもんじゃないだろう」
「まぁどう考えても一番ヤバい家柄は・・・」
「「「「世界サバ・フィル・ハーモニー」」」」
4560.
「全く。何を言い出すのかと思えば失礼なことを」
「囚人なら毒見させても良いって思ってる時点で大概だからな」
「お嬢様の役に立てる誉れを真っ先に受けることができるなんて、僕も刑務所に入りたくなって来ましたね」
「ウチの部にまともな家系の奴はいないのか?」
4561.
「いや服部は単体でおかしいだけだから」
「忘れたのか美々香? 両親ともサバハーモニーで働いてんだぞ? とてもじゃないが“まとも”だとは思えない」
「心配せずとも美々香さんも涼太さんも世界サバ・フィル・ハーモニーにどっぷりの人生にして差し上げますわよ。それを“おかしい”と思えないほどに」
「「ごめんなさい我々が間違ってました世界サバ・フィル・ハーモニーばんざ~い」」
4562.
「では6人で一斉に食べますわよ。効能や安全面については既に囚人で確かめてありますから、着眼点は味や食感など、一般的なお菓子と同じ評価軸のみ。という訳でジョン、ベンジャミン。もしものことがあったら腕ずくでも止めなさい」
「“一般的な菓子と同じ評価軸”ってのはドコ行った? 安全面は囚人で確かめたのんじゃなかったのか?」
「脳の回転が早くなった場合にどんな行動を取るのかは人それぞれですからね。警戒しておいた方がいいでしょう。用法にはちゃんと、同じ空間に最低1人は、これを食しない人を残しておくことと記載しておりますから」
「その時点で食品としてどうかしてるんだが?」
4563.
「こんなこともあろうかと、パッケージの所有者のボタンひとつで自動的に口に飛び込むようにしてあります。行きますわよ。ポチッ」
「あ、おい! フザけ・・・パクッ」
「食っ、ちまった・・・。6人全員・・・」
「こ、これは・・・!」
4564.
「う、うおおぉぉぉ!! 頭が冴える! 冴える! 冴えるぞおおぉぉぉ!! 美々香! 364×581は21万1484!! しまった! 頭の回転が早すぎて答えまで口に出してしまった!」
「バカ!! 気を付けろ! 感じるだろう! 自分でも信じられないぐらいに頭の回転が早くなっていることに! だが何故だろう! 発言自体からは知性の向上を感じないぞ!」
「それはそうでしょう美々香! 私たちはあくまで頭の回転が早くなっただけ! 処理能力が早くなったというだけでそれ以外の元の性能は変わらないわ!」
「そんなことはない!! 24×99は2376! 9835÷74は132.9以下略! うおぉぉぉぉ!! 32万8531のルートは・・・ルートって、何だ・・・!? うぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
4565.
「おい部長! これ以上は危険だ! 頭の回転だけが無駄に早いせいで何故だか自分の愚かさがより実感されてしまう!」
「僕もそんな気がしてきました・・・! なんだか、“どうせ自分なんか”と考える頻度が上がってしまったようで・・・!」
「おぉ~っほっほっほ! それはあなたたち庶民が心のどこかで自分を卑下する気持ちがあるからですわぁ~~!! それを自覚し何度も噛みしめることで向上心の糧としておしまいなさい!」
「やべぇサバ令嬢の深層にある庶民を見下す心が強く引き出されてしまった! 頭の回転が早くなったことで謙虚さや思いやりによるブレーキが掛かる前に口から出力されてしまう!」
4566.
「ちょっと兄さん! 何とかならないの!?」
「おい涼太! 窓なんか開けてどうするつもりだ!」
「頭の回転を止める方法はただひとつ! マジで止めてしまうしかないんだぁぁぁぁぁ!!」
「待ってお兄さん! それはダメ! ジョンさん!! ベンジャミンさん!!」
4567.
ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ!
「あり、がとう・・・」
「これで、ひと息つける、な・・・・・・」
ドサリ。
4568.
「コホン。えー・・・とにかく、本商品にはまだ改善の余地があることが分かりました」
「改善もへったくれもあるか。二度と作んなこんなもん。囚人で試した時に分からなかったのか?」
「問題ないという報告を受けたのですけれどね・・・おそらく、看守も食べさせられるなどして、おそらくは先ほどのわたくしのように危機感を感じない形となり、効果が切れる前に報告書を出してしまったのでしょう。まあいいです。効能と副作用についてはどうにかするとして、今回の主目的、お味と食感の方は・・・」
「覚えてるワケねーだろうが」




