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2022/10/15

3965.


「あぁ~・・・さみ~~~・・・」


「なんか急に寒くなったよな。お前んちのボロアパートは大丈夫か?」


「隙間風がひどいことを除けば大丈夫だが?」


「それがないか大丈夫かを聞いたんだが?」



3966.


「大変ですのねえ、涼太さんは」


「おぅサバ令嬢。お前も体験しに来るか? ザ・庶民の隙間風ハウスを」


「それが庶民の標準みたいに言うのはやめろよ」


「かつてない涼しい風を、あなたに」



3967.


「そう聞くと、夏は快適に過ごせそうに聞こえますわね」


「って思うだろ? 夏は死にかけるほど暑いんだな、これが」


「そういえばそうでしたわね・・・わたくし、トラウマになってますわ」


「こいつらのボロアパートをナメちゃいけないぞ部長」



3968.


「全くもってその通りだ崇。ウチのボロアパートは凄ぇぞ? 夏は太陽からのエネルギー、冬は北風の冷気を完璧に取り入れられる超薄壁が自慢だからな」


「そんなことを自慢にしないでくださいまし」


「じゃあなんだ? エアコン動かすと明らかにカビ臭くなるのを推した方がいいか?」


「欠点としか捉えようのないものを何で推そうとするんだよ」



3969.


「推すなよ? 絶対推すなよ?」


「その言葉、もっと他のシチュエーションで使うものだったような気が・・・」


「何だよサバ令嬢。知らないのか? 押されたら死ぬような状況で死んででも押されたい時に使う言葉だぞ?」


「平然と嘘をつくなよ」



3970.


「・・・なるほど。現代ではそのようなギャグがあるんですのね」


「言うほど新しいネタでもないけどな」


「ですが折角なので取り入れてみましょうか。わたくしが窓枠に座るのでお2人は押そうとする係をお願いします」


「意外と肝座ってるよなこのご令嬢」



3971.


「んっ、しょっ、と。 さぁ、押してくださいまし。ジョンとベンジャミンが壁に張り付いておりますから心配ございません」


「なんで当たり前のように外の壁に張り付いてんだよマジで指サッシに掛けてるだけじゃん」


「何をブツブツ言っているのですか? 早くわたくしを押してくださいまし!」


「“押せ”って言われたら押す気になれないんだが」



3972.


「サバ令嬢。押して欲しかったらな・・・嫌がるフリをしなければならないんだ。そして言うんだ、“絶対押すな”と」


「ハッ。そうでしたわね。では早速・・・わー! やめてくださいー! 押さないでくださいましー!」


「違うぞサバ令嬢! それは実際に押され始めてから言うセリフだ! 押される前は“絶対押すなよ?”だ! 忘れるな!」


「もう細かいこと言わずにさっさと押しちまおうぜ」



3973.


「わたくしが世界サバ・フィル・ハーモニー社長令嬢だからって遠慮は要りませんわよ? 部長命令なのですから」


「それじゃあ遠慮なく。ほいっと」


「俺もやるか。・・・よっ」


「あっ、こっ、これはっ、中々のスリル・・・もっと、もっと押し・・・いえ、こっ、これ以上は押しちゃダメですわぁぁ~~~!!」



3974.


ぐいっ、ぐいっ。


「あっ、あぁぁ・・・っ! おっ、押さないでくださいまし~~~!」


「サマになってるじゃないかサバ令嬢。どうだ? 庶民で流行りの遊びを体験してる気分は」


「こっ、これはっ、中々に気分が高揚しますわね・・・! もうちょっと力を入れて頂い・・・じゃなくて、これ以上強く押してはいけませんからね!!」



3975.


「あぁっ・・・! もう少しで落ちてしまいますわ~~~!」


「楽しんでるようで何よりだが、これ、傍から見たらかなりヤバい絵面だよな」


「バカ涼太。余計なことを言うな。こういうのにもお約束が適用されて・・・」


「くおぉぅらあぁぁ!! お前たち、何をやっとるかぁぁぁぁ!!」



3976.


「ヤベぇ! センコーに見つかった!」


「むしろ見つからん方がおかしいだろう」


「あ、先生! ご心配なく! 大丈夫ですのよ! ただ遊んでいるだけですから!」


「呑気に言っとらんで早く戻らんかぁぁぁ!!」



3977.


「まずは外の護衛2人だ! お前たちが安全を確保するからそんな遊びをしてしまうんだろう! さっさと降りろ!」


「「・・・・・・」」


「ぐぬぬ・・・あくまで離れないというか。ならば!」


ビリリリリッ!



3978.


「!? っ・・・!!」


「ジョン!? ベンジャミン!!」


「ふぅ。こんなこともあろうかとサッシに電流流せる機構にしておいて良かった」


「どんなことがあると思ってたんだよあのセンコー・・・」



3979.


スチャッ。


「さすがはジョンとベンジャミンだな。見事な着地だ」


「当然ですわよ。当家の護衛の仲でも選りすぐりの2人を、任用後も厳しい訓練をしているのですから」


「くおぉぅらぁぁ! 止めるヤツいなくなったんだからさっさと戻れぇぇい!」



3980.


「そっ、そうですわよ! いま落ちそうになったら誰も止める人がいないじゃないですか! おっ、お2人とも、絶対に押してはいけませんからね!!」


「「え?」」


トン。


「「あ」」



3981.


「い・・・いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「サバ令嬢ぉーーーーーーーーーーーーーー!!!」


「ジョン!! ベンジャミン!! 頼む! 受け止めてくれ!」


「ああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~・・・!!」



3982.


ガラララッ。


「こんにち・・・あれ・・・サバ令嬢さん、機嫌が悪いみたいだけど・・・何かあった?」


「“何か”も“あった”もないですわよ・・・! 散々な目に遭いましたわ」


「じゃあ“何かあった”んじゃないの・・・って、兄さん!? お兄さんも!」



3983.


「み、みずきか! よく来た! 助けてくれ!」


「えっと・・・どんな悪いことをしたの?」


「してない! 悪いことなど決して! 悪気があった訳じゃないんだ!」


「「だからジョン! ベンジャミン! これ以上は押さないでくれ~~~~~~~!!」」

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