2022/08/06
3417.
「あ゛~~・・・あ゛ぢ~~~~~。なんでこんな暑いのに牛丼なんて作ってんだろ」
「そりゃ美々香ちゃんが牛丼屋でバイトしてるからでしょ」
「でもせっかくに夏休みに華のカケラもない牛丼屋で単純作業なんて切ないと思わないッスかセンパァ~~イ」
「ホントになんで牛丼屋に来たの・・・」
3418.
「そんなの決まってるじゃないッスかセンパイ。肉が欲しいからッスよ」
「ホントに微塵も華を感じさせない理由だったね」
「でも同僚にオンナがいて良かったッスよ」
「それは同感」
3419.
「今こそ先輩を敬うべきなんじゃないの美々香ちゃん? ずっと女1人の職場で働いてきたんだから」
「センパイこそ何で牛丼屋でバイトしてんスか?」
「オトコ探しに決まってるじゃない」
「それで何故牛丼なのかは聞かない方がいいんかな・・・」
3420.
「で、いいオトコは見つかったんスか? 客にでも同僚にでも」
「今も続けてるの見てわからない? いいオトコできたらとっくに辞めてるよ?」
「できないからこそ辞めるべきだと思うんスけどね・・・」
「諦めたらそこで夏終了だよ、美々香ちゃん」
3421.
「いや夏終了以前にセンパイ何年ここでバイトしてたんシたっけか」
「んーっと・・・3年?」
「地味に長いッスね」
「だからこうしてバイトリーダーよ?」
3422.
「リーダーなっちゃったから男衆もセンパイをそういう対象として見ないのでは?」
「頼りないの多いしね・・・大学生ですらイマイチなのしか来ないし」
「てかオトコなら大学で探せばいいんじゃ?」
「女子大なんだよ! アイ! アム! 女・子・大!」
3423.
「バイトしてまでオトコ欲しかったなら何で女子大いったんスか」
「あの頃の私はバカだった・・・ただ純粋に、やりたいことのためだけに進路を進み、後になって欲望に呑まれてしまったの・・・」
「高校の頃の方がまともだったのはよくわかりました」
「やめて! クソ真面目だった頃の私をまともと呼ばないで!」
3424.
「でも同僚はイマイチだけど、お客さんはたまにタイプな人いるよ?」
「まぁこういう仕事ッスからね」
「でもバイトリーダーが故に連絡先を聞けない・・・!」
「リーダーじゃなくても聞けないッスけどね」
3425.
「そしてこのご時世、お客さんの方からナンパしてくることもない! 乙女のピンチ!」
「ナンパされまくるご時世の方が乙女的にはマズイ気もするッスけど」
「世が世なら店員から逆ナンしても喜ばれることもあったろうに・・・!」
「それは今でも喜ぶ奴いるんじゃないッスか? 試してみてくださいよ」
3426.
「甘い、甘いよ美々香ちゃん。逆ナンしようものならネットに晒されて一発でスリーアウト! チェンジ!」
「一発でスリーアウトてどういう状況ッスか」
「生きづらい・・・あまりに生きづらい世の中になってしまったよ・・・誰もリスクを恐れてナンパをしない! 自分自身でさえも!」
「ナンパ以外の手段考えましょうよ」
3427.
「そんなにオトコに飢えてんならウチの兄はどうッスか? あいつも女に飢えてるんで」
「・・・歳は?」
「17」
「う~~ん・・・とりあえず詳細を聞かせて」
3428.
「まず、お兄さんのご趣味は?」
「ゲーム。最近はお姫様カッコ子供のキャラに愛を叫んでました」
「人にオトコを紹介する気ある?」
「嘘はつきたくないんで」
3429.
「あーもう。まぁ最初から美々香ちゃんの兄弟に期待なんてしてなかったけど」
「それどういう意味ッスか? あとウチの兄を狙おうとすると漏れなく私の友人から睨まれることになるんで」
「じゃあなんで紹介しようとしたの・・・てかその子とくっつけてあげなよ」
「いやーそれは無理ですね。もう本人を前に断固拒否しまくってますから」
3430.
「女に飢える人が告られて断固拒否って・・・失礼だけど、そんなにブサイクなの? その子」
「いや~そうでもないですよ? 性格以外は」
「性格ブスなら一緒だよ・・・けど美々香ちゃんにそこまで言わせるなんて、よっぽどヤバいんじゃないのその子?」
「センパイは私に対して失礼だとは思わないんスか?」
3431.
「う゛~~~~。どうすればいいの゛~~~~。誰か返してよ私のキャンパスライフ」
「やっぱりウチの兄を推しますよ。さっきはああ言いましたが、あいつ根は年上好きなんてセンパイがフられることはないッスよ」
「でも高校生でしょ? しかもゲームキャラに萌えるオタク」
「大丈夫ですオタクは現実逃避してるだけッスから。センパイがステキなイチャイチャライフを提供すればゲームなんてしなくなりますよ」
3432.
「え~~? でも結局それってオトコの思い描く理想の女を演じなきゃいけないんでしょ? 死んじゃうよ~~」
「センパイと付き合うオトコはセンパイの理想に文字通り付き合わなければならないんですが」
「だ・か・ら! そういうのが発生しないようにバイトで働きながら自然といい感じになって付き合いたいの・・・!」
「少なくとも牛丼屋じゃ無理ッスね・・・」
3433.
「そう、理想はOL。いつも頑張っているあの人・・・お茶を用意するとどんなに忙しくても笑顔でお礼を言ってくれて、帰りのエレベーターでバッタリ会ったところを食事に誘ってみたりなんかして・・・」
「いや、自分もバリバリ事業に絡んだ仕事をして、残業で疲れてるところにコン、と缶コーヒーを置いてくれるシチュもありかと」
「採用。それじゃあ、さほど苦にならない程度の残業と心優しいイケメンによるビターで甘いひとときを準備してちょうだい」
「だから牛丼屋じゃ無理ッスよ」