2022/02/05
2699.
「それじゃあ皆いくよー。ワンっ、ツー、さんっ、し。にっ、にー、さんっ、し」
「お、アイドル部じゃん。こんな寒い日までよぅやるよ」
「練習風景を見てるだけで元気もらえそうね」
「神妙な顔して見てる榊坂さえいなけりゃな」
2700.
「あれ? 榊坂先生ってウザいとかの理由でクビにならなかったっけ?」
「引き戻したらしいぞ。監視がいないとすぐダラけるとかで」
「アイドルやりたくてやってたんじゃなかったのあの人たち・・・」
「バーロー。アイドルってのは険しい道なんだよ。時として逃げ出したくなることもあるんだよ」
2701.
「何で美々香が知った風なクチを聞くのよ」
「知っているからさ。アイドルの、いや、人の道ってやつの光と影を」
「だから何を知ってるのよ・・・。いい? 軽々しく人の道がどうとか言ってるけど、美々香ごときに語れるようなものではないの。どうせネットを参考にしたかまた聞きでしょ? 人の数だけ、いや、人の数以上に道は存在してるけど、どれか1つだけを取って見ても、相当な時間・労力・閃き・運、これらの積み重ね、あるいは上手くかみ合うことでのみ開けるものなの」
「みずきこそ何を知ってんだよ・・・」
2702.
「まあでも、私たちは高校生だし、ゴチャゴチャ考えずに心のままに動いてもいい気はするけどね」
「おい待てよみずき、そりゃナイだろ。若いことは手を抜く理由になるのか? あいつらを見てみろよ。自分らだけだと手を抜いちまうから、わざわざ大人を配置して戒めにしてるんだ。そんな中、私らはそれを傍観するだけ。人の道がどうとか言えた立場にないぜ?」
「人の道がどうとか言い出したのは美々香なんだけど」
「これも私の道なんだ」
2703.
「いいか? 16年も満月美々香をやってるのは世界でこの私しかいない。この道、満月美々香道に関しては、誰にも何も言わせないぜ?」
「何その地獄にまっしぐらに向かいそうな道は」
「人の道の終着点を勝手に決めるなよ。進んでみなきゃ分からないだろ?」
「美々香にお金を貸してきた全ての人にとって、美々香は地獄に向かってるように見えるわよ」
2704.
「そういうみずきはどうなんだよ? まさか天国に行けるなんて思ってないだろうなァ?」
「私の進む先はもちろんお兄さんとのハネムーンよ」
「うわキモ。兄と友人のハネムーンとか想像したくねぇわ。ていうかお前は結婚がゴールなのか? けっ、浅い人生だな」
「いいのよ、そこが終着点でも。美々香の義姉になって毎日のようにいびれるんだから天国よ。何十年にも渡ってそれが味わえるのなら、死んだ後は地獄でもいいわ」