2021/04/18
1414.
「コイントスの結果はこっちね。さあ、いくわよ、兄さん」
「テメェこそキックオフから敵チームにパスしてんじゃねーよ」
「兄さんはこっちチームに協力してくれている。だから私のは利敵行為に当たらないわ」
「だからややこしんだよ・・・」
1415.
「テメェこのボール寄こしやがれ!」
「それは無理な願いだ。しかし美々香ちゃん、君はなぜこの勝負で勝とうとする。別にみずきと涼太のヤツがくっついても構わんのだろう」
「私はただ勝負で勝ちたい、それだけだ!」
「ふん、くだらんな」
1416.
「いやテメェらの方がくだらん理由で利敵に走ってるからな?」
「何度も言わせるな。俺らにとっては大事なことなんだ。 みずき! 受け取れ!」
「ナイスパスよ、兄さん」
「チッくそっ! 兄よ! みずきを止めろ!」
1417.
「言われなくても止めるさ。 悪いな崇妹、ここから先へは行かせない」
「チームメイトが前に立ちはだかるこの状況、とろけてしまいそうだわ・・・!」
「何言ってんだあいつ?」
「そっとしておこう」
1418.
「お兄さん、行きますわよ!」
「来るがいい!」
「ああっ、足がボールに絡まってぇっ」
「おわっ! やめろっ!」
1419.
ドサーーーー。
「あいつ、兄を押し倒しやがった!」
「ボールは・・・あそこかっ!」
「くそっ! おい兄! さっさと立ちやがれ!」
1420.
「ああっ、お兄さん、離しませんっ」
「くお・・・っ。こいつ、意外と力強ぇ・・・」
「でかしたみずき、そのままソイツを押さえてろ!」
「おい待てよ! あれ反則だろ!」
1421.
「審判は! 審判はいないのか!」
「こんな野良試合にいる訳がないだろう。つまり、俺たちがルールだ」
「ならば私はあれが反則だと主張する!」
「2対2に分かれるから無駄だ」
1422.
「ハァ、ハァ、お兄さん・・・っ」
「ぐっ、このっ、離しやがれ・・・っ」
「よし、ボールに追いついた。あとはゴールあるのみ」
「くっ・・・! 私がキーパーをやるしかないか・・・!」
1423.
「果たして美々香ちゃんに止めれるか? 1対1だとキーパーが不利だぜ?」
「みずき兄とは同じチームって振り分けのはずだったんだけどな・・・」
「そんなものは形に過ぎない。俺は、みずきたちのチームが勝った方が都合がいいからな」
「ってことはアイツら、チームメンバー同士で試合中にイチャついてることになるのか」
1424.
「おい別にイチャついてる訳じゃないぞ!」
「お兄さん! 離しませんわ・・・!」
「奴らは放っておこう。俺はこのボールをそのゴールにぶち込む。それだけだ」
「私はそれを阻止する。絶対にな」
1425.
「止めれるものなら止めてみろ。サッカー部員が友だちにいるこの俺をなっ!」
「サッカー部の友だちぐらい私にもいるんだが?」
「行くぞ! 見よう見まね、マルセイユルーレット!」
「な、なんだと・・!?」
1426.
ガッ。
「ぐおっ!」
ドサーーーーー。
「足が、足がぁぁぁぁ!!」
1427.
「はははっ! 身の丈に合わない真似なんかするからだ! ボールは頂いたぞ!」
「くっ、この足では追いかけれない! みずき! そいつはほっといて守備に回れ!」
「もうちょっとこのままがよかったけど、やむを得ないわね・・・。お兄さん! 私を追いかけて来てください!」
「なんでだよ。って、追いかけなきゃ美々香が妨害されちまうのか!」
1428.
「兄よ! みずきのヤツを止めておけ!」
「言われなくても!」
「あはは~。お兄さ~ん、こっちですよ~。早く捕まえてくださ~~い」
「え、なんか嫌なんだが」
1429.
「おい! この役立たず! 勝たなくていいのか!」
「確かに負けたらアイツの義弟にされるとこだが、勝つことそのものにメリットはないんだよな」
「フザけんなテメェ!」
「美々香、待ちなさい! あなたは私が止めてみせる!」
1430.
「そうはさせるか! これがスーパー美々香の、ビッグ・バン・ロングシュートだ!」
「バカね! そんな距離からなんて入りっこ・・・え・・・!」
「なんかいい感じの軌道だぞ!」
「いっっけぇぇ~~~!!」
1431.
ゴ~~~~ン。
「あぁーっと! クロスバー直撃!」
「なんてこった! サッカー部に友だちがいる私としたことが!」
「残念だったわね美々香。あんたもサッカー部に入っとけばよかったんじゃなくて?」
1432.
「だがボールは私のもとに戻って来た。次で決めればいいだけさ」
「でも私ももうゴール前に来たわよ?」
「くっ、一発で決めるべきだったか・・・っ!」
「さぁかかって来なさい。幼少期にサッカークラブのキャプテンに片思いしていたこの私が相手よ」
1433.
「ふん、お前1人に何ができる。ただでさえ1対1だとキーパーが不利なんだぜ?」
「技術はなくても、私には言葉がある。美々香、本当に勝ってもいいの? 私の兄と結婚よ?」
「くっ、精神攻撃とは卑怯な・・・!」
「何を言ってるの。スポーツはメンタルの勝負よ」
1434.
「だが、これは真剣勝負。結婚が嫌で手を抜くなど・・・!」
「考えてもみなさい! あんなやつが生涯の伴侶よ! 私の義姉になるメリットなんて相殺どころじゃないわよ!」
「くっ、それは一理ある・・・しかし私はどのみち結婚相手を選べる立場ではない!」
「お前ら2人とも、俺に失礼だろ・・・」
1435.
「という訳でみずき、お前には負けてもらう」
「っ・・・」
「行っくぜぇ~。シューーーーッ!」
「こっちね!」
1436.
「なぁ~~んちゃって」
「なっ、フェイント!?」
「そらよっ」
シュッ。ザッ。
1437.
「ゴ~~~~~~~~~~~ル!!」
「エンダァァァァァァァァァァァァァ!!」
「うそ、でしょ・・・」
「決まっ、ちまった・・・」
1438.
「みずき兄よ!」
「美々香、ちゃん・・・」
「私たち、ついに、ゼロ秒の交際期間を経て・・・!」
「「婚約破棄だな!!」」