2021/04/10
1343.
「兄よ!」
「妹よ!」
「・・・せーのっ」
「「タイ料理!」」
1344.
「ねえ母さん」
「なんだい」
「タイ料理食べたいんだけど」
「じゃあ今日は美々香が買い物に行ってくるんだね。今日は魚の特売日だよ」
1345.
「ちげーよ! 魚じゃなくてアジアンのタイだよ!」
「日本もアジアじゃないのかい。日本で獲れたタイを食べればいいじゃないか」
「ちげーよ! タイって国の料理を食べたいんだよ!」
「そんなもんアタシにゃ作れないよ」
1346.
「誰も作れって言ってねーよ! 食いに行こうっつってんだよ!」
「アンタ誕生日まだだろう? そんときに言っておくれ」
「なんで誕生日でしか外に食いに行かないんだよ!」
「父さんの稼ぎが微妙だからだよ。文句なら父さんに言っとくれ」
1347.
「なんということだ・・・! じゃあ自分で金稼いで行くしかないのか!」
「また家事でも手伝うかい?」
「やなこった! 1週間で3000円なんて割に合わなさすぎる!」
「アンタ、どうせ将来ロクに稼げないんだから家事ぐらいタダで出来ないと生活できないよ」
1348.
「甘いな! 私は何だかんだ上司に取り入って安定のポジションに落ち着くさ! だから今日はタイ料理を食う!」
「ならその上司とやらにご馳走してもらえばいいじゃないか」
「無論そのつもりだ! だが今日もタイ料理を食う!」
「自分で稼いでから言いな」
1349.
「じゃあこうしよう! 私が買い物に行くから金をよこせ! それで私のタイ料理と全員分の晩飯を工面する!」
「ふざけるんじゃないよ。アンタの取り分が多くなるだろう」
「25%しか使わないと約束しよう!」
「本当かい? じゃあやってごらんよ」
1350.
「フッ、1500円手に入れたぜ」
「それでウチに何の用なのよ、美々香」
「よく聞けみずき。私はこの1500円でタイ料理を食う。だが、この75%相当分の食材を持って帰らねばならない。つまり、後は分かるな?」
「まったく分からないわ。破綻してるって自分で気付かないの?」
1351.
「バカだなみずき。連中の分の食材は持って帰りさえすればいいんだ。買う必要なんかないだろう?」
「あなたこそバカなの? それで分けてもらえると思ってるの?」
「忘れたか? 私たちは親友だぞ」
「そんな記憶私にはないわ」
1352.
「しょうがない。まず、タイ料理を食いに行くぞ。そのお礼と言うことで何かよこせ」
「1500円で2人分まかなえるとでも?」
「私が奢るとでも?」
「奢りもせずにお礼がもらえるとでも?」
1353.
「それは一理あるな」
「美々香の言ってることには理の欠片もないからね?」
「とりあえず1500円で2人分出してもらえる所を探そう。最悪皿洗いでもすればいいさ」
「それを私にもさせる気?」
1354.
「言っとくけど、そうなったらウチにある食べ物はあげないからね」
「そん時は店からまかないをもらうだけさ」
「初めからそうしなさいよもう」
「という訳で行くぞ!」
1355.
「あーダメダメ、君、どんくさそうだもん」
「うち、大学生以上しか雇ってないのよ」
「そういう、法律から逸脱した行為はできませんね」
「金ねぇなら帰れ!」
1356.
「全滅、だと・・・!」
「当然よ。美々香の本性なんて大人はお見通しみたいね」
「私の何がいけなかったと言うんだ・・・!」
「いやもう“何が”ってレベルじゃなく山ほどあるんだけど」
1357.
「しょうがない、店がダメなら客に頼もう」
「人任せになってる時点でもうダメよね」
「でぇじょうぶだ。世のなか人の役に立つことに喜びを感じる人種もいるからな」
「美々香あんた・・・本当に終ってるわね」
1358.
「君、高校生だろう? 悪いけど、うちにも家庭ってもんがあるんでね」
「人に奢る余裕なんてないわ。他を当たって頂戴」
「見たところ行き場の無いようには見えませんが・・・? ダメですよ、こんなことをしては」
「忙しいんだ! すっこんでろ!」
1359.
「くそっ! なんて薄情な世界なんだ!」
「あなただって物乞いがいても助けないでしょうが」
「私はただ、タイ料理が食べたいだけなのに・・・!」
「もう今日は諦めなさいよ」
1360.
「諦めない! 今日やんないとタイ料理に対する熱が冷めてしまうじゃないか!」
「だったら尚更よ。あなたにとってタイ料理はその程度のものなんでしょう?」
「今日ほしいものを今日手に入れる! それが私だ! 諦めたらそこで美々香終了なんだ!」
「もうあなたはとっくに終わってるわよ、人として」
1361.
「あの、何かお困りですか・・・?」
「来た! 救いの神!」
「え、嘘でしょ・・・!?」
「実は、バイト先でもらったんですけど食べきれそうになくて・・・」
1362.
「キターーーーー! どうしてもと言うならこの私がもらってやろう!」
「何なのよその上からの態度は」
「いえいえ、こちらとしても助かるので・・・どうぞ」
「どれどれ? こっ、これは・・・インド料理・・・!」
1362.
「くっ、タイ料理が遠い・・・!」
「あ、お気に召さなかったですか・・・?」
ゴツン☆
「いえいえ大丈夫です! 喜んで頂きますね~」
1363.
「いってー何すんだよみずき! それは私のだぞ!」
「別に美々香がもらっていいけど、物をもらう態度ってもんがあるでしょ」
「おっと失礼、そうだったな。では・・・他にも何かありますか?」
ゴツン☆
1364.
「いってー!」
「全く・・・あ、これは彼女なりのギャグなのでお気になさらず」
「ははは・・・とにかく、もらってくれて助かりました。僕はこれで」
「ちょっと待ったぁ!」
1365.
「ここを通りたくば、1500円で2人分のタイ料理を食える店を教えてからにすることだな!」
「それなら、うちのお店にどうぞ。タイ料理も扱っているので」
「よっしゃキターーーー!」
「え、何なのこの流れ」
1366.
「とは言えさすがに、1500円で2人分は厳しいですね」
「何だと!? じゃあなんとかしろ!」
「もちろん策はあります。実は、新規の客を30人ゲットしたら正社員にしてくれるそうでですね・・・ご協力頂けますか? こちら、前金の1500円です」
「よし乗った! これで今日はタイ料理を食える!」
1367.
「いやいやいやいや、当たり前のように何やってるのよ」
「は? これが人として当然の行いだろ?」
「だから当たり前のように言わないで?」
「甘いなみずき、これが社会の生き方ってやつさ。という訳でタイ料理食ったら行くぞ!」
1368.
「ここが僕のバイト先です。さっき上がったばかりなので帰りますが、お願いしますね」
「あぁ任せろ! お前の紹介で来たことはキッパリと伝えておくからな!」
「・・・私、帰ってもいい?」
「おいおい何言ってんだよ。ここまで来たんだから付き合えよ」
1369.
「ごっそさーん! タイ料理ウマかったな!」
「それで、これからどうするの? あんな約束しちゃって」
「は? トンズラに決まってるだろ?」
「は??」
1370.
「さっきのヤツはもういない。連絡先だってお互い知らない。何を律儀に協力してやる必要がある?」
「あんた・・・地獄に落ちるわよ?」
「ンなもんさっきのヤツ助けるかどうかで変わるもんじゃないさ。死んだ後がどうなろうと知らないね。極楽浄土に行くために今を無駄にする方がどうかしてる」
「自分がどうかしてるって自覚がない方が凄いわよ・・・」
1371.
「んじゃ後は余ったカネ使って家の連中の晩飯買うだけだな。ちょっとは私の財布も開ける必要があるが、タイ料理食えたんだから良しとしよう」
「ほんとに信じられない・・・」
「言っただろ。これが社会の生き方ってやつなんだよ」
「さっきと意味が変わってるからね?」
1372.
「そんなことだろうと思いましたよ」
「何!? お前は・・・聞いてたのか! あ、えっとぉ・・・やだな~、ジョークに決まってるだろ? 私なりのギャグよギャグ」
「ええ。とても楽しませて頂いたので、お返しをしなければなりませんね。そういえば僕、趣味でムエタイやってるんですよ。タイに興味がおありのようでしたので教えて差し上げましょうか?」
「あ、いや、私頭脳派なんでノーサンキュ・・・ぎ・・・ぎぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




