宇宙の奴
「いや、何言ってるんだろう?言うならせめてパパじゃん……ノリでママって言ったけど」
自分の事をママって何を言ってるんだ。せっかく【ジェミニ】の囮で油断させてこっちに誘導したんだからもうちょっと上手く出来たんじゃ無いかな
「やっぱり完璧に人の真似をするのは難しいか……」
こうなったのもガチ宮さんの真似がそこまで上手くなかったのが原因だろうし、何かの役を演じるのではなく、一個人を真似するのは難しいな。まぁ真似する相手をしっかり確認してないから完璧に真似出来なくて当たり前なんだけど
「む、遂に見つかったか」
NPC捕縛者によって対空兵器が1つ見つかったみたいだ。これは今から行ってみるか
「よし、それじゃあどんな兵器なのか見てこよう」
対空兵器だし、バリスタとかかなぁ?
「エリアの端っこか。これは発見も難しいし、捕まえに来るのも難しいな……ん?」
徐々に見えてきた対空兵器の見た目は何となくレーザーでも撃ちそうな近未来チックな造形をしている。うーん、近未来近未来……ちょっと難しいけど、あの姿をやってみるか。【バリアント細胞】が何処まで出来るのかをチェックする機会にもなる
「痛ててて……ここは?な、なんだこれ!?」
坂を転げ落ちた先、何やらとんでもない兵器みたいな物が目の前にあった
「明らかに異質……もしかしてこれが例の対空兵器か!」
よく足を引っかけたりしてコケる事は昔からあったが、それのお陰でどうやらミッションをクリアする為の物を見つけたみたいだ。これはラッキー!
「えっと、『エリアの端っこに対空兵器を発見した』と。これで良し」
後はコレを使って飛行船を破壊すると良いのか
「とりあえず近くで確認だけしとくか。まだ起動はしない方が良いと思うし……」
これを動かすとさっきみたいになんか別のミッションが始まっちゃうかもしれないから勝手に動かして文句を言われない為にもここは他の人が来るまで待った方が良いだろう。このエリアで待つのは怖いけど、あとからネチネチ他の人に文句を言われるのも嫌だ。そうだ!ここはこの兵器の観察をしよう。もしかしたらこの兵器の何処かに隠れられそうな所があるかもしれない。そこに隠れていればあの人の目も誤魔化せるか?
「にしてもこれ凄いな……この謎の金属のオーパーツ感。なんか宇宙から来た物っぽい」
レーザーを撃ちそうな見た目で光沢のある金属のこの兵器は宇宙からの物みたいな気がする。こういう装備もその内手に入ったりするのかな
「このボタンが攻撃ボタンかな?」
操縦桿みたいな物とその先端に赤いボタンが付いている。これで飛行船を狙ってボタンを押せば攻撃開始なんだろう。飛行船はまだ見えないからこれを押してしまうと多分あの人にこの場所がバレて攻撃失敗になる可能性が高い。もし、本当にレーザーが発射されてしまったらあっという間に発射地点を確認されて真っ直ぐこっちに向かってくるだろう。出来るだけ狙いが分散するように発射する時は人が多い方が良い
「ん?なんかヌルヌルした液体が……もしかして破損とかしてる?修理とかしないといけないのかな」
対空兵器を見ていたら、兵器の何か廃熱?か何かする管みたいな所の下にヌルヌルした液体が溜まっている。冷却ジェルみたいな物が漏れているのかもしれない。だとすると修理用アイテムを探すか、一発勝負になる可能性があるのか……一応何処が破損しているか確認した方が良いかな?
「この液体の垂れている所を探してみるか」
他の人が来るまでまだ時間もあるし、もしかしたら直せるアイテムが破損個所のすぐ近くに置いてあるかもしれない
「えーっと、この上か……は?」
ポタポタと垂れていた液体の先を見ると明らかに何か黒い者が居る。黒い物ではなく、黒い者だ
「っ!」
咄嗟に口に手を当てて、悲鳴をあげない様に最大限の努力をした。アレに気付かれたら捕まるとかじゃなく、死ぬ。異様に長い頭部、背骨がそのまま腰から突き抜けたような尻尾、かぎ爪。昔見た映画で出てきたソイツは何処から出てくるか分からない。けど、出て来たら確実に1人は死ぬレベルの存在。この対空兵器は宇宙からやって来た物だとしたら一緒について来た。みたいな設定を運営が考えていたとしたら滅茶苦茶恨む
「カロロロロ……」
「……」
寝ているのか分からないが、兵器に張り付いているアイツ。エイリアンの口から垂れている液体がさっき見た液体の正体だ。ダメだ。これは他の人と一緒にアレに対応しないと、俺一人じゃどうしようもな
「カランカラン」
逃げ出そうと反転した時に、足元に有ったエネルギーか何かの入っていた缶を誤って蹴ってしまった。終わった
「ガシャァァァァ!」
エイリアンがその場からこちらに一気に飛んで来て俺の頭を両手で掴む。頭の中は恐怖でいっぱいになり、死という単語だけが渦巻く。そしてエイリアンの口が開き、中から小さい頭みたいな物が出てきたのを見た瞬間、心拍数が上昇し過ぎた事で安全の為の強制ログアウトをされてしまった。これ程ゲームで良かったと思った事は初めてだった。でも今後は夢に出てくるかもしれない……