ごり押し
『ジェイドさん!まだ最上階には辿り着かないか!?さっきからこの偽物とトラップで全然進めないんだ!』
『今向かっている最中だ。こっちが何とかするまで一度退いて態勢を整えた方が良い』
『いや、今退いたらジェイドさん達の方に集中されてしまう。俺達もまだ残って戦う!だからこの偽物を何とかしてくれ!それと魔王の所に行く鍵も入手してくれ!』
下では皆が自分達の偽物に惑わされている。急いで最上階に向かってこの偽物を消さなければならない。さっき映像で出てきたアイツ……まさか生きていたとは
「皆様楽しんでいますか?私は沢山の被検体のデータを得られて楽しいです。それに、一度見た事がある人も居るようですし、何故死んでいないと思っている人も居るでしょうね?」
勇者軍が固まっている所に白衣の男の映像が現れる
「この声、それにあの顔……あの時死んだはずじゃ!?」
「誰か、私が死んだはずでは?と思っているでしょうが、クローンの1体が死んだ程度で何か問題でも?」
白衣の男……ドクターが監視水晶を使い、逆に自分の場所を相手に見せる。監視水晶の向きが窓の方に向くとドクターが1人、窓から飛び降りる。勿論監視水晶の前で話しているドクターも居るので、映像の中でドクターが2人居る事になる。あれがクローンなのか、ホログラムなのかはもう騙されている人達には判断が付かない
「皆様が踊らされている所を見るのはとても面白いですね。最上階で見ていますが、そんな様子ではこの鍵を入手するのは何時になる事やら……あぁ、そういえば残り数時間でこの鍵も必要無くなるんでしたね?取りに来ないのでしたらデータ収集を続けさせてもらいます」
データ収集。要するにホログラムでの嫌がらせだ。それに意味深な鍵を見せる事で魔王の所に行く為に鍵が必要だと思わせる。この時点で勇者軍は魔王の所に行く為には一度最上階に行かなければならない状況を作り出した
「勝つ為に俺達は最上階の奴を倒して、鍵を入手して魔王の元に向かう。そして勝つ!もう俺達は止まっている暇は無い!」
「「「「応!」」」」
「前から来る奴は全て斬り伏せろ!後ろから来る奴は引き離せ!トラップは……気合いで躱すかぶっ壊せ!」
「およそ司令官の命令じゃないが……その方が分かりやすい!」
「ごちゃごちゃした命令なんかよりずっと良いわ!出てくる奴は全員ぶっ倒す!」
「搦め手は力でねじ伏せてやらぁ!先頭は任せろ!」
多少のダメージは無視。映像による妨害は前から来たら斬る。味方の姿をしていようと、邪魔をするならそれは敵。速度を重視する為にはもうなりふり構ってられない
「退けぇ!」
「……」
「邪魔だオラァ!」
「がはっ!?」
「最上階まで止まるな!」
「オラオラオラァ!」
ジェットハンマーで起動したトラップを悉く破壊していくグランダ。城自体は破壊不可オブジェクトでもトラップは別。まるで戦車のように突き進んで、トラップをものともしないグランダさんの後ろをついて行き、最上階を目指す
『流石にアレじゃあ私にはどうしようも無いですね……』
うーん、確かにアレはどうしようもない。搦め手をパワーでぶっ潰されるのは中々しんどい……
『あんなの相手に戦わなきゃいけないのかぁ……ドクター大丈夫そうですか?』
『無理ですね』
即答だ。まぁドクターと相性が悪いと言えば悪いかな?
『ですよねー……無理だけはしないでくださいね?』
『一応抵抗はしてみますが……』
ドクターも僕と似たような低防御系だと思うし、グランダさんのジェットハンマーを喰らったら1撃で持っていかれるだろうな……
「どらぁ!来てやったぜ!」
「お前を倒して鍵を貰うぞ!」
「面倒事は抜きですわ!そのドタマぶち抜いて差し上げますわ!」
「えっ……ははっ。随分と早い到着ですね?私の用意したトラップは貴方達には効かなかったみたいですね。データとして残しておきましょう」
精一杯の強がりだが、こうでもしないと少しでも時間が稼げない。指揮官の為に時間を少しでも稼ぐ。それが今の私の仕事だ
「私も、はいどうぞと鍵を渡す訳にはいきませんのでね。精一杯抵抗させてもらいますよ」
【パフォムエフェクター】を使って自分のコピーを量産する。まずは出来る事から……
「関係無い!全部薙ぎ払え!」
「おっしゃあ!皆伏せてろ!」
グランダさんがジェットハンマーを起動。ジェットの勢いそのままに回転しながらコピーのドクターに向かって接近してくる。当たり判定の無い映像のドクターではすぐにばれてしまい、本物のドクターだけが取り残される……そうなると思っていたが、何とか空中で大量の花びらのエフェクトを展開する事で、ブラインド効果を高め、本体に直撃しないように立ち回る
「これはどうでしょう?」
毒煙を発生させるキューブを何個も起動させる。自分にも効果があるが、ここであのハンマーに潰されて一瞬で倒されるより、じわじわとだが、道連れに出来た方が良いだろう。多少自分も苦しくても、こうするのが指揮官の為になる。そう考えればこの程度の苦しさはどうという事はない。時間を稼ぐ。あわよくば勇者軍の主力を道連れにする。それが今の私の任務だ