引き寄せ
『そこの弓の方?相手にも聞こえる様に壁に取り付かれないようにしろ的な事言ってください。その後でしまったみたいな演技をしてくれるとなお良いですね?』
誘導するにはあえて僕が言うより、別の人が言った方が良いだろう
「……壁に取り付かれないように攻撃を続けるんだ!」
「壁?そうだ!壁に向かって走れ!それで正面からの攻撃は無くなる!」
「あ!今の無し!壁から離れないと危険だぞ!」
うーん、良い演技だ。うっかり言っちゃった感が出ている
『ナイスです!』
敵が固まって移動してくる。レーザーが飛んで来るとはいえ、撃ってくるのは白武と黒武が槍を交差させて撃つその一か所のみ。後方の防御を担う人がそのレーザーに合わせて動けるのなら防御も少しは楽になる。だが更に敵からの攻撃が減るのならそれを実行しようとしてくるだろう
『とりあえず周りの皆さんは軽く、傷付けない程度で弓の方を責めてください。説明も無しにやってしまってごめんなさい』
『いいっていいって、やりたい事は分かった!良いぜ!罵倒してくれ!』
「罵倒してくれ」って言葉をカッコ良く感じるなんて思いもしなかった
「おまっ!何言ってんだよ!」
「バカ野郎!攻撃出来なくなったじゃねぇか!」
「わ、悪い!」
城壁から引っ込んでニヤッと笑う3人。分かるよ?上手くいった時って自然と笑顔になっちゃうよね
「白武と黒武はレーザーでの攻撃中止。格闘戦に移行して。危なそうならこっちの判断で戻すから」
あの2人なら今の勇者軍相手でもそこそこ格闘戦出来る……気がする。バフも入っていて一撃でやられそうな……グランダさんとか勇者が居なければあの2人でも何人かキル出来るだろう
「よし、敵は城壁に張り付いてるし、熱湯釜準備しますか」
外側に居るからとそこに熱湯釜を用意するのではなく、城の内側に向けて設置する。壁に張り付いている彼らには内側に向けた熱湯釜は見えないだろう
「おぉ……」
チラッと白武と黒武を見てみたらお互いが左右にステップしながら白武が前になったり、黒武が前になったりを繰り返して敵に向かって駆けよっていく。ほとんど同じ動きが出来るからこそのあの動き。控えめに言ってカッコイイ
「城の入り口の閂はしてないから敵が流れ込んでくる事は出来ると思いますけど、どうなるかな?」
敵がそのまま入ってくるか、一度引くかは敵が決める事だが……
「敵がレーザーを撃ってこなくなったって事は魔力切れか?だが、近接戦に移行するって事は余力はある……いや、城を破壊しない為か!なら城の中まで入ってしまえば!」
聴力を強化して相手の発言を聞き取るとどうやら敵の中に居た人がそういう結論に至って城の中に入ってくるつもりみたいだ。なら門は自分達で開いてもらおうかな?
「待て!まだ危険だ!」
ジェイドさんかな?不用意に城の中に入ろうとする人達を止める。まぁトラップとかで蹂躙したばかりだし、城の敷地内に入るのは少し警戒しているんだろう。その辺にトラップは設置して無いし、地雷ももう粗方爆破されちゃっているから外まで新しく設置し直す時間も材料も無かった。警戒するのは分かるけどさっさと入ってきて欲しい。自分達で開いてもらおうかと思ったけど、こっちから開けてしまうか
「門を開けよ」
門を開いて勇者軍が入ってこれるようにしよう。白武と黒武が追い込み、門を開けて入りたい人は入ってもらう。入ってこない人は後で倒せば良い。モタモタしていると防御の施設を修復されてしまうから意外と速度勝負な面もある。減らせる敵は減らせるうちにやっちゃおう。それに近接組も遠距離組が活躍していた分、自分達の見せ場を作れという圧を感じる
「おい!門が開いたぞ!」
「攻め込め!行け行け!」
「おい待てって!」
明らかに動きの練度が高い白武と黒武。まだ魔王城の敷地に足を踏み入れた事の無い勇者軍プレイヤーから見れば白武と黒武を相手にするか、門の中に入るかの選択を迫られた時、どうするか悩むだろう。白武と黒武には格闘戦をさせるけど、わざわざ不利な壁際で戦わせずに、壁から放して戦わせる事になるけど門の内側に入ってきた人達には……
「「「「「いらっしゃい勇者軍の皆さん」」」」」
近接の人達のお出迎えだ。熱湯釜はまだ使わない。まずは近接の人達の見せ場だからしっかりと決めてもらおう
「俺の剣がお前らの血を吸いたがってるぜぇ?」
「私の槍で蜂の巣にしてあげるわ!」
「小便はすませたか?神様にお祈りは?城のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?」
皆思い思いのセリフや恰好をしているけど、しっかり遠距離の人達も攻撃の準備してるんだよねぇ……
近接系の人で集めたからか、戦闘が始まるとすぐに乱戦になった。門の内側で戦闘が始まると外で待機していた人達も様子を確認して戦闘に参加するしかない。戦力の逐次投入の形になってしまう訳だ
『そろそろ1発かまします。近接系の人達は火傷しちゃうので一旦下がってください』
やる事は既に決まっている。近接の人達が一旦門から距離を取って勇者軍が門の前で固まっているその一瞬を狙い、熱湯釜をひっくり返した




