勇者軍司令官
「うーん、流石にトップ層がほとんど向こうに居るだけあって中々勝ちきれないな……」
「俺のフレンドも大半が向こうに居るが、強い奴ばっかりだからなぁ……まぁ上手く行かないのも仕方が無い。明日の結界アイテムで何とかするしかないんじゃないか?」
「まぁ良くも悪くも7日ある訳だ。気長にやっていくしかないか……今日はなんだ?」
「今日は芋のスープだ。やっぱり人が多い分、どうしても作れる物が少なくてな……」
「人数が多い分仕方が無いよなぁ……」
「どうにか出来そうか?司令官さんよ?」
「いやいや、流石に無理だな……ある程度は協力してもらえるが、全員が一致団結は無理だ。大体1人に付いて来る人間がどれだけ居ると思う?何千人も居たらどうしたって纏まり切れないのは仕方が無い。クラン程度なら何とかなるが、ここまで膨らんでしまうとな……でも全員の為に料理をしているホフマンも大変だろう?」
勇者軍の司令官となったジェイドと他のコック達を纏めているホフマン。お互いに勇者軍の重役だが、今は息抜きの昼飯時。お互いに愚痴を言いながら今後どうするかなどの話をしていた
「で、問題の敵NPC達だが……アレで防げるよな?」
「防げなかったら流石に対処のしようがないだろ……発動したら2日は安心出来る結界だって話だが、明日じゃ無きゃ何か月の満ち欠けとかの問題で設置出来ないって話だし、勝負は明日に掛かってるんだろ?」
今の所勇者軍は負けている状況だ。だが、この状況をひっくり返すアイテムが明日配布されるので、重要な大型施設に設置して防衛出来れば状況はかなり変わるはずだ
「白いローブの巨塔を操る男と、黒い人食い女、それに逆切れの変態と化け物熊だったか?魔王の四天王が出てきたと思っているんだが……」
「だとしたらあと1人居るんじゃないか?熊と変態が同時に出てきたって事はセットで1人だろ?」
四天王の中に1人くらい自力で戦うのではなく、眷属で戦うタイプの奴が居るだろう。なら四天王の座にはもう一人居てもおかしくない
「被害報告を見るにこんなのがまだ居るとかシャレにならないな……だからこそさっさと施設を修復してステータスを上げて戦えって事なんだろう」
「資材集めも大変だろうが、食材集めも中々大変になってきた。いつかのタイミングで食材集めをしてもらわないと途中で飯が無くなるぞ?」
何千人も居れば、食料枯渇問題もかなり深刻な問題になってくる。本陣に小麦畑があるので一応パンだけは何とか7日間持たせる事は出来るだろう。でもそれは料理人としてパンしか持たせられないのは申し訳なさしかない
「明日のバリアが展開出来たあとに食料調達を頼むか。バリアさえ張れれば修復もゆっくり出来るし、無理に攻めずに補給するタイミングをここで作るのも必要だろう……くぅ~、責任者になるのは疲れる」
今までの戦闘の記録、何処を修復した、破壊された等のデータを見ながらどこに人を配置するか、どこに攻勢を掛けるか等を思案する
「あぁ、ジェイドさんお疲れ様です。色々大変そうですね……」
「タナカムさんか、お疲れ様です。そっちはどうですか?」
勇者軍の中でも剣の扱いがトップクラスのタナカムさんがやってきた。少し疲れていそうだが……
「ロザリーさんと戦闘しましたが、負けちゃいましたね。あの浮く剣と魔法の同時攻撃だけなら何とか出来そうと思ったんですが、流石に本人と魔物まで同時に来られたら捌き切るのは流石に厳しいですね」
「タナカムさんも大概だよな?ほれ、昼飯まだだろ?」
「おっ、美味そうなスープですね。いただきます」
「そうだよなぁ、NPCもマズいがトップ層のプレイヤーも眷属が追加されてるから厄介極まりないんだよなぁ……」
タナカムさんがやられたロザリーさんは前回のイベントソロの部門1位だった人だ。そんな人が魔物と一緒に攻めて来たら対処だって大変だ。どうにかそういう強い相手にこっちも強い相手を当てなければ施設を守る事が出来ない。ステータスが上がっただけの初心者と当ててしまったら簡単に倒されてしまうし、でも何処に来るのか見当がつかないのでとりあえず配置するしかない……胃に穴が開きそうだ
「明日は結界アイテムを設置するんですよね?それなら一回私達が囮になって攻めるのとかどうです?」
「ん?攻勢に出るのか?」
「設置は任せてしまって、勇者軍の中の上位の人を集めて敵の拠点に攻めれば、相手も守らざるを得ないでしょうし、敵の援軍が私達の方に来たら数が少ない相手はそれだけ施設に対して割ける人員も減るでしょうからバリアも張りやすくなるのでは?」
囮だとしても討伐対象に向かって主力が進めば敵も戦力を向けざるを得ない。実際はバリアを張る時間を稼ぐだけだから本当に攻めなくても良いが、敵が来なかったら討伐対象のボスを倒してこっちの勝利でイベント終了だ。人数差を活かしたやり方だし、間違っていないと思うからやってみるのはアリだと思う
「それ、やってみましょうか」
「分かりました。今の内に準備しておきます」
「よし、それじゃあこれも喰って頑張ってくれや」
ホフマンが漫画肉のようなものを2人に渡し、厨房に戻っていく
「実はまだ例のNPC達と戦った事無いんですが、出てくるでしょうか?」
「出てくるんじゃないか?俺もまだ戦った事が無いから一度は戦っておきたいが……」
戦ってはみたいが、もう戦いたくないと言う人も居るのでまだ見ぬ相手に期待と恐怖の入り混じった感情が渦巻くジェイドであった
「なるほど、2日で効果が切れるから最終日には無くなると……それに囮の部隊も来ると」
テルーンコルーンの一体をホフマンの居る厨房に忍び込ませ、その情報を入手したチェルシーはハチに情報をすぐに報告し、勇者軍の明日の作戦は既に魔王軍に伝わっていたのであった
「情報は力ですよ?」