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騎士の男

「今日は王妃殿下と話ができて良かったですね?」

王妃殿下と別れると、私はエミリア様に微笑みかけた。

「ええ、本当に。今まで王妃殿下とたくさんの時間を過ごしてきましたが、なんだかようやく距離が縮まったような気がします」

エミリア様はそう言ってはにかむが、次に寂しげに、後悔するように呟いた。

「遠慮、する必要はなかったのかもしれませんね……」






帰り道、エミリア様と王宮の中を歩いている時だった。

2人で歩いていると、ふと、エミリア様は声を漏らした。

「――――あれ……?」

エミリア様の視線を辿るとハンカチが落ちている。

「まあ、どなたの落とし物かしら」

エミリア様はそう言いながらハンカチを拾うと、その瞬間悲鳴を上げた。


「――――キャアッッ!!」


「どうされました!?」

私は慌ててエミリア様が震えた手で握っているハンカチを覗き込んで見た。


――――血が付いているわ。拭き取ったような古い血の跡。これに驚いたのね。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ……」


そうしていると、前を歩いていた男が何事だと振り返ってこちらに駆け寄って来る。


「ああ、それは俺のハンカチだ。拾ってくれたのか」


腰に剣をさした男だ。

服装を見るに騎士なのだろうが、この国の騎士服ではない。

襟元は緩くあまりキッチリと着ていない。髪は無造作で無精髭が生えている。肌は浅黒く顔はワイルド系。背が高く体型はガッチリしている。


浅黒い肌も珍しいし、王宮にそぐわないそんな男が立っているので思わず凝視してしまった。

エミリア様もポカンと口を開けて男を見上げている。

そしてエミリア様は恐る恐る絞り出すように言う。


「な、何故、血が…………」


そんなエミリア様を意に介さず男は言う。


「んあ? ああ、俺は騎士だから、血が出ることもある。汚ねえな。そろそろ洗わなきゃなあ」


いや、もうこれは落ちないと思うけれど。私は内心呆れる。

しかし、他国の王宮に入れるような人物に付いてやって来たのだろうから凄腕なのだろう。



それから男は気まずそうに言った。

「えっと、すまない。道に迷ったのだが、ここはどこだ?」


「ここがどこだと聞いたところで貴方は分かるのですか?」

私がそう言うと男は眉間に皺を寄せた。

私は時々意図せずに人を怒らせてしまう。


そんな私と男を見ていたエミリア様は、ショックから復活したようで苦笑をしていた。


「あの、どちらへ向かいたいのでしょうか」

エミリア様がそう聞くと、男はホッとしたように口を開く。


「貴賓室に向かっていたのだ」

「貴方はその騎士服からしてアレラ国の騎士様でしょうか。どなたの騎士としていらしたのかお聞きしてもよろしいですか?」

「ああ、俺はアレラ国の者で王子の騎士としてこちらに来ているのだが」

「貴賓室は幾つかありますが、各国の王族を迎えるための貴賓室がございますから、きっとそちらでしょう」

「ええっと、どこをどう行けばいい?」

「分かりづらいと思いますので案内しますわ」

エミリア様がそう言うと、男は慌てた様子で言う。

「いや、そこまでしてもらう訳には……」


エミリア様は小声で私に言う。

「あのリリアナ様、申し訳ありません、よろしいでしょうか?」

「別によろしいですけれど……」

一体どうしたのだろう。

誰か王宮の使用人を探して案内させればよいのに。


「大丈夫ですわ」

「それならば、頼もうか……。感謝する」


道すがら話を聞くに、男はこの国の友人に会いに行っていたようで、王子や王子に付いている同僚の騎士とこれから話し合いが行われる貴賓室で合流する予定らしい。

しかしながらこの男は不用意な言葉を言いすぎる。こんなんで大丈夫なのだろうか。

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