第14話 一学期、びっくりするくらい一瞬
「逃げろぉぉぉぉ!!」
四人、全力疾走。
崩れる通路。
落ちる瓦礫。
閉じていく鉄扉。
「なんで最後だけ急に本気なんだよぉぉ!!」
九条、笑いながら走ってる。
「ダンジョンってこういうもんだろ!!」
「知らねぇよ!!」
りん、チェアで浮きながら並走。
まお、後ろ向きのまま爆走。
「出口出口出口ぃぃぃ!!」
最後、全員まとめて飛び込んだ。
ズザァァァァ!!
転がる。
ぶつかる。
痛い。
……静か。
「……生きてる?」
ゆっくり顔を上げる。
そこは——
校長室だった。
「は?」
ふかふかの赤い絨毯。
豪華な机。
校長、優雅に紅茶飲んでる。
「おかえり」
「帰還地点ここ!?」
横。
榊先生が腕組みして立っていた。
「5時間20分。……まあまあだな」
「タイムアタックだったの!?」
九条、息切らしながら笑う。
「めっちゃ楽しかったな」
まお。
「まほーメンまた食べたい」
りん。
「地下ゲーセン、まだメダル残ってる」
「遊びの感想かよ!!」
校長、ニコニコしている。
「よい。実によい。」
⸻
それから。
一学期は、びっくりするくらい一瞬で過ぎた。
九条が、授業中に魔法で扇風機を百台出して、職員会議になったり。
まおが、調理実習で鍋を爆発させて、家庭科室の天井を消し飛ばしたり。
りんが、三日くらい学校に来ないと思ったら、ずっとネトゲのイベントを走ってたり。
「留年しそう」
「大丈夫。魔法でなんとかなる」
「ならないんだよなぁ」
⸻
放課後。
みんなで屋上に行ったり。
購買ダッシュしたり。
夜中に寮を抜け出そうとして、秒速で榊先生に捕まったり。
「なぜ毎回バレるんですか」
「気配がうるさい」
⸻
怪異も相変わらず出た。
廊下の女。
音楽室の影。
夜のプール。
でも、最近は。
「うわ出た」
くらいだった。
慣れって怖い。
⸻
そして。
気づけば。
蝉の声。
窓の外、真っ青な空。
教室の後ろには、首を振る扇風機。
黒板には。
【終業式】
「……マジ?」
たろーはカレンダーを見る。
「もう夏休み!?」
ガラッ。
教室の扉が開く。
榊先生が入ってきた。
相変わらず、無表情で顔色が悪い。
「明日から夏休みだが、お前ら」
嫌な予感。
榊先生は、じろりとたろーたちを見て言った。
「くれぐれも、空飛ぶショッピングカートで県外へ行くな」
「!!!!!」
⸻
放課後。
屋上。
だらだら喋る時間。
「夏休みどうする?」
その一言で、みんな顔を上げた。
九条。「海」
まお。「花火」
りん。「心霊スポット」
たろー。「混ぜるな危険なんだよ」
九条が、机に地図を広げる。
「せっかくだしさ。“普通じゃ行けない場所”行こうぜ」
まお。「宝探ししたい!」
りん。「Wi-Fiあるならどこでもいい」
「俺、キャンプしたい!」
九条がニヤッと笑った。
「じゃあ——」
指を置く。
地図の端。
海のど真ん中。
小さな島。
「夏休みは、無人島サバイバルやろうぜ!!」
沈黙。
そして。
「「「それだ!!!!」」」
屋上、爆笑。
窓の外。
蝉。青空。
夏が、もうすぐそこまで来ていた。
⸻
帰り道。
みんな、それぞれ別方向へ帰っていく。
「じゃあなー!」
「また連絡して!」
「計画立てといてー」
手を振る。
夕焼け。少しぬるい風。
たろーは一人で歩きながら、ふと思う。
なんか、不思議だった。
少し前まで、普通の高校生だったはずなのに。
今は、魔法学校に通って、怪異に追いかけられて、地下街でラーメン食って、無人島サバイバルの計画を立てている。
意味が分からない。
でも。
悪くなかった。
「あれ、どうやって帰るんだっけ?」
と、思った次の瞬間。
たろーは、自販機の前に立っていた。
蝉が鳴いていた。
完




